流星のメモリアル   作:スーサン

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年末年始の悲劇【前編】

 新年ライブが近づき、リハーサルにも熱気が増していた。

「~~~~♪」

 レッスン着姿でライブの練習をするとミソラは切りのいい場面で動きを止め、額の汗をぬぐった。

「ふぅ……」

「オーケー、ミソラちゃん!」

 舞台監督の拍手の音にミソラはホッとした。

「だいぶ纏まってきたよ! 本番までもうちょっと頑張ろう!」

「はい、お願いします!」

 ミソラも気合を入れ、お辞儀をすると舞台監督は思い出したように腕時計を見た。

「じゃあ、いったん、クールダウンも兼ねて一時間の休憩ね! ミソラちゃん、水分補給するんだよ!」

「はぁい!」

 休憩に入るとミソラは空に飛ぶようにステージ舞台から飛び降り、スキップした。

「ようやく休憩だ~~……♪」

 ステージを出るとミソラはスバルが待っている会議室へと走った。

「スバル君も仕事終わったかなぁ♪」

 スバルも今はライブの会議で働いてるところだ。

 もともと責任感と才能あふれるスバルの仕事っぷりはこの道を究めてきたベテランからも見ても目覚ましいものがあり、まだ一か月も経たないのに早くもスバルは事務所の一員として周りから絶大な信頼を得ていた。

 これは恋人である自分も鼻が高く、いつも隣を通る同業者に「自分の彼氏は優秀なプロデューサーなんだよ」と心の中で自慢してるくらいだ。

 そんな彼が自分のために仕事してる。

 早く会って、今回の仕事のお礼を言いたかった。

 会議室のドアを見つけるとミソラはノブに手をかけた。

「ス・バ・ル・くぅ~~ん……」

 ドアを開けるとミソラの動きが止まった。

「……」

 会議室の中で大の大人と本気で言い合いをしているスバルにミソラは部屋に入るのをやめた。

(スバル君、マジメに仕事してるんだ……)

 舞台をもっといいものにしようと本気で論議するスバルとその仲間にミソラは心が温かくなるのを感じた。

(こういう苦労も知れたのもスバル君のおかげだね)

 傲慢な考えだが以前までのミソラはライブは自分が作ってるとものだと思っていた。

 でも、スバルが働くようになってから舞台の裏の人間の苦労もわかるようになった。

 自分が半日歌うだけのライブもその陰では何日も優秀なスタッフが汗だくになって働いている。

 それを知ってから、ミソラはもともと積極的だった仕事をますます積極的にこなすようになった。

 そして、今もスバルの働く姿を見て、心が強くなるのを感じた。

「私も頑張らないとな……」

 仕事をしているスバルの邪魔をしないよう楽屋へと戻っていった。

 

 

「あれ?」

 楽屋へと戻るとミソラは部屋に用意していたスポーツ飲料が切れてることに気付いた。

「もう、スバル君ったら!」

 頬をぷくぅと膨らませた。

「用意しておいてって言ったのに!」

 本当は言った覚えはないのだが、逢えない苛立ちからちょっとだけ八つ当たりした。

「買ってこないとなぁ……」

 面倒臭そうに楽屋から出ていった。

「確かに会場を出てすぐにコンビニがあったっけ……」

 近くのスタッフに出かけてくると挨拶してライブ会場から出ていった。

「うぶぅッ……!?」

 会場を出ると口に布をあてられ、強く抱きしめられた。

(これって……!?)

 鼻孔にくすぐる甘い香りにミソラの意識は遠くなっていった。

 

 

「あれ……?」

 目を覚ますとミソラは自分の身体が縄で縛られてることに気付いた。

「私……なんで……ここは?」

 頭がボ~~とした。

 たぶん、さっき嗅がされたのは睡眠薬のようなものだろう。

 ボ~~とするのはその薬の副作用だと思われる。

(寒い……)

 周りを見ると貨物がつまれており、どこかの倉庫であることが分かった。

 だが、どうして自分がここにいるのがわからなかった。

「あ……?」

 よく動くと縄は軽く縛られてるだけで簡単に解けるようになっていた。

「早く逃げないと……」

 まだ冷静に判断できないが自分が誘拐されたことだけは分かり、慌てて立ち上がった。

「あ、起きたんだな~~♪」

「ヒッ!?」

 貨物の陰から現れた数人の男にミソラは真っ青になった。

「な、なんて格好してるの!?」

「ニヤァ~~……」

 いやらしく笑う男たちにミソラは肌寒さを覚えた。

 数人いる男たちは全員、ブリーフ以外の衣類を一切着ず、裸同然の格好でその醜く肥えた腹を揺らしていた。

 ミソラは不衛生極まりない男たちの雰囲気に気色悪さを感じた。

(き、きもちわるい……)

 青くなるミソラを見て、男たちはハァハァと息を吐いた。

「本物のミソラたんだ……」

「この時を待ってたんだな……」

「本物可愛いでござるよ……」

 ジワリジワリと近づいてくる男たちにミソラは迎撃しようとポケットの中のハンターVGを取り出そうとした。

(ない!?)

 ポケットの中にないハンターVGにミソラは愕然とした。

(そういえば、楽屋に置いてきたんだった!?)

 ミソラの心の中に深い恐怖感がよぎった。

「ミソラたぁぁぁぁん……!」

「ヒッ!?」

 男の一人が襲い掛かってくると残りの男たちもミソラに襲い掛かってきた。

「こ、来ないで!?」

 襲い掛かる男たちにミソラは恐怖し、逃げていった。

 

 

 幸い身体が軽く、足の速いミソラはすぐに男たちを巻くことができ、貨物室の出口を探し歩き回っていた。

(なんで、こんなことに……)

 貨物の陰に隠れ、ミソラは男たちの足音を聞きながら震えた。

(スバル君……助けて)

 今まで怖い目にたくさんあった。

 だが、この怖いは今までの怖いとは意味が違った。

 女としての恐怖……

 捕まったら自分は身も心も汚される。

 その恐怖にミソラの肌は寒くなり、震えた。

(私の初めてはスバル君のものなんだから!)

 まだ、一度も手を出してこないスバルをずっと待って純潔を守っているのだ。

 こんなところでこんな最低な奴らに自分の初めてを汚されてたまるかと心を強く奮起させた。

 だが……

「みぃつけた♪」

「ひぃぃ!?」

 ゆっくりと貨物の陰から現れる男にミソラは慌てて逃げ出した。

「逃がさないんだな♪」

「ヒィ!?」

 前後を挟むように現れる男たちにミソラは人のいない右側通路へと走ろうとした。

「ヒッ!?」

 だが、逃げようとした方向からも別の男が現れ、ミソラは残った左側通路へと走った。

(逃げないと……逃げないと汚される!)

 さっきまで奮起していた心が嘘のように怯え、倉庫の道も覚える暇もなく、走り続けた。

 そのたびに何度も男たちは待ち伏せたようにミソラの前へと現れ、そのたびに逃げ続けた。

(おかしい……)

 逃げ続けていくうちにミソラもどこか不自然さを覚えた。

(みんな逃げる私を必死に追ってこない……)

 それどころか、逃げる場所を計算してるように自分の前に現れ、追いかける男たちにミソラは嫌な予感を覚えた。

 そしてその予感は当たった。

「あぁ……!?」

 走りついた行き止まりの壁にミソラは絶望した。

「……」

 床や壁に広がった道具にミソラは真っ青になった。

 ギャグマンガでもよく見るような三角木馬はもちろん、鞭やロープ……

 それこそ、成人指定じゃないと見せられない道具まで揃えられており、ミソラはいまさらになって自分がここに誘い込まれたんだと気づいた。

「あ~~……ミソラたん、こんなところにいたんだ?」

「ここは僕たちが用意したミソラたんのためのレッスン場でふ」

「……」

 顔を真っ青にしてミソラは獲物を甚振るように近づいてくる男たちを見た。

「こ、こないでよ……」

 声が震え、ミソラは目頭が熱くなるをの感じた。

「来ないで!」

 必死に叫ぶミソラに男たちは荒い息をさらに荒くした。

「ここで僕たちが君をエロく可愛くプロデュースしてあげるんだな♪」

「いやぁぁぁ……」

 ついに耐え切れず泣き出してしまうミソラに男たちは悶えた。

「ミソラたんの絶望に染まった顔、萌え~~~~~~~♪」

「もっともっと絶望させてあげるからもっと可愛くなろうね、ミソラたん♪」

「この道具はねぇ……女の子の汚い部分を広げる……ぐふふ♪」

「あ……?」

 男たちへの嫌悪感と恐怖にミソラの心は耐え切れなくなったのか糸が切れたように床に倒れてしまった。

「あ~~あ……気絶しちゃったでござるよ♪」

 目を回すミソラに男たちはニヤニヤした。

「じゃあ、寝ながらミソラちゃんの汚い部分を大きく広げられるようにしようか?」

「これから便秘の心配がないね、ミ・ソ・ラ・たん♪」

 獣のように男たちはミソラに襲い掛かった。

 

 

「うぅ……」

 気づいたらミソラは自分を優しく包むような柔らかい匂いに目を覚ました。

「スバル……くん?」

 目を開けると大好きな男の子の顔が映り、微笑んだ。

「おはよう……」

「ミソラ……ちゃん……」

「なんで……泣いてるの?」

 年相応以下にまるで赤ん坊のように泣くスバルにミソラはどうしたんだと首を傾げた。

「……あ!?」

 今更になって自分がさっきまでどんな状況か思いだした。

「こ、ここは……?」

 そこはさっきまで自分が逃げていた倉庫の中だと気づいた。

 さらに自分を襲おうとしていた男たちが顔を真っ赤に腫れさせ倒れていた。

「これって……?」

「ごめん……ミソラちゃん」

「……スバル君?」

「後ちょっとでミソラちゃんが汚されるところだった……ボク……ボク……」

 ボロボロと泣き続けるスバルにミソラは涙を指で掬い、口の中に入れた。

「変な味……」

「ミソラちゃん!」

「ヒッ!?」

 冗談が過ぎたかと怒られるかと身体を固めるミソラにスバルは強く抱きしめた。

「ゴメンね、ミソラちゃん……ボクがついていなかったばかりに怖い思いさせて……」

「スバル……くん……」

 よく覚えていないがひとつわかることがあった。

 自分は助かった。

 たぶん、直前で危機を察知したスバルに助けられ、身体を汚されずに済んだのだとミソラはホッとした。

 ホッとすると今度は急に身体が震えだした。

「あれ……なんだろう?」

 手が震え、抱きしめられてるはずなのに身体が寒くなった。

 必死に笑顔を作ろうとしてもどこか凍ったようにぎこちなく青くなるのが分かった。

「な、なんだろう……なんだか……」

 目から涙も溢れだした。

「す、すばるくん……」

 気づいたら笑顔を作りながらポロポロと泣いていた。

「わ、わたし……こ、こわかった……!」

 ようやく混乱していた自分の感情が爆発し、スバルの胸に顔をうずめた。

「こ、こわ……かったよ……ス、ス……バル……くん……」

「うん……わかってる……ボクもこわかった……」

 二人は自分たちの感情をセーブすることもなく抱きしめ合いながら泣き続けた。

 警察が二人を保護されるまで二人は泣き続けた。

 今回の件は内密にミソラの名前は隠され、スキャンダルとして報道されることはなかった。

 だが、精神的ストレスからミソラには数日間の休養が必要とされ、新年に行われるはずだったライブは中止となった。

 ミソラにとってもスバルにとっても心に残る大きな傷となって今回の事件は終わった。

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