「遅刻、遅刻!?」
電波空間を渡りながら、ハープ・ノートは大慌てで待ち合わせ場所へと走っていた。
最近、ミソラの周りは大忙しだった。
年始ということもあり、さまざまなイベントのオンパレード。
CM撮影に新曲発表、ドラマ撮影にバラエティー、外国にだっていった。
若干、十一歳にしては過密すぎるほどの過密スケジュール。
世が世なら、労働基準法違反でミソラの事務所は活動停止にだってなるほど、ミソラは年始めから仕事を続けていた。
その並として犠牲になったものも多い。
スバルとの交流である。
かれこれ、半月近く一緒に遊んでいない。
仕事のストレスや、スバルと会えない苛立ちからついにミソラの中のフラストレーションが大爆発した。
過密なスケジュールによる文句や休みが無くって疲れた。
などは建前で、本当はスバルとラブラブしたいという本音を隠し、ミソラはとにかく、事務所にワガママ放題をいった。
休みをくれないなら、事務所をやめるや、契約している仕事をサボるや、新曲はもう書かないや、低学年のワガママを連発し、ついに事務所も折れた。
ようやく一日だけの休みをもらえ、ミソラはスバルと一緒に遊ぶ約束を取り付けたのである。
今は寒いから南国の地で水着に着替えて一緒に泳ごうとミソラはスバルと約束をした。
そして、その移動手段が電波空間であった。
もはや、電波空間は彼らの立派な交通手段だった。
「せっかくのデートに寝坊なんって、最悪だよ!?」
「メット!?」
いきなり、横からメットルが横から襲い掛かり、ミソラの目がキッと吊り上った。
「うるさい!」
ギターから音符の衝撃波がメットルを吹き飛ばし、ミソラは怒鳴った。
「急いでるの!? 邪魔しないで!?」
また、急いで走り出そうとするミソラだが……
ツルンッ……
「え……」
なぜか、滑るはずの無い電波空間でミソラは足を滑らせ、見事に回転を加え頭からゴチンッと素っ転んだ。
「あうぅ~~~……」
目の前にお星様が回り、ミソラは目を回しながら気絶してしまった。
目を覚ますと、ミソラは見知らぬ部屋の中にいた。
「ここは……」
ベッドから身体だけ起こすとミソラは首を左右に振った。
「男の子の部屋」
初めて見る部屋。
だけど、どこか懐かしく、すごく胸がドキドキした。
知らない世界のはずなのに、すごく胸が高揚した。
ドキドキが収まらず、息が荒くなると、ミソラは思わず、上にかけられていた毛布の匂いをかいだ。
「……ちょっとだけ、男臭い」
えへへと幸せそうに笑ってしまった。
「なんだろう、この懐かしくって幸せになれる匂い……初めてかいだ気がしないな」
また匂いをかごうと毛布を鼻に近づけると……
「あ、ミソラちゃん、起きたんだ!?」
「えッ!?」
ドキッと胸を高鳴らせた。
部屋の中に入ってきた少年は心配そうに自分に近づき、自分を優しく寝かせつけた。
「起き上がっちゃダメだよ」
優しく微笑む少年の笑みに、ミソラは不思議そうに目をしばたかせた。
誰だろう……この人?
知らない人のはずなのに、全然怖くない。
むしろ……
優しい気持ちになれる。
「大丈夫……頭打って、気を失ってたんだよ」
無理やり、ミソラをベッドの中に寝かせると少年はニコッと笑った。
「事務所には僕から連絡といたから、当分、お休みをもらえるそうだよ」
優しく微笑む少年の顔にミソラは動揺した。
一目惚れなのかな……なんだか、すごくふわふわする。
心がドキドキして、なんだか、すっごく幸せな気持ちになる。
でも、この気持ちは一目惚れとは違う気がする。
もっと深いなにかを胸に感じる。
「……ミソラちゃん」
いきなり自分の唇を指でなでるミソラに少年は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
だけど、すぐにニコッと笑い……
「いつものお返しだよ」
「え……」
少年の顔がゆっくり近づき、ミソラは大いに慌てた。
ダ、ダメだよ、初めて会った男の子とキスだなんて?
私、初めてだし、でも……逆らえない。
ゆっくり目を閉じ、ミソラは自分がキスできる体勢で少年を待っていたことに気付いた。
やっぱり、私、この人が大好きなんだ……
優しくキスをされ、ミソラは目を見開いた。
……この人は?
「うん」
気がつくとミソラは自分にキスをするスバルに顔を真っ赤にした。
「ちょ、ちょっとスバル君!?」
顔を離し、ミソラはスバルを押し跳ねた。
「わ、私、なんで、スバル君のベッドで寝てるの」
「記憶が混乱してるんだね」
キスをしたミソラの唇を優しく人差し指で撫で、スバルは微笑んだ。
「電波空間でメットルを踏んづけて転んだんだよ。幸い、どこも異常は無かったみたいだし、事務所に言ったら、働かせすぎたって、反省してたよ」
ミソラの眠るベッドの横に座り、ミソラを見た。
「当分、仕事はお休みくれるらしいから、次の仕事までずっと一緒にいようね」
「あ……うん」
なんだろう……?
とっても幸せな夢を見てた気がするけど、覚えてないや……
「ミソラちゃん」
「あ……スバル君」
不思議そうに自分を見るスバルにミソラはボッと顔を赤くし、唇を前に出した。
「スバル君……」
「ミソラちゃん……」
優しくキスをし、二人はベッドに倒れこんだ。
数秒数分とキスを続け、ようやく、唇を離すと、二人は幸せそうに微笑んだ。
「いつの間にか、私たち、キスが挨拶になっちゃったね」
「だね」
ふふっと笑い、ミソラは確かめるように聞いた。
「ねぇ、スバル君」
「うん」
「も、もし……私が私じゃないなにかになって、それでも、スバル君が好きだっていう気持ちだけは変わらなかったら、どうする」
「……」
言ってる意味がわからず、スバルは不思議そうに首をかしげた。
でも、ミソラはそんなこと気にせず、舌を巻いてしゃべった。
「わ、私は私以外の何者になっても、きっと、スバル君が好きだって気持ちだけは、忘れないと思うんだ!?」
どこか、必死になる自分にミソラはなぜか、すごくスバルに甘えたい気持ちになった。
それに気付いたのか、スバルも優しく微笑み、ミソラの頭をそっと撫でた。
「ミソラちゃんがミソラちゃん以外のものになんてならないよ。だって、どの形になっても、ミソラちゃんはミソラちゃんでしょう」
「スバル君……」
一瞬、ホケ~~とマヌケな顔をし、ミソラは迷いが吹っ切れたように元気良く頷いた。
「うん、スバル君、大好きだよ!」