三月十五日、ホワイトデー。
先月のバレンタインのお返しにスバルはお手製のクッキーを焼いていた。
「よし……後はトッピングでも考えようかな?」
オーブンにクッキーを入れるとスバルは冷蔵庫の中の甘菓子を確認した。
その後姿を危ない目で見る少女がいた。
ミソラである。
「男のエプロン後姿……いい!」
ジュルッと唇の端に垂れた涎を拭くと鼻をクンクンと嗅いだ。
「いい匂い……スバル君の匂いだ♪」
また涎を拭き、ミソラの心が動悸した。
(もう、ここは私とスバル君だけの家。邪魔者はいない。そう、ここでスバル君を傷物にしても誰にもバレない。そうスバル君はわたしのもの……)
「いい匂いだな。なんだ、クッキー焼いてるのか?」
「うん。今日はホワイトデーだから私のプレゼントに焼いてくれてるの♪」
「アイツ、料理なんかできたのか?」
「この家の仕事は全てスバル君がやってくれれてるよ……ハァハァ」
「お前はなにをしてるんだ?」
「もちろん、スバル君を愛でて……」
隣を振り向いた。
「熱斗くん、なんで、うちに!?」
「お邪魔してます」
今更という感じで頭を下げる熱斗に冷蔵庫を調べ終わったスバルも振り返った。
「いらっしゃい。どうしたの急にこの時代に来て」
よく見たらタイムゲートの開いたテレビを認め、ミソラは心の中で舌打ちした。
(コード、抜いときゃよかった……)
せっかくスバルを愛でて楽しんでる時間を邪魔され、ミソラは不機嫌になった。
「あ、スバル、お前、クッキー焼いてるのか?」
「そうだよ。味見する?」
「サンキュー♪」
「ああぁあぁあ!?」
直接クッキーを食べさせるスバルを見てミソラも慌ててヒヨコのように口を上に向けて開けた。
「なにしてるの、ミソラちゃん?」
「うむぅ……」
クッキーをテーブルに置かれ、ミソラは怖い顔で一枚食べた。
「むぐむぐ……」
「なんか、怖い顔してるなぁ、いつもこうなのか?」
「そんなことないけど……気分屋だよね、ミソラちゃんって♪」
ケラケラ笑うスバルにミソラは気に食わない顔で怒鳴った。
「スバル君、ジュース!」
「はいはい、熱斗くんはなにがほしい?」
「えっ!?」
余所者の熱斗にまでジュースを聞くスバルにミソラは信じられない顔をした。
「オレンジジュース頂戴。ミソラはなにがほしいんだ?」
(ここ、私の家なのに!?)
ますます気に入らない顔をし、ミソラは目の前にあったクッキーを一気に食べた。
「ミソラちゃん、意地汚い!」
「うぐん……べぇ~~だ!」
拗ねっ子のようにアカンベーするミソラに熱斗とスバルはどうしたんだと顔をしかめた。
≪熱斗くん、どうやらお邪魔みたいだし、今日は帰ったほうがいいよ≫
「えぇ~~……まだ、ジュース貰ってないぜ!?」
≪いいから帰る! このままじゃ、本当に出禁くらうよ!≫
PETのロックマンの説教に今更ながらミソラが涙目が帰れオーラを出してることに気付いた。
「なにをそんなに……あ、そうだ」
ポケットから一枚の紙を取り出した。
「これ、今度の花見に参加できる奴の名簿。知り合いに全員、声をかけたから結構、いるけど大丈夫か?」
「どれどれ?」
紙に書かれたメンバーを見て、スバルは指をわっかにした。
「大丈夫! 花見は南国さんのお店の前の公園でやるから問題ないよ!」
「おし! じゃあ、用事は済ませたし、帰るな!」
手を振って帰ろうとし、最後に聞いた。
「ところでなんでさっきから機嫌が悪いんだ、ミソラ?」
「この鈍感カボチャやろう!」
「おっと!?」
飛んできた椅子に掛けた座布団を受け止め、熱斗は逃げるようにテレビの中へと飛び込んだ。
「二度と来るな!」
「ミソラちゃん……」
可愛く泣き出すミソラにスバルは確認するように聞いた。
「もしかして熱斗くんのこと嫌いなの?」
「ち、ちがうよ……私はただ、スバル君と一緒の時間を……えっぐ」
本当に泣き出してしまうミソラにスバルは困った顔をした。
「じゃあ、こうしよっか?」
「熱斗くん、来てくれるかな?」
ハンターVGで連絡すると熱斗も応答した。
『わかった!』
テレビのタイムゲートが開くと熱斗が現れた。
「わざわざ、敷居作ったのかよ?」
「まぁ、簡易型だけどね」
リアルウェーブで作った簡単な囲いを見て、熱斗は呆れた。
「ここまでするか……わざわざ、テレビを違う部屋に移動させてまで」
「まぁ、そのために部屋の模様替えもしたし、返って物が整理できてよかったよ!」
後は新しいテレビを買わないとなとスバルは家計簿の心配をした。
ミソラは怖い顔で囲いの壁を指さした。
「いい! これからうちにはいる時はこの囲いのブザーを鳴らすこと! 黙って入ったら不審者として通報するからね!」
「はいはい……なにをそんなに癇癪起こしてるんだ?」
「起こしてないもん!」
スバルの腕に抱き付き、ベ~~と舌を出した。
「やれやれ……なにが気に食わないのか」
呆れ果てる熱斗にPETのロックマンも呆れた。
≪熱斗くんの女心のわからなさも残念だよね≫
こうして、響家に過去からの住人専用の玄関が出来たのであった。