流星のメモリアル   作:スーサン

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肝試し in 病院

 夏真っ盛り。

 涼しくなった月の夜。

 今日は年に一回の夏祭りである。

 この日、ミソラは去年、スバルと結ばれたときの浴衣を着て、神社の鳥居の前で立っていた。

「……もうそろそろかな」

 左腕につけた腕時計を眺め、ふぅと息を吐いた。

「あれから、もうそろそろ一年か」

 でも、確か、去年も十歳くらいだった気が……気のせいだよね?

 首を強く振り、スバルを待つこと五分。

 暗闇の向こうから一人の少年が走ってきた。

「お~~い、ミソラちゃ~~ん!」

「あ、スバル君!」

 浴衣の着崩れを防ぐため、手を軽く振るミソラにスバルも慌てて駆け寄り、膝に手をついた。

「ご、ごめん……待った」

「うぅん……ちょうどだよ」

「そっか」

 よかったとアゴに伝った汗を手の甲で拭い、暑さで火照った身体を手団扇で扇いだ。

「ふふっ……必死のスバル君って可愛い」

 持っていた手提げカバンから一枚の団扇を取り出した。

「これあげる」

「団扇……」

 ホタチを持ったラッコの団扇を貰うとスバルは確認するように聞いた。

「これって、今、人気爆発のアニメの主要モンスターの絵だよね」

「うん! この前、スタジオの人から貰ったの。なんだか、他人のような気がしなくって」

「他人のような気がか……」

 なんとも生意気そうなラッコの団扇を扇いでみた。

「お、これはいいや」

「でしょう!」

 もう一つ、手提げカバンから団扇を取り出し、扇いだ。

「今度はこっちがその団扇に親近感を持つな」

 カードを構え、クールに微笑む少年の絵にスバルは苦笑いした。

「さぁ、なかに入って遊ぼう」

「そうだね」

 境内の中に入るとミソラは早速、出店の一つを見つけ、手を引っ張った。

「射的やろう、射的!」

「う、うん……いいけど」

 チロッと店主の男を見た。

 ホッと胸を撫で下ろした。

「今回は十郎さんはお休みか」

「なに言ってるの」

「こっちの話……それよりも、おじさん、二人ね」

「はいよ!」

 投げ渡すように二本のライフルを受け取り、構えた。

「よし、やるとしますか」

「私からいくね」

 ガチャンッと銃を構えるとミソラは固目を瞑り、引き金を引いた。

 パンパンと玩具のライフルからコルクの弾が撃ち放たれた。

「てりゃてりゃ!?」

 何度もライフルの引き金を引き、コルクの弾を撃つも、全てあらぬ方向に飛び商品の後ろの壁にぶつかり、地面を転がった。

 涙目で肩を落とした。

「全弾外れた……」

「ちゃんと、照準合わせないと外れるよ」

 失敗したミソラにスバルは笑いながら細長いライフルを片手で器用に構えた。

 バンバンッとライフルの弾を連続で撃ち放ち、商品が倒れていった。

 思わず拍手を送った。

「さすが、主人公!」

「……」

 なにを言ってるかわからず、スバルは不思議な顔をした。

 

 

「結構、ボロイ商売だったな」

 射的で手に入れた商品を見てニシシと笑った。

 ゲーム機にソフト、お菓子の詰め合わせに人気独楽ゲームの玩具まで手にいれ、スバルはご満悦だった。

「ほら、手に入れた飴、一つあげるね」

「あ、ありがとう……」

 ちょっと浮かれすぎのスバルにミソラは面白くない顔をした。

 これじゃあ、去年と変わらないよ……なにか新しいイベントを……

『え~~……これより、ベイサイドシティー夏祭り最大のイベント、カップル肝試しを始めます!』

「カップル肝試し」

 病院の見える境内の外を見つめ、ミソラは慌ててスバルの手を引っ張った。

「見に行こう!?」

「ちょ、荷物が……」

「そんなの誰かにあげちゃいなよ」

 商品を奪い取るとミソラは近くで遊んでいた子供たちにプレゼントした。

「ああ……僕の戦利品が」

「はいはい、早く行こう」

 ギュッと手を握り締め、ミソラは境内の外にセットされたステージに向かって走り出した。

 

 

 ステージにつくと太り気味の中年が夏の夜にふさわしいのかふさわしくないのか妙なテンションで声を上げていた。

『みんな~~~~!? 夏は好きか~~~~~!?』

「お~~~~!」

 まるでライブのような盛り上がりにミソラはステージの裏の病院を指差した。

「見て見て、あの廃病院……きっと、あそこが肝試しの舞台だよ」

「……そ、そうだね」

 元々、怖いものが得意じゃないスバルだがミソラの手前、怖気づくわけにも行かず、胸を張った。

 小指を立てたマイクを握る男は陽気に叫んだ。

『今年もやってきました、ベイサイドシティー肝試し! というよりも、今回、初めて催す企画ですけど、今年も来ました!』

 一瞬で空気が凍るのも構わず、男は後ろの病院を指差した。

『この病院は、昔、ある一流病院でした。しかし、その治療診断はあまりにもずさんで、数多くの医療ミスを繰り返し、患者を殺していったのです!』

 男のテンションとは別にステージに集まっていた男女の反応がざわめいた。

『殺された患者は自分を殺した医者に復讐をしに病院に現れ、血の惨劇を繰り返しました』

「怖い話をするテンションじゃないな……あの人」

 明らかな人選ミスに誰も怖がっていなかった。

「それ以降、よほど図太い性格の人以外、この病院にくることがなくなり」

「図太いって言っちゃったよ……」

「ついに悪霊は除霊されることなく、病院は廃業。未だに霊は病院を徘徊し、自分を殺した医者を探しているんだぜェェェェェェェェ!」

 ロックじゃないのにロック口調で最後を締める男に場の空気が一瞬でしらけた。

「まぁ、そういう設定です。本当は経営難で潰れただけの病院です」

 ただでさえ怖くない話にネタバレまでされ、ステージに立っていたカップルの額に青筋が立った。

「あれ」

 気付いたら、スバルとミソラの回りは誰もいなかった。

 

 

 たった一組の参加となってしまったスバルとミソラは病院のドアを開け、ゴクリと喉を鳴らした。

「な、中は結構、怖いね」

「ふ、雰囲気って奴かな……なんだか、ここだけ妙に涼しいし」

 辺りを警戒しながら、二人は最初のチェックポイントである一階の病室へと入った。

「この中に藪医者に殺されたという患者さんのベッドがあるのか」

 四つほどあるベッドの一番奥に妙なふくらみのあるベッドがあり、近づいた。

「い、いくよ」

「う、うん……」

 二人とも覚悟を決めた顔で、布団を引っぺがした。

「ウギャァァァァァァ!?」

「キャァァァァァァァ!?」

 悲鳴を上げ抱き合った。

「あ……」

「う……」

 抱き合った自分たちに顔を赤らめ、慌てて離れた。

「ご、ごめん……」

「う、うぅん……でも」

 ベッドで眠っている人形を見つめた。

 恐ろしい形相で腐り堕ちた演出の凝られた死人の人形に二人は心臓が飛び出しそうになった。

「あのおじさんがいなかったら、この肝試し、絶対成功してたはずだよ」

 よく見ると左胸の蛆のわいている(風に演出された)穴の中に一枚の紙が入っていた。

「……」

 お互い見つめあい、スバルは意を決し、穴の中に手を入れた。

「うぅ……感触までリアルに再現してあるよ」

 じゅらじゅらとなにが蠢くものも感じ、スバルは中から紙を取り出した。

「あった!」

 「チェックポイント1達成」と書かれた紙であった。

「……け、結構、面白いかも」

「た、確かに……」

 二人とも寿命を縮めた顔で病室を後にした。

 

 

 次に辿り着いた場所は病院の最上階の院長室であった。

 ここに第二のチェックポイントの紙があるらしい……

「……ここは普通だね」

「まぁ、院長室だしね」

 中に入ると二人は机の上に乗っている診断書を見つけた。

「……」

 診断書を手に取ると二人は悲鳴を上げそうになった。

「臓器売買リスト!?」

「子供の年齢まで書いてある!? これはシャレにならないよ!?」

 慌てて診断書の一番下を抜くと二人はグッタリした。

『チェックポイント2達成』

 

 

 手術室に入ると二人は本気で腰を抜かしそうになった。

「血糊の後が壁いっぱいについてる……」

 思わずスバルに抱きつき泣き出しそうになるミソラにスバルも萎える気持ちを抑え、手術台へと足を運んだ。

「うげぇ……」

 まるで麻酔無しで手術したかのように作られた苦悶の少年の顔にスバルは倒れそうになった。

「本当に怖い病院だよ……」

「あ、足元に紙が落ちてる」

「本当だ……」

 紙を拾い、読み上げると……

『上を向け』

「うん」

 首を上げた。

「キャァァァァァァ……スバル君!?」

 天井に吊るされた臓器の取られた死体人形に二人は腰を抜かした。

「あのおじさんがいなかったら、絶対に成功してるよ、この企画」

「無駄にお金かけすぎ……」

 

 

 十分して、なんとか腰が動くようになった二人はスッカリ怯え、気付いたら抱き合ったまま歩いていた。

「こ、これで最後だね……」

 最後のチェックポイントの霊安室を出ると二人は涙目でため息を吐いた。

「良かった……ここは、なにも出なくって」

 拍子抜けだが、ここまで散々怖い思いしたのだ。

 もうホラーは十分であると二人は思っていた。

 チョンチョン……

「もう、スバル君、こんな時に肩を突っつかないでよ!?」

「なんのこと」

「え……」

 自分を落ち着かせてくれるため、握っててくれている両手を見つめ、ミソラは真っ青になった。

「ま、まさか……」

 そっと、振り返ってみた。

「べろべろば~~~♪」

 グロテスクなゾンビが自分に向かって襲い掛かってきた。

「イ……」

 真っ青になったミソラの目から大量の涙が溢れ出してきた。

「イヤァァァァァァァァァァ……!?」

 ペタンと床に腰を落とし……

「うぇぇぇぇぇぇん……」

 大声で泣き出してしまった。

「……ミソラちゃん」

 退行したように泣きはらすミソラにスバルはどうしていいか、頭の後ろを掻いた。

 

 

「ぶぅ……」

 スバルにおんぶされたまま、家まで帰るとミソラはぶつぶつ文句を言っていた。

「あんなの卑怯だよ……落ち着いた瞬間のフェイントなんて誰だってビックリするよ」

「ま、まぁ、僕も存外、怖がりだけど……」

(ミソラちゃんと一緒だと不思議と勇気がわいてくる)

 などと恥ずかしくって、言えなかった。

「スバルくぅ~~ん……今日はウチに泊まってよ。今日は怖くって、一人じゃ眠れないよ~~……」

「また、そんなワガママ言って」

「だ、だって……あの廃病院が……」

 ジワッと涙を流すミソラにスバルは慌てて肯定した。

「わ、わかったから、ここで泣かないで!?」

「……本当」

 涙声で確認するとスバルは何度も首を縦に振った。

「だ、だから、泣かないで……ねぇ」

「う、うん……えへへ♪」

 ミソラの顔にようやく笑顔が戻り、スバルはホッとした。

(よかった。ミソラちゃんに泣かれると……うん?)

「スバル君」

「ミソラちゃん」

 急に身体を前に動かすミソラにスバルは転ばないようにバランスを整えた。

「ありがとう、スバル君」

 おんぶされたまま、ミソラはスバルの頬にキスをした。

 チュッ……

「ミ、ミソラちゃん……」

 真っ赤になるスバルを無視し、ミソラは彼の背中に身体を預けた。

「スバル君と一緒だとなにも怖くないよ……」

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