「……」
スバルがカーテン室から部屋の中に出ると真っ赤になって震えた。
「キッッッッッッッャァァァァアァァァァ♪」
ミソラの黄色い悲鳴が轟き、雷すら振らせた。
「スバル君、すてきいいいぃぃぃぃぃぃぃいぃっ♪」
「……ミソラちゃん」
床を転がり身悶えるミソラを認め、スバルは泣き出しそうな声を出した。
「あ、あの……」
未だにゴロゴロと身悶えるミソラに懇願した。
「これ、やめない……?」
「え……?」
風を切るように起き上がりミソラは目をギョッとした。
「ど、どうして?」
「いや、ダメでしょう……」
「似合ってるのに?」
「似合ってない!」
「素敵だよ!」
「嬉しくない!」
「どこが気に食わないの?」
「全部だよ!」
「ただの女装じゃん!」
「そこが問題無の!」
スバルの怒声にミソラは耳をふさいで頬を膨らませた。
「なんで?」
ミソラは詰め寄るようにパッドをハメたスバルの胸を掴んだ。
「こんなにオッパイだって大きくして可愛く化粧したのに!?」
頭の上のツンツンを突っついた。
「この拘りのヘアーだって健在にしてウィッグまでつけたのに!?」
後ろ髪のウィッグを弄び、ミソラは不満そうな顔をした。
「このメイクアーティストもビックリな人気アイドルプロデュースの完璧女装になんの問題があるの!?」
「女装って時点でアウトだよ!」
ウゥと泣き出した。。
「こんな姿、友達に見せられないよ……うん?」
「あ、気にしないで」
カメラのシャッターを切り、涎をすすった。
スバルは冷たい目を向けた。
「カメラで人の痴態を撮らないで……」
「あ、顎をシャフ度して!」
「しゃ、しゃふ……ど?」
「簡単に言うと顎を軽く上げて目線をこっちに向けるの! とっても美しくってエロいポーズなんだよ!」
「ミソラちゃん……」
最初からだが壊れていく恋人にスバルは本気で涙がちょちょ切れた。
「もうこんな服脱ぐ!」
「あ、待って!」
腕を掴まれた。
「なに?」
「デートしよう!」
「唐突に!?」
「だって、可愛いんだもん♪」
「こんな姿で外に出たらボクは破滅だよ!」
「勿体無いよ!」
「なにが!?」
「そんな可愛い姿を人に見せないなんて、神への暴挙だよ! なんなら私の後輩ということでアイドルデビューも」
「これ以上、恥を増やさないで!」
上着のボタンに手をかけるスバルにミソラの顔に影が落ちた。
「スバル君、ちょっとこれ見て欲しいんだけど」
「うん……領収書……って、これ!?」
「いやぁ~~……」
領収書を握り、可愛い笑顔を浮かべた。
「高い買い物したねえ、この最新型電波望遠鏡♪」
ミソラの持つ領収書の額は二人が軽く夜のディナーを四回ほど行える程の金額であった。
「こんなお金、どこに貯めてたの?」
ミソラの笑顔の上の額にピキッと青筋を立てた。
「私のデート代金よりこっちのほうが大切なの?」
心臓を冷たい手で……
もしくは燃える手で握りしめられるような苦しみにスバルは息が詰まった。
「あ、あの……」
いつ心臓を握りつぶされるかわからない状況にスバルは身体が固くなった。
「もう電波望遠鏡の隠し場所も把握してるよ」
スバルのために作った展望台のある部屋を見た。
「気づかなかったよ。いつの間にか古い望遠鏡と今の望遠鏡を交換してたなんて……」
襟首を掴んだ。
「お義母さんに連絡していい?」
「……」
素敵な笑顔100%にスバルはジェイソンに詰め寄られた美女の気持ちになった。
「えへぇ♪」
緩やかな笑顔にスバルの心の鳩尾がボディーブローされた。
「デート代金を玩具に使ったといえばお義母さん、なんていうだろう?」
「あ……うぅ……」
しかも古い望遠鏡は売りさばいてそれなりの小遣いになったこともすでにバレてるだろうとスバルは落胆した。
「ど、どこに行きたい?」
心臓を握りつぶされ、さらに心の鳩尾を手刀で貫かれるくらいなら素直に要求を飲むことにした。
ミソラは心の中でスバルの心臓をニギニギしながら笑った。
「久しぶりにロッポンドーヒルズで買い物を楽しもう♪ スバル君の服を買いに……」
「……」
男物じゃないなと諦めた。
「神様、ボクが悪いことしたでしょうか……?」
「黙って高い買い物しといて無実のつもり?」
「そうですね……」
財布が寒くなるのも辛いがせっかく貯めて買った電波望遠鏡が夜のディナーに変わるのはもっと嫌なので素直に従うことにした。
今月の給料は見事にミソラに全て持っていかれ、清貧と化すことをスバルは本能的に悟った。