「はい、オーケー……ミソラちゃん、本番入ります!」
三本指を曲げると、ゴーのサインが降りた。
「おはようございます! 今日の「シューティングチャンネル」は特別ゲストとして、私、響ミソラが、ここ、コダマ町を紹介することになりました」
ニコッと微笑むミソラにディレクターの男がオーケーと指だけで合図を出し、続けろと指示した。
「ご存知の通り、ここ、コダマ町は異星人襲来で一番の被害を受け、かの英雄、ロックマンが現れた、伝説的な土地です」
ゆっくり、コダマ町の歩道を歩きながら、ミソラは笑顔を崩さないまま、司会を進めていった。
「さて、早速、近くの人にインタビューしてみようかと思います。それでは、あの近くの男の子に……お~~~い!」
「うん」
飲んでいた缶ジュースを口から放すと少年は仰天したように目を見開いた。
「……スバル君」
スバルの顔を確認し、ミソラも固まった。
すぐにディレクターがボード版で、「動きが止まってる」と合図し、ミソラは慌てて、マイクを当てた。
「は、初めまして……私、響ミソラといいますけど、私のこと知ってます」
「え……ああ!?」
スバルもすぐに状況を理解し、相槌を打った。
「星河スバルです……コダマ小学校に通ってます!」
どこか目が泳いだ状態で返事をし、スバルはどうしたらいいか、迷った。
ミソラも、とりあえず、決められたことだけはしようとレポートを続けた。
「わ、私、この町の特集を組むことになったんですけど、ロックマンのこと知ってますか」
「え……ロ、ロックマン!?」
スバルの顔が苦いものに変わり、すぐに笑顔を作った。
「えっと……FM星人から地球を救ってくれたって聞いてますけど」
「うん……すっごく、格好いいよね」
「……」
顔を赤くするスバルにミソラも照れくさそうに顔を赤らめ、さっさと話を切り上げようとマイクを口元にやった。
その瞬間。
「カット!」
「うん」
いきなり、予定外のカットが入り、ミソラは慌てた様子で叫んだ。
「あれ、もしかして、NGですか!?」
「いやいや、違う違う!」
ディレクターの男はスバルに近づき、愛想のいい笑顔を浮かべた。
「君、ミソラちゃんと同い年だよね」
「は、はい、一応」
「コダマ小学校に通ってるって言ったよね」
「ええ……まぁ」
言いたいことがわからず、スバルは顔をしかめた。
「これから、ミソラちゃんと一緒に町の特集に付き合ってくれないかな。もちろん、テレビに出れるよ」
「え……」
青半分、赤半分の微妙な顔色をするスバルにミソラの顔がパァッと輝き、声を上げた。
「そうしなよ、スバル君!? 私もしっかり、サポートするからさ!?」
「そ、そんなこと言っても……ミソラちゃん、僕、自信が無いよ」
「そんな事無いよ。スバル君、本番で強いタイプだし、私と一緒だから、絶対に大丈夫!」
「こ、根拠の無い自信だね」
「スバル君がいる……それだけで根拠は十分だよ」
「アハハ……」
無条件で信頼されてるのは嬉しいが、少し信頼されるベクトルが違うような気がし、スバルは頬を人差し指でかいた。
「……二人とも、なんだか、偉く馴れ馴れしいけど、もしかして、知り合い」
「イッ!?」
「アッ!?」
言葉を詰まらせる二人にディレクターの男はそんなわけ無いかと大笑いし、聞いた。
「で、どう……テレビ出てみる気、無い。大人気アイドルと一緒にいられるよ」
いつも一緒にいるんだけどな?
スバルは心の中でため息を吐き、少しだけ、安心した顔をした。
「わかりました……素人ですけど、頑張ります」
「オーケー。じゃあ、早速、いこうか」
指で輪っかを作り、ニコッと笑うディレクターを見て、ミソラも安心顔でスバルの手元を見た。
「あ、スバル君、そのジュース頂戴」
「え、あ……ミソラちゃん」
缶ジュースを奪われ、ゴクゴクと喉を鳴らしジュースを飲むミソラにスバルは恥ずかしそうに呟いた。
「間接キスなんだけど」
「ぶッ!?」
スバルの言葉に自分の取った行動を理解してしまったのか、むせてしまい、ゲホゲホと咳き込んでしまった。
「は、はい、スバル君、ありがとう……ちゃんと、残しておいたから」
「間接キス……」
真っ赤な顔のまま、僅かに缶の飲み口に残った淡い桃色の跡にスバルは恥ずかしそうにいった。
「口紅つけてるんだ」
そっと自然な雰囲気で飲み残された缶ジュースの中身を飲み、ミソラも嬉しそうに微笑んだ。
「ここが、僕が通うコダマ小学校。個性的な人がたくさんいるけど、みんな楽しくって、いい学校だよ」
「へぇ~~……ここがコダマ小学校か」
ホケェ~~と顔を上げ、ミソラはそっと自然な感じでスバルの手を握り走り出した。
「じゃあ、中に入ってみよう!?」
「え、ちょ……ミソラちゃん!?」
ミソラに引っ張られるまま学校に入るとスバルは自分の教室まで彼女を案内し、説明した。
「ここが僕の教室、今日はお休みだから……担任の育田道徳先生はいないけど、いつもは、先生の授業を聞きながら、楽しく過ごしてるんだよ」
「へぇ~~……いいなぁ」
ボソリと漏れた言葉が、担任に恵まれたスバルが羨ましいのでなく、スバルがいる、この教室が羨ましいのだとミソラは自分自身の本音にすぐに気づき、テレたように笑った。
スバルの机を見つけ、すぐに近づくとミソラは輝くものを見るように顔を綻ばせた。
「ここが、スバル君の机か……」
どこか、嬉しそうにミソラは顔を輝かせ、イスに座りだした。
「ミソラちゃん」
さすがにその行動には不可解さを覚え、スバルは不思議そうにミソラを見た。
ミソラも、ニコッと笑い、スバルに語りかけた。
「意外と普通なんだね」
「それは普通の学校だからね」
ふふっと笑いあう二人に、ディレクター達は不思議そうに首をかしげた。
「なんだろう、この温かい雰囲気は」
なんだかんだで、撮影は順調に進んだ。
学校を出た後、ミソラとスバルはコダマ町の名物を行き来し、昼食を一緒に食べ、ゲームセンターでクレーンゲームをし、ミソラに人形をプレゼントし、最終的にスバルの家へと招待された。
「はい、どうぞ、ミソラちゃん」
トンッと優しく置かれたお茶にミソラはありがとうございますと挨拶し、コップを取った。
「はぁ~~……今日は本当に楽しかった。ありがとうね、スバル君」
「うぅん……こっちこそ楽しかったよ、ミソラちゃん、ありがとう」
ニコッと微笑む二人にディレクター達は不可解そうに顎に手を置いた。
「なんだか、熟年夫婦並みに息の合った二人だな」
ディレクター達の疑問を吹き飛ばすようにキッチンからスバルの母が現れ、声をかけた。
「ミソラちゃん、今日は食べていきなさい。美味しいもの作ってあげるから」
「え……あ、は、はい、ありがとうございます!」
慌てて立ち上がり、ミソラもトテトテと台所に向かった。
それに続き、カメラもスバルを無視し、ミソラの後をついていった。
「お手伝いします!」
「あら、ありがとう……カメラさんは邪魔ですから、出て行ってくれますか」
「え……」
無理やり、カメラマンを外に出すとミソラはホッとした顔でスバルの母を見た。
「大変ね、仕事とはいえ、生まれたての雛のようにカメラに追いかけられていると」
「いえ……これも選んだ仕事ですから」
「そう」
ニッコリ微笑み、スバルの母は料理を始めようと食材を並べ始めた。
ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ……
どうやら作るのはカレーライスらしい……
包丁を切りながら、スバルの母はニヤニヤとミソラに聞いた。
「どう、最近、スバルとはうまくいってる」
「イッ……!?」
ガコンッと切っていたニンジンに力が入り、真っ二つに裂けるとミソラは真っ赤な顔で叫んだ。
「な、なに言ってるんですか、いきなり!?」
「いきなりじゃないわよ。最近の子は進んでるから……キスはしたの」
「キ、キスッ……」
ここ最近の出来事を思い出し、真っ赤になるミソラにスバルの母は悪戯っ子のように笑った。
「これは聞くのが野暮だったわね」
「あうぅ~~……」
全て見透かされてると気付かされ、ミソラは恥ずかしそうに真っ二つになったニンジンを一口サイズに切りなおした。
なんだかんだで、料理好きだから、応用は利くらしい……
夜になり、撮影を終えると、スバルはディレクターの男と握手し、頭を下げた。
「今日はありがとうございました。おかげで楽しかったです」
「いや、こっちもありがとう……おかげで、いい作品が出来た。テレビ、絶対に観てくれよ」
「はい!」
ゆっくり、ミソラを見て、ニコッと微笑んだ。
ミソラもニコッと微笑み、ウィンクした。
「また、一緒にテレビに出ようね」
満面に広がる眩い笑顔にスバルは数日後に流れるテレビが待ち通しと心をヤキモキさせた。