流星のメモリアル   作:スーサン

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ミソラとサマーサバイバル【出陣編】

「お~~い、少年! この機材を運ぶのを手伝ってくれ」

「はぁ~~い!」

 ガタイのいい男の叫びに元気よく返事を返し、スバルは箱に詰まれた重い荷物を持ち上げた。

「少年、それが終わったら、今度はこっちを頼む!」

「はぁい!」

 打てば響くような気持ちのいい返事に男たちは満足そうに頷いた。

「ミソラちゃんが連れてきた少年、結構、根性がありますね」

「ああ、それで礼儀もいいからな……ってきり、ただのミソラちゃんのツッキー(お付)かと思ったが、このまま、ウチで働いてほしいもんだよ」

 ニシシと冗談めかしく笑う男たちにスバルは新しい仕事の追加にあくせくと走り回った。

 なぜ、スバルが揺れる船の中で男たちの仕事を手伝っているかというと、事は一週間前にさかのぼる。

 

 

 それはスバルがお風呂から上がり、ベッドの上でウチワを扇いでいたときのことだった。

 ピルルルルルルルル♪

「あ……電話だ」

 ピッと受信ボタンを押し、画面が開いた。

『スバル君、まだ、起きてる?』

「あ、ミソラちゃん……起きてるよ」

 ニコッと笑い、ベッドから腰を上げ、あぐらをかいた。

「ちょうど、夕涼みしてたところだよ」

『そっか、よかった』

 ホッとした顔で息を吐くミソラにスバルは苦笑した。

「安心するもなにも、まだ八時だよ。寝るには早いと思うけど」

『そ、そうだね……えへへ?』

 テレたように笑うミソラにはスバルは不覚にも可愛いなと思ってしまった。

『ね、ねぇ、スバル君、今週の週末から、暇が取れる?』

「うん……今週の週末」

 カレンダーで予定を確認した。

「特に予定はないかな……夏休みの宿題は開始早々で委員長たちと終わらせたし」

『よかった!』

 心底ホッとした顔でニパァと笑った。

「実は今度、海の無人島サバイバルツアーの撮影があるんだ?』

「無人島サバイバル」

 頭の中で原始人のような女性が石の斧を振り回す姿を想像し、違うなと首を振った。

『それで活きのいいアルバイトを探してるんだって。スバル君、参加してよ?』

「はい」

 耳を疑った。

『撮影期間って7月の間、全部使っちゃうの。その間、スバル君と会えなくなるの嫌でしょう?』

「で、でも、それって公私混合じゃ」

『スバル君だって、私と会えなくなっちゃうの嫌でしょう?』

「……」

『い・や・で・しょ・う!?』

「……」

 ほぼ強引な誘いにスバルは少し考えた後、アッサリ折れた。

「わかった、参加する……」

『やった~~♪ 話はこっちでつけるから、準備しててね?』

 

 

 で、一週間後の今に戻る。

「おし、少年、昼休憩に入っていいぞ」

「はい!」

 休憩の許可が入り、スバルは他のスタッフの邪魔にならないよう機材置き場から廊下に出た。

 ドッと疲れが出たのか、スタッフ用の休憩所につくとスバルはグッタリとベンチに座った。

「はぁ~~~……これは委員長の命令よりもキツイかも」

 実際、ルナの命令もかなり身体にキツイものがあるが所詮、小学生の命令。

 大人のハードで理不尽な仕事の世界の前ではルナの命令など可愛いものであった。

「お疲れさま」

 ピトッ……

「ひぁ!?」

 頬に冷たい物を押し当てられ、スバルはムクっと起き上がった。

「ミ、ミソラちゃん、いきなり、悪ふざけしないでよ」

「アハハ……ごめんごめん」

 手に持っていた缶ジュースのプルタブをぷしゅっと開けた。

 夏の暑さにふさわしい清涼感あふれる炭酸の抜ける音が響き、スバルの喉が自然と鳴った。

「あ、ありがとう、ミソラちゃ……」

「ん……」

 自分の差し入れだと思ったジュースをごくごく飲むミソラにスバルは手をさまよわせた。

「ミ、ミソラちゃ……」

「はい、半分こ」

「え……」

 ミソラが口をつけた缶ジュースを見つめ、赤くなった。

「どうしたの、スバル君。喉、渇いてるんでしょう」

「も、もう……ミソラちゃんは」

 缶ジュースを受け取り、不貞腐れた顔をした。

「普通に渡してよ」

「間接キッスは基本中の基本だよ」

「なんの基本だよ」

 ミソラが口をつけた缶ジュースを飲むとスバルはようやくリフレッシュした顔で大きく息を吐いた。

「生き返る~~~~~!?」

「頑張ってたもんね、スバル君。撮影の休憩中、見てたよ」

「ハハ……」

 スバルも照れたように頬を染め、ベンチの背もたれに身体を預けた。

「にしても、テレビの撮影って大変なんだね。一つの番組にこんなにスタッフがいるなんて」

「今回は夏の一大イベントにするらしいからね。来月は私の誕生日イベントも考えてるらしいよ」

「誕生日か」

 ハッとした。

「そっか……もう、来月か」

 ミソラの頭をなでた。

「さてはバイトを進めたのは誕生日プレゼントをねだるため」

「えへへ……ちょっとだけね」

「この策士め」

 頭を撫で、スバルは少しだけ、ヤル気の上がった顔をした。

「誕生日は期待しててね」

「うん!」

 元気良く首を縦に振るミソラにスバルも心の中でたぎる炎を燃え上がらせた。

 それから、三十分後、スバルはまた仕事に戻った。

 だが、その気迫は先ほどまでとは比較にならないくらい上がっていた。

 まず、返事は打てば響くじゃなく、打てば爆ぜ。

 仕事は勢いがあるじゃなく、大砲が撃たれたと比喩するくらい早く。

 仕事が無いときは、自分で仕事を見つけ、片付け。

 気づいたら、スバルよりも年上のスタッフのほうがスバルに引っ張られるという不思議現象が起きていた。

(恋人になって初めての誕生日会だ。稼いで稼いでいい物買って、ミソラちゃんをビックリさせてやる!?)

「な、なんか、俺たちプロのほうが少年に負けてるッスね」

「そう思うなら、プロの意地見せて、俺たちもがんばるんだよ!?」

「は、はい!?」

 初日からエンジン全開のスバルにスタッフ達も負けじとエンジンを全快にした。

 我武者羅に仕事をしていると時刻はもうそろそろ二十一時を回ろうとしていた。

「おい、少年……今日はもういいから、明日に備えて寝てろ。明日は島について働いてもらうからな」

「はい! ジャンジャン仕事をください!」

「おし! 頼もしい返事だ、少年!」

「ありがとうございます!」

 激励を受け、スバルは気分を良くし、仕事場を後にした。

 仮眠ルームに向かい足を進めると、スバルは人気の無い旧階段の横を通り過ぎた。

 その瞬間……

「ムグッ!?」

 ガバッと口を手で押さえられ、通り過ぎようとしていた階段に押し込まれると手が離され、唇がふさがれた。

「うむ……」

 ねちょねちょと舌を舌で嬲られ、仕事で疲れたからだが自然と違う意味で火照るのを感じ、気づいたらスバルはキスをしている彼女の身体を抱きしめていた。

「ぷはぁ……」

 糸を引くように唇を離すと、お風呂から上がったばかりなのか、ラフな格好のミソラに微笑んだ。

「いきなり過ぎるよ、ミソラちゃん」

「だって~~……」

 ぶぅと頬を膨らませ、スバルの胸元を小突いた。

「あれから、スバル君、仕事仕事で私のこと相手にしてくれないんだもん! 寂しかったんだよ」

「そ、それはミソラちゃんだって」

 仕事中のミソラを思い出し、スバルも不貞腐れた。

「あんな俳優さんに笑顔を振りまいて……」

「あ、嫉妬してた」

 嬉しそうにニヤニヤし、スバルの手を取った。

「大丈夫だよ」

 握った手を自分の左胸に押し当てるとミソラは優しく微笑んだ。

「ほら……私の心臓、キスしたせいでドキドキしてるでしょう」

「あ、う、うん……ミ、ミソラちゃん、ブラは」

「お風呂上りだからね」

「うっ!?」

 ほんの少し突起したミソラの女の子の部分を手のひらに感じ、スバルは燃え上がりそうに真っ赤になった。

「そんな事よりもスバル君、ようやく二人っきりになれたし、来てほしいところがあるんだ」

「え、ミ、ミソラちゃん」

 手を握られたまま外へ出るとミソラは夜空の月が浮かぶ船の船頭へと連れてこられた。

「ほら、あれ!」

 船頭から見える水平線を指差した。

「電波ロードじゃない、正真正銘の普通の海だよ」

「あ、う、うん……」

 ちょっとだけ、まださっきのミソラの胸のポッチの感触が手のひらに残っているのか、スバルは曖昧な返事を返し、海を見た。

「そっか……考えてみれば、海の上で水平線を見るのは電波ロード以外では初めてだったね」

「うん!」

 元気良く返事を返し、ミソラはスバルの顔を見上げた。

「……ん」

 ゆっくりを唇を突き出しスバルも彼女の頬を優しく撫でた。

「ミソラちゃん……」

「スバル君……」

 二人の唇がゆっくり近づき、夜空の月から一閃の流れ星が落ちた。

 

 

 次の日……

「へぇ……ここがロケ地の無人島ですか」

 スタッフとしてタレントよりも先に島で撮影の準備に取り掛かっていたスバルは総監督の男に島の風靡に感嘆の声を上げた。

「ああ、なんでも、ミソラちゃんの事務所所有の無人島なんだってさ」

「ええ!?_ ここ、ミソラちゃんの事務所の島なんですか!?」

「先代の所長が宝くじで一山当てたらしくってな、撮影所として、いつか使いたいと無駄遣いしたらしい」

 ニシシと笑った。

「まぁ、その後、奥さんに散々、叱られたらしいがな」

「そっか……」

 ウンッと伸びをし、スバルは大声を上げた。

「今日も頑張るぞォォォォォォォォ!?」

「オォォォォォォォ!」

 スバルの叫びと同時にテンションがハイになっていたスタッフ達も気合を入れて大声をあげた。

 スバルとミソラの夏休みを使った無人島生活の始まったばかりであった。

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