秋も深まり、なぜかせんべいがおいしくなる季節、スバルは自分のベッドで本を読むミソラを認めた。
「なに読んでるの?」
「うんあ?」
目の下にクマを作り、怖い顔をするミソラにスバルはビクッとした。
「見てわからない?」
「ど、読書にしてはキツそうだね……?」
「読書なんかしたくないよ!」
寝転びながら本を投げつけると、ミソラは泣き出しそうに起き上がった。
「今度の番組企画で本を一冊読んで感想文を書くことになってるの!」
「ああ、だから、本を読んでたのか? 納得……!」
ミソラに投げ渡された本を拾い、タイトルを読んだ。
「走れメロスか?」
苦笑した。
「読みやすくって面白い本の一つだね?」
適当に本を開いた。
「走れメロスは人を信じず、簡単に国民を死刑にする王様の暴政に意見し、死刑を命じられるも、妹の結婚式を控えており、妹の結婚式に参加するため、親友のセリヌンティウスを人質に故郷まで帰り、結婚式に参加するも、戻る道中、自分のミスで約束の時間までに城に戻れなくなり、必死に走る話だね?」
「よく知ってるね?」
「学校で読むんだよ、この話は……」
本を返し、頭を撫でた。
「まぁ、近代文学の中では読みやすいんだし、嘆かない!」
「でも、文字だけの本は辛いよ~~……」
目を回しながら倒れそうになるミソラを抱き支え、また、ベッドに座らせた。
「で、感想は?」
「……」
「感想は?」
ちょっと目が怖くなり、ミソラはいやいや反応した。
「メロスが走ってお城まで帰って、死刑を免れて感動した……」
「……」
スバルはミソラをベッドから抱きかかえた。
「え……ス、スバル君?」
いきなりお姫様抱っこをされ、ミソラは真っ赤になった。
スバルは優しく微笑み、自分の机のイスにミソラを座らせた。
「はい?」
なぜ、机の前に座らされたのかミソラはわからず、目をパチパチさせた。
スバルはミソラの肩を軽く支えながら、キスが出来るほど顔を近づけ優しく微笑んだ。
「今日はボクがミソラちゃんの読書感想文を手伝ってあげるよ! ボクが満足する文を書くまでこの席から離れさせないよ?」
「そ、そんなぁ~~……」
泣きながら机に突っ伏した。
「泣いても許さないよ!」
(もしかして、スバル君、怒ってる?)
笑顔で気づかなかったがスバルの目は微塵も笑ってなかった。
どうやら、冗談抜きで怒ってることは確かだった。
(本気で怖い……)
机の上に置かれた鉛筆に手を取り、泣きたい気分を抑えペンを走らせた。
「えっと、メロスはボクと契約して魔法少女になって絶望するも俺が最後の希望になって、最後は魔法家族が誕生する」
「ミソラちゃん、マジメにやらないと怒るよ?」
「ひぃぃ~~……」
さらにペンを走らせた。
「はい! 私の全て!」
「どれどれ?」
出された感想文を受け取り、読み出した。
『走る~~走る~~俺たち~~~♪」
スバルはまた微笑んだ。
「誰が爆風スランプのRunnerを歌へといった?」
「あうぅ~~……」
また机に倒れこみ、ミソラは涙の海を作った。
「いいじゃん! これだって、立派な走る作品だよ?」
「ちゃんと意味に沿った感想を書かなきゃ意味がないでしょう?」
涙の海から生還し、ミソラはスバルを睨んだ。
「じゃ、じゃあ、スバル君なら、どうやって感想を書くの!?」
「え、ボク……?」
「そ、そうだよ!」
怯えながらミソラは必死に反論した。
「え、偉そうに批評するけど、スバル君なら、走れメロスをどう感想するの!?」
「ボク……ならか?」
机の上に置かれた本を手に取った。
「走れメロスは主人公・メロスの視点でものが書かれてるけど、もし、ボクがメロスの視点でなくメロスを見ていた国民の視点だったら、死刑を免れるため親友を簡単に人質に選んだメロスの安易さに呆れるだろうね?」
「メロスを見ていた国民の視点……」
原稿用紙を奪い、丸め、ゴミ箱に捨てた。
「自分で考える!」
「おにぃ~~~……」
新しい原稿用紙を叩きつけるように机に置いた。
「原稿用紙は最低二枚から四枚! 文書の丸写しは許さないよ!」
「うぅ~~……最終奥義が」
「そんなの奥義になるか!」
「こんなのヤル気が出ないよ~~……」
「それなら、ボクが満足いく感想が書けたら、ご褒美を上げるよ」
「本当!?」
「うん。お金が足りる限りならね」
「なら、今度のデートで私、とろけるクレープが食べたい!」
「オーケー! それなら、いいよ!」
「やった! スバル君、大好き!」
「わかったから、早く感想を書こうね?」
「は~~い!」
また、感想文を書き出した。
深夜も回り、机の上で眠っているミソラにスバルは起こさないよう抱きかかえると自分のベッドに寝かせてあげた。
「本当に疲れたんだね?」
自分にも多少の非があるかなとミソラの頭を撫でると机の上の原稿用紙を読んだ。
「お、だいぶマシになったな?」
クスッと笑い、赤ペンを手に取った。
「ここの文はいらないと。この文はもっと、掘り下げてみて。この文はこのままでいいと」
自分の持てる感性を駆使し、スバルはミソラの書いた原稿用紙を必死に添削した。
「この文なら、デート代金くらいの価値はあるかな?」
とろけるクレープの他になにか買ってあげようとスバルはクスクス笑いながら想像した。
数日後。
自分のベッドで眠っているミソラを見て、スバルは起こさないようテレビの音を小さくして、つけた。
ちょうど、ミソラが話していたテレビの企画が流れた。
「どんな風に紹介されるだろう?」
『なんと、今回の読書感想文はほとんどのアイドルが走れメロスを書いてきたので、ダイジェストに感想文をお見せします!』
「はい……?」
高速で流れるありきたりな感想文の中にミソラの書いた感想文が一瞬で流れ、スバルは呆気にとられた。
「ア、アレだけ苦労したのに、ミソラちゃんの感想文がたった一秒で終わった」
あまりにもあんまりな扱いにスバルは涙を流してしまった。
「ミソラちゃん、哀れすぎるよ……」
ここ数日の苦労はなんだったんだとスバルは社会人の現実を突きつけられ泣き続けた。
ゴロンッと寝返りを打つ音が聞こえ、ビクッとなった。
「スバル君……待ってて……すぐに迎えに行くから」
「じ、自分がメロスになった夢を見てるのか」
今頃、夢の中で自分を助けるため走り続けてるであろうミソラを想像し、スバルは頭をかいた。
「ちゃんとしたデートプランを考えておかないとな?」
苦労の分の代価は自分が払ってあげようとスバルは決心した。
また、ミソラが寝返りを打ち、恥ずかしそうに寝言をつぶやいた。
「スバル君……裸」
「なんで、最後だけボクがメロス!?」