「でね……今度、スキーしに旅行に行きたいんだよ」
ハンターVGに映るスバルにミソラはニッコリ微笑んだ。
「今、冬休みに入ったでしょう。もちろん、旅費は私が持つよ……こう見えても、セレブなんだよ」
『お金はちゃんと自分で払うよ、でも……旅行って事は泊まるんだよね?』
「日帰りじゃなく、一泊二日ってところかな。電波空間を使えば、楽して日帰りも出来るけど、やっぱり、趣って大切じゃない」
『でも、最近、僕、出歩きが過ぎるからな……母さんになんて、言い訳しよう?』
「あ、それなら大丈夫。ちょっと、お母さんと代わって」
『え、いいけど?』
ぷつんっと保留音が鳴り、数秒後、また、電話がつながった。
『あら、久しぶり、ミソラちゃん。どうしたの、いきなり?』
優しい笑顔でニッコリ笑うスバルの母、あかねにミソラもニッコリ笑いいった。
「実は今度、スバル君とスキー旅行に行きたいんです!」
『スキー旅行。あらあら……最近の娘は進んでるのね。で、見返りは?』
ニヤニヤと笑うあかねにミソラもバッチリと親指を立てた。
「お望みの結果をお届けします!」
『よろしい!』
あかねの視線がミソラから離れ、
『スバル……男になってきなさい!』
『はい!?』
真っ青になっているスバルの顔を想像し、ミソラはふふっと微笑んだ。
そして、数日後……
新幹線に揺らされながら、外の風景を見ていると、スバルは隣でUNOかトランプ、どっちで遊ぶか悩むミソラを見た。
「これから行くスキー場って、どういうところなの」
「風光明媚な山地で、最近、自然を活かしたホテル事業が盛んな、いい所だよ」
「へぇ~~……風光明媚か」
漢字からして、すでに綺麗な言葉を並べるミソラにスバルは肝心なことを聞いた。
「でも、それだと、相当高いんじゃない」
「抜かりなく!」
ブイサインが出された。
「実は、私、ロケで一度、そこを特集したことがあって、その事で特別価格にしてくれたんだよ」
「そうなんだ」
ミソラの無邪気な笑顔にスバルもクスッと笑った。
「どうかしたの」
「うぅん……別に」
きっと、こんな無邪気さもあるから、ホテルの値段も特別価格になってるんだろうな?
スバルは一瞬だけ、自分から、ミソラの唇にキスしたくなる衝動を感じ、慌てて抑え阿多。
ダメダメ! 人がいるんだから……
「どうしたの、スバル君。今度は顔を真っ赤にして……」
一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに気付いた顔でニヤリと笑った。
「エッチなこと考えた」
「ち、違うよ!?」
鋭い……
数時間経ち、白銀の世界の広がる山奥のホテル「マーキュリー」につくと、スバルは、怖い顔でミソラに詰め寄っていた。
「あのさ……旅行の日取りやホテルの部屋貸しまで、全部任せたのは、僕のほうだよ」「うん! いい部屋借りれたでしょう……ほら」
窓から見える一面の銀世界の風景にミソラは感嘆とした笑顔を浮かべた。
十階もある部屋から見る外の景色はまさに絶景である。
「ベッドだって、大きいのが一つ!」
「なんで、二人一部屋の部屋を借りたの!?」
テヘッと笑うミソラにスバルはさらに詰め寄った。
「ミソラちゃん、僕達の年齢を言ってみて」
「十一歳でしょう」
「十一歳の男女が、同じ部屋を使うのはどうかと思うけど」
「なんで」
「わかってるでしょう!?」
「えへへ……」
可愛く笑うミソラにスバルはこれ以上ムダだと諦めた。
「……僕は床で寝るよ」
「大丈夫だよ……ほら、スィートルームも兼ねた部屋だから」
「やっぱり、確信犯だったのかよ!?」
「えへへ……」
「えへへじゃないよ……道徳を守ろうよ」
「道徳を気にしたら、負けだよ」
「なにに負けるか知らないけど、もういいよ……」
深くため息を吐き、スバルは壁に立てているスキー板を取り、肩に乗せた。
「じゃあ、行こうか……こう見えても、スキーは得意なんだよ」
「そうだね……滑りで勝負しようよ」
「負けないからね」
「うん!」
「ひゃっほ~~~~~~!」
バシュンッと雪のコブを利用し、高くジャンプするとミソラは身体能力を活かした華麗な着地をし、雪上に止まった。
「ほらほら、スバル君、こっちこっち!」
「わかってるよ~~~~!?」
ミソラに続くようにスバルも雪のコブからジャンプし、格好良く着地した。
「ふぅ~~……」
スキー用のゴーグルとマスクを外すとスバルは汗をかいた顔を拭った。
「ミソラちゃんって、意外とスキーで飛ばすタイプなんだね」
「こう見えても、戦うアーティストだから」
ブイサインを出すミソラにスバルもクスクスと笑った。
「じゃあ、ゴールまで競争だよ」
「うん! じゃあ、先に行ってるね」
「あ、ミソラちゃん、フライング……あ!?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「じ、地震!?」
「え……キャァァァ!?」
突如、強く揺れだした雪地に足を取られたのかミソラは足につけていたスキー板がはずれ、大きく空に放り出されてしまった。
「ミソラちゃん!?」
空に放り出され、コースから外れた林道に入ったミソラにスバルは慌てて、スキー板を外し、後を追いかけた。
「う……うぅ……」
目を覚ますと、ミソラはハッとガバッと固い床から起き上がった。
「ここは」
羽織られていた毛布を掴み、ミソラは自分の身体を見た。
「キャッ!?」
下着以外、なにも身に着けていない自分にミソラは顔を真っ赤にして肌を隠した。
そして、背中を向け、火に薪をくべるスバルを見つけ、つぶやいた。
「ス、スバル君……なんで、私、下着姿で」
「えっと……」
スバルも背中越しで真っ赤なまま、コテージと思われる部屋の隅っこ指差した。
そこには、ミソラが着ていたピンク色のびしょ濡れのスキーウェアがあった。
「林道を転がってるうちに濡れたらしく、ぬ、脱がせたんだ」
「そ、そうなんだ」
ミソラも毛布で包まりながら、コテージの窓を見た。
「吹雪だ」
「さっき、連絡したら、この吹雪のせいで助けにこれないみたい。幸い、落ちた場所に、遭難者用の緊急避難所があって、そこで今日は泊まることになったんだ。明日には、助けがくるみたい」
「そう……なんだ」
ハクシュとくしゃみをした。
「大丈夫、ミソラちゃん」
「あ……」
若干、恥ずかしそうに裸体を隠し、ミソラはえへへと笑った。
「だ、大丈夫だよ……ス、スバル君こそ、大丈夫だった」
「うん。僕は大丈夫……ミソラちゃんも、冷えてたら言ってね。コテージの焚き火足すから」
「うん……」
ミソラは首をかしげた。
「スバル君……もしかして」
ゆっくり、毛布から出て、スバルに近づいた。
「ミ、ミソラちゃん……下着のまま!?」
「いいから」
ミソラは恥ずかしさを忘れたように下着のまま、スバルの額に自分のおでこを乗せた。
「ミ、ミソラちゃん」
下着だけのミソラに顔を真っ赤にするスバルだが、彼女はすぐに額を離した。
「やっぱり……ちょっと熱っぽい。もしかして、私をここに運ぶまで、時間がかかったんじゃ」
「……ちょっとだけね」
熱で真っ赤になった顔を綻ばせるスバルにミソラは少し悲しそうに目を細めた。
「私のせいでごめんね……」
ゆっくり、毛布を手に取り、自分とスバルの上に敷いた。
「ほら……こうすれば、暖かいでしょう」
「ミソラちゃん……」
ミソラの裸の肩に身体を乗せるようにスバルは少し熱っぽい息を吐いた。
「助けるつもりが、助けられる立場になっちゃったね」
「そんな事ないよ」
ミソラもスバルに身体を寄せるように毛布を二人で分け合うとふふっと微笑んだ。
「もしかしたら、初めてかもしれないね」
「なにが」
「私がスバル君を助けるのって」
「そうかな……僕のほうが、ミソラちゃんに助けられてる気がするけど」
「どんなところが」
「……」
スバルは少し、考えるように目を瞑り、ミソラの肌のぬくもりを感じた。
「ミソラちゃんの明るい笑顔や、温かい心……なによりも、一番最初のブラザーだもん。ミソラちゃんにはいつも、勇気を貰ってるよ」
「だから、いつも戦えるって事」
「格好つけすぎかな」
「いいと思うよ……スバル君はいつも格好いいんだもん」
スバルを巻き込むように寝転がり、ミソラはゆっくり、彼の服を脱がしていった。
「ミ、ミソラちゃん……」
熱のせいでうまく思考が働かないのか、抵抗しないスバルにミソラは優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ……ただ、衣服越しよりも、肌同士をくっつけたほうが温かくなるだけだから」
完全にスバルを下着だけにすると、ミソラも下着だけの姿で彼に抱きついた。
「温かいね……スバル君の身体」
「うん……温かい、ミソラちゃん」
ミソラのぬくもりを感じながら、スバルはゆっくり、眠りの中へと入っていった。
「おやすみ、スバル君」
安らかな眠りに入るスバルにミソラはコッソリ、キスをした。
朝が来ると、ミソラは窓から飛び込む暖かな太陽の日差しを感じ目を開けた。
「あ……」
下着姿で抱き合って寝ていたことを思い出し、ミソラは恥ずかしそうに微笑んだ。
「おはよう、スバル君」
スバルを起こさないよう、ゆっくり、毛布から出て、ミソラは乾いているスキーウェアを羽織った。
「さぁ……救助隊が来るまで、スバル君とコテージデートを楽しもうかな」
スッカリ熱の冷めた顔をするスバルにミソラはコテージに用意された缶詰を選別した。
「けっこう、いいものが揃ってるな」
それから、ミソラ達が救助隊に助けられるのに一時間とかかった。
その間、ミソラはスバルの寝顔を見つめ続けられ、幸せだったという……