流星のメモリアル   作:スーサン

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年末年始の悲劇【中編】

「スバル君、お願いだよ!」

「ダァメ!」

 両手の指をクロスさせることでバツの字を描き、スバルは厳しい目でミソラを見た。

「中止したライブを再開したいだなんて絶対に許さない!」

「別に派手な演出はいらない! 歌だけでもいいの! お願い、私に歌うチャンスを頂戴!」

「ダァメ! 君は当分、仕事はしちゃダメ! 大人しく家で療養を取る!」

「……」

 ミソラの顔が暗くなった。

「スバル君のバカ! 大嫌い!」

「あ、ミソラちゃん!?」

 逃げるように事務所から出ていくミソラにスバルは追いかけようとイスから立ち上がった。

 が、社長に止められた。

「今、追いかけても拗れるだけよ……」

「……」

 イスに座りなおした。

「ボクだって、本当はライブをしたいんです。でも……」

 あの事件の後、ミソラは精神的ストレス障害によりライブをしようとしたステージで歌うと急激な眩暈に襲われ、ライブができない身体になってしまったのだ。

 念のため、違う場所でライブのまねをしたところ問題はなかったが事件を連想させる場所や雰囲気にはミソラは過敏に反応する体質になってしまい、現在も仕事の契約を何件も切り、多大な損失を出した。

 それでもミソラのヤル気は失せることなく、むしろ、事件のあったライブ会場でライブをしたいと申し出てきたくらいだ。

 本当はスバルはこのことには大賛成だった。

 ここでライブを中止して、歌うことから逃げれば自分たちは戦う前に負けてしまう。

 そんな気がしてミソラのライブには大賛成だったが……

「……」

 ミソラが抱えている病を考え、スバルは医者から出された診断書に目を通した。

「PTSD(心的外傷後ストレス障害)……か?」

 

 

 事務所から出るとミソラは急ぎ足で事件の起こったライブ会場まで忍び込み、片付けられたステージに上がった。

「ふぅ……」

 目に溜まった涙を拭い、背中に背負ったギターを下した。

≪ミソラ……意地になるのも≫

「私……歌を続けたいの!」

≪……≫

 すでに息が荒くなっているミソラにハンターVGから現れたハープは心配そうな顔をした。

「よし! まずはハートウェー……はぁ」

 重いため息が漏れ、ミソラは眩暈を覚えた。

≪ミソラ!?≫

「だ、だいじょう……ぶ」

 ステージの上で倒れてしまったミソラにハープは泣き声を上げるように悲鳴を上げた。

 

 

「うぅ……」

 目を覚ますとミソラの手に温かく気持ちのいい感触に気付いた。

「ここは……?」

 自分とスバルが寝ているベッドの上だと気づいた。

「スバル君!?」

「……」

 手を握っていたスバルはそっと、手を離した。

 そして……

 パシンッ……

「え……?」

 頬を叩かれた。

「スバル……くん?」

「ミソラちゃん! ボクがどれだけ怒ってるか分かってる!?」

「……」

 ステージの上で倒れてしまったことを思い出し、ミソラは重い気持ちになった。

「いい!? PTSDはデリケートな障害なんだ! 下手したら日常生活にだって支障をきたす重大な病でもあるんだ! それを君は」

「スバル君こそわかってない! 私にとって歌はスバル君と同じくらい大事なものなの! それを奪われたら私は自分を失うのと一緒だよ!」

「あそこで歌わない限りなら大丈夫だろう!?」

「違う! あそこを克服しないと私はもうどこに行ったって歌えないんだよ!」

「歌なんかどうでもいいだろう! 君にもしものことがあッ……!?」

 今度はスバルがぶたれた。

「スバル君のバカ! 『歌なんか』じゃないよ! 私にとって『歌』なんだよ! それが分からないならスバル君はクビだ! もう、私のプロデューサーを名乗らないで!」

 スバルもショックを受けたように黙りこんだ。

「わかった……」

 ミソラから背を向けた。

「ボクはやめないよ……」

「え……?」

「ボクは君と一緒にいる道を選んだ。たとえ、君と意見を違えても行く道は一緒だと思ってる」

「……」

 部屋から出ていくスバルにミソラも今更、自分が言った言葉に後悔し泣き出した。

「どうしてこうなっちゃったの!?」

≪ミソラ……≫

 

 

 ミソラにぶたれた後、スバルは一人になりたく、ハンターVGも置いて近くの公園のブランコに揺らされていた。

「……」

「なにを悲しんでるんだい?」

「え……?」

 隣のブランコに座る男の子を見てスバルは目を見開いた。

「ツカサ君!?」

「たまたま君を見かけてね……引っ越したって噂、本当だったんだ?」

 ブランコから立ち上がり、優しく笑った。

「左頬……腫れてるよ」

「え……?」

 そういえば頬が熱かったと今更、気づき、スバルは情けなくなり、泣き出した。

「ボクは……どうすればいいんだ?」

「……なにがあったの?」

「ツカサ君……」

 ツカサの胸に顔を埋め、スバルは泣き続けた。

 悔しくって悲しくって情けなくって、そして、ミソラが愛おしくって……

 

 

「そっか?」

 事情を聴き、ツカサはスッカリ暗くなった夜の月を見た。

「ボクが知らないところでそんなことが?」

「……ボクは」

「スバル君……ライブはやったほうがいいよ」

「え……?」

 ツカサの顔を見た。

「確かに危険な話だよ。PTSDは酷い話、日常生活にだって支障をきたすことがある。でも、克服できない病じゃない」

「克服できない病じゃない……」

「一度や二度で治るものじゃない。でも……」

 空に流れ星が落ち、落ちた空を指さした。

「逃げ続けてちゃ治らない! 勇気を出して、ライブするんだ! もしかしたら病を治す答えはライブにあるのかもしれないよ!」

「……」

 

 

「ただいま……」

 家に帰ると真っ暗であった。

 寝室に入るとミソラが静かな寝息で眠っていた。

 もっとも、枕は涙で濡れており、ずっと泣いていたことが分かった。

「……ミソラちゃん」

 起こすのは可哀想かなと思ったが起こすことにした。

「ミソラちゃん、起きて……」

「ゆ、ゆうしょくはいらない……」

 泣きながらも寝ぼけて返事をするミソラにスバルは優しく囁いた。

「ライブしよう!」

「え……!?」

 起き上がった。

「本当にいいの!?」

「ただし、本番までに一曲歌えるまでリハビリすること……キツイけど頑張れる?」

「ガンバル! ガンバッて病気を治すから……」

 また泣き出した。

「私から歌を奪わないで……」

「ミソラちゃん……」

 涙を拭い、スバルは肩を掴んだ。

「明日からリハビリだよ。ライブまで時間がないから荒療治で行くから覚悟してね!」

「う、うん!」

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