「ただいまかえりました♪」
まるで嫌味のごとく汚い笑顔を振り回して事務所に入ってくる男に社長とミソラ、心配で付いてきたスバルは嫌な顔をした。
「いらっしゃい……金田さん」
社長はため息混じりの他人行儀な挨拶に金田はたいして気にした風もなく目の前のソファーに堂々と座った。
「いやぁ……ここも変わりませんね?」
ニタニタ笑いながら古臭くなった事務所の中を見た。
「久しぶり……元気にしてたか、ミソラ?」
「……」
目も合わせたくないのかミソラは隠れるようにスバルの背中に逃げた。
「君は……?」
スバルの顔を見て、金田は不思議そうに目を細めた。
「失礼……見知らぬ部外者がなぜ、ここに?」
「星河です!」
「初めまして……」
明らかに邪魔者を見る目をする金田に社長は我慢しろと目でスバルを制した。
「で、金田さん……うちになにかようかしらん?」
社長の野太い声も気にせず、金田をは偉そうな笑顔で話を始めた。
「まぁ……少し落ち着きましょうよ?」
懐から葉巻を取り出した。
「ここは禁煙よ。やめてちょうだい!」
葉巻を奪った。
「いいじゃないですか♪」
葉巻を取り返し、札束でも叩くように頬をペチペチした。
「私が帰ってきたんだ。こんなボロい事務所、すぐに立て替えてあげますよ♪」
「……」
苛立ちを隠さず社長は自分の頭の掻いた。
「で、うちをクビになった後、なにをしていたのかしらん?」
「クビ……ですか?」
金田の顔が一瞬、憎しみに染まり、すぐに笑顔に戻った。
「出向してる間、暇だったので違う事務所でプロデューサーの真似事をしてたんですよ♪」
「プロデューサー?」
「ええ。RCM48って知ってますよね?」
スバルは不思議そうな顔をした。
「なにそれ?」
「えっと……」
スバルの背中に隠れながら、ミソラも考えるように顎を上げた。
「最近、発足されたアイドルユニットだよ。大多数で構成されたユニットで金儲け主体で活動していることで悪名が高い……」
全員、金田がプロデュースしてるアイドルユニットだと納得した。
「で、その金儲けのアイドルとうちの希望を与えてくれるアイドルとなんの関係が?」
わざと「金儲け」と「希望を与える」に力を入れる社長に金田は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「その「希望だけしか」与えられないアイドルをうちのユニットに加えようと言ってるんです!」
「……」
社長だけじゃなく、スバル、ミソラまで苦い顔をした。
「うちのミソラはちゃんと一人でやってるわよ……そんな金儲けしかできないユニットと組むつもりはないわ」
バッサリ切り捨てるように社長椅子にふんぞり返る社長に金田はニヤリと笑った。
「甘いですねぇ……これはビジネスですよ! ビジネスなら金儲けくらい普通でしょう?」
「ビジネスの金儲けは次に繋がる金の使い方をする者よ。どうせ、アナタのことだから貯金しかしてないんでしょう?」
「悪いですか?」
ニマァと笑う金田に三人は鳥肌を立てた。
「そもそも、私はミソラの後見人ですよ。ミソラを近くに置いておく義務があります!」
「残念だけど、今のミソラちゃんの後見人は私なの。アナタがミソラにしたこと、出るところに出ればアナタ終わりよ」
「なら、ミソラに聞こうじゃないですか!」
ミソラの顔を見た。
「私とまた、一緒にやらないか? 今よりもっと目立たせてやる!」
「……」
自信と濁りの籠った目で見つめられ、ミソラはスバルの手を強く握った。
この男に対して勝てる言葉が思いつかないのだ。
それに集金マシーンと言われるRCM48は今は立派なトップアイドル。
社長が反対しても他の重役が首を縦に振れば自分は終わりだ。
そんな絶望的な状況が頭に何度も反響し、ミソラは気づいたら泣いていた。
(ミソラちゃん……)
泣き出すミソラにスバルは涙を拭おうと振り返った。
「邪魔だよ!」
「うわっ……!?」
涙を拭おうとするスバルを突き飛ばし、金田は泣いているミソラに威圧するように聞いた。
「なぁ、私とまたやり直そうじゃないか! 私も今は一流プロデューサーとして出世した。今よりいい生活をさせてやるから、さぁ!」
恫喝とも言える金田の言葉に社長も限界を超えたのか震える拳を振り上げようとした。
「ミソラちゃんはお前なんかの力がなくったって、やっていける!」
「ッ……!?」
視線がスバルに集中した。
スバルは赤く腫れた頬を撫で、床から立ち上がった。
「ミソラちゃんはずっと誰かの為に歌ってきたんだ! お前の金儲けの為に歌ってきたんじゃない!」
「大人の話に口を挟むな!」
「お前こそ、ミソラちゃんの進む道に立ちふさがるな!」
「ッ……!?」
社長の顔がショックを受けたように固まった。
「き、貴様ァ……優しくしていれば付け上がりやがって!?」
「ティンときた!」
「え……?」
全員、今度は社長に視線を集中させた。
「実は前からミソラ君には専用のプロデューサーを付けようと思っていたんだ!」
スバルを見た。
「星河スバル君。ぜひとも君をミソラ君のプロデューサーになってほしい!」
「なに!?」
金田の顔が真っ青になった。
「しゃ、社長、こんな得体の知れないやつに私のミソラを任せろと……!?」
「得体の知れないのはそっちだろう?」
社長の濁りのない鋭い目が金田を突き刺した。
「少なくとも彼はミソラ君のブラザーだ。君と違ってね……」
「クッ……!?」
金田の顔が真っ赤なタコのように茹で上がった。
「な、なら!」
ハンターVGを取り出した。
「ミソラ、今すぐワタシとブラザーバンドを組め! 私がお前をそこまで育ててやったんだぞ! できるだろう!?」
「……ブラザーバンド?」
ミソラも自身のハンターVGを取り出した。
(私が繋がっているキズナ……)
今まで体験した様々な甘くも辛く、そして楽しかった日々が頭をよぎり、ミソラの目から今までと違う涙が流れた。
「ミソラちゃん……」
拭う必要のない涙にスバルも力強く頷いた。
「組んでみなよ……」
金田の顔が勝ち誇ったように緩んだ。
(バカが…一度組んじまえば、ミソラの動向なんて知り放題だ!)
二人は簡単な手順でブラザーバンドを組んだ。
「これで私はこの小僧と同じ……嫌、親代わりの私のほうが遥かにミソラを知っているブラザーになった! これでミソラのプロデュースは私に……」
ハンターVGからエラーのブザーが鳴った。
『ブラザーバンドエラー……ヒビキミソラトノキズナチ0。ヒビキミソラトノブラザーヲカイジョシマス』
「なっ……!?」
勝手にブラザーバンドが切れ、金田はわけのわからない顔をした。
「ど、どうなってるんだ!?」
勝手に切れたブラザーバンドにハンターVGを乱暴にいじると金田は混乱した。
「こ、故障だ! ハンターVGが故障した!」
「ボロが出たね……」
スバルも自分のハンターVGを取り出した。
「ブラザーバンドは心のキズナ……お前が考えるより遥か超次元に存在する高尚な繋がりだ」
スバルは昔を思い出すように顔を上げた。
「ボクとミソラちゃんはお互い、傷つけあうこともあった。一度は袂をわかちあった時もあった。でも、その度に強くなった。お前みたいに苦しめるだけの繋がりじゃなく強くなるための繋がりをな……!」
ミソラも自分のハンターVGを取り出した。
「スバル君……」
ミソラの顔が優しくほころんだ。
「ミソラちゃん……」
スバルも決心したように自分のハンターVGを金田に見せた。
「これがボクとミソラちゃんのキズナ値だ!」
「……?」
ハンターVGの細かい数字に金田は目を細めた。
「なに!?」
金田の目が信じられないものを見たように見開かれた。
「∞!?」
「お前の言う、金儲けのアイドルとはブラザーを組めてるのか?」
「ッ……」
目を泳がせる金田にスバルはバカにしたように笑った。
「金で繋がってるだけのキズナと本当にお互いを知り合いたいと思ってずっと傷つきながらもわかりあってきたボク達のキズナはお前みたいな作り物のキズナなんかとは違うんだ!」
「わ、わかったような口をきくな! ブラザーバンドと仕事は別だ! 社長、このよそ者を追い出してください!」
待ってましたとニヤリと唇の端を吊り上げた。
「わかったわ♪」
社長も椅子から立ち上がり、ゴツイ腕をブンブン振り回した。
「ふっ……♪」
社長が自分の味方になったと判断した金田は強気も眉を吊り上げた。
「お前みたいなやつ、二度とミソラに近づけないよう、徹底的にかんりしてや……ほへぇ?」
窓から放り出され、金田の身体が一階裏のゴミ捨て場に落っこちた。
「ぶはぁ!?」
生臭いゴミ袋の山から這い出た。
「な、なにするんだ!?」
二階の窓から身体を乗り出して社長はゴミ捨て場の金田を見下ろした。
「よそ者を追い出せって言うから追い出したのよ。なにか文句でもあるの?」
「こ、こんなことしてタダで済むと思うなよ! ミソラ、お前の仕事、全部、邪魔してやる! こんな事務所、すぐに閉鎖せてやる!」
負け犬のように何度も安い挑発の言葉を並べ、金田は去っていった。
社長はスッとした顔でスバルを見た。
「金田も決して無能じゃない。覚悟は出来てるな?」
「……」
スバルも覚悟したように頷いた。
「よろしい!」
社長はそのゴツイ顔とは裏腹の優しい笑顔でスバルの肩を掴んだ。
「星河スバル君。今日からあなたはウチの事務所のマネージャ兼プロデューサーよ。ミソラちゃんを頼んだわよ♪」
「あ、はい……!」
ミソラを見た。
「よろしくね、ミソラちゃん!」
「……」
「ミソラちゃん……?」
「あ、う、うぅん……よろしくね、スバル君、えへへへ♪」
真っ赤な顔で返事を返すとミソラは自分のハンターVGのキズナ値に幸せな気持ちになった。
『キズナ値 ∞+』