流星のメモリアル   作:スーサン

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ミソラとサマーサバイバル【退陣編】

「ハイ、カット!」

 監督の叫び声に、ミソラはスバルから汗を拭くためのタオルを貰い、首元を拭った。

「ありがとう、スバル君」

「どういたしまして」

 タオルで太陽に輝く汗を拭くミソラにスバルは苦笑した。

「バラエティーにも脚本があるって聞いたけど、これじゃあ、ほとんど、ドラマと変わらないね」

「うん」

 タオルをスバルに返すとミソラは自嘲気味に笑った。

「まぁ……脚本がないと撮影って、グダグダになる可能性があるからね。今は全てのテレビに脚本があって当然の世界だから」

「でも、ちょっと複雑な気分だな」

「そんな顔しないでよ」

 ミソラも苦笑した。

「せっかく、監督に無理言って、スバル君を私の世話係にしてもらったのに、そんな顔じゃ満足に仕事できないよ」

「そ、そうだね」

 ミソラに元気付けられ、スバルも太陽に向かって、ウンッと伸びをした。

「でも、目の前に海があると不思議と泳ぎたくなるね」

「そうだね」

 サンサンと輝く太陽を見上げ、海を見た。

「ここにいる間はずっと仕事だけど、最終日には休みが取れるらしいから、その時はバカンスを楽しもう」

「バカンスとは……また、お気楽ね、ミソラちゃん」

「え……」

 顔を上げ、ビックリした。

「林原リツコ!? 超実力派若手女優じゃないか!?」

 スバルの顔を見て、ギロッと睨んだ。

「同年代の友達を連れて、もう遊ぶ算段とは、いいご身分ね、ミソラちゃん」

「ッ……!?」

 失礼な態度に掴みかかろうとするスバルを制止した。

「スバル君、今は仕事中! 掴みかかったら追い出されちゃうよ!?」

 スバルも怖い顔でミソラから離れ、砂浜を蹴飛ばした。

「遊び感覚で芸能界を生きてるだけあって、友達もここに来たのは遊び感覚ね。アルバイトでもプロとしての自覚を持ってほしいものだわ」

「……」

 悔しいが言い返せず、ギュッと拳を握り締めた。

「リツコさん……」

「なによ」

 静かにいった。

「スバル君はマジメにスタッフとしての仕事をこなしてる……スバル君をバカにするなら、私が許さない!?」

 リツコの眉根が下がった。

「子供の癖に恋人気取り。売れっ子は言うことが違うわね」

「ッ!?」

 今度はミソラが掴みかかろうとし、スバルがとめた。

「二人ともなにやってるんだ!?」

 監督が怒鳴り入り、二人を睨んだ。

「響、林原、お前達もプロなら、仕事場でケンカをするな!? 他の出演者の事を考えろ!?」

 スバルの方も向き、一割り増しで怒鳴った。

「お前も、なぜ、ケンカを達観してた!? なぜ、自分以外のスタッフを呼ばなかった!? 二人がケンカして怪我をしたら、お前では責任が取れないんだぞ!?」

「ご、ごめんなさい……」

 シュンッとなるスバルに慌ててミソラが弁解した。

「ス、スバル君は悪くありません!?」

「君も黙ってなさい!」

「ひぃ!?」

 縮みこまるミソラに、リツコは平然と鼻を鳴らした。

「気分が悪いわ……ちょっと、休憩してくる」

「あ、コラ!? まだ話は終わって……まったく!?」

 チッと舌打ちし、ミソラを睨んだ。

「ケンカするなとは言わん。人間だ、気に入らない相手にケンカしたくなる」

「で、でも、あっちから突っかかってきて……」

「それでも、我慢しろ!?」

「ッ……」

 納得のいかない顔をするミソラに監督もそれ以上なにも言わず、彼女の目を見つめた。

「もういい! 行こう、スバル君!?」

 不貞腐れた顔でスバルの手を取り、ミソラもリツコとは反対方向の休憩所に足を運んだ。

 

 

 簡易型のパラソルを差した休憩所で腰を下ろすとスバルはスポーツ飲料を片手に苦笑した。

「みんな、林原リツコに手を焼いてるみたいだね」

「リツコさんは子役の頃から今に至るまで努力してきた人だから、たぶん、ポッと出の私が気に入らないんだと思うんだよ」

 スバルの飲む飲料水を奪い、ミソラもごくごくと飲んだ。

「でも、私とスバル君の仲をバカにしたことだけは許せない!」

「……」

 怒りを浸透させるミソラにスバルも珍しく同意した。

 自分とミソラはあの不思議な世界を通じて、初めて一つになった仲だ。

 それを遊び感覚だとバカにされるのはどうしても許せない。

「おし! 皆、集まれ! 撮影を再開するぞ!?」

 監督の怒声にスバルも立ち上がり、他のスタッフの手伝いをするため、荷物を運び出した。

 

 

 無人島の森の中を散策するとミソラはカメラに向かうフリをして、スバルの顔を見た。

「森の中って、結構、キツイね……」

「ミソラちゃん、運動不足じゃないの」

「ッ……」

 さりげなく嫌味を言うリツコにミソラも不機嫌を損ねた顔をした。

「まぁ、キツイことはキツイけど、リツコさんは私より年だから、余計にキツイじゃないんですか」

「なんですって」

「キツイキツイっていっても、私は若いからまだ、余力が残ってるし」

(同じ十代なんだけどな?)

 心の中でスバルは思わず突っ込んでしまった。

「いうじゃない。私だって、まだ、この森を走るくらいできるけどね」

「言いますね」

「言うわよ」

「……」

「……」

 ピリピリと嫌な空気が流れ、周りのスタッフとスバルは心の中で準備をした。

 バンッと爆音が爆ぜるような音が響き、走り出す二人に、カメラを構えていたスタッフ達も慌てて走り出した。

(あの二人、本当に仲が悪い……)

 慣れない森道を走る二人を追いかけ、スバルも息を切らし、必死に追いかけた。

(でも、こんな足場の悪い道を走って……転ばないといいけど?)

 心配するスバルの思いを無視するように、ミソラとリツコの足が近くの木の根っこに引っかかった。

「ミソラちゃん!?」

 派手にすっ転ぶミソラとリツコにスバルは慌てて駆け寄った。

「カットだ!? 医療班を呼べ!?」

 ミソラに駆け寄り、足を掴んだ。

「大丈夫!? 足の感覚ある!?」

「う、うん……だ、大丈夫」

 足を乱暴に掴まれ、どこか恥ずかしいのか、顔を真っ赤になるミソラにスバルの怒鳴り声を返した。

「バカ! こんな足場の悪い森道で走れば、ケガすることくらい、わかってることでしょう!?」

「……ごめん」

 スバルに叱られ、シュンとするミソラにリツコの声が飛んだ。

「叱らないであげて……先に走ったのは私だし」

「……」

 珍しくミソラの肩を持つリツコにスバルは一瞬、怪訝そうな顔をした。

「そんな事よりも!?」

 首に巻いてあった汗を拭くためのタオルを水分補給用に常備していた飲料水で濡らし、ミソラの腫れている右足首にまいた。

「医者の先生が来るまで、この状態にしてるといいよ……リツコさんも」

「私は自分で出来るわ……」

 そういい、リツコも自分のタオルをスタッフから貰った水で冷やし、足首に巻いていた。

「……」

 

 

 ミソラが泊まるテントの中に入るとスバルは厳しい顔で彼女の前に座った。

「さっき、決定が決まったよ」

「……」

 暗い顔をし、ミソラはスバルの言葉を待った。

「今回、ミソラちゃんとリツコさんはこれ以上の撮影は出来ないという理由で帰ることが決まったよ。僕も君のお付で帰ることになった」

「撮影は」

「違う人がいるからその人たちを中心に取り組みなおすらしいよ」

「……そっか。迷惑かけちゃったね、いろいろな人に」

「……」

 落ち込んだ顔をするミソラにスバルはなにも言わず、黙り込んだ。

「意地張って頑張ってるつもりが空回りして……」

 ポツリポツリと出た言葉にミソラは気づいたら泣いていた。

「結局、最後は仕事を降ろされて……う、うぅ」

 泣き声をあげるミソラにスバルもなにも言わず、彼女の身体を抱きしめた。

「うぅ……うっうっ……ごめんなさい……ごめんなさい……スバル君」

 引きつった声を上げるミソラにスバルは落ち着かせるように背中をさすった。

 今はなにも言わず……

 スバルはただただ、黙って彼女が落ち着くのを抱きしめながら待った。

 

 

 しばらく時間が経ち、スバルは神妙な面持ちでミソラを見ていた。

「ほ、本当にいいの、ミソラちゃん」

「う、うん……もう、覚悟は出来てるから」

「でも、バレたら、怒られるだけじゃ済まないよ」

「私……スバル君と一緒なら、怖くないもん」

「そっか……じゃあ」

 彼女の肩を軽く触り、スバルはゆっくり立ち上がった。

「島の中を探索に行こうか」

「うん!」

 スタッフにバレないようテントから出るとスバルとミソラはコソコソと島の森の中へと入っていった。

「無人島の……しかも静かな森の中を歩くって、なんだか、肝試しみたいだね」

「ふふっ……ミソラちゃんと肝試しか。怪我が治ったら、二人で肝試ししようか」

「うん!」

 力強く頷き、ミソラはそっと自分を支えてくれているスバルの身体に密着した。

「スバル君の身体って温かいね」

「そ、そうかな」

「うん……心臓の音も、この距離からも聞こえるし、なんだか、新しい歌が生まれてきそう」

「どんな歌」

「……ハートかな」

「まんまじゃないか」

「えへへ……」

 真っ赤になってテレるミソラにスバルもクスッと笑った。

「うん」

 耳がピクンッと動き、スバルは、シッと人差し指を立てた。

「どうしたの、スバル君」

「なにか聞こえる……こっちからだ」

 ガサガサと林道を掻き分け、顔だけを出すとスバルとミソラはビックリした。

「あれって、もしかして、リツコさん」

「本当だ……でも、誰かと一緒だ」

 リツコと会話している男性にミソラは仰天した。

「大原ガイさんだ……今回のメインの一人だよ!?」

「若手実力トップに人気俳優。そして、僕の恋人の響ミソラか……そうそうたる顔ぶれだね」

「何気にノロけないでよ……テレるよ」

「ふふっ……ごめん」

「このバカ!?」

 怒鳴り声が響き、二人は慌てて、リツコとガイを見た。

「ホトホト呆れた!」

 ガイの血相にスバルとミソラは少し怯えた顔をした。

「前からお前がミソラちゃんに嫉妬してたことは知っていたが仕事にまで持ち込むとは見損なったぞ」

「……」

 ガイの怒鳴り声に反論を返さないリツコにミソラは意外な顔をした。

(あのリツコさんが言い返さない……?)

「確かにお前がミソラちゃんと同じ年の頃はまったく売れず、方々を駆け回って、小さな役を少なく貰っていた時期だったが」

「……だって」

「だってじゃない!」

 ビクッと身体を強張らせた。

「怪我をしたって聞いて、俺がどれだけ心配したか、わかってるのか!?」

「ご、ごめんなさい」

 素直に謝るリツコにスバルとミソラは今度こそ本気で驚いた顔をした。

 だが、ガイの怒りは収まるところを知らず、さらに怒気を上げて、怒鳴り声を上げた。

「後輩を怪我させただけじゃない!? この怪我で今後のお前の芸能活動に支障がきたらどうする!? お前の今までの努力が無駄になるんだぞ!?」

「……わ、わか……って……うぅ」

「泣いても俺は許さないぞ!?」

「うぅ……うぅ……うっ」

 必死に泣き止もうとするリツコにガイも呆れたようにため息を吐いた。

「反省してるか」

「……でも」

「でももストライキもない!? ミソラちゃんを目の敵にしてるのは見方を変えれば自分を見下げてる証拠だ!? 俺はそれが一番許せない!?」

「……ガイ」

 ガイの顔が真っ赤になった。

「お、お前が誰よりも努力しているのは俺が一番知ってる!」

 ふんっとテレ隠しに鼻を鳴らし、睨みつけた。

「ミソラちゃんは少しお前よりも才能があるだけだ! 実力ならお前のほうがずっと上なんだ! 自信を持て!?」

「う、うん……ありがとう……ガイ君」

「……ふっ」

 ガイの顔が初めて優しく微笑まれた。

「お前は安心するとすぐ俺を「君」付けで呼ぶ癖があるよな。やっぱり、そっちのほうがしっくりくるか」

「あ、あの……その」

 顔を真っ赤にするリツコにガイはゆっくり、人差し指で顎を上げ、キスをした。

「ッ!?」

 覗いていたスバルも慌てて、林道から顔を出し、ミソラの身体を抱きかかえ、走り出した。

「ス、スバル君、い、今、いい所!? なんで逃げるの!? 勿体無いよ」

「バカ!?_ 見つかったら怒られるだけじゃ済まないよ!?」

 慌ててミソラをテントの中に押し込むとスバルは荒い息遣いでいった。

「明日、帰りの船が着いたらいち早く起こすから、今日はおとなしく寝るんだよ」

「あ、スバル君」

「うん」

 立ち上がろうとするスバルの唇にキスをした。

「ぷはぁ……」

 唇を離し、ミソラは不安そうに聞いた。

「スバル君も、ずっと私と一緒にいてくれる」

「……」

 少し黙った後、背を向けた。

「明日、ちゃんと起こしにくるからね」

 テントが閉められるとミソラは這うように寝袋の中に入り、ランタンの光を消した。

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