「ズズ……」
小皿に盛った味噌汁の味を確かめるとスバルは下唇を舐め、うなづいた。
「味はこんなもんかな」
味噌汁の味に納得し、お椀に味噌汁を入れると、ふと一週間前のことを思い出す。
島からの帰還後、ミソラの回りは少しだけ慌しかった。
怪我の報道、契約をしているテレビ会社の出演は可能かどうかの確かめ……
散々怒られた後、ミソラは反省するまで一週間の自宅謹慎をくらったほどだ。
もっとも、自宅謹慎中、ミソラは足を動かせないことを言い訳にスバルを家に泊め、家政婦として働かせていたのだ。
はからみたら、同棲か、夫婦のような生活だ。
もちろん、その事はスバルの母も承認済みである。
こういう時、姑さんと仲がいいと、イレギュラーな対応もスムーズに話が進んでいい。(勉強になる)
「ん」
ぽろんぽろん……♪
「ミソラちゃん、新曲、作ってるのか」
トレイに味噌汁と朝食のおかずを乗せるとよっこらしょと持ち上げた。
(帰ってきたばっかの頃は覇気が抜けたように落ち込んでたのに、もう立ち直ってる……)
クスッと笑みが漏れた。
(それでこそ、ミソラちゃんだ?)
部屋の奥から流れてくる綺麗な音楽にスバルは出来上がった朝食を食卓のテーブルに並べた。
「うん、おいしそうに出来た!」
一週間、三食バリエーションをつけて料理を作っているのだそれなりにはうまくもなる。
いい主夫になるぞ、スバル?
着ていたエプロンを脱ぎ、ミソラを呼ぼうと彼女の部屋へと向かった。
ドンガラガシャン!
「ミソラちゃん!?」
派手な音が鳴り、何事かと慌ててミソラの部屋に入った。
そして、呆れた。
「なにしてるのミソラちゃん」
「ス、スバル君……助けて」
見事にパジャマ姿のまま引っくり返ったミソラにスバルはため息を漏らした。
「まったく……今、起こすよ」
「ゆっくりお願いね……この体勢キツイ」
「はいはい」
気の無い返事を返すスバルだがその内心は動揺を隠せずにいた。
(パ、パジャマ姿だから、ブラをつけてない……!?)
ほんのちょっとパジャマの隙間から漏れる胸のポッチが見え、カァ~~と赤くなった。
「エッチ……♪」
「ち、ちがう!」
ふふっと嬉しそうに笑うミソラにスバルは自分をごまかすように彼女の身体を抱き起こした。
「で、なにしてたの」
首をコキコキ回し、呼吸を整えるとミソラはテレ笑いした。
「ブログを更新しようかとベッドから降りたら、しばらく足つかってなかったでしょう。だから……」
「転んじゃった訳だ」
「えへへ」
「もう、心配かけさせないでよ、ミソラちゃん」
「ごめんなさい……」
シュンッとなるミソラにスバルも怒る気になれず、思わず頭を撫でてしまった。
「子ども扱いしないでよ!?」
ムゥ~~と子供のように頬を膨らませるミソラにスバルも愛おしくなり、思わず抱きしめたくなる衝動を抑えた。
「パソコンは僕がつけるよ」
ピッとパソコンのスイッチを押すと、モニターが高速で起動し、自動的にブログのページが開かれた。
(器用な設定を知ってるもんだ?)
「ところで、なんで、いきなりブログを」
「明日から仕事に復帰できるでしょう」
(そっか……謹慎期間は明日で終わりか?)
ちょっと寂しさを覚えながらもミソラの話を聞いた。
「だから、その間、ファンの人たちをガッカリさせたお詫びと仕事に戻る報告……ん!」
一人じゃうまく立てないことをアピールするように、ミソラは子供のように両手を広げた。
「……ふぅ」
子供っぽいミソラの態度に思わず、微笑がもれ、彼女の両脇に手を入れた。
「あん♪ くすぐったいよ」
「ジッとして」
ほぼ治りかけている足を気遣いながら抱き起こすとスバルはパソコンのイスを引き、ミソラを座らせた。
「ありがとう!」
「いいよ、別に」
優しく返事を返し、パソコンを見た。
「ッ……!?」
『ミソラちゃん、ガンバ!』
『怪我、早く治してね?』
『今度のライブ、必ず行くからね?』
『無茶しすぎちゃダメだよ。俺たち、ミソラちゃんの味方だから」
『結婚してくれ!』
最後だけ、ムカッと来たが、ブログのコメントは全てミソラを応援するファン達の暖かいメッセージで溢れかえっていた。
「……ぐす」
思わず鼻をかんだ。
「私、アイドルやれてよかったって、今ほど、思えたことは無かった……本当に皆ごめんね。勝手に怪我して」
「ミソラちゃん……」
心の底からファン達の暖かい応援が嬉しかったのか、涙を何度も拭うミソラにスバルは少しだけ寂しい思いを感じた。
(そうだよな……考えてみれば、外に出れば僕だけのミソラちゃんじゃないんだよね?)
「……スバル君」
急に黙りだすスバルにミソラは確かめるように聞いた。
「もしかして、今、ヤキモチ焼いてる」
「ッ……!?」
図星を突かれ、思わず真っ赤になるスバルにミソラはクスクス笑った。
「大丈夫だよ」
イスを回転させ、スバルの顔を見上げた。
「『アイドルとしての響ミソラ』は皆のものだけど、『本当の私としての響ミソラ』は君だけのものだよ」
そういい、ミソラはスバルの首の後ろに手を回し、そっと顔を近づかせた。
「ンッ……」
唇を重ねた。
「……」
「……」
静かな空気が流れ、スバルとミソラは唇を離した。
「スバル君……」
キスを終えるとミソラはスバルの手を握り、そっと、自分の左胸に押し当てた。
「ほら……これが『本当の響ミソラ』! 心臓の鼓動をじかに感じるでしょう」
「も、もう……ブ、ブラ、つけてないのにそんなことしちゃダメだよ」
「君にだけだよ……こんな事するの」
さっき以上に真っ赤になり、スバルは座っているミソラの身体をお姫様のように抱っこした。
「ス、スバル君」
急にお姫様抱っこされ今度はミソラが真っ赤になった。
「朝ご飯、出来てるよ……これ、食べてからブログ更新しなよ。その後、二人で一緒に遊ぼう」
「……う、うん」
スバルに抱かれた腕をそっと撫でた。
「大好きだよ……スバル君……本当に大好き」
「……」