統一宇宙歴939年、春
私たち日本帝国海軍は先の敗北の記憶も新しい中、因縁の地「満州」へ向けその歩を進めていた。
戦艦「伊勢」艦橋
「全艦、ワープアウト確認だよ!」
「分かった。第六艦隊全艦に通達!対艦警戒を厳に!」
「了解!」
とは言っても、その容姿は先の主力艦隊と比べるべくもないほど弱々しい。
戦艦は東郷長官の旗艦「長門」とこの「伊勢」のみ、巡洋艦は先の撤退戦で後退した「利根」「筑摩」の2隻。
その他は防衛戦力から抽出し、かき集めた4個水雷戦隊と本土の技研(海軍軍事技術研究所)が研究開発していた新型索敵艦と試作段階の特雷型駆逐艦2個駆逐戦隊。
これが、現在日本海軍が対中戦に当てられる戦力の全てだった。
「あと半年もあれば金剛型と改装中の妙高型、建造中の高雄型に「陸奥」も持ってこられるのにねー」
「ないものを悔やんでも仕方ないよ。今は、電撃的に満州攻略を果たす他に日本が生き残る道がないんだから」
千春の愚痴に答えながら、私は小さく見える惑星満州を見据えた。
「さぁ、当初の予定通り動くよ!第六艦隊全速前進!東郷長官の第一艦隊と離れないように!」
「了解!全速前進!」
―――――――――
「……また日本艦隊が?」
「はい、どうなさいますか?」
北京星域の防衛を担当する中帝国軍北軍総司令官である色々な意味で赤い少女、リンファは部下からの報告に顔を上げた。
「懲りない人たち……全艦に出撃用意をさせてください」
「了解しました!」
「今度こそ、完膚なきまでに蹴散らしてあげる。覚悟しなさい……」
中帝国北軍はソビエトからもたらされたミサイル艇にミサイル巡洋艦、反乱した日本巡洋艦に駆逐艦、中帝国の旧式駆逐艦等、雑多ながらもかなりの数を揃えた部隊だ。
彼女らは北京星域防衛のため、惑星満州前面に陣を敷いた。
―――――――――
「敵艦隊探知!数およそ150隻!」
レーダー員よりの報告に、「伊勢」艦橋は俄かに慌ただしさを増した。
「識別と驚異度の判定を急いで!千春、護衛の駆逐隊は予定通り分離するから速度上げて!」
「分かった!速力一杯!「長門」の第一艦隊と一緒に突っ込むよ!」
今回の作戦は単純にして明快、この「伊勢」と「長門」の2戦艦に重巡2隻を中核に敵陣前方まで一気に突出。
高威力長射程の大口径レーザー砲を持って敵陣を破断した後、水雷戦隊による突破戦に移行するというものだ。
だからこそ、私たちの「伊勢」は作戦の要と言えた。
「識別完了!敵、ミサイル巡4!日巡6!日駆12!以下小型艦124!」
「相変わらず数だけは多いなぁ……地道に削ろうか。主砲砲戦用意!各個砲塔射撃!艦橋指示の目標を狙って!」
「待ってました!主砲砲戦用意!全砲使うよ、取舵30!」
慌ただしさを増す艦内、先の会戦では一発も主砲を撃つ事なく撤退を余儀なくされた悔みもあるのだろう。
訓練の最高タイムをわずかに縮める準備時間を持って、「伊勢」は主砲射撃用意を整えた。
「「長門」より通達!「伊勢」の目標は日巡!恨みをぶつけられたし!」
通信員が、「長門」の東郷長官からの命令を伝える。
分かってるじゃないか長官も、お父さんの仇討はしっかりさせてもらわないと。
「……言われるまでも無いね。射撃開始!!」
「了解!射撃開始、撃てーっ!!」
私の出した命令は千春を通じて砲術担当へと伝わり、一瞬のラグを持って「伊勢」の36cm連装レーザー砲が青白い光線を放つ。
放たれた光線は真空の宇宙空間を減衰することなく駆け抜け――――――
「初弾命中!敵巡洋艦2隻撃沈!!」
恨み重なる末山の旗艦を含む巡洋艦2隻を貫き、爆散させた。
「流石は千春の鍛えたクルー達、練度が違うね!続けて撃て!!」
「へっへーん、当たり前でしょ?次弾射撃!撃てっ!」
僅かな充填時間を挟み、「伊勢」は第二射を放ち、隣では「長門」が当代最大の41cm連装砲を煌めかせる。
第二次満州会戦、日本海軍は先手を取ることに成功した。
―――――――――
「日巡戦隊半壊!」
「スエヤマは死にましたか。裏切り者の最後は儚いですね」
北軍旗艦のミサイル巡洋艦艦橋でリンファはそう呟くと、全艦へ檄を飛ばす。
「我が方は数で圧倒的に優位です。敵戦艦の1隻や2隻、押し包んで撃沈できます。全艦前進」
「全艦前進!日本艦隊へ突撃!」
多少打ち減らされたとは言え、未だ十分すぎる艦隊戦力と後方に莫大な予備兵力を抱える中帝国軍らしい作戦と呼べるかも怪しい作戦。
だが、これまで彼女たちはこの戦法で日本艦隊を何度も撤退させたのだ。
その自信が、この第二次満州会戦においても突撃を選択させた。
―――――――――
「敵艦隊、突っ込んでくるよ!」
千春の言葉にレーダー画面を見やると、敵艦隊は順次突撃に入っていた。
「ふふ、やっぱり来たね。各員、落ち着いて対処するよ!大丈夫!長官はここまで織り込み済みだから!」
そう、今までの惑星満州近郊での戦いを徹底的に洗い直した私たちは中帝国軍の突撃癖とも言える物に対して十分な対策を施していた。
その一つが戦艦2隻による遠距離砲撃で、更に二段階の対策を用意していた。
先ずは――――
「長門より伝達!水雷戦隊要撃始め!」
「よし!4水戦を出して!「五十鈴」には敵射程に注意するようにもう一度伝えてね!」
「了解!……1・2・3水戦も突入を開始!」
第二の策は、本土に残った新鋭艦を纏めた水雷戦隊による要撃。
小澤少将の索敵艦による管制を受けながら、逐次突撃してくる中帝国駆逐艦を局地的優位を維持しながら各個撃破するというものだ。
そして第三に――――
「田中少将の特雷型駆逐艦隊が突入を開始しました!」
日本海軍の新兵器、鉄鋼魚雷を満載した接近戦のエキスパート。
ある程度敵の数を削った上での特雷型駆逐艦による強行突入だ。
「田中駆逐隊を援護するよ!主砲で血路を開く!」
「分かった!主砲射撃、撃てっ!!」
「付近の駆逐艦は副砲で対処して!」
「長門」「伊勢」の支援射撃を受けながら、田中水雷戦隊は中帝国軍を一気に切り裂いていく。
突撃した中帝国駆逐艦は水雷戦隊に取り囲まれて次々と爆沈する。
戦闘開始当初は圧倒的だった中帝国軍の数は、気付けば日本海軍とほぼ同等にまで磨り減っていた。
「……!敵旗艦補足!」
開戦当初から画面を睨んでいたレーダー要員が告げる。
「照準急げ!機関を打ち抜いて水雷戦隊に拿捕させよう!」
「拿捕でいいの?」
「全艦撃沈は難しいよ、司令官を捕まえて停戦させた方が早いから」
「オッケー!分かった!」
数瞬の間を置き、「伊勢」の主砲が唸る。
放たれた光線は狙い違わず旗艦と思しきミサイル巡洋艦に命中し、その抵抗能力を奪った。
それを見てなのだろうか?敵艦隊は算を乱したように潰走を始め、戦場は掃討戦の様相を見せ始める。
―――――――第二次満州会戦は、こうして新生日本海軍の勝利の下で幕を閉じたのだ。
旗艦「伊勢」
第四水雷戦隊「五十鈴」以下駆逐艦12隻(第106護衛戦隊より改称)
戦闘シーンが上手く書けるようになりたいなぁ……