「ふぅ~~……」
ちょうど、やり終えた宿題のプリントをランドセルに仕舞うと、スバルは、疲れを取るようにベッドにダイブした。
「ふぅ~~……しがらみから開放されるって、気持ちいい」
ぷるるるる……
『おい、スバル……電話だぞ?』
ハンターVGから漏れる、ウォーロックの声に、スバルは面倒くさそうにハンターVGを取り出し、連絡機能をオンにした。
『やっほ~~……スバル君。これから、温泉に行こう。いいところ、見つけたんだ!』
「ミ、ミソラちゃん……」
あちゃ~~と、顔を隠したくなる思いを隠し、スバルは出来るだけ、ニコやかな、笑顔を作った。
「あの、なんで、いきなり、温泉に」
『あれ……だから、いいところ見つけたから、一緒に行こうって、言わなかった?』
「僕、お金持ってないよ」
『電波空間通れば、一瞬だよ?』
それはそぅだが、自分はつい先ほど、よぅやく、宿題を終わらせ、ベッドに寝転んだばかりだ。
なんで、疲れる思いをして、敵のウジャウジャいる電波空間を伝って、温泉に行かなきゃ、いけないんだ。
だが……
『ねぇ、いいよね、スバル君?』
「……」
ウルウルと目を潤ませ、可愛くおねだりをするミソラにスバルは、ため息を吐きたくなった。
「わかった。すぐに向かうよ」
『やった~~……じゃあ、すぐに迎えに行くね?』
「え……」
シュバンッと閃光爆弾でも、撃ち放たれたように部屋全体が真っ白く光り、スバルは、呆れた顔で呟いた。
「ミソラちゃん……不法侵入って知ってる」
「気にしない気にしない」
ハープノート電波変換しているミソラは、勝手知ったる他人の家のごとく、さっきまで勉強に使っていた、スバルの勉強机のイスに座り、笑っていた。
「じゃあ、いこうか」
『ああ、あまり、気は乗らねーがな?』
スバルと同じように、ウォーロックも疲れた顔でため息を吐いた。
「トランスコード、シューティングスターロックマン!」
スバルの身体に光りが纏い、弾け飛んだ。
ロックマンに電波変換したスバルは、ウェーブロードに向かって飛び上がり、宙に消えた。
「あ、待ってよ、ロックマン!」
ハープノートも慌てて、ウェーブロードに乗っかり、ロックマンの前に立ち、指差した。
「こっちこっち……なんと、秘境の温泉宿なんだよ!」
「その秘境によく、ウェーブロードが引かれてるね」
「細かいことは、気にしない気にしない。早く行こう!」
ギュッと手を掴み引っ張るハープノートにロックマンは仕方ないと苦笑した。
「ここが、秘境の温泉宿」
電波空間から抜け出し、元の姿に戻ると、スバルは感心したように目の前の宿を見つめた。
「思ったよりも綺麗だな……秘境っていうから、てっきり、もっと、廃れてると思った」
「これから、客が多く入るから、今のうちにね」
「……」
ミソラの言ってることがわからず、顔をしかめるスバルにミソラは構わず、手を引き、宿に入っていった。
「あら、響ミソラさん……この間はどぅも」
「こんにちは、女将さん! 温泉入らせて」
元気よく返事を返すミソラに、女将も満面の笑顔でスバルを見た。
「へぇ~~……今日は、彼氏と一緒ですか。いいですよ。さぁ……」
「わ~~い!」
「なんだか……話がうまく進みすぎてる気が」
「気にしない気にしない……」
「まぁ、いいか」
脱衣所に入ると、スバルは早速、服を脱ぎ、硫黄の漂う温泉を見た。
「でも、温泉には一度は、入ってみたかったんだよね」
『おい、スバル……温泉ってのは、そんなにいいものなのか?』
「うん。日本人なら、温泉くらい入っておかないとね……日本は温泉大国だし」
『よくわかんねーけど、俺はここで待ってるから、早く戻れよ。一人じゃ、退屈で、しょうがねー』
「うん。わかった……」
裸になり、タオルを堂々と肩にかけるスバルにウォーロックはますます不思議な顔をした。
『温泉と風呂って、どぅ違うんだ?』
ガラッとドアを開けると、スバルはむわっと広がる硫黄の香る湯気に朗らかな顔をした。
「う~~ん、この匂い。温泉に来たって、実感がわくな」
実際、友達にムリヤリ越させられた温泉だが、誰もいないこの広い温泉を独り占めできる快感は、少しだけ、感謝してもいいかなっと、スバルは思った。
「まず、温泉に入る前に、身体を洗わないとね……入浴者のマナーだもんね」
「そぅだね、スバル君」
「え……」
隣から聞こえる、可愛らしい声に、スバルはギョッとした。
「ミ、ミソラちゃん、なんで、ここに!?」
「この温泉、混浴だよ。知らなかった」
「し、知らないよ……ぼぼぼ僕、先に上がってるね!?」
「まだ、お風呂に入ってないでしょう。それにほら、水着着てるから、恥ずかしくないよ」
バンッと見せ付けるように少々、大胆な上下の分かれたビキニの水着を着ているミソラにスバルは恥ずかしそうに叫んだ。
「僕は着てないよ!」
「いいからいいから!」
ずばぁ~~と桶に入れたお湯を頭からかぶせると、ミソラは構わず、スバルを温泉に叩き込んだ。
「ぶばぁ……酷いよ、ミソラちゃん……」
「ふふ……一度、スバル君とこぅやって、温泉を一緒に入りたかったんだ」
そぅいい、ミソラも、スバルに抱きつくように、温泉に入ると、気持ちよさそうに目を細めた。
「スバル君は、私と温泉に入るの嫌」
「い、嫌じゃないけど……」
一応、草食系とはいえ、男の子だし……
「でも、誰かが見て、噂になったら……」
「それはそれで、いいんじゃないかな」
「いいって……やっぱり、僕、出たほうが」
「いいから!」
グイッと出て行こうとするスバルを押さえつけ、温泉に留めると、ミソラは、そっと肩を寄せてきた。
「スバル君には感謝してるんだ。いろいろと……」
「ミソラちゃん」
急にしおらしい態度を取るミソラに、スバルは不思議そうな顔をした。
「私、お母さんが愛してくれた歌が大好き。でも、あのマネージャーのせいで、私、大好きなものが、汚されそうになった。それを救ってくれたのは……他でもない、スバル君だよ」
「ミソラちゃん……」
顔を真っ赤にするスバルにミソラは真剣な目をして、いった。
「あのね、スバル君。私、今までいわなかったけど、スバル君のことが……」
「あぅ~~……」
ずばしゃ~~……
「スバル君!? どぅしたの!?」
慌てて湯船から這いずりだすと、ミソラは額に手を当て、アハハと苦笑いを浮かべた。
「湯当たりを起こしてる……」
とりあえず、電波空間を使って、スバルを家まで送り返すと、ミソラはバツの悪い顔で、頭を下げた。
「ごめんなさい。調子に乗りすぎました」
『まぁ、今更のことだけどね?』
キッとハープを睨みつけるも、ハープは思い出したようにいった。
『それよりも、早く、スタジオに戻りましょう。これから、次の仕事の打ち合わせでしょう?』
「え……でも、スバル君が」
『ベッドに寝かせたんだから、大丈夫よ。仕事ためたら、それこそ、スバル君に会う機会が減るわよ』
「……わかったわよ」
不貞腐れた顔でハープとの通信を切ると、ミソラはため息をついた。
「はぁ~~……せっかく、いい雰囲気作るチャンスだったのに」
名残惜しそうに、電波変換すると、ミソラはしばらくジッとスバルを見た。
「また、すぐに逢おうね……スバル君」
チュッ……
スバルの頬にキスをし、顔を真っ赤にしながら、ミソラは電波空間へと消えていった。
その様子を見ていたウォーロックは、不思議そうに首をかしげた。
『恋愛感情って奴か……さっぱり、わからん』
「スバル……あんまり食べないわね。どぅしたの」
「うん。ちょっと、気分が良くなくって……」
夕食を食べながら、テレビをつけると、スバルの目が仰天した。
『ミソラちゃん、温泉気持ちいいですか?』
『はい。こぅいうところ、好きな人とこれるといいな~~……』
『お、ミソラちゃん、彼氏発言ですか。ファンが泣きますよ?』
『えへへ……』
顔を真っ赤にする、ミソラに、スバルはよぅやく納得のいった顔でうずくまった。
「温泉の特集で行った場所をもぅ一度、行きたいから僕をダシに使ったのか……」
踏んだり蹴ったりの思いをするスバルだが、テレビの温泉に入っているミソラは、鼻歌交じりに歌を歌い始めていた。
その歌は、スバルも知らない、美空が一番大切な人を想って作った曲……
『シューティングスター』であった。