「……こんなものかな」
綺麗に着付けされた浴衣姿の自分を見て、ミソラはうんうんと頷き、鏡の前でターンした。
「この日のために、ちゃんと着付け教室に通ったかいがあったな」
《ミソラ、バッチリ、決まってるわよ。ひゅーひゅー!》
「えへへ……」
頬を真っ赤に染め、手を当てると、ミソラは部屋の時計を見た。
「もうそろそろかな」
テーブルに置いてあった、ハンターVGを手に取り、電話をかけた。
「もしもし……スバル君、もうそろそろ、お祭りの時間だけど、準備できてる」
『あ、ミソラちゃん……準備、出来てるよ?』
画面から映るスバルの顔にミソラは満面の笑みを浮かべ、首を縦に振った。
「じゃあ、約束の場所で待ってるね」
『わかった! じゃあ、僕もすぐに行くから?』
祭りのある神社の入り口前で、ミソラはスバルが来るのを待った。
左腕につけた腕時計を見て、胸をドキドキさせた。
「あ、ミソラちゃん……待たせちゃった」
「スバル君!」
走ってくるスバルを認め、ミソラは右腕を大きく振り、はしゃいだ声をあげた。
「こっちこっち! 大して待ってないよ」
「よかった……」
息を切らし、ミソラの前まで来るとスバルは優しく彼女の手を握った。
「じゃあ、行こうか」
「う、うん……」
少し大胆な行動を取るスバルにミソラは驚いた顔をし、真っ赤になった。
「まずは、射的だね……ミソラちゃん、なにか欲しいものある」
「スバル君が取ってくれるの」
「こう見えても、結構、得意なんだよ」
「主人公だもんね」
「……」
言ってることがわからず不思議な顔をするが気を取り直し、屋台のお兄さんに声をかけた。
「お兄さん、一回やらせてよ」
「はいよ……うん」
目が合い、スバルの顔が真っ青になった。
「お、尾上十郎さん!?」
「星河スバル……!?」
グルルと獣のような鼻息を出す十郎にミソラは不思議そうに顔を覗かせた。
「知り合い、スバル君」
「い、一応ね」
ある意味ライバル。
「久しぶりだな……最近、妙に会う率が低くなったから、心配したぞ」
といいながら、好戦的な目をする十郎にミソラは身を挺して守るようにスバルの前に立った。
「ス、スバル君……このお兄さんと、どういう関係なの」
「え、えっと……たぶん、友達かな」
「……」
煮え切らない言葉にミソラは怪訝な顔をした。
十郎もミソラとスバルの顔を見回し、ニヤリと笑った。
「なんだよ、デートか。それじゃあ、今日は地のたぎり我慢しないと名。ほれ、一発、サービスしてやるよ」
ミソラにもライフルのおもちゃを渡し、十郎はニヤニヤした。
「出刃亀好きなんだね、十郎さんって」
心底呆れた顔をするスバルに十郎は笑顔を崩すことがなかった。
「まぁ、いいや……じゃあ、ミソラちゃん、せっかく、二つあるし、勝負しよう」
「うん……じゃあ、なにを狙おうかな」
欲しい景品を探し、スバルの声が上がった。
「ミソラちゃん、あそこに新発売のニンテンドー3DSがある!?」
「本当だ!? かなり遠くに狙いづらい場所にあるね」
「いいのに目をつけたな」
十郎の目が野獣のように光った。
「これは今回の目玉だ……特別高いから、ただ当てても、倒れねーぜ」
「当てても倒れないんじゃ、どうやって、倒すの!?」
ぶーぶーと不平をもらすミソラに十郎は不適に微笑んだ。
「普通に考えれば、弱点はすぐに見つかるぞ」
「弱点って……えい!」
パシンッ……ポトッ……ころころ……
「ほら……倒れない!?」
ビクともしないニンテンドー3DSの箱にミソラはモックだと迷惑に騒いだ。
「……」
子供のように涙目になるミソラにスバルは、なにか思いついた顔でライフルを構えた。
「普通に考えれば弱点はここだね」
バシンッ……バタンッ!
「あ……倒れた」
「だね……」
信じられない顔をするミソラに十郎は倒れたニンテンドー3DSを袋に入れ、スバルに渡した。
「実は、ニンテンドー3DSの重心を少しだけ、上に設定しておいたんだ。だから、箱の当たる位置を出来るだけ上に当てれば、後はテコの原理で倒れるって寸法だ。小学生の簡単な物理の問題だな」
「テ、テコ……」
マヌケな顔をするミソラにスバルと十郎は苦笑した。
「次は金魚すくいだね」
「うん! スバル君。今度は私が、スバル君に金魚をプレゼントするね」
片手にニンテンドー3DSを抱えたミソラは、気合を入れた顔で目を燃やした。
「なんだ……お前も祭りを楽しんでたのか」
「あ……千代吉くん。なんで、屋台に」
悪戯っ子のように自分を見る男の子にスバルはニコッと微笑んだ。
「知り合いの婆ちゃんに頼まれんたんだ。お前がやるなら、一回サービスしてやる」
「ありがとう!」
「……」
どこか面白くない顔をするミソラに千代吉は網を渡した。
「……」
ぶすっとしたまま、網を受け取ると、ミソラの目がようやく本気に変わった。
ユラユラと泳ぐ金魚に全神経を集中させ、ミソラの目がキランッと光った。
「そこだ!?」
バシャンッ……!
「あ……」
勢いと水の重量に負け、見事に敗れた網を見て、ミソラは悔しそうに涙目になった。
「失敗した奴には、金魚を三匹やることになってるから、好きな奴、選べよ」
「あ、ありがとう、ミソラちゃん」
「……どういたしまして」
ぷぅ~~と頬を膨らませ、不貞腐れるミソラにスバルは苦笑した。
「ちゃんと金魚もらえたんだから、いいじゃないか」
「取った奴をスバル君にプレゼントしたかったの!」
「でも、ウチ、金魚飼えないから、結局貰わず、千代吉くんに怒られたね」
じゃあ、なんでやったんだと怒鳴られ、二人はごもっともと項垂れた。
「でもでも……私、さっきから、全然、いい所ないよ!?」
「まったく……」
呆れた顔をし、スバルは近くの屋台の前で立ち止まった。
「スバル君」
屋台でなにかを買うスバルの顔を覗き込もうとすると……
シャリッ……
「ッ!?」
口の中にシャリッと心地いい音が響き、ミソラは幸せそうに顔を緩ませた。
「季節外れだけど、カキ氷が売ってたから、食べなよ」
「う、うん……!」
スバルからかき氷を貰い、シャリシャリと食べると、キ~~ンと頭を押さえた。
「き、きた~~~~!?」
「アハハ……どんなに気をつけても、そうなっちゃうよね。お小遣い、まだ残ってるから、好きなもの選んでいいよ。全部、奢ってあげるから」
「あ、う、うん……スバル君、無理しなくっても……」
ひゅ~~~……ドパ~~~ン!
「あ……花火」
空に浮かぶ七色の火花にミソラとスバルは顔を上げ、驚いた。
「綺麗だね、ミソラちゃん」
「う、うん……花火がやるなんて、知らなかった」
ちょっとだけ、ウットリした顔をするミソラにスバルも優しく微笑んだ。
「どうやら、観客をビックリさせるためのサプライズみたいだね」
「う、うん……ねぇ、スバル君」
今日はこれてよかったと、スバルの顔を見ようとすると……
「ミソラちゃん」
「え……」
チュッ……
「ス、スバル君……」
いきなり、唇にキスされ、ミソラの顔が真っ赤になった。
「……」
スバルも顔を真っ赤にし、空を見上げ、顔を隠した。
「あ、あはは……も、もう帰るね、宿題があるんだった!?」
逃げるように神社の茂みの草原に入ると、閃光が瞬き、空に光が伸びた。
「……」
電波空間を使って帰っていったスバルにミソラはなにも言えず、幸せそうに自分の下唇を指で撫でた。