日が沈む夕焼け空を部屋の窓から眺め、ミソラは物思いにふけた顔をした。
「センチメンタル……」
溜息も吐き、目を潤わせる姿は小学生ながら扇情的な色気を出していた。
「ミソラちゃん、わざとらしく哀愁漂わせないでよ……人に夕食作らせておいて」
「黙れ、薄情者! 前回のこと私、忘れてないからね!」
「はいはい……」
ミソラの部屋のテーブルにジュースを置いた。
「喉が渇いたでしょう。オレンジジュース、持ってきたよ!」
「アップルジュースがいい!」
「……」
頭が痛むのを我慢した。
(高いの買ってきたのに……)
ここ数日でスッカリメイド根性が染み付いたのか、スバルは慣れた手つきでコップを手にとった。
「うぐぅ……」
コップに入れたジュースを口に含んだ
「ンッ!?」
「うむぅ!?」
無理やりキスをされた。
「うむむぅ……!?」
いきなりをキスをされ、ミソラは目をギュッと閉じ、なにが起きたか理解しようとした。
(あ……?)
理解が済む前にスバルの口から自分の口に舌を入れられ、そのまま器用にジュースを流し込まれた。
「うぐうぐぅ……」
無理やりジュースを飲まされ、ミソラはゾクゾクと身体を震わせた。
「ぷはぁ……」
スバルの唇から解放されるとミソラは唇の端からジュースを零し、荒い息を吐いた。
「……」
慌てて唇の端から零れたジュースを腕で拭った。
「ご、ご飯! こんなことじゃ、誤魔化されないからね!」
「はいはい……!」
着ていたエプロンを脱ぐとスバルはミソラの身体をお姫様抱っこした。
「ほら、行くよ!」
「もっと丁寧に運んでよ!」
「ワガママ言わない……」
苦笑しながらもミソラの身体をやさしく抱き直すと綺麗に片付いた部屋を出ていった。
「ほら! 今日はミソラちゃんの要望通り、ビーフシチューだよ!」
「おお♪」
美味しそうに匂い立つビーフシチューを見て、ミソラはウットリした顔をした。
「スバル君って主夫の才能、あるよね!」
「……褒め言葉と受け取っておくよ」
複雑な顔をするスバルにミソラは満面の笑顔でテーブルを指差した。
「さぁ、早く席に座らせてよ♪」
「はいはい……」
ミソラの身体をテーブルのイスに座らせ、膝の上にナプキンを置いた。
「ありがとう、スバル君♪」
「……」
対面するようにスバルもテーブルのイスに座ろうとした。
「食べさせて♪」
「はいはい……」
椅子に座るのをやめ、スバルは呆れた顔でミソラの前に置かれたスプーンを手にとった。
スプーンにビーフシチューのスープで掬うとフゥと息を吹きかけた。
「ふぅふぅ……」
必死に熱を冷まそうとするスバルの行動にミソラはどこかいい知れない色気を覚え、鼻息を荒くした。
「むっふぅ~~~……♪」
「はい、冷めたよ……あ~~ん♪」
「あ~~ん♪」
優しくスプーンのスープを口に入れられミソラは恍惚とした笑みを浮かべた。
「あぁ~~……女王様になった気持ち♪」
「ボクは執事だね、それじゃあ……」
「罵ったら、本気で殴るからね」
「……?」
言ってる意味が分からず、スバルは顔をしかめた。
「ほら、バカ言ってないで、もう一度、ア~~ン♪」
「あ~~ん……あ?」
チョロッとビーフシチューのスープがミソラの胸に落ちた。
「ご、ごめん!」
ポケットからハートマーク(ミソラ制作)のハンカチを取り出すと強引に胸元を拭った。
「ああ、お気に入りのお洋服にシワが……!」
「ワガママ言わないの! どうせ、部屋着でしょう!」
「スバル君に見せる部屋着だもん!」
「……」
満更でない顔をするスバルにミソラも少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「今更だけど……君、私の胸に触ってるよ」
「えっ……?」
遠くから見るとミソラの胸を鷲掴みにしているように見える自分のポーズにスバルは言葉を失った。
「ご、ごめん……って、うわぁ!?」
今度はミソラのビーフシチューを頭からかぶり、スバルは情けない顔をした。
「今日は厄日だ……」
「吉日ってあったっけ、君に?」
「ムッ……」
頭にビーフシチューの匂いを漂わせたまま、スバルはお風呂に入ろうとキッチンを去っていった。
「あ~あ……怒ちゃった」
一人残されたミソラはとりあえず、床に残ったスープを片付けようとイスから立ち上がった。
「ヌフフ……♪」
なにか思いついたのかミソラの顔がなんともいえない絶妙なものへと変わった。
「まったく……」
シャワーを浴びながらスバルはここ数日の出来事を思い出した。
「これじゃ、ミソラちゃんの執事というよりも奴隷だな……」
数日前の無視事件から尾を引き、無理やりミソラの部屋に住み込みのメイドをさせられてからの数日。
大変なこともあったけど、ミソラの意外な一面も多く見られ、たいへん楽しかった。
むしろ、前よりもミソラが好きになった気さえした。
(ずっと、ここにいたいな……)
などと思っていると……
「スバル君、背中流してあげる♪」
「ぶっ!?」
風呂に入ってきたミソラにスバルは仰天した。
「な、なんて格好してるのミソラちゃん!?」
「hamazonで買ったんだよ、これ!」
えっへんと偉そうに胸を張るミソラにスバルは真っ赤になった。
頭にメイドカチューシャ。
胸には「5のA」と書かれたゼッケンのついた半袖体操着。
腰にはなんの意味があるのかわからないフリフリの飾りのついた新型のスクール水着。
綺麗な曲線美を描くモモにはホルスターに包まれた水鉄砲がついていた。
かなりチグハグな変な水着だが妙に可愛く見えるのはミソラの容姿ゆえだろうか……
「よく売ってたね……そんなてんこ盛りな水着?」
「hamazonに売ってないものはない!」
「否定できない……」
ミソラはニヤニヤした。
「それにスバル君、大事なこと忘れてない?」
「……?」
忘れてると言われ、スバルはなにかし忘れたか考えた。
「ここ、私の家だよ……スバル君♪」
「ッ……!?」
今更になってここがミソラの家であることを思い出し、自分の格好を見た。
(当たり前のように過ごしてたから感覚が狂ってた……)
人の家の風呂すら自分の家の風呂のように当たり前に使っている自分の感覚にスバルは妙な恥ずかしさを覚えた。
それだけ住み心地がよく長居していたといえば、それだけだが……
(どこか情けない……)
涙を流すスバルにミソラはムニュッと胸を押し付けてきた。
「ミ、ミソラちゃん!?」
「なに驚いてるの?」
艶っぽい笑顔を浮かべた。
「私達、恋人同士なんだから、これくらい当たり前だよ♪」
「そ。それはかなり危ない方向の遊びになってるよ……」
「いいから、横になれ!」
「え……おわぁ!?」
ミソラに押され、スバルは仰向けになってしまった。
「ミソラちゃん!?」
「ほら、サービス♪」
「ウォ!?」
股間が眼前に来るように四つん這いにのしかかられ、スバルは真っ赤になった。
「ッッッッ!?」
眼前になんとも言えないエロティカルな光景が広がり、スバルは鼻息が荒くなった。
(ご、ごくあくなながめだ……)
どこか割れ目すらウッスラ見える、ピッチリした水着の線にスバルは目が離せなくなっていた
「ほらほら、こうやって足を広げて♪」
「こ、こら……!」
足を強引に広げられ、スバルは顔を真っ赤にして怒鳴ろうとした。
「いい加減に……」
「え……キャ!?」
「オワァァ!?」
スバルだけじゃなく、ミソラまで真っ赤になって固まってしまった。
「ス、スバル君の硬くなってるよ……」
「は、早く離れて……」
タオル一枚を隔ててるとはいえ、今、ミソラの頬には自分の大事な部分が当たっている。
嬉しいような恥ずかしいようなとんでもないアクシデントにスバルは情けなく、動けなくなった。
「……」
ミソラもここまでの状況は想定外だったのか次の行動が取れず固まってしまっていた。
(ちょっと臭いけど……これって)
どこか牝の本能を掻き立てるような牡の独特の臭いにミソラの目が潤み始めた。
「スバル君……静かにしてて」
「え……ちょ、ミソラちゃん!?」
タオルを取ろうとするミソラにスバルは慌てて止めようとした。
「黙って!」
「うぶぅ!?」
ミソラの股がスバルの口を塞ぐように重なり、スバルは息苦しそうに唸った。
「だいじょうぶだよ……わたし、結構、バナナで練習してるから……」
(ミ、ミソラちゃん、それはダメだよ……あ♪)
本当に覚悟を決め用とした瞬間……
ピンポ~~ン!
「あ!?」
チャイムの音にようやく、二人共、正気に戻り、起き上がった。
「……」
「……」
二人共自分の情けない欲望に真っ赤になりうずくまった。(特にスバルは)
ピンポ~~ン!
確かめるようにチャイムがまた鳴り、慌てて立ち上がった。
「わ、私、行ってくるから!」
「う、うん……って、ミソラちゃん!?」
風呂場を出て玄関へと走るミソラにスバルは慌てて止めようとした。
「キャァァァァァ!?」
ちぐはぐエロ水着姿で宅配屋の前に立った女の子の悲鳴が聞こえた。
(なんで、こうなるかな……)
とりあえず、もうこの辺には住めないなとスバルは覚悟した。
就寝の時間になるとスバルはミソラのベッドを整えた。
「スバル君……もう、寝よう!」
「準備できてるよ」
ベッドに枕を二つ置くとスバルは掛け布団の半分を綺麗に滑らかに持ち上げた。
「どうぞ……!」
「ありがとう♪」
掛け布団の下に入るようにベッドに寝ると、ミソラは身体をクルンッと回した。
「はい、今度はすばる君♪」
スっと空きスペースになった自分の隣の掛け布団を持ち上げるとミソラはニコッと笑った。
「ありがとう……」
スバルもミソラの持ち上げる掛け布団の下に入り、ベッドに横たわった。
「うぅ~~ん♪ このやりとり、何回やっても好き♪」
子供のように喜ぶミソラにスバルも呆れたように笑った。
「ボクも慣れたよ……」
これはミソラが考えた寝る前の儀式であった。
ベッドに入るときはお互いが入りやすいように手伝ってあげる。
どこか甘い匂いかき立つこのベッドの入り方をミソラだけじゃなく、スバルもどこかハマりそうになっていた。
「スバル君の匂い~~……♪」
肩だけをくっつけてニコニコ~~と笑うミソラにスバルもギュッと手を握った。
「ふふっ……♪」
手を握られ、ミソラはますます嬉しそうな顔をした。
これもミソラが定めたルールであった。
ベッドの中ではお互いの睡眠の邪魔をしないよう、最低限のスキンシップで眠ること……
ミソラは朝が早い時もあるので無駄に寝る時間を削ることはできない。
なら、寝るときは早く寝て、起きるときは予定より少し早く起きて一緒にいる。
それが二人が決めたルールだであった。
ウトウトと眠気が支配する中、ミソラは自分で定めたルールでありながら、まだ寝たくないなと口を開いた。
「明日は……パンがいいな」
「わかった、用意しておく……」
「たまごサンドね……」
「わかった……」
「こーひーも出してね……」
「任せて……」
「それとねぇ……朝の連続小説もつけておいてね……」
「大丈夫だよ……」
「あとねぇ……あとぉ………………すば……るくん………………すぅ」
「……」
静かな寝息を立てるミソラにスバルはそっと起き上がった。
「……」
可愛い寝顔を晒すミソラにスバルは優しく微笑んだ。
「おやすみ、ミソラちゃん♪」
チュッと額にキスをした。
「明日もよろしくね!」
また、明日が来るのを楽しみにしながらスバルも眠りに入ることにした。
明日も楽しい一日がやって来る。
ミソラと一緒の一日がやってくる。
毎日大変なことも多いけど、その分、楽しいことも多くって幸せだった。
自分はミソラと一緒にいられると幸せなのだとスバルは実感した。
だから明日が楽しみでしょうがない。
この寝てる時すら幸せなのだから明日の朝はもっと幸せなのかもしれない。
手に握ったミソラの温もりを感じながらスバルはそんなことを考え、眠りに入っていった。
楽しい明日がまた来るまでミソラのぬくもりを感じながら深い眠りに入りながら……