「スキーに行きたい!」
「うん?」
正月休みで部屋で雑誌を読んでいたスバルはいきなりのワガママに首を傾げた。
「どうしたのいきなり?」
「いきなりじゃないよ!」
ふんっと胸を張りぷるんっと揺れた。
「今年はまだスキーに行ってない!」
「別に今年くらいは……」
スキーにはいい思い出もないと過去の遭難事件を思い出し、嫌な顔をした。
でもそんなことロマン優先のミソラに通じるわけがなかった。
「いいから行くよ!」
腕を掴まれグイグイと引っ張られた。
スバルはあれ来た顔をして立ち上がった。
「相変わらずワガママなんだから……」
そういうところに惚れてると言えばそれまでなんだがと思いながらポケットからハンターVGを取り出した。
「電波変換!」
「響ミソラ!」
「星河スバル!」
「オン・エア!」
二人の身体が光となって消えた。
「おお~~~~~~~~~~~~♪」
見渡す限りの銀世界にミソラは喜びの声を上げた。
「ゆきだぁぁぁぁぁあぁっ♪」
「新年前に見たけどね……」
「スキーだぁぁぁぁぁぁぁあ♪」
いつの間にかスキーウェアに着替えていたミソラにスバルは呆れた。
「その前にミソラちゃん、約束して!」
「なになにスバル君?」
顔を見上げるように上目遣いになった。
「……」
ちょっと可愛いとドキッとした。
「こ、こほん……」
心を落ち着けるように咳払いした。
「毎回ボク達はスキーに来るたびに遭難して酷い目にあってる!」
「いい思い出だよね!」
「いい思い出を辞書で開いて!」
ふんっと鼻を鳴らした。
「だから今回は遭難しないよう初級コースだけ滑るよ!」
「ぶぅ~~……」
頬を膨らました。
「つまんなぁ~~い!」
「これ以上、救助隊の世話になりたくないの!」
「スバル君は冒険心がないんだから!」
「遭難は冒険じゃなくただの失敗だ!」
「はぁ……無駄だと思うけど」
そして、涙を呑んだ誓いから三十分が過ぎて……
「でしょう?」
「嬉しそうに笑うな!」
見事に道に迷い、お約束の吹雪まで来て、さらにお約束のコテージの中でスバルはミソラと同じ毛布で温めあっていた。
「なんで、初級コースで遭難するかなぁ!?」
「もう遭難する展開を省いても誰も不思議じゃないほどテンプレだよねぇ♪」
「喜ぶな!」
ホロリホロリと泣きながらスバルは下着にだけになって毛布に包まるミソラの肩を抱いた。
「来年はもうスキーに来ない!」
「私が行きたいって言うよ、きっと……」
「絶対に行かない!」
「いや、行くね、きっと……」
「あぁぁぁぁぁ……」
頭が痛くなるスバルにミソラはえへへと笑った。
「いいじゃない、遭難するのは慣れっこだし、ここなら吹雪が止むまで邪魔が入らないよ」
ミソラはスバルの抱えていたバッグの中を開いた。
「ご丁寧に身体が温まるお茶まで常備して、もう遭難する気まんまんだったでしょう?」
「遭難してもいいように持ってたの。わかってたけど……わかってたけど」
この前の大凶のおみくじを思い出し、スバルは本気で泣き出しそうになった。
「ボクってもしかして不幸なのかも……」
「え、知らなかったの?」
「……」
絞め殺してやろうかと心の中で怒りを覚えた。
「はい、それより私の飲みかけだけどお茶! 温まるよ」
「ありがとう」
コップに注がれたミソラの口をつけたお茶を飲んだ。
「あぁぁ……」
お茶の熱さにホッとした。
「新年明けてもこの状態じゃ、さぞや、今年も楽しい一年になりそう」
「あ、そういえば、海では迷ったことないよね?」
「迷ったら溺死だ!」
「孤島に取り残されるシチュもあるよ!」
「もううんざりだ! 旅行なんて大嫌いだ!」
「そんな本気で泣かないでよ……ちゃんと埋め合わせするから」
タハハと笑いミソラは厚いスバルの胸板に頬ずりした。
(意外と締まってるあたり、スバル君を恋人にしてる私って勝ち組だよねぇ♪)
スバルのぬくもりを感じながらミソラは幸せを覚えた。
(ずっとここで二人っきりでいたいなぁ……)
ほんのりした幸せを感じながらミソラはスバルの心臓の音を聞いた。
(生きてる音だよねぇ……)
どんな音楽よりも心が踊り、どんな音楽よりも心が落ち着くいい音だった。
来年もまた遭難しそうな二人である。