「ミソラ……いい加減、観念したら、どうだ」
ジリジリと悪趣味な化粧品を持ち、近づくマネージャーにミソラは大声で怒鳴った。
「絶対に嫌だ!」
「なんでだ!?」
ビシッとドドメ色に光った怪しげな超次元の口紅を突き刺すマネージャーにミソラは大声で怒鳴った。
「どこの世界にそんな悪趣味な化粧をしたがる女の子がいるのよ!?」
「これを見ろ!?」
ビシッと女の子の顔の載った写真を見せ、マネージャーは得意げに鼻を鳴らした。
だが、逆にミソラは呆れた。
「ヤマンバじゃん!?」
「さぁ、これで視聴者にインパクトを……」
「与えすぎだ!?」
「え……」
バキッと鈍い音が響き、マネージャーは目を回して倒れた。
「あうぅ~~……」
バタンッ……
「まったく……」
背中で腕を振るロックマンにミソラの顔がパァと輝いた。
「やぁ、ミソラちゃん」
元の人間態に戻るとスバルはニコッと微笑んだ。
「ハープからミソラちゃんがピンチだから、助けに来てくれって、言われたんだ」
「ハープ!?」
慌ててハンターVGを見て、画面のハープは得意げに笑みを浮かべていた。
《最近、出番、少ないからね?》
「にしても……」
マネージャーが用意した用途不明の魔具をゴミ箱に捨てると、スバルはため息を吐いた。
「相変わらず、ろくなマネージャーじゃないんだね」
「本当……今回は本気でタレント生命を絶たれるかと思った」
顔を真っ青にするミソラにスバルはポケットから一本のリップクリームを取り出した。
「はい、ミソラちゃん……」
「え……」
動かないでと優しくささやかれ、スバルは不慣れな手つきで、彼女の唇にリップクリームを塗った。
「はい!」
優しく笑うスバルにミソラは自分の唇に塗られたリップクリームを指で撫で、そっと、楽屋の鏡を見た。
「春色……」
ほんの少し、桃色に染まった唇にミソラは顔を赤らめた。
スバルもテレたように笑い、そっと楽屋のイスに座った。
「ハープから事情は聞いたよ。やったじゃない……「哲子の部屋」に招待されたなんて」
ミソラも戸惑うように笑った。
「「哲子の部屋」はタレント活動しているタレントの憧れの番組だからね。私にオファーが回ったとき、理解するのに時間がかかちゃったからね」
「ミソラちゃんの努力が実ったんだよ」
「うぅん……全部、スバル君のおかげだよ」
「僕の」
そっと、スバルの唇にリップクリームを塗った自分の唇を重ねると、ミソラは満足した顔でいった。
「スバル君が一緒にいてくれなかったら、私は壊れたままだから……本当にFM星人に心を壊されていたから」
《本人の前で言うかしらね?》
ハープのツッコミも無視し、ミソラはスバルの手からリップクリームを受け取った。
「貰っていいよね」
大事そうにリップクリームを持つと、スバルも嬉しそうに微笑んだ。
「僕のお祝いの品だから、貰ってくれると嬉しいよ」
「うん!」
元気良く頷き、二人はまたキスをした。
「哲子の部屋」が始まった。
「ミソラちゃんって、聞いていた噂よりも、大人っぽい雰囲気のある女の子ね」
「え……そうですか」
満更でない顔で微笑むミソラに哲子は朗らかにつぶやいた。
「もしかして、恋人でもいるの」
「……ッ」
一瞬、言葉を迷い、ミソラはニコッと笑った。
ポケットから一本のリップクリームを取り出し、柄の部分を回した。
「女の子を大人っぽくするのは、やっぱり、唇だと思うんです」
「唇……」
意外そうな顔をする哲子にミソラは得意げにリップクリームのカメラに向けた。
「だって……唇は大切な人へのメッセージだから」
「ほぉ~~……」
今度は哲子が年甲斐もなく真っ赤になり、ミソラはテヘヘと笑った。
ぷつん……
テレビを切るとスバルは鼻血が出そうに顔を上げた。
「ミソラちゃん……不用意な発言は控えよう」
今にも沸騰しそうな心を鎮め、スバルは心が上気するのがわかった。
テレビの後、全国からリップクリームが化粧品店から消えるという社会現象が起こった。
それがミソラのせいか否か……
リップクリームのブームが終わるまで、スバルはその話題に触れなかった。