「ムーンライト・スター……」
ギュインッとギターを鳴らし指を止めた。
テーブルに置いた作詞と作曲を見つめ、ミソラは腕を組んだ。
「なんか違う……」
録音した自分の歌声にミソラは苛立ったように組んだ腕に指をトントンした。
「なんかイメージと違う……」
今、ミソラは新曲のボーカルの練習で思い悩んでいた。
《用意された曲に納得してない顔ね……?》
「この歌……なんだか、私に合わない気がするのよ」
《お~~お~~……大物歌手の言い方ね。偉くなったものね?》
「違うわよ……なんか、違うの!?」
ゴロンッと横たわり、ぐるんぐるんと床の上を転がった。
「違うのよ……この曲は私とは相違なるものだと思ってるの。そう、「ムーンライト・スター」というタイトルのように、この曲には荘厳で優しさを讃えてないと」
《荘厳で優しさね。奔放でワガママな誰かさんとは対極ね?》
「うるさい!」
バッとハンターVGを取り上げ、頭上に掲げた。
「響ミソラ、オン・エア!」
《ちょ……ミソラ!?》
部屋が光に包まれ、ミソラの姿が消えた。
「で……遊びに来たと」
「そう!」
バシンッとトランプを床に叩き出すとミソラはニシシと笑った。
「ストレートフラッシュ……私の勝ちだね」
「キングのフルハウス……」
「え……」
顔を真っ青にするミソラにスバルは鼻を鳴らした。
「はい、僕の勝ち……もう掛け点が無いよ」
「う、うそ……」
掛け点の変わりに用意したシュガーレット・シガーを見つめた。
すでにシュガーレット・シガーはスバルの元に全てあった。
文句なしのボロ負けであった。
「はい……じゃあ、大人しく帰ろうね。仕事から逃げちゃダメだよ」
グイグイと背中を押すスバルにミソラは憤慨したように怒鳴った。
「ちょっと、今日のスバル君、冷たいよ」
「冷たくないよ……いつも通りだよ」
「ウソ! だって、いつもなら、もっと遊んでくれるもん!」
「遊んで、その延長でとんでもないことになるんだよ、いつも」
「あ~~……もしかして、スバル君、期待してる」
「イッ!?」
猫のようにミソラは人差し指をペロリと舐めた。
赤く染まった頬に潤んだ瞳はまるで餌を上手にねだる猫のような色っぽさと可愛さがあった。
「そそそそそんな訳が無いじゃないか!?」
「もう、スバル君のす・き・も・の!?」
襲い掛かろうとするミソラにスバルは真っ白になった。
また、このパターンか……
ピルルルルル……
「あ……電話だ!?」
風のようにハンターVGを手に取り、ミソラの攻撃を避けた。
だが、次は違う意味で真っ青になった。
「い、委員長……」
『スバル君、今から、カラオケに行かない。無料券貰ったから、無駄にするのも勿体無いでしょう?』
「あ……うん」
ソロ~~とミソラを見た。
ミソラは不満そうな顔をして、ハンターVGを奪い取った。
「私も一緒だけどいい」
『え……なんで、アンタがスバル君ちにいるのよ!?』
「想像の仲だと思うけど」
『な・ん・で・すって~~~~~~~!?』
「ひぃ~~~~~~……」
心底、ビビッた顔でスバルは縮みこんだ。
その姿は同姓にしろ、異性にしろ、なんとも情けない姿であった。
『いいわよ、来なさいよ!? 無料券は三枚あるし?』
「やったー!?」
顔で笑顔を作るミソラだが、その目は笑っていなかった。
ハンターVGで話しているミソラと委員長の姿にスバルは見えもしない幻影を見えた気がした。
ハブとマングース。
竜と虎。
矛と盾。
まさに天敵同士の対峙であった
スバルは生きた心地がしなかった。
「~~~~」
ミソラが歌い終わると、ルナの拍手が降りた。
「うまいじゃない……さすがにプロはやってないわね」
「まぁね」
ニコッと笑うミソラにルナもニコッと笑った。
この時、スバルの目に矛と盾が見えた。
「じゃあ、次は私ね」
ミソラからマイクを貰うと今度はルナが選曲した。
その時、スバルの目に竜と虎のイメージが見えた。
「~~~~」
ルナが歌い終わると今度はミソラが拍手を送った。
「上手上手! さすがお嬢様!」
「ありがとう」
今度はハブとマングースが見え、スバルはコッソリと二人の点数を見た。
見事な百点の連続だった。
そして、自分はカラオケ屋に来てから、一度も歌っていなかった。
「あの~~……いい加減、僕も」
「アンタ(君)は黙ってなさい!」
「ヒィィ!?」
ビクッと縮まるスバルにミソラが選曲しだした。
「よし、これね」
「ちょ、それ女性同士のデュエット……」
「え……」
気付いたときには曲が流れ、二人は慌てたように二つのマイクを取った。
「え、えっと……」
「ちょ、歌いなさいよ……」
慌てて歌い損ねたミソラにルナは代わりに歌を歌いだした。
「あ、ちょっと……」
慌てて後を追うようにミソラも歌い始め、二人の声が綺麗にハモッた。
「……」
スバルの顔がホケ~~と緩んだ。
ミソラとルナのデュエットは見事に素晴らしかった。
もともと、声のいいもの同士なので、二人の歌は想像以上に栄えていた。
しかも、気付いたら、二人はノリを合わせるように踊りを始め、スバルに目線を合わせた。
そして、歌が歌い終わると、二人とも心を落ち着けるようにため息を吐いた。
「ふぅ~~……」
ゆっくりお互い目線を合わせた。
ふんっと顔を背けた。
「ワガママアイドル」
「ワガママ委員長」
ジィ~~と睨み合い、また、ふんっと鼻を鳴らした。
「まぁ、歌は認めてあげるわよ」
ルナの言葉にミソラも顔を真っ赤にしていった。
「委員長も、歌が上手だね……うん」
歌が上手?
不意にミソラは頭の中に浮かんだ曲を思い出し、慌ててカバンの中から一枚のCDを取り出した。
「ちょっと、この歌、歌ってみて」
「うん」
耳につけられたイヤホンから音楽が流れ、ルナは怪訝そうに歌を聴いた。
「聴いたことない曲ね。これをどうしろと」
「ちょっと私とデュエットしてよ。リードはそっちがしていいから」
「……」
ギターを構えだすミソラにルナも慌ててマイクを手に取った。
ポロンッと音が鳴り、ミソラとルナは合わせるように歌を歌いだした。
「~~~~~」
基本はルナが先頭に立った曲にミソラが合わせて歌を歌っていた。
不思議だった。
曲調はいつものミソラの明るい歌だったが、不思議とイメージが違っていた。
そう、いつものミソラの歌が広い宇宙なら、今のルナがリードしている歌は、人々を魅了する、荘厳な月だった。
歌が終わると、ミソラは今までの険を取るような大きな拍手を送った。
「すごい、委員長! これだよ、これが私のしたことだったんだよ!?」
「え……」
いきなり手を握られ、ルナは目をパチパチさせた。
「今すぐきて!」
「え……」
バビュンッと風を切るようにミソラがルナを連れ去り、カラオケ屋から出て行った。
一人残されたスバルは少し寂しそうに下唇をなでた。
「今回……僕の見せ場なし」
泣き出しそうな顔をし、マイクを手に取った。
「歌ってやるもん! まだ、時間あるもん!」
数日後……
「スバル君……これ、プレゼント」
「え……」
顔を真っ赤にしたルナにCDジャケットを渡され、スバルは目をパチパチさせた。
「か、勘違いしないでよね!? これは私の始めてのデビュー曲みたいなものだから、みんなに配ってるのよ!?」
「デビュー曲」
「この前のカラオケのときに、響ミソラに誘われたのよ。一曲だけでいいから、デュエット曲を歌ってくれって」
「ムーンライト・スター」
「タイトルよ」
「へぇ~~~……この前のあの曲のこと」
「結構、練習したから、この前のよりも遥かによくなってるはずよ。まぁ、私が歌うんだから、当たり前よね」
といいながらも、若干、不安そうに目を細めるルナにスバルはニコッと笑った。
「ありがとう……委員長」
「ふ、ふん……」
顔を真っ赤にするルナにスバルはニコッと笑った。
「早速、ハンターVGに取り込んで聴いてみるよ」
「ぜ、絶対に聴かないとただじゃおかないからね」
「はいはい……」
耳まで真っ赤にするルナにスバルは微笑ましいものを見る目で笑った。
おまけ
家に帰るとスバルに待っていたのは地獄であった。
「ミ、ミソラちゃん……こ、これには訳が」
じかに届けに来た新曲にスバルを見下ろしていたミソラは顔を真っ青にして、逝った目で身体を震わせていた。
「へぇ~~……委員長から、いいもの貰ったね」
「ちょ、怖い怖い!? 本気で怖い!?」
グイッと胸倉をつかまれ、顔を近づけさせると……
「ムグッ!?」
無理やりキスをし、舌を吸い出すようにスバルの舌を自分の口の中に潜り込ませた。
「むぐぐっ……!?」
舌を元に戻そうと必死に舌をコントロールしようとしたが、ミソラの舌のほうが一枚、上手だった。
どんなに抵抗しても、いっこうに舌を離さないミソラについにスバルは諦めた。
だらんっと腕を下げた。
「ぷはぁ……浮気は許さないよ」
「僕たち……付き合ってな……ムグッ!?」
またキスという名を借りた逆レイプをされ、スバルは本気で泣き出しそうになった。