「……ふぅ」
机の上で一息入れると、スバルはイスから立ち上がり、ベッドに寝転がった。
「疲れた~~……」
やり終えた宿題に、やり遂げた爽快感を覚え、そっと目を瞑り、眠ろうとしたとき……
ピーピー!
《スバル。電話が鳴ってるぞ?》
「え……」
一瞬、面倒臭そうな顔をし、ハンターVGを取り出すと通話モードをオンにした。
「やっほー……スバルくん。宿題、終わった」
「ミソラちゃん」
意外そうな顔をし、頷いた。
「たった今、終わったところだよ。どうしたの……仕事の悩みなら聞くけど」
ニッコリ微笑むスバルに、モニター映像として映っていたミソラの顔が赤くなり、コホンッと咳払いした。
「じ、実はね……ネズミーランドの無料入場券をスタッフの人から貰ったんだ。丁度、二人でいけるから、い、一緒に行かない」
カ~~と顔を赤らめるミソラにスバルはベッドに寝転がったまま、優しく頷いた。
「いいよ。じゃあ、いつ行こうか」
「今すぐ行こうよ!?」
「え……でも、ネズミーランド、ここからじゃ、電車でも二時間かかる距離じゃ」
「電波空間を使えばすぐだよ! じゃあ、私、ネズミーランドの入り口で待つから、絶対に来てね」
「あ、ミソラちゃん……!?」
ぷつんっと通信を切られ、スバルは仕方ないといった顔でベッドから起き上がった。
《相変わらず、ミソラのワガママに振り回されっぱなしだな?》
「まぁ、ミソラちゃんにも都合があるし……いつも仕事で疲れてるんだから、僕だけにワガママを言ってくれるのも、ある意味、嬉しいし」
《ゾッコンってやつか?》
「ウォ、ウォーロック、どこでそんな事、覚えるの!?」
《さぁな?》
ニヤリと笑うウォーロックに顔を真っ赤にし、スバルはハンターVGを掲げた。
「トランスコード! シューティングスターロックマン!」
電波空間を伝い、ネズミーランドの入り口前までたどり着くとロックマンに変身したスバルは元の姿に戻り、ミソラの姿を探した。
「あれ……ミソラちゃんがいないな」
首をキョロキョロ回し、ミソラの姿を探すと背中をポンッと押された。
「わぁッ♪」
「うわぁ!?」
いきなり背中を押され、驚き声を上げるスバルにミソラは満面の笑顔で笑った。
「スバルくん、待たせすぎ!」
「ミ、ミソラちゃん……!?」
相当驚いたのか、呼吸を荒くするスバルにミソラはニヤニヤと近づいた。
「そんなに驚いた。スバルくんが丁度、前に現れたから、コッソリ驚かそうと思ったんだ」
「しゅ、趣味が良くないよ……」
ようやく、呼吸を落ち着けたのか、深呼吸し、ミソラを見た。
「今日はいつもと服装が違うんだね」
「あ、気付いた。以前の海のようなことが起きないようにしようかと思って」
「以前の海……」
不思議そうな顔をするスバルにミソラは鈍感だなっと、心の中で笑った。
詳しくは、響ミソラSS「ミソラとスバルの海岸デート」参照。
「でも……ちょっと、地味だったかな」
自分の着ている服を見て、ミソラは少し不安そうに顔を伏せた。
ピンクのカラーシャツに空色のジャケット。ダメージジーンズには靴はスポーツシューズ。目には正体を隠すためか、ちょっと大きめなメガネをかけ、髪型もばれないよう、帽子をかぶっている。
カジュアル重視の変装だが、いつもの雰囲気とは別のミソラにスバルは新鮮さを覚えた。
「十分似合ってるよ。僕はあんまり、オシャレしたことないから、なんともいえないけど、すごく可愛いってことだけは言えるよ」
「ス、スバルくん……」
顔を真っ赤にして、モジモジするミソラにスバルは不思議そうに首をかしげ、ネズミーランドを指差した。
「それより早く、ネズミーランドに入ろう。ここは入場だけでも、時間がかかるし」
「う、うん……」
そっと、スバルの手を握ろうと手を伸ばした。
「ほら、早く!」
「あ……!?」
ギュッと手を握られミソラは爆発してしまいそうに顔を真っ赤にした。
入り口は思ったよりも込んでおり、入るのに三十分もかかってしまった。
「ひゃ~~……すっごい込みよう」
押し寄せる人、人、人の波に、スバルは驚きを隠せず仰天した。
「以前、委員長におのぼりさんみたいだから、キョロキョロするなって言われたけど、これじゃあ、しないほうがどうかしてるよ……ねぇ、ミソラちゃん」
クルリと背中を振り返るとスバルの目が点となった。
「ミソラちゃん……」
誰もいない空間にスバルの顔が真っ青になった。
「迷子になっちゃった」
一人残されたミソラは、今、自分がどこにいるかもわからず、スバルの名前を呼んだ。
「スバルく~~ん!」
シ~~ンと周りの喧騒とは別の静けさがミソラに襲い、慌ててハンターVGを取り出した。
「電波障害で通信が繋がらない」
ショートカットに登録したスバルの通信番号を何度も押したが通信は繋がらず、諦めて近くのベンチに座った。
「……」
通り過ぎる家族連れのお客にミソラは膝の上にひじを置き、頬杖をついた。
「昔も一度だけ、お母さんと一緒に遊園地にいったな」
『やだ~~……あれ、乗りたい!』
小さい頃駄々をこね、身長制限のせいで乗れなかった絶叫マシーンにミソラの母は優しくいった。
『大きくなったら乗れるから、それまで我慢しようね?』
『ぶぅ~~……』
初めての遊園地で心が踊ったのか、ミソラは勝手に親元を離れて、絶叫マシーンのあるところまで行こうとした。
だが、それが間違いだった。
数分もしないうちにミソラは遊園地の中を迷子になってしまい今のようにベンチに座っていた。
あの時は、アイドルでなかったため、道行く人全員が、まるで自分を見えてないように、素通りしていった。
それがどこか寂しくって、怖くって、気付いたら泣いていた。
もしかしたら、母親はこんな勝手でワガママな自分を迎えに来てくれないかもしれない。
もし、ずっと一人だったらどうしよう。
怖いよ。寂しいよ。誰か、迎えにきてよ……
しゃくりを上げ泣きつづける過去の自分を思い出し、ミソラは懐かしそうに微笑んだ。
「そうそう、あの後、お母さんが……」
「はい。ソフトクリーム」
「え……」
顔を上げるとミソラは声を上げてしまった。
「お母さん!?」
「え……お母さん」
持っていたソフトクリームミソラに見せ、スバルは不思議そうに苦笑した。
「お母さんに勘違いされたのは初めてだな」
「あ……スバルくん」
自分の勘違いに気付き、ミソラは恥ずかしそうに俯いた。
顔を真っ赤にするミソラに、スバルは手を包むようにソフトクリームを渡し、微笑んだ。
「み~~つけた!」
『み~~つけた!』
スバルの笑顔と死んだはずの自分の母親の顔が重なり、ミソラは一瞬、驚きに目を潤ませた。
「ミソラちゃん」
いきなり泣き出すミソラにスバルは驚いたように慌てだした。
「も、もしかして、手を握られて嫌だった。ご、ごめんね」
「う、うぅん……ちがうの」
スバルから貰ったソフトクリームをぺろりと舐め、テヘッと笑った。
「甘いね」
「う、うん。それ食べたら、アトラクションに乗ろうか。まだ時間はたっぷりあるし」
「うん!」
電波空間で帰る道をたがえると、ミソラはロックマンに変身したスバルに手を振った。
「またね」
「うん!」
手を振って去っていくスバルを見て、ハープノートに変身したミソラは自分の胸に手を当て、目を瞑った。
「変だよね。スバルくんがお母さんに見えるなんって」
優しくって、温かくって、誰よりも大好きだった人。
きっと、その想いが彼と母を重ねてしまったのだろう。
でも、彼からはお母さんのときには感じなかった深いどきどき感があった。
それは自分でもとっくに気付いている……
ブラザーである彼からも絶対に教えることの出来ない大切な想い……
電波空間を歩きながら、ミソラは鼻歌交じりに歌を歌い始めた。
自分でも、まだ作りかけのラブソングを奏でながら。