「うわぁ……すごい混みよう!」
会場につくとルナは感嘆の声を上げた。
「いくら、国民的スターのサイン会でも、これはさすがに驚くわ……」
ワラワラと増え続ける、濃い軍団にルナは唖然とした。
「もっと早い時間を集合時間にすればよかったかしら?」
まだ、来ていないスバル達に腕時計を確かめた。
今にも雪が降りそうな曇り空の夜にルナは伸びをした。
スバル達との合流の時間まで、後一時間もある。
委員長兼生徒会長兼ミソラのブラザーということで一番についたが正直、暇であった。
「ちょっと、会場の外でも見学しようかしら?」
そう考え、きびすを返した。
「ルナちゃん!」
「え……?」
振り返るとビックリした。
「アナタは……?」
(こんばんは、ルナちゃん!)
帽子を深く被った少女にルナは耳を引っ張り、小声でささやいた。
(どうしたの、ミソラちゃん! こんな時間に?)
(ちょっと、お客さんの下見! マネージャーにすごい数だって言われたら、なんだか、嬉しくなって!)
(まぁ、確かに……)
いまだに増え続けるファンの数にため息が出た。
(本当、このファンの数……アイドル冥利に尽きるわね?)
(それもあるけど……)
(ん……?)
ミソラの頬がちょっと染まった。
(ルナちゃんが来てくれたのが一番、嬉しいよ!)
(んな!?)
ミソラの言葉にルナは真っ赤になった。
(だって、サイン会に来てくれたってこと私のこと、友達だと思ってくれたってことでしょう? それが、一番、嬉しいよ!)
(一番って……)
ルナも満更でない顔で鼻の頭をかいた。
(テレるこというんじゃ……)
「おい、あの娘、ミソラちゃんじゃないか?」
「え……!?」
ミソラとルナはドキッとした。
「隣の娘もアイドルかな? スッゲー可愛いじゃん!」
「あたしのこと!?」
自分を指差すルナに周りの好奇な瞳が強くなっていった。
「売り出し中かな? ちょっと、気が強そうなところが可愛いな!」
「踏まれて~~……」
ゾワァと背筋に悪寒が走った。
「逃げましょう!」
「あ、手を引っ張んないでよ!」
「今度の同人誌は決まったな?」
「ああ、ブラザー! ミソラちゃん×親友だな?」
「シリアスな笑いを頼むぜ?」
「邪道の王道も見せてやるぜ!」
公園まで逃げるとルナはミソラの手を離し、荒くなった息を整えた。
「本当……アナタ、国民的スターの自覚、薄いんじゃないの?」
「そ、そうかな?」
バツの悪そうな顔で誤魔化し笑いを浮かべるミソラにルナはキッと目線を吊り上げた。
「そうよ!」
ふんっと鼻を鳴らし、息を大きく吸った。
「まぁ、それより……」
自販機に向かった。
「なにか飲む? 奢るわよ?」
「あ、いいよ、そんなの……」
「遠慮することないわよ! 寒いし、ココア飲む?」
「あ、ありがとう……」
ポッと頬を染めるミソラにルナも頬を染め、ココアを二つ買った。
「はい!」
ココアの入った紙コップを渡した。
「アナタの分」
「ありがとう!」
ココアを受け取り、頬にくっつけた。
「温かい……」
「冬のココアは格別よね……」
ココアを飲み、ホッとしたのか、ルナの顔が安らいだものへと変わった。
ミソラもココアを飲むと、ホッとした顔をした。
「おいしい……!」
「そうね……」
ココアを飲み終わると残った紙コップを無造作にゴミ箱に投げた。
「ねぇ……飲んだままでいいから聞いてくれない?」
「なに……?」
ココアのおいしさに心を許したのか、気の抜けた笑顔を浮かべるミソラにルナは、もう一回、大きく深呼吸した。
「スバル君となにかあった?」
「え……?」
ココアの入った紙コップを地面に落とし、黒い水溜りを作った。
「な、なんで、そんなこと聞くの?」
声が震えた。
「その答えはアナタが一番、よく知ってるんじゃない?」
「……」
言葉を失うミソラにルナは強い目で聞いた。
「スバル君となにかあったでしょう?」
「ルナちゃん……」
ルナのなにが起きても驚かない覚悟の目にミソラは気づいたら気圧されていた。
この目から逃げちゃダメだ。
逃げたら、自分はスバルと一緒にいる権利がなくなる。
そう感じたのか、ミソラも生唾を飲み込み、口を開いた。
「私達は……」
「時間ね」
「え……?」
背を向けるルナにミソラも慌てて公園の時計を見た。
「もう、こんな時間?」
「ゴン太達を待たせるわけにもいかないから、先に戻ってるわね?」
「あ、ルナちゃん……まだ、話が!?」
「それ以上は言わないで!」
「ッ!?」
一喝され、言葉がとまった。
「まだ……」
背中を向けたまま、ルナはミソラを見た。
「まだ……聞きたくないよ、その答えは」
「ルナちゃん……」
目に涙を浮かべるルナにミソラも穿いていたジーパンをギュッと握り締めた。
「じゃあ、先に行ってるわね! サイン会、楽しみにしてるから」
「あ……」
一人残されたミソラは目が熱くなるのを感じ、耐えるように空を見上げた。
「私は……」
声がかすんだ。
「スバル君と……」
気づいたら大粒の涙が頬を伝い、目を真っ赤にした。
「付き合ってます!」
ミソラは生まれて初めて親友を裏切った気がした。
例え、それが負い目を感じる必要のない、真剣な気持ちで出来た結果でも、ミソラは悲しかった。
溢れてくる涙にミソラは何度も目の前にいないルナに「ごめんね」を言い続けた。
心が痛かった。
痛くって痛くって、心が壊れそうだった。
でも、それと同じくらいミソラはルナにスバルを渡さないと心に誓った。
それが自分にできるルナに対する背いっぱいの償いの気持ちだった。
雲が通り過ぎた瞬間、空に流れ星が落ちた。
ミソラとルナの一瞬だけ重なった人生のクロスロードを切り裂く流星のように空に白い閃光が走った。