泣いていた。
とにかく泣いていた。
悲しくって、泣いてたわけじゃないかった。
ましてや嬉しいわけでもなかった。
ただ、泣くしか出来なかった。
泣くことでしか、なにかを表現する方法が無かった。
そんな僕を父さんと母さんは優しく微笑んでくれていた。
なんで、そんなに優しく笑ってるの……
僕は……
「あ……」
子供の泣き声の聞こえる一階の騒ぎにスバルはベッドから、目を覚ました。
「……」
一階から聞こえる子供の泣き声に、スバルは一瞬、首をかしげ、ハンターVGを手に取った。
「ウォーロック、一階から子供の泣き声が聞こえるんだけど……」
無反応のウォーロックにスバルはムスッとした。
「ウォーロックめ、泣き声がうるさいから、自分からハンターVGをシャットアウトしたな」
ハンターVGを無造作にベッドに投げ捨てると、スバルはあくびをかみ殺し、一階へと行くため、部屋を出た。
一階に降りると、スバルは寝癖の頭を掻き、怒鳴った。
「母さん、朝からテレビの音、うるさ……」
言葉を失った。
「あら、スバル、おはよう」
よしよしと腕に抱えた赤ん坊をあやすように揺らし、あかねはニコッと笑った。
だが、スバルのほうは素直に笑うことが出来ず、顔を真っ青に怒鳴った。
「なに、その赤ちゃん!?」
「サトル君よ」
ニコッと微笑むあかねにスバルはそうじゃなくと、言葉を詰まらせた。
ようやく落ち着いたのか、泣き止んだサトルを赤ん坊用のベッドに寝かせ、スバルを見た。
「実は近所の奥様から、一日、子供を預かることになったの」
「そ、そうだったの」
最悪の出来事を想像し、心臓を悪くしたのか、未だに真っ青のスバルにあかねはさらに追い討ちをかけた。
「スバル、私、これから仕事があるから、夕方までサトル君の面倒を見てくれないかしら」
「え……」
スバルの顔が真っ青になった。
母からサトルを預かり、一時間した。
そして、恐れていた現実が訪れていた。
「おぎゃ~~~おぎゃ~~~!?」
「うわわわわ……サトル君、泣き止んで!?」
大声で泣き始めるサトルにスバルは大慌てで、部屋の中を駆けずり回った。
「えっと、この場合、オムツ。それとも、ミルク。それともそれとも!?」
ピルルルルルル……
「あ、電話だ!?」
サトルを抱えたまま、家の電話を取ると、元気のいい少女の声が響いた。
『やっほー、スバル君。ハンターVGが繋がらないから、直接、家に電話したけど……なんだか、外がうるさいね?』
「じ、実は~~……」
半べそ状態でスバルは現状を説明した。
「よし……こんなものかな」
綺麗にオムツを替えるとミソラはパンパンと手を叩いた。
「もう、スバル君、ちょっと子供が泣いたくらいで大慌てしちゃって」
クスクスと笑うミソラにスバルは恥ずかしそうにうなだれた。
「申し訳ありません……でも」
顔を上げ、
「ミソラちゃん、手馴れてるね。弟とかいるの」
「うぅん……以前、子供と触れ合おうという企画があって、赤ちゃんのお世話をしたことがあるんだ。まさか、こんな所で役に立つなんって」
「結構、人生経験、豊富だね」
「えへへ……」
テレ臭そうに笑うミソラにスバルもクスッと笑い、サトルを受け取った。
「ようやく笑ってくれて、安心した……こうやって笑うと、サトル君って、本当に可愛いね」
父性に目覚めたように優しく微笑むスバルにミソラもからかうように笑った。
「こうしてると夫婦みたいだね、私たち」
「え……」
顔を真っ赤するスバルにミソラも自分の言った言葉に顔を真っ赤にした。
「ちょ、ちょっと冗談なんだから、笑って飛ばしてよ」
「あ、ああ……そ、そうだね」
背中をバンバン叩かれ、笑うスバルにミソラもバツが悪そうにアハハと笑った。
「キャッキャッ……」
状況が読めてないのか、無邪気に笑うサトルにスバルとミソラは顔を呆けさせ笑った。
「か、可愛い……」
さっきと違う顔で真っ赤になり、二人はだらしない顔をした。
だが……
「あ……あぎゃ……」
「ま、また!?」
顔を真っ青にするスバルにミソラは大丈夫と微笑んだ。
「大丈夫、この泣き方だとミルクだから」
「え……ミ、ミルク」
「ん……」
視線が集中する自分の胸にミソラは顔を真っ赤にして、スバルの頭にチョップした。
「なに変な想像してるの!? スバル君のエッチ!?」
「ゴ、ゴメン!? すぐに粉ミルクを用意するから」
慌ててキッチンに逃げるスバルにミソラは泣きはらすサトルをあやしながら、ボソリとつぶやいた。
「スバル君なら、いいかな……吸われても」
顔から炎が吹き出しそうに真っ赤になり、ミソラは首をぶんぶん振った、
「ミソラちゃん、ミルク、人肌に温めるまで待っててね」
「あ、うん!?」
スバルに見られていないことを確認するとミソラはそっと自分の胸を摩った。
「えへへ……いつか、出るようになるのかな」
「まぁま……」
「え……きゃ、きゃぁぁ!?」
「どうしたの、ミソラちゃん!?」
慌ててミルク哺乳瓶を手に持って、今に戻るとスバルは顔を真っ赤にした。
「えっと……お邪魔だったかな」
上着から胸を吸われているミソラにスバルは逃げるように回れ~~右した。
「ちょちょちょっと、スバル君、逃げてないで、その哺乳瓶早く、こっちに渡して……あん!?」
また強く座れたのか、色っぽい声を出すミソラにスバルも慌てて戻り、哺乳瓶を渡した。
「はい、これ!?」
「……」
一回、スバルの持つ哺乳瓶を見て、サトルは悩むようにミソラの胸と哺乳瓶を見比べた。
「まぁま……」
「あ……」
まぁまと言われ、満更でない顔をするミソラにサトルは今度はスバルを見た。
「ぱぁぱ」
ミソラの胸を諦め、無理やり、スバルのもとにハイハイすると、甘えるように足に抱きついた。
「ぱぁぱ、ぱぁぱ!」
すっかり、泣くのを忘れたのか、笑いながら甘えるサトルにスバルはゆっくり抱きかかえ、哺乳瓶を咥えさせた。
「パ、パパだって」
「私、ママだって言われた」
お互いジッと見つめ、浮かれたように微笑みあった。
「なんだか、いいね、こういうの」
「うん!」
元気良く頷くミソラにスバルの腕のサトルが哺乳瓶を放し、両腕をぶんぶん振った。
「ぱぁぱ、まぁま……!」
ビシッとガラガラを指差すサトルに二人はお互い微笑み合いながら、おもちゃ箱をひっくり返した。
「じゃあ、これから、スバルパパとミソラママと遊ぼうね、サトル君」
「ぱぁぱ好き、まぁま好き!」
夕方になり、母が近所の奥さんを連れて、家に帰るとお土産のプリンを持ち上げ叫んだ。
「ごめんね、スバル……サトル君の面倒見てもらっちゃって。サトル君のお母さんが来たから、サトル君、連れてきて」
し~~ん……
「あれ、いないのかしら」
二人はお互い見つめあい、スバルの部屋に繋がる階段を上った。
「スバル、いないの」
部屋を見て、二人は声を押し殺し、笑った。
「もう少し預かってもらっていいかしら」
「ええ、こちらからお願い」
おもちゃで散らかった部屋の真ん中で、ミソラとスバルはサトルを優しく抱くように寝ていた。
「なんだか、ちっちゃい夫婦みたいね」
「スバルぱぁぱ……ミソラまぁま……大好き……」