「ふぅ~~……」
お風呂から上がるとミソラはお湯で火照った身体を団扇で扇ぎ、パジャマ姿でベッドに座り、置いてあった情報誌を開いた。
「次のデートはどこにしようかな」
情報誌をペラペラめくると、うぅ~~んと腕を組んだ。
「定番のコースもいいが、やはり、ロマンチックなこともしたい」
それでなくとも、恋人になってからも、自分たちの関係は全然変わってないのだ。
相変わらず、恋人となる前と全然一緒。
不満もないが、満足もない。
「ここは一気に縁起担ぎしたいな」
情報誌をめくっていくと手が止まった。
「幸せの丘」
興味深い記事に指を這わせた。
「ひらめき山の丘で恋人と一緒に夕暮れを見ると一生幸せになれる……か」
情報誌を二度三度、熱心に読みふけると濡れた髪も気にせずベッドに背中から倒れた。
「幸せの丘……恋人……一生、幸せになれる……えへへ♪」
手を握り、コネコネするとミソラは満更でない顔で微笑んだ。
「ということで、来ました! ひらめき山に!?」
頂上に着くとミソラは早速、大声で街並みの見える丘でヤッホ~~と叫んだ。
「うぅ~~ん……空気がおいしいね」
スバルも触発されたように肺いっぱいに空気を吸い込み、伸びをした。
「でも、人が全然いないね」
「あまり人気のない山らしいからね」
ブルーシートを街の見える場所に敷くと、慣れた手つきでお弁当やバドミントといった遊具を取り出していった。
「まずは、お昼にしよう」
パカッとお弁当のふたを開け、スバルに手渡した。
「はい! がんばって作ったお弁当だよ」
「ありがとう」
お弁当を受け取るとニコッと笑った。
「うん……おいしそう!」
「そ、そうかな」
若干、心不安そうにエコ箸を渡すとゴクリと喉を鳴らした。
小さく可愛く揚げられている唐揚げに箸を掴むと、スバルは満面の笑顔でパクリと食べた。
「ど、どう」
「うん、おいしいよ!」
「本当!?」
嬉しそうに笑うとミソラも自分のお弁当を食べた。
「……ッ!?」
(おいしくない……)
というよりも、微妙であった……
「どうかした、ミソラちゃん」
おいしそうにパクパクお弁当を食べるスバルにミソラは若干、不安そうに聞いた。
「あの……無理して食べなくってもいいんだよ」
「なんで」
不思議そうに自分を見るスバルにミソラは小声でいった。
「だって……あんまり、おいしくないし」
「……」
箸を咥えたまま一口大のハンバーグを飲み込んだ。
「まったく……」
呆れた顔で、お弁当のおかずを掴んだ。
「そんなにまずいと思うなら、自分で食べてみなよ」
「え……」
さっきまで、スバルが咥えていた箸で同じハンバーグを食べさせられると真っ赤になった。
「ッッッッッ!?」
これって、間接キスじゃない!?
真っ赤になって、言葉を失うミソラだが、同時に驚いた。
「……おいしい」
「でしょう」
また、お弁当を食べ始めた。
「好きな娘に作ってもらったんだもん! まずいわけないよ」
「……」
臆面もなく恥ずかしいことを言うスバルにミソラは少しだけ面くらい、えへへと笑った。
自分のお弁当にも箸をつけた。
「……」
少し考えた。
「ス、スバル君……あ~~ん」
「え……」
今度はスバルの顔が真っ赤になった。
「ほら、あ~~んだよ、スバル君!」
「え……ええ」
混乱するスバルにミソラは笑顔を崩さず、丁寧に作られたタコさんウインナーを差し出した。
「あ、あ~~ん……」
パクッと食べた。
「おいしい」
「うん……」
真っ赤な顔をするスバルにミソラは嬉しそうに笑い、今度は自分の口をあけた。
「じゃあ、今度はスバル君が私にやって」
「え」
「さっき、やってくれたじゃない」
「そ、そうだけど……」
面とやれといわれるとテレるものがあるが……
「あ~~ん♪」
なんの迷いもなく、口をあけてあ~~んを待つミソラにスバルも覚悟を決めた。
「ほ、ほら……あ~~ん!」
「あ~~ん♪」
箸に掴まれたフライドポテトが口に入るとミソラは箸を咥えるように口を閉じ、幸せそうに微笑んだ。
「やっぱり、こういう食べ方って、幸せだね」
「僕はちょっと、恥ずかしかったよ……最初にやったとはいえ」
「ふぅ~~……」
お互い、お弁当を(あ~~んしながら)食べ終わるとゴロンッとブルーシートの上で寝転がり、青い空を眺めた。
「お腹がいっぱいになると眠くなるね」
「そうだね」
そっと、寝転がりながら、スバルの肩にくっついた。
「このまま、食休憩しようか」
「そうだね」
目を瞑ると肩をくっつけていたミソラは抱き枕のようにスバルの身体に抱きつき、眠りの世界へと入っていった。。
目を覚ますとミソラはビックリした。
「もう、太陽が沈みかけてる!?」
食休憩で眠りすぎたと慌ててスバルを起こした。
「スバル君、スバル君、起きて! もうそろそろ、夕日が沈む!?」
「あ……え」
目を覚まし、起き上がるとウンッと伸びをした。
「そうか……結構、寝ちゃったんだな」
ブルーシートに座りながら、沈む夕日を見るとスバルはミソラの肩を抱いた。
「え……スバル君」
「ほら……ちゃんと、夕日を見ないと。幸せになれないんでしょう」
「う、うん……」
地平線の見える街並みに消えていく夕日にミソラは抱いてもらっている肩にドキドキしながら、太陽を眺めた。
スバルもどことなく顔を赤らめ、沈む夕日を眺めた。
ちょっとずつだが、確実に沈んでいく太陽と、東の空から訪れる夜に二人は心のそこから幸せな気持ちになった。
夕日が完璧に沈むと山全体が真っ暗になった。
スバルはポケットからペンライトを取り出し、スイッチを押した。
ペカッと青白い光が眩くとスバルは満足げに頷いた。
「なんだか、伝説が本当に叶いそうな気がするね」
「うん……ちょっとだけ、幸せが叶ってるから、今」
そっと、スバルの首の手を回し、自分の育ちかけの胸を彼の胸に押し当てるとミソラは目を瞑り、押し倒した。
「スバル君」
「ミソラちゃん……」
スバルもミソラの身体を抱きしめ、地面に背をつけたまま、キスをした。
二人の唇が重なった瞬間、月の明かりが一瞬、二人を照らしたような気がし、不思議と涙が溢れてきた。
それは幸せの涙だと実感できた。
そして、それはスバルも同じであった。
二人は気が済むまで長い長いキスを続けていった。
二人の愛であることを誓うかのように……