「うわぁ……きれい」
月空に光る桜の花びらを見て、ミソラはポツリと呟いた。
「そうだね……」
スバルもどこか嬉しそうに微笑み、コップにジュースを注いだ。
「はい、ジュース!」
「……あ!?」
ジュースを零すミソラを見てスバルはクスクスと笑った。
「もう、ミソラちゃんったら……♪」
地面に敷いたブルーシートに広がったジュースを用意していたタオルでぬぐった
「桜に見惚れすぎだよ!」
「ご、ごめん……」
「ふふっ……♪」
優しく笑うスバルにミソラは恥ずかしそうに赤くなった。
「……」
「夜桜、綺麗?」
「う、うん、とっても!」
「それはよかった!」
桜に舞う月空を見た。
「本当に綺麗だね……」
「うん……とっても」
横に座るスバルの横顔を見てミソラはドキドキと心を高鳴らせた。
(今日はホワイトデーだよね♪)
ミソラは隠す気もなさそうに置いてあるスバルの脇の下の紙袋に顔を赤らめた。
(なにをプレゼントしてくれるんだろう……気になるな)
プレゼントを気にしながらミソラは用意してもらったお菓子を食べた。
「あ、それ、ホワイトデーのクッキーね!」
「え……?」
食べてしまったクッキーの欠片を見て、ミソラは呆気に取られた。
「もちろん、これもプレゼントだから安心して!」
「うっ……」
心を読まれたように紙袋を見せられ、ミソラは真っ赤になった。
「もう、ミソラちゃんったら気が早いんだから」
アハハと笑うスバルにミソラはちょっと悔しくなった。
(普段は私が主導権を握ってるのに……)
こう雰囲気を優先させるとどうも自分は弱くなる気がする。
「お菓子はたくさんあるからゆっくり桜を楽しみながら語り合おう」
「う、うん……」
またお菓子に手をつけ、ミソラはスバルの横顔を見た。
男の子にしては綺麗に整ったかわいい顔をしていた。
(私の彼氏なんだよね!)
そう思うとどこか自分が勝ち組に思えて誇らしくなった。
「ふんふぅ~~ん♪」
「うん……?」
桜と月に酔うように鼻歌を刻みだすスバルにミソラは不思議そうに聞いた。
「不思議な歌だね?」
「あれ……この歌?」
鼻歌を止め、スバルも不思議そうに腕を組んだ。
「この前、夢に出てきた音楽なんだ。本当は歌もついてたんだけど忘れちゃって……リズムだけ雰囲気で歌ってるの」
鼻の頭をかくスバルにミソラは自分でも鼻歌をリズムで再現し身体を揺らした。
「ねぇ、もっと聴かせて」
「え、別にいいけど……」
スバルはどこか恥ずかしそうに赤らみ、のどを鳴らした。
「あ~~あ~~……」
スバルは心を落ち着けるように深呼吸し、鼻歌を歌いだした。
「……」
月夜の雰囲気をより深く染めたような重厚な鼻歌にミソラはまるで心に刻むように耳を澄ませた。
「つきのほし~~……」
「うん?」
「つづけて」
「あ、う、うん……」
ミソラに促され、スバルは無心になって鼻歌を歌った。
ミソラもスバルの鼻歌に心を合わせるように身体を揺らし、歌を歌いだした。
「つきのほし~~……さくらのいろ~~……」
ミソラの顔が一喜一憂し、歌にあわせて歌詞が出来上がっていった。
「つきのほし~~……さくらのいろ~~……」
より綺麗により重厚とした歌が出来上がってくるとミソラは背中に背負っていたギターを構えた。
「ミ、ミソラちゃん?」
「さくらのいろ~~……つきにかがやくいろ~~……」
気づいたらミソラはスバルの鼻歌を完璧にギターの音として再現し、弾いていた。
スバルも花歌を止め、ミソラに釘付けになった。
「つきのほし~~……さくらのいろ~~……きみときざむいちびょうのうた~~……」
ドンドンと出来上がっていく歌にスバルはどこか興奮した。
(これが……歌が出来る瞬間?)
「あなたと……わたしのいろ~~……」
ギターを止め、ミソラは大きく深呼吸した。
「……」
スバルは心が命じるままミソラに静かな拍手を送った。
「ボクの夢の歌が現実になった……」
「スバル君、まだベースの練習してる?」
「え……う、うん」
いきなり話を変えられスバルは考えるように頷いた。
「最近、ちょっとサボり気味だけどちゃんとやってるよ……」
たまに抜き打ちでテストされるからサボるのも苦労するとスバルは心の中で苦笑した。
「じゃあ、決まりだね!」
「え……?」
いきなり月をバックに立ち上がるミソラを見上げ、スバルは首をかしげた。
「なにが……?」
「この歌を私達のデビュー曲にするよ! 名前は「宙の色」!」
「宙の色……か? いいタイトルだね」
「でしょう!」
ミソラはハシャぐようにスバルの手を握って立ち上がらせた。
「おわぁ!?」
「私、この歌をもっと洗練させるからスバル君も手伝ってね!」
「て、手伝うって……なにをすればいいの?」
「も・ち・ろ・ん……」
そっと目を瞑った。
「……」
スバルも目を瞑り、唇を近づけた。
「あ……」
唇が重なり、ミソラはスバルに身体を強く抱きしめた。
(もっとスバル君を感じたい! もっとスバル君を知れば……もっといい歌が出来る! だって、これは……)
倒れるようにミソラとスバルは横になった。
二人は月を見るように仰向けになり、手を繋ぎあった。
「いい歌にしようね……」
「そうだね……」
思い出したようにスバルは脇においてあった紙袋をミソラに手渡した。
「はい、ホワイトデーのプレゼント。結構、苦労したんだよ」
「え……どんなもの?」
横になったまま袋を開けた。
「あ……」
「ビーズで作ったネックレスだよ。専門書を読んで本格的に作ったから形は不恰好だけど……」
「そんなことない、すっごく可愛いよ!」
ゆっくり起き上がるとミソラはネックレスの結び目の紐を解いた。
ネックレスを首に巻きつけるとミソラは朱に染まった頬を隠すことなくスバルに顔を向けた。
「どう……かな……似合う?」
「……うん、とっても」
ネックレスをつけたミソラの容姿に惚れ惚れとするとスバルはゆっくり起き上がった。
「月のように綺麗だよ……」
「当たり前だよ、スバル君の彼女だもん」
「うん、ボクの彼女だもんね」
そういいスバルとミソラはお互いを確認するようにキスをした。
桜の花びらが風になびくように舞い、月に向かって広がった。
まるで二人の気持ちを表すように夜の闇は優しく空に浮かぶ月明かりを照らしてくれた。