「何はともかく、北京星域から本土へ侵攻されるのだけは避けなければなけない」
新生日本海軍の発足から数日、海軍本部では6人の提督と1人の参謀、1人の看護師に1人の艦長の計9人が顔を突き合わせていた。
中帝国軍の外征能力が低いとは言え先の反乱によって日本の新鋭艦多数がその手に渡っており、これが戦力化された日には本土強襲の恐れも大だ。
「やはりここは、北京星域内部に前線基地を構築してしまうのが最良かと」
「とはいえ、言うは易し行うは難しじゃな。なんせ、彼の星域の惑星北京は中帝国の首都でもあるのじゃから」
「やっぱり無難に、少しずつ前進していくのが良いんじゃないかねぇ?」
東郷長官は初めに現状を語り、そこからは皆の話を静かに聴いているだけだった。
「やっぱ突撃だろ!主力艦隊を束ねて一気に突撃すれば北京も落ちるはずだ!」
「一部ではありますが賛成です。兵は拙速を尊ぶとも言いますし?」
会議室は僅かな人数にも関わらず、喧々諤々な議論の場となった。
次の一手は日本帝国の存続にすら関わる重要な手だ、各々の意見にもそれぞれ利点も欠点もあった。
「多萌はどう思うの?」
「うーん……誰の意見も良い点悪い点それぞれあると思うけど」
「けど?」
「私としては、奇襲強撃を押したいかな」
「ほう、じゃあ理由を聞いてみようか」
隣に座っていた千春と小声で話していると、突然東郷長官から声をかけられた。
気付けば議場の皆が私の方を見ている。
「え……あ、その……」
「良いから、言ってごらん?」
「わ、分かりました……」
長官に諭され、私はしぶしぶと自分の考えを語り始めた。
「えっと、ですね。今回私が積極策を押すのは、現有戦力の差が十分だと判断するからなんです」
確かに、単純な物量で見ても質で見ても今の中帝国軍は過去最強の水準だ。
元来保有していたガメリカ・ソビエトの旧式艦多数に加え、先の会戦で裏切った2艦隊の日本新鋭艦多数。
しかし、中帝国軍にはある種致命的とも言える弱点が存在していた。
「まず1つ、ソビエト艦はそのほとんどがミサイル巡洋艦……いえ、むしろ前線ではミサイル艇の方が多いみたいです。あれでは射程が足りません」
現状ではあるものの、艦艇武装の殆どをレーザーに統一している日本海軍とでは基本レンジに無視できない差があるのだ。
「次に、あちらに渡った日本艦ですが、戦力化にはまだまだ時間がかかると思いますし……」
「ふむ、そう考える理由は?」
「あの皇帝のことです、裏切ってきた提督にそのまま部隊を任せるとは思えません。恐らく運用要員も殆ど取っ替えているでしょう」
いくら新鋭艦とは言え、動かすのは人だ。裏切った者をそのまま乗せておくと考え難い以上、その戦力化はまだ先と見ていいはずだ。
「そして最後、これが最も大きい理由なんですが……」
私が積極策を押す最大の理由、それはつい昨日届けられた連絡にあった。
「工廠部から連絡があって、昨日遂に「伊勢」機関部の修理補修が完了したそうです。公試を終えた長門を含めて戦艦2隻体制が整ったわけですね。工廠の皆さんには頭が下がります」
「「伊勢」は動けなかったけど乗組員はシミュレーターで訓練続けてたから、いつでも出せるよー!」
中帝国は大型主力艦を保有していない。これが私の積極策の根拠だった。
「ふむ、「長門」と「伊勢」を前面に押し出して奇襲……有りかもしれませんね」
「じゃあ俺を先鋒にしてくれよな!敵の鼻面にキツイのお見舞いしてやるぜ!」
議場の雰囲気は私の案を骨子に作戦立案の流れに傾いていた。
「で、でもこれはあくまで私の私案であって、いくらかの希望的観測に基づいている面も……」
「でも多萌、ここでやれなきゃどっち道日本は終わりなんだ。山本の爺さんじゃないけどここは多少の博打を打ってでも行くべきだと思うよ?」
「がはははっ!南雲の嬢ちゃんに言われちまったぜ!ま、ワシもお前さんの言う通りだと思うぞ?」
ただの私案であると念押ししてみても、既にみなさんやる気満々だ。
私は一縷の望みを賭けて東郷長官を見る。
「ち、長官……」
「もっと自信を持つといい、多萌ちゃん。確かに希望的観測は含まれるが、それを差し引いても現状の打破と中帝国への圧力という意味で十分有用な手さ。それに……」
「それに……?」
「多少の計算違いがあっても、俺の指揮で帳消しにしてやるから心配するな」
そう言い切った長官の顔は、ただの虚勢では無いと思わせるほどに眩しくて――――
「じゃあ秋山、「長門」「伊勢」を基幹とした惑星満州奇襲作戦の骨子を早急に立案してくれ」
「はっ!分かりました」
この長官の下でなら、きっと日本を守りきることが出来ると信じさせてくれる――――
「では諸君、各艦隊は次の作戦に向けて十分な訓練とその疲労を残さない程度の休息を取りつつ待機だ。以上、解散」
そんな自信に満ち溢れていました。
「ああ、そうだ。多萌ちゃん、千春ちゃん」
「はい、何でしょうか?」
「どうしたの?長官」
「いや、君達とも親睦を深めておこうと思ってね。近くに美味しい料理店を見つけたんだ、今夜一緒に食事でもどうだい?」
……。
「え?ごはん!?奢り!?」
「もちろんさ。こんな美しいレディー達と共に食事を出来るだけでも俺にとってはご褒美だからね」
「多萌!ごはん奢ってくれるってさ!行こうよ!!」
「え、えーっと……」
大丈夫……。
「どうだろう、食事のあとは共に熱い一夜を……」
「え?熱い?」
「ああ、どうせなら二人まとめて可愛がって……」
「東郷長官!!」
「はっはっはっ、硬いなー秋山」
本当に大丈夫、だよね……?
会議の場にただの艦長である千春ちゃんがいるのは、山口艦隊副官でもあるのと多萌が東郷長官にお願いしたからだったり。
それにしてもなんで夜が熱いんですかね?(すっとぼけ