「次のデートはどこに行こうかな?」
ペラペラと女性誌を開きながらミソラは下着姿のまま、ベッドに仰向けになった。
≪ミソラ、はしたないわよ!≫
「いいじゃない……誰も見てないんだから!」
≪そういう問題じゃ……≫
呆れてため息を吐くハープにミソラは構わず下着姿のまま女性誌を読んだ。
「あ……宝くじ?」
宝くじを当てて喜ぶカップルの写真を見て、ミソラは口を開いた。
「ハープ……確か机にこの前、気まぐれで買った宝くじあったよね? 当選番号、調べてくれない?」
≪自分でやりなさいよ……≫
ハンターVGと宝くじのチケットが投げ渡され、ミソラは唇を尖らせながら、起き上がった。
「えっと……Eの……」
ハンターVGで宝くじの当選番号の載った記事を開くとミソラはビックリした。
次の日、星河家に怒号が走った。
「宝くじで一等が当たった!?」
スバルよりも母のあかねがビックリし、思わず前に立つスバルを突き飛ばした。
「し、しどい……」
尻餅をついて倒れるスバルにあかねはミソラの顔を見た。
「一等って、いくら?」
「なななんと! 百億ゼニーです!」
「キャァァァァァ♪」
少女のような悲鳴を上げるあかねにミソラは、将軍に宝を献上するようにひざを突いた。
「ということで、この宝くじはお義母さんに贈呈します!」
「あら、ありがとう!」
ウットリするあかねにミソラもウットリした。
「百億あれば、結婚式も派手に出来るわね?」
「け、結婚式!?」
尻餅から立ち上がるとスバルはビックリした。
「家を買うのも悪くないですよね?」
「家!?」
さらにビックリするスバルにあかねが怖い顔をした。
「なに言ってるの! アナタはこの家に住むんだから、家はいらないわよ!」
「あ、そっか! ごめんなさい!」
テヘッと舌を出して笑うミソラにあかねもおかしそうに笑った。
「お、お~~い……二人とも」
スッカリ上機嫌になる二人にスバルは背中に冷たい汗を感じた。
「新車とかいいわね?」
「私、未来の子供のためにギターを買ってあげたい!」
「なら、子供のための寝室を作るために家を改築しないと!」
「余ったお金は貯金して、養育費ですよね?」
「うぅ~~ん♪ 夢が広がる♪」
恍惚とする二人にスバルは隣に立つハープを見た。
「完璧に未来を見すぎてるよね?」
≪破産するタイプね、二人とも……≫
ボリボリと頭を掻く二人にミソラが近づいてきた。
「ねぇねぇ! スバル君なら、子供の名前はなんて付ける?」
「え……こ、こども?」
「そうだよ! 今のうちに作っちゃおうよ、子供の名前!」
「あ、な、なまえね……ア、アハハ♪」
≪身に覚えでもあるの?≫
「黙秘権を通すよ……」
≪呆れた……!≫
踊るように身体をくるくる回し、ミソラはさらにはしゃいだ。
「やっぱり、子供の名前は「太陽」がいいかな?」
「太陽って……?」
あかねも飛び跳ねるように声を弾ませた。
「私もすぐにお婆ちゃんね、まだ若いつもりなのに……」
ふぅとため息を吐くも目は笑っていた。
スバルは嫌な予感を全身に感じ、二人を止めることを純粋に考えた。
(な、なんとか現実に戻ってもらわないと、本当に宝くじで破産しそうだ……)
浮かれまくる二人にスバルは元々優秀な頭をさらに難しくひねらせた。
≪なぁ、みんな、宝くじって、これのことか?≫
いつの間にかあかねから奪った宝くじを見て、ウォーロックは首をかしげた。
「あ、ロック君、大切に扱ってね? 私達の今後の人生だから♪≫
ニッコリ笑うミソラにウォーロックは申し訳なさそうに頭を掻いた。
≪これ、外れてるぞ≫
「え……?」
空気が固まる星河家にウォーロックは宝くじに記載された最後の数字を指差した。
≪この数字が「3」じゃなく、「8」なら、大当たりだったんだがな……≫
「え……まさか!?」
ミソラも慌ててハンターVGの宝くじの載った記事を確かめた。
「Eの……」
宝くじの番号と記事に書かれた当選番号を確認した。
「本当だ……」
真っ青になるミソラにウォーロックはせめてのフォローといった。
≪い、一応、当たってるぞ。千円……だけど≫
「……ガク」
「ミ、ミソラちゃん!?」
崩れて倒れるミソラの身体を抱き抱き、スバルは悲痛な思いで叫んだ。
「助けてください!」
≪古いな……≫
≪古いわね!≫
「センスを磨きなさい!」
世界の中心で愛を叫んだギャグも場の空気をさらに凍らせるだけだった。
ようやく宝くじ事件が落ち着き、ミソラはスバルのベッドの上で体育座りしながら俯いていた。
「……」
尋常じゃない落ち込みようのミソラにスバルは優しく微笑んだ。
「気を取り直しなよ。母さんも浮かれすぎてたって、反省してたし?」
「……」
口を開かないミソラにスバルは参ったなと顔をしかめた。
「あ、さっきの宝くじの千円、銀行から貰ってきたけど……」
「スバル君にあげる……」
振り向きもせず、ミソラは泣き出しそうな声で返事した。
「……?」
困った顔で頭を掻いた。
「たく……そんなこと言って!」
ギュッと千円の握られた手でミソラの手を握った。
「ス、スバル君?」
いきなり手を握られ、ミソラはキョトンとした。
「この千円で買いたいものがあるんだけど、いいかな?」
「す、好きにしていいよ」
不貞腐れるようにそっぽを向いた。
「本でも、中古のゲームでも……千円で買えるものならなんでも買っていいよ。元々、スバル君にあげるつもりの宝くじだったし」
「それじゃあ遠慮なく……」
「え……?」
唇がふさがれた。
「ぷはぁ……」
ミソラは予想外の不意打ちに面食らった。
「ミソラちゃんの唇、買っちゃった♪」
「スバル君……」
スバルも恥ずかしそうに頬をかいた。
「これでミソラちゃんの唇はボクのものだね?」
「そんなわけないでしょう!」
「え……?」
いきなり立ち上がり、ミソラは憤怒したようにスバルのベッドの枕を持ち上げ、振り上げた。
「私の唇は千円じゃ安すぎるよ!」
「え……おわぁ!?」
枕で殴りだすミソラにスバルは慌てて謝った。
「ご、ごめん! やっぱり、別のもので……」
「もう、そうじゃない!」
「え……?」
スバルの胸倉を掴み、強引にキスをした。
「ッ!?」
今度はスバルが真っ赤になり、ミソラは熱に浮かれた顔で唇を離した。
「まったく……」
ディープキスなため、唾液が糸を引いて胸にたれると、ミソラはちょっと怒った顔で指差した。
「私の唇を買ったんだから、当然、借金だよ! これから、たくさんキスして返済してね?」
「ミ、ミソラちゃん……」
「スバル君……えへへ♪」
可愛く笑うミソラにスバルも優しく笑った。
「ミソラちゃん」
「スバル君」
またキスをし、二人は抱き合うようにベッドに倒れこんだ。
二人の一日はまだ始まったばかりだった。