「ふぅ~~ん……ここがベイサイドシティーか」
自分が住んでいる町よりも遥かに都会なビル郡にスバルは頭の後ろをかき、ため息を吐いた。
「なんの気なしに都会遠征まで来たけど、見事にやることないな」
《なら帰るか……どうせ、電波空間で来たんだしな?》
「それもそうだけど……せっかく来たから、なにか都会のものを買って帰りたいなって思って」
《完璧におのぼりさ……》
プツンッ……
「ウォーロック」
音を立てて声の消えたウォーロックの声にハンターVGを手に取ると、スバルはアチャ~~と片目を隠した。
「電池切れしちゃってる……また、ウォーロックに怒られるだろうな」
ハンターVGも立派な電子端末機である。
その機動力の原点は当然、電気である。
電機が元で動けば、当然、電池は減る。
電池が減れば、充電が必要となる。
もし、それを忘れれば、当然、電池はなくなり、ハンターVGは使い物にならなくなる。
いつの時代も、電子機器が逆らえない敵は電気である。
改めて、スバルはその事を痛感し、ため息を吐いた。
「困ったな……どうやって帰ろうかな。これじゃあ、ロックマンに変身できない」
ポタポタ……
「うん」
額に当たる水滴にスバルは顔を上げた。
「ゲッ……雨が降ってきた!?」
一瞬で土砂降りになった雨に身体を打たれ、スバルは泣きだしそうにうなった。
「……今日は厄日だ」
全身ずぶ濡れの状態で、とりあえず、駅まで戻ることにした。
それから、どうやって帰るかは、雨宿りした後に考えればいい。
遠出したもののさだめというかなんというか……
と思ったら……
「小銭がない……」
というよりも、お金自身持ってない。
財布を忘れたのだ。
「とこととんバカだ……僕は」
「あれ、スバル君……なんでここに」
「え……」
ずぶ濡れの顔を上げると、そこにはコンビニ袋を片手に傘を差した少女がいた。
「ミソラちゃん」
傘を持って、不思議そうに自分を見るミソラにスバルは思い出したように手を打った。
「そうか……ここはミソラちゃんの住んでいるところだった」
「よし……こんなもんかな」
ずぶ濡れのスバルの服を洗濯機の中に入れるとミソラは急いで二階に昇り、スバルのいる、自分の部屋へと戻った。
「スバル君の服、洗濯機にかけたから、少し待ってってね」
「あ……ミ、ミソラちゃん、こっち見ないでよ!?」
慌てて、バスタオルで身体を隠し、スバルは乙女のように恥ずかしそうに小さくなった。
そんなスバルの姿を見て、ミソラもドキッと胸を高鳴らせ、顔を真っ赤にした。
「で、でも、スバル君も友達がいがないよね。ベイサイドシティーに来てたなら、連絡くらい、くれればいいのに」
「う、うん……そ、それもそうだったね」
実際、ここに住んでいたことを忘れていたなど、口が裂けてもいえなかった。
「そうだよ! だから、ハンターVGも電池切れになるし、雨だって急に降るんだよ」
「言い返す言葉がありません……」
かなり一方的な言い方な気もしたが、実際、ミソラのことを忘れていたのも事実、言い返す言葉があれば、ぜひ教えてほしかった。
それに言い訳して、家を追い出された、この雨の中、歩いて家に帰ることになる。
それだけは避けたかった。
「とりあえず、ハンターVGの充電が終わるまでここでノンビリすればいいよ」
「ありがとう、ミソラちゃん」
「うん! 貸し一だからね」
「わかったわかった……」
ふふっと微笑むスバルにミソラもテレたように笑い、部屋のベッドをイス代わりに座った。
「ところで、服の洗濯が終わって、乾燥機にかけるまで二時間くらい……その間、暇だし、なにかして遊ぼう」
ゆっくり雨の激しい窓の外を見た。
「こういう雨の中でしか遊べないときってあるでしょう」
「そ、そうだね……」
スバルもちょっと恥ずかしそうにミソラの部屋を眺めだした。
綺麗な部屋だな……?
これぞ、女の子の部屋だと言わんばかりの桃色の雰囲気がよく似合う部屋だった。
全体を品良く色とりどりにカラーリングし、床にも床シートを敷き、実用性にも組んでいた。
以前、クラス委員長もやっている白金ルナの家にもやってきたことがあった。
だが、あの部屋は色で現せば、桃色じゃなく、純白といった感じであった。
白と桃色……
どちらも、女の子の部屋として栄えるものがあるが、今自分がいるのは桃色の部屋だった。
男のいろんな心をくすぐるには少し刺激的な色であった。
「もう……スバル君たら」
スバルの視線を察したのか、ミソラも恥ずかしそうに顔を赤らめ、立ち上がった。
「雨の中の部屋でやることといえば、やっぱり、トランプだよね」
机の中に入れてあったトランプを取ると、ジャ~~ンと見せ付けた。
「アイドルトランプだよ」
「アイドルトランプ……」
スバルは記憶の本棚を整理するように言葉を発した。
「確か、それって、人気アイドルを二次元化して、トランプにしたカードだよね」
「そう! このトランプ、なんとジョーカーとスペードのエースが私の絵柄なんだよ」
「なんか、どっかで聞いたことがある響きだな」
ジョーカーとエースに過敏に反応するスバルにミソラは不思議そうに顔をしかめた。
「まぁ、いいや……じゃあ、なにをしようか」
「う~~ん……そうだな」
腕を組んで、頭をひねらせるとミソラは元気よく叫んだ。
「じゃあさ、ブラックジャックやろう。ブラックジャック!」
「ブラックジャックね」
一瞬、頭を回転させ、他に楽しいゲームが思いつかなかったので首を縦に振った。
「じゃあ、ブラックジャックをやろうか……ルールは大丈夫」
「うん! ルールは単純……引いたカード選択し、二十一に最も近い数字を出したプレイヤーが勝利。ただし、二十一を超えた場合、その時点で敗北。一回に引けるカードは二十一を超えない限り、何枚でもオーケー。ルールは大丈夫」
「うん! じゃあ、始めようか」
「ちょっと待って!」
ビシッと、制止され、スバルは不思議そうにミソラを見た。
「ただ勝負するのもつまらないよ」
「つまらない」
「そう。だから、賭けをしない」
「賭け」
目をパチクリさせるスバルにミソラはえへへと笑った。
「勝ったほうは負けたほうに好きな命令ができるってのはどう!?」
「ありきたりだね」
「なら……新機軸!」
どこから取り出したのか、俳句用の短冊と筆を取り出し、スラスラと書き出した。
「あらかじめ用意した命令文を五・七・五で命令するってのはどう」
「新機軸かどうかわからないけど、若干、風情はあるね」
まぁ、和洋折衷だけど……
クックックッと笑い、スバルも短冊に命令文を書き出した。
「じゃあ、それを隠して、勝ったほうが命令をオープンできるってことで」
お互い、短冊を裏返しにし、ジャンケンをした。
「最初はグー……」
「ジャンケン……」
「ポンッ!」
スバル(グー)、ミソラ(チョキ)……
スバルの先攻。
「それじゃあ、まず、一枚引かせてもらうよ」
最初に引き、床においた。
「スペードの五だね……もう一度引くよ」
もう一枚引き、今度はジャックが出た。
「絵札は全て十とカウントするから、五+十で十五……引くか引かないか考え物だな」
「六以下なら、スバル君の有利、六より多ければ、スバル君の負け。どうする」
どや顔をするミソラにスバルもふぅとため息をはいた。
「ここは勝負に出ず、手堅くいくよ」
「じゃあ、私のターンね」
一気に三枚カードを引き、バンッと叩きつけた。
「やっぱり、カードは勢いでしょう」
キングと七と二……合計十九。
「やった! 私の勝ち!?」
大喜びでハシャぐミソラにスバルも腕を組んで、うなった。
「次にキングがでたってことは、僕の選択は間違ってなかったけど、勝負運はミソラちゃんが上ったってことだね」
「そうだね」
背中で今、引いたカードをベッドの下に隠すと、ミソラはえへへと笑った。
「じゃあ、約束の命令ね」
「ちょっとタンマ!」
「はい」
いきなりタイムをかけられ、ミソラは目を不思議そうにしばたかせた。
「僕たちまだ小学生だから、その節度を守っての命令にしてね」
「任せて! 節度バッチリ、いつもの私たちだから」
「いつもの」
引っくり返された短冊を見て、スバルは呆れた顔をした。
『接吻を してくれるよね 唇に』
「……品がない」
「なにか言った」
「いえ、まったく!?」
ぶんぶん首を振り、スバルは誰もいないはずの部屋で人の姿を確かめ、深く息を吸った。
「じゃあ、僕からいく……ッ!?」
押し倒すようにキスをされ、スバルは目をギョッとさせ、真っ赤になった。
「う……うぅ」
仰向けにされ、奪うキスをするミソラにスバルは苦しそうに顔をしかめた。
だが、すぐに冷静さを取り戻し、今度は自分がミソラの身体を抱きしめ、唇を吸った。
「ふぅ……」
いったん、唇を離し、ミソラは今度はスバルの首にキスをした。
「あぁ……ミソラちゃん」
ミソラが首から唇を話すと、今度は仕返しといわんばかりに、スバルがミソラの鎖骨に唇を当て、強く吸った。
「ス、スバル君……そこダメ……」
顔を紅潮させ、色っぽい声を出すミソラにスバルはどこか興奮した顔で唇を離した。
「はぁ……はぁ……」
「ス……スバル君」
また、目をトロンとさせるミソラに二人はまるでお互い戦ってるように覆いかぶさり、キスを繰り返した。
「……」
「……」
二人とも真っ青な顔で、背中を向き合っていた。
その首筋にはいくつものキスマークや涎の後があり、二人がどれだけすごいキスをしたか、目に見えて明らかだった。
さすがにやりすぎた。
してる最中はお互い幸せだったが、いざ冷静になるとどれだけ、浅ましいことをしていたかで、お互い自己嫌悪していた。
「あ、あのさ……ミソラちゃん」
「う、うん……今、話しかけないで……自分がいたたまれない」
「うん……僕もいたたまれない」
お互いガックリ膝に顔を埋めるとスバルは思い出したようにハンターVGを手に取った。
「あ、そうだ!? もうそろそろ、充電が……されてない」
「あ……そ、そうだったね。意外に電池が弱ってるのかも……こ、今度、変えたら」「う、うん……」
また、会話が持たなくなり、スバルは逃げるように窓の外を見た。
「雨が強くなってる……」
ドガシャ~~~~~~ン!
「ひぁぁ!?」
いきなり降ってきた雷にミソラはビックリし、思わずスバルに抱きついてしまった。
「ミ、ミソラちゃん……」
「あ……ご、ごめん」
抱きついたまま、また動けなくなってしまった二人はお互い見つめあったまま、顔を赤くしてしまった。
「……後、一回だけなら」
そっと顔を近づけるミソラに……
「う、うん……一回だけなら」
スバルも顔を近づけ、目を瞑った。
次の日……
「キャァァァァァ……ムグッ!?」
思わず叫んでしまった口を押さえ、ミソラは自分のベッドの横に眠っているスバルを見た。
「えっと……なんで、私のベッドにスバル君が寝てるの」
昨日のことをよく思い出してみた。
「えっと……確か、あの後、ちょっとだけ、キスを二時間くらい繰り返し……疲れたから、お風呂でシャワーを順番に浴びて、その後、雨がもっと酷くなって帰れなくなったから、スバル君のお母さんに嘘の泊まりの報告をし……その後」
また、キスをして、お互い気を失うまでせめぎあったのだ。
「あ……ああ!?」
今度こそ再起不能になりそうなほど顔を真っ赤にしミソラは慌ててベッドから飛び出し、お風呂に向かった。
そして、パジャマを脱ぎ、大切なところをチェックし、大丈夫なのを確認し、今度は、身体中にキスの跡がある事に気付き、慌てて厚着を着て、ごまかし、部屋に戻った。
「まだ、スバル君は寝てるよね」
昨日は相当、体力を使ったから、起きるのは当分先になると思う。
だけど、念のため、自分のハンターVGを取り出した。
「調子に乗りすぎた」
よく見るとコンセントの挿さってない充電器をコンセントの穴に挿し、自分のハンターVGの電池を取り出し、スバルのハンターVGの電池と取り替えた。
「本当はもうちょっと、ロマンチックな夜にするはずだったのに」
まさに大人も裸足で逃げるような熱いキスを繰り返す夜となってしまった。
今でも、自分たちがなにをしたか思い出し、身体中が熱くなるのを感じた。
そして、同時にあの夜のキスをもう一度、やりたいという欲求が支配し始めた。
「……スバル君」
そっと、スバルの顔を覗き込み、ミソラは荒い息遣いで赤くなった。
「あれ……ミソラちゃ……ッ!?」
起きざまに唇を奪われ、スバルは顔を真っ赤にし、目をトロンとさせた。
「朝ごはんの時間まで……ちょっとだけ」
そういうミソラの目もトロンとし、奪うようにまた、キスをした。
今日もキスを繰り返す一日になりそうだった。