ピピピピピピ……
「う、うぅん……」
けたたましい目覚ましのアラームにミソラは鬱陶しそうにベッドの中で寝返りを打ち、器用に耳をふさいだ。
ピピピピピピ……
「まだ、眠いよ」
ピピピピピピ……
「もぅ後、五分……」
ピピピピピピ……
「大丈夫……電波空間を使えば、すぐだから……」
ピピピピピピ……
《ミソラ、仕事の時間五分過ぎてるわよ?》
ガバッと起き上がると全身の毛穴が広がるのを感じた。
「なんで撮影時間に目覚ましが鳴るの!?」
《昨日のことを思い出しなさい。すぐに答えは出るわよ?》
「え……確か昨日は」
よし、明日はこの時間に起きよ?
ミソラ、その時間、撮影始まる五分前じゃない?
大丈夫よ。電波空間を使えば、十分間に合うから?
ミソラ……そうやって、人は堕落するのよ?
宇宙人がよく言うよ?
遅刻しても起こさないからね?
いいも~~んだ!
「……」
顔がみるみる真っ青になり、大声を上げた。
「なんで、起こしてくれなかったの!?」
《起こさないって約束したでしょう。社会人なら自分の管理くらい自分でしなさい》
「そんな~~……」
涙目になりながらも急いで用意してあった普段着に着替え始め、部屋に備えた姿鏡を見た。
「ああ、髪、整える時間もない!」
《だから、言ったのに……》
「うるさい!」
八つ当たり気味に怒鳴り、服に着替え終わると、
「現場で髪は整える!」
ハンターVGを手に取り、上空に掲げた。
「電波変換! 響ミソラ、オン・エア!」
ミソラの姿が光となって消え、電波空間にハープ・ノートとして降り立った。
「急がないと!?」
慌てて仕事場に向かおうと走り出した。
その時、ハープの怒鳴り声が響いた。
《ミソラ、危ない!?》
「え……キャッ!?」
頭に強い衝撃が降り、パキンッとヘルメットが割れた。
「ウ、ウィルス……」
額から血が流れ、朦朧とする意識の中、ハープ・ノートは攻撃を仕掛けたウィルスにバトルカード、『ガトリング』を使い、瞬殺すると糸が切れたように倒れだした。
「うぅ……ここは」
目を覚ますとハープ・ノートは見覚えのある部屋のベッドで眠っていた。
ちょっと高額な雰囲気のある天体望遠鏡に地理を知るためというよりも星を見たいという目的のために備えられた地球儀……
ここは間違いなく……
「スバル君の部屋だ」
ベッドから出るとハープ・ノートは
「うっ……」
軽い眩暈を感じ、よろけると、トンと誰かが自分の身体を支えてくれた。
「……」
顔を上げるとハープ・ノートの顔がパァァと輝いた。
「スバル君!?」
「ミソラちゃん!」
ちょっとだけ怖い顔をし、ハープ・ノートをベッドに寝かせつけるとスバルはメッと人差し指を立てた。
「さっきまで脳震盪で倒れてたんだよ。ちゃんと寝ないと危ないよ」
「う、うん……」
いつもと違う厳しい表情のスバルにハープ・ノートは顔を赤らめた。
なんだか、格好いいな……怒ってるスバル君も。
「あれ、でも、なんで、私、スバル君の家に」
「それはこっちのセリフ! 春休みだから、少し寝坊しようとしたら、いきなりハープからすごい剣幕で助けてくれといわれて、指定場所まで来ると、ヘルメットを無くしたミソラちゃんが変身も解かず、倒れてるんだもん。本気で心配したんだよ」
「変身も解かず……え」
今更になって、ハープ・ノートは自分の身体が電波体から元に戻っていないことに気付き、顔を真っ赤にした。
「なななななんで、私、ハープ・ノートのままなの!?」
別に裸じゃないのになぜか、胸を隠すハープ・ノートにスバルは困った顔をした。
「それは恐らく……」
スバルが答えるよりも先にハンターVGからウォーロックが現れ、説明した。
「恐らく、これのせいだな」
ハープ・ノートのハンターVGを手に取ると、ウォーロックは画面を指差した。
「画面がノイズで動いてない」
「さっきまで、電波ウィルスにやられてたぞ。俺とスバルが倒してやったが、しばらくはこのままだな」
「ハープは無事なの」
「お前が変身してるのが大丈夫な証拠だろう」
「そっか……」
ホッとするハープ・ノートにスバルも安心した顔で聞いた。
「ところでなんで、あんな所で倒れてたの」
「ドキッ……!?」
脂汗をかいて胸を押さえた。
「し、仕事に遅刻しそうで……電波空間を」
「もういいよ」
心底呆れた顔でハープ・ノートの口をふさぐとスバルは厳しい口調でいった。
「いい、ミソラちゃん。電波空間はズルするためにあるんじゃないの」
「わ、わかってます」
「じゃあ、次からは仕事はちゃんと自分の足で行くって約束してくれる」
「……」
ぷいっとバツの悪い顔でそっぽを向くとスバルの額に青筋が浮かんだ。
「ミ・ソ・ラ・ちゃ~~~~~~ん!?」
思いっきり怖い顔で睨まれ、慌てて謝った。
「ご、ごめんなさい! これからはズルしません!?」
「まったく……」
今度はスバルがぷいっと顔を背けた。
「スバル君」
顔を向けられ、ハープ・ノートは不安そうにスバルの顔を見た。
もしかして嫌われた。
そんな不安がハープ・ノートの心に広がった。
「……」
しかし、その顔は怒ってるというよりも、どこか紅潮していた。
「もしかして……スバル君、ヘルメットの無くなった私に新鮮さを覚えてる」
「ドキ!?」
今度はスバルが胸を押さえ、ハープ・ノートは喜ばせた。
「それならそれだと、そう言ってくれればいいのに」
ベッドから飛び出し、背を向けるスバルに肩から抱きつくようにくっつくと、ハープ・ノートは彼の頬にキスをした。
「そうだよね。私って変身すると髪の色も変わるし、いつもと違う響ミソラが堪能できるもんね」
「い、いやらしい言い方しないでよ、まったく」
ふんっと鼻を鳴らすスバルに、ハープ・ノートは気にも留めず、スバルの身体を無理やり自分の方へと向かせた。
「いつもと違う、響ミソラを君にプレゼントしてあげる……」
「え……」
いきなり、キスをされスバルはなんとも言えない顔で目をギョッとさせた。
しかし、次第にギョッとなった目はトロンと潤み、気付いたら彼女の身体を強く抱きしめていた。
「うん……くちゅ」
スバルの口に舌を入れ、中を舐めると、今度はスバルがハープ・ノートの口に舌をいれ、お互いの舌を嬲った。
くちゅ……ずちゅ……じゅじゅ……
いやらしい音が十代の少年の部屋に響き渡り、二人は餓鬼のようにお互いの唇を奪い合った。
そして……
「ッ……!?」
ギュゥンと光の旋風がハープ・ノートを包み、彼女の身体が元の響ミソラの姿へと戻った。
「元に戻っちゃった」
どこか残念そうな顔をするミソラにスバルはトンッと床に座り込み、肩で息をした。
「ミソラちゃん、今日はいつになく、激しいよ」
「それはこっちのセリフ」
軽くウィンクし、ミソラは時間を確かめた。
「この時間なら、そんなに怒られないかも」
ハンターVGを手に取り、上空に掲げた。
「あ、ミソラちゃん、約束……!?」
「ベ~~!」
可愛く、あっかんべーされ、ミソラの姿が光とともに消えた。
「……」
(精神的に)疲れたのか、スバルはさっきまでミソラ……いや、ハープ・ノートの寝ていたベッドに座り込み、掛け布団に鼻を近づけた。
「……ちょっとだけ、残り香が残ってる」
女の子のいい匂いが鼻腔をくすぐり、スバルは顔をカァァと赤らめた。
「こ、このベッド洗うべきかな」
十代の男の悩みをスバルは十日間悩み、その間ベッドが使えなかった。