「ミソラちゃん……新しい仕事が決まったよ」
「はい」
音楽のイヤホンを耳から外すとミソラはパッと顔を上げた。
「なんの仕事ですか」
プロデューサーの顔がニッコリ笑った。
「グラビアだ!」
「グラビア」
キョトンとなった。
「そう! なんと、あの人気雑誌スターフォースのグラビア! しかも、表紙だよ!?」
「スターフォース……表紙……」
呆気に取られた顔をし、次第にパァッと輝いた。
「やります! 全力で表紙を飾らせてもらいます!」
「それでこそ、人気アイドルだ!」
ガシッと手を握り合い、まるで青春映画のように目を燃やす二人に、
「じゃあ、二キロ減ね」
「はい」
人差し指と中指を立てるプロデューサーにミソラは真っ青になった。
「支給された水着、今週末に着れるよう、二キロ落としてね」
「ダイエットですか」
「ダイエットもアイドルの仕事だよ」
「……」
泣き出しそうになった。
「よし!」
「根性」と書かれたハチマキを巻き、床に敷いた長方形の厚紙に筆を走らせた。
「「食事制限」!」
バァンッと汚すぎて読めない墨の文字を掲げ、ミソラは自慢げに胸を張った。
《無難ね……でも、断食はダメよ。身体も壊すし肌も荒れるし、リバウンドが怖いわ》
「食事を改めてみることだね」
ここ一週間前後の自分が作った味の微妙な料理を記載したノートを開いてみた。
「こう見ると、意外と高カロリーなものを多く食べてるね」
《といっても、アイドル業をしてるんだから、そんな目立つものはないわ……ここは純粋に食事の量を減らすことね?》
「朝食はバッチシ食べて、夜は少な……」
ピルルルルル♪
「あ、スバル君がから電話だ……ポチッとな」
モニターが光った。
『あ、ミソラちゃん……今日の夜、暇」
「え!?」
胸がドキッと高鳴った。
「う、うん……ひ、暇だけど、それが……なにか」
『実は母さんがすき焼きを食べようって言ってるんだ。人数多いほうがおいしいでしょう。ミソラちゃんも食べにこない」
「す、すき焼き……ごくん」
一人前、千二百九十キロカロリー×三人前イコール、三千八百七十キロカロリー……
一日の平均摂取カロリーは二千キロ前後……
「……」
冷たい汗が背中に流れた。
一緒にすき焼きを囲みたい、お肉食べたい。
でも、今はダイエット中……
「あ、明日からダイエ」
《ミソラ……》
涙を呑んだ。
「ごめん……今、ダイエット中だから」
『え?』
ぷつんっと電源を切り、ミソラはベッドにダイブした。
「なんで、こうなるの!?」
足をバタバタさせ、子供のように暴れた。
「スバル君のバカ、意地悪! 今日じゃなく、昨日ならすき焼き食べれたのに!?」
それに……と口ごもった。
「親公認のお食事会なんって滅多にあるものじゃないし……」
《本音はそこね?》
「決めた!」
《なにを?》
「ダイエット成功するまで、私はスバル君とも逢わないし口も利かない!」
《また、なんで、そんなことを?》
「スバル君といると気が緩んで目的を見失いそうだから!」
《普段から見失ってる気をするけど……》
ふと微笑んだ。
《さすがアイドルね?》
「アイドルの名は伊達じゃないのよ……アハハハ!」
《なんだか、その笑いで心配になってきた」
その夜……
「……」
ソワソワしながら、ミソラは充電器にさしてあるハンターVGを何度も眺めた。
伸びかけるハンターVGへの手を押さえ、ぶつぶつと念仏を唱えた。
「スバル君と連絡取らない、喋らない、逢わ……逢わない」
ジワッと涙が出てきた。
《アイドルの名は伊達じゃなかったの?》
「わ、わかってるわよ!?」
グシッと涙を拭き、ベッドに転がった。
「あ~~~……なんで、禁・スバル生活なんかしちゃったんだろう」
《自分で言ったんでしょう……余計な邪念が入るからって」
「あぅ~~~……スバル君とお話したいよ~~~……」
《半日も持たず、三日坊主ね……まったく》
禁・スバル生活一日目……
「朝はいつもどおりの食事にちょっとおかずを多めにしました」
《朝はガッツリ食べて、昼と夜を少なくするのね?》
「その通り!」
ビシッと親指を立てた。
《でも……これは多すぎない?》
テーブルいっぱいの料理を見て、ハープは呆れた目をした。
「スバル君と逢えない分、朝は食べないと」
《いいのかしら、これで?》
禁・スバル生活二日目……
仕事場で何度かハンターVGの着信を調べ、目を潤ませた。
「今日もスバル君の電話がない」
ギュルルルル……
「お腹空いた……」
禁・スバル生活三日目……
「最近、ミソラちゃん、イライラしてない」
プロデューサーの言葉にミソラはキッと睨んだ。
プロデューサーは逃げるようにスタジオを出た。
「ダイエットで気が立ってるんだな……仕事に影響がないといいけど」
隠れながらプロデューサーはミソラのことを心配した。
「スバル君、逢いたいよ~~~……」
禁・スバル生活四日目……
「体重が一キロ減った!」
体重計のメモリに胸を躍らせ、慌ててハンターVGを手に取ろうとした。
《なにする気?》
が、現実世界にリアライズしたハープがそれを阻止した。
「じ、自分にご褒美を……」
《ミソラ……逢わない口を利かないじゃなかったの?》
「わ、わかってるよ……ハープのケチ!」
《アナタのためよ……》
禁・スバル生活五日目……
バシン! バシン! バシン! バシン!
エクササイズ用のサンドバッグを何度も殴りつけていた。
禁・スバル生活六日目(ダイエット終了期間)……
「荷物良し! 食事良し! 他もろもろ、良し!」
気合をいれ、荷物をチェックするとミソラはリュックを背負い、ハンターVGを掲げた。
「電波変換……響ミソラ、オン・エア!」
机の上でスバルは退屈そうに宿題をしていた。
「今日でミソラちゃんのダイエットも終わりだね」
ふぅ~~とため息を吐いた。
「最初はハープにミソラちゃんと逢うなと言われたときは嫌われたのかと思ったよ」
《地球人ってのは厄介な生き物だな。着る服のためにダイエットするとは?》
「君たちは電波体だから、やせる必要は無さそうだからね」
《いや、俺の星でも女は体形にこだわってたぞ?》
「じゃあ、純粋にロックが無神経だったって事だね」
クックックッとお互い苦笑すると部屋の明かりがパッと光った。
「……ッ!?」
あまりの眩しさに一瞬、目を覆うと唇に熱い感触が伝わった。
「ッ……!?」
目の前に映る少女にスバルは真っ赤になった。
舌を強引に吸われ、強引に彼女の口の中へ誘い込まれると戻れないよう歯で甘噛みし、また、強く吸い、自分の唾液をスバルに注いだ。
「ぷはぁ……」
糸どころか、唾液をダラダラと座っているスバルのズボンにかけ、ミソラは
「スバル君!?」
「うわぁ……」
ドンッとベッドに押し倒し、鼻息を荒くした。
「いきなり、なにを……」
「……」
ミソラの目がジワッと潤んだ。
「ずっと、逢いたかった……」
「な、なに脱いでるの!?」
「この日のために頑張ったんだから」
「なにを!?」
上着を脱ぎ、上半身が露にするとミソラは自慢の水着を披露した。
「どう……今度のグラビアの水着なんだよ。可愛いでしょう」
下のズボンも脱ぐとミソラの色っぽい白の上下のビキニをスバルに見せ付けた。
見ようによっては下着と変わらないその姿にスバルは固唾を呑んだ。
「スバル君……私、もう限界だよ。一週間もスバル君の声も聞いてなくってどうにかなっちゃいそうだった」
「い、いや……もう十分どうにか」
「この水着、似合ってる。ダイエットに成功したら一番に見せようと頑張ったんだよ」
「そ、そうなの」
ちょっとだけ胸を見るとわずかに谷間が出来ていた。
(せ、成長してるんだな?)
ぶるぶると首を振った。
「ぼ、僕たちまだ、しょうがくせ……」
反論を許さないようにキスをし、ミソラは彼の上着に手をかけた。
「ちょ、ちょっと!?」
「大丈夫……私も初めてだから、お互い頑張ろう」
「な、なにを頑張るの……誰か、ヘルプ~~~~~~!?」
「スバル、うるさいわよ……ご近所の迷惑も考えなさい」
ガチャッとドアが開いた。
「あ……」
「お、お母さん」
ミソラの顔がカァ~~~と赤くなった。
「お、お邪魔だったかしら……」
アカネも年甲斐もなく赤くなり、チョコチョコと二人に近づいた。
「これ、いつかの日にと買っておいたから使ってね」
ミソラの手にアルファベット「C」のものを手渡した。
「お母さん、自立できるなら使わなくってもいいから」
「つ、使いませんよ、こんなの!?」
ミソラの反論にアカネはまぁと口を押さえた。
「なまほ……」
そこまで言って、
「野暮だったかしら、私の心遣いも」
ムフフと笑い、部屋のドアにむかってまるで幽霊のように移動した。
「じゃあ、お母さん、一時間くらい外に出かけてくるから……頑張りなさい!」
人差し指と中指の間に親指を挟み、アカネは部屋を出て行った。
「……ス、スバル君」
ミソラの顔が最高潮に赤くなり奪うようにキスをした。
「うぅ……!?」
一瞬、息がつまり、目を見開くとスバルの目がトロンッとなった。
「ぷはぁぁ……!?」
「……」
覚悟を決めたようにスバルは目を瞑った。
「ごめんね」
被さっていたミソラがどいた。
「じゃ、じゃあ、私、帰るね!?」
「え……あ、ミソラちゃん、服、忘れてる!?」
電波空間に逃げるように去っていったミソラにスバルは部屋のドアを睨んだ。
「いつまで出刃亀してるの、母さん!?」
「あ、バレてた」
部屋に帰るとミソラは鏡の前で水着姿になり、恥ずかしさに床を転がった。
「ああ、反動とはいえ、やりすぎた~~~~!? スバル君、怒ってないかな。ていうか、こんな勝手なことして怒ってるよね。どうしよう!?」
《勝手なのはいつものことだけどね?》
「うるさ~~~~い!」
ピロロン……
「あ、スバル君からメールだ」
ピッとメールを開くと、
『来月の雑誌、必ず買うね?』
「ス、スバル君……」
ウルウル目を潤ませ、ミソラはバッと立ち上がった。
「決めた!」
《今度はなにを?》
「倫理社会は私が壊すよ!?」
《すでに壊してるでしょう、アナタは……》