流星のメモリアル   作:スーサン

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響ミソラ五歳、職業アイドルの喜劇【前編】

 ピピピピピピ♪

「うぅ~~……」

 鳴り響く目覚ましの音にミソラは寝ボケ頭のまま、ベッドから腕を伸ばした。

 ひらひら……

「あれ……確か、ここら辺に目覚まし置いたはずなんだけど」

 妙に重い身体を起こし、ベッドから降りようと立ち上がるとゴロンッと落っこちしまった。

「あいた~~~~!?」

 タンコブの出来た頭を押さえ、泣き出しそうにベッドを睨んだ。

「このベッド、大きすぎだよ! こんな大きなベッドで寝てないよ、私……!」

 文句をいいながらミソラは立ち上がった。

「あれ」

 そして、世界が変わっていることに気付いた。

「なんか、部屋が大きくなったような」

≪ミ、ミソラ……気を確かに持ちなさい?≫

「あ、ハープ。なんだか、アナタも大きくなってない?≫

 自分よりも大きくなったハープにミソラは不思議そうな顔をした。

 ハープは水色の顔(身体?)をさらに真っ青にして、オシャレ用の姿鏡を持ち出した。

≪いい、気を確かに持ちなさい!≫

「……」

 一回深呼吸し、ハープは姿鏡をミソラに見せた。

「ッッッッッッ!?」

 絶句した。

「私の身体、小さくなってるゥゥゥゥゥゥ!?」

 

 

「あれ……電話に出ないな」

≪お前のほうから、あの女に電話なんて珍しいな?≫

「ま、まぁね」

 テレ笑いをし、スバルは机の上に置いてある二枚のチケットを見せた。

「実は市民プールの無料券を手に入れたんだ」

≪はぁは~~ん。お前の魂胆は見えたぜ。それであの女の水着姿でも拝もうってことか?≫

「アハハ……当たらずも遠からじ」

≪当たってるだろう?≫

 クックックッとからかうウォーロックにスバルも満更でない顔で笑った。

 ピンポ~~ンとチャイムの鳴った。

「こんな朝から誰だろう」

 部屋から出て、玄関まで足を運んだ。

 ドアを開けようとドアノブに手をかけようと手を伸ばす。

 だがそれより早く、ドアが勝手に開いた。

 黒い影がバッと襲い掛かってきた。

「おわぁ!?」

 ドシンッと大砲が撃たれたようにお腹に強い衝撃を走り、スバルは倒れてしまった。

「いたた……」

 いきなり飛びつかれ、スバルは自分の胸で泣きつく五歳くらいの女の子を認めた。

「君は……」

「しゅばるくぅ~~ん……」

「……ッ!?」

 スバルの目とウォーロックの目が大きく見開かれた。

「ミソラちゃん!?」

 

 

 話を聞き終えるとスバルの母、あかねは飲んでいた紅茶をテーブルに置いた。

「ようするに朝、朝起きたら、身体が五歳くらいに小さくなってたってことね」

「うぅ……グス……う、うん」

 ここまで来るのによっぽど苦労したのか、泣くのを我慢しないミソラにスバルは優しく涙を拭ってあげた。

「原因はわからないの」

「全然……朝、起きたら急に」

 涙目でスバルを見た。

「このまま大きくならなかったらどうしよう」

「そ、それは……」

 安い言葉もかけられずスバルは困った。

「いいじゃない、小さくたって」

「母さん!?」

 キツく睨むスバルを無視し、あかねはニコッと笑った。

「小さくたって、ミソラちゃんはこんなに可愛いんだし、スバルだって、小さい女の子は大歓迎よね」

「え……か、母さん」

「だ・い・か・ん・げ・い・よね」

「は……はい」

 怖いオーラで睨まれ、スバルはつい首を縦に振ってしまった。

 しかし、その心情は穏やかじゃなかった。

 いくら、小さくなってるからといって、精神年齢は自分と同じ十歳。

 この状態のままでもキスは出来るし、今までどおりに付き合いだって出来る。

 でも……

(こんな小さい娘と間違いを起こしたら、この年でお縄だよ)

「それよりも、スバル……アナタ、ミソラちゃんに用があったんじゃなかったの」

「ギクッ……!?」

 左胸を押さえた。

「……」

 悟ったようにあかねはスバルの身体を羽交い絞めにした。

「ミソラちゃん、スバルの部屋を捜索せよ!」

「ラジャー!」

 ビシッと敬礼し、二階に上がった。

「ロック、ミソラちゃんを抑えて!?」

「ロック君は私とスバル、どっちの味方」

≪そんなのお袋の味方に決まってるだろうが?≫

「この裏切り者~~~~~~~~!?」

 バタンッと二階に繋がるドアが開き、ミソラが嬉しそうに飛び跳ねてきた。

「スバル君のエッチ♪ こんなの用意してるなんて」

「あ~~……見つかった」

 ガックシ肩を落とした。

「あらあら、ウチの子もプールに女の子を誘うほど大胆になったのね……でも」

 改めてミソラの身体を見て、あかねは慌てて買い物袋とお財布を取り出した。

「今から、身体にあった水着を買いにいきましょう」

「はい、お義母さん!」

 ビシッと指差した。

「スバル、その間にプールに行く準備をなさい!」

「え……でも」

「返事は!?」

「はぁい」

 抗うことも許されず、スバルは出かけていく二人に手を振った。

 

 

 

「うわぁぁぁ~~……」

 市民プールにつくとミソラは感嘆の声を上げた。

「スバル君、プールだよ! 早く泳ごうよ!? 私、流れるプールに入りたい!?」

「はいはい、その前に準備体操ね」

 走り出そうとするミソラの身体をヒョイと持ち上げ、足だけがバタバタ宙を蹴った。

「それに休憩の時間みたいだし、この時間に準備体操の音楽が流れるんじゃないかな」

「うぅ~~……出鼻くじかれた」

「小さくなっても、相変わらずだね」

 ちょっとだけ、ホッとし、スバルは休憩スペースの一つにブルーシートを敷き、座った。

 すぐに音楽が流れた。

『ジェットジェットジェットマン!』

「ガクンッ!?」

 流れてきた音楽にスバルは即興した。

「なんで、ジェットマン体操。誰も、知らないでしょう」

 と思いきや、自分以外、ちゃんと(ミソラも)踊れていた。

「なに、流行ってるのジェットマン体操」

 歌に合わせた見事な激しい体操を終えるとスバルは疲れた顔でため息をついた。

「なんで、プールに着てまでジェットマン体操」

「ほら、スバル君、早く泳ごう!?」

「あ、ミソラちゃん!?」

 手を引っ張り、ミソラはスバルと一緒に流れるプールに飛び込んだ。

「ぷはぁ~~~!」

 プールから顔を出し、水滴を飛ばすように髪を振るとミソラは気持ち良さそうに微笑んだ。

「スバル君、このプール、足が地につかないほど深くって、気持ちいいね」

「いや、君が小さくなってるから、深いだけなんだけど」

「そうか……えへへ」

 なにが嬉しいのか、顔を綻ばせるミソラにスバルは呆れた顔をした。

(いいのかな、身体が小さくなったことを放置して遊んでて?)

 スバルの心配もよそにミソラは流れる波に逆らい泳ぎだそうとした。

「流れるプールといえば、やっぱり、波に逆らって泳ぐのが楽しいよね、うぷぅ!?」

 波に逆らって泳ごうとした矢先、やたら恰幅のいい男にぶつかり、転覆してしまった。

「あばばばば……」

 水中に流され、ようやくプールから顔を出すと、泣き出しそうになった。

「し、死ぬかと思った……あれ」

 首を左右に振り、真っ青になった。

「スバル君がいない!?」

 自力でプールから這い上がり、叫んだ。

「スバル君くぅ~~ん!」

 数人の大人が心配そうに自分を見た。

「ど、どうしよう……はぐれちゃった」

 一瞬で不安に陥ったのか、目から大量の涙を流し、ミソラは大声をあげた。

「スバルくぅ~~ん! どこにいるのぉ~~……隠れてないで出てきてよぉ~~……」

 流れるプールから離れ、ミソラは市民プールを歩き回った。

「スバルくぅ~~~ん……ぐすん」

 嗚咽を漏らすミソラに数人の大人が心を痛めるように素通りしていった。

 みんな、ミソラには同情的だったが、厄介事には首を突っ込みたくないのだろう。

 小さくなった反動が今になって出てきたのか、ミソラはうずくまり目をこすった。

「スバル君……スバル君……どこにいるの」

 泣き声を上げ、スバルを連呼するミソラの頭上から声がかかった

「お、お嬢ちゃん……どうかしたでふか」

「え……」

 顔を上げると全身脂汗をかいた太った怪しい男にミソラは泣き出した。

 

 

「ミソラちゃん!?」

 迷子センターにやってくるとミソラは泣きながら、スバルに抱きついた。

「スバル君~~……怖かったよ~~~!?」

「あ~~よしよし」

 泣きはらすミソラをあやし、太った男に頭を下げた。

「ミソラちゃんを保護してくれたようで、本当にありがとうございます!」

「いいでふよ。たまたま見かけただけだし、可愛い女の子はホカッちゃいけないって、お婆ちゃんが言ってたでふから」

 脂汗をかきながら、太った男は表情の見えない顔でミソラの頭を優しく撫でた。

「もう、お兄ちゃんから離れちゃだめでふよ」

「う、うん……ありがとう」

 泣きながらお礼を言うミソラに太った男も満足そうに頷き、背を向けた。

「じゃあ、自分は水上散歩のノルマが残ってるでふから、ここで……」

「ありがとうございました!」

 改めて深々と頭を下げると、厳しい顔をした。

「もう勝手にどこか行かない! 迷ったら、その場でジッとしてること! いいね」

「う、うん……わかってるよ」

 グシッと涙を拭い、ミソラはヒックヒックと嗚咽を漏らした。

 スバルが来るまでよっぽど、寂しい思いをしていたのだろう。

 その表情はまだ不安でいっぱいであった。

「約束だからね」

 厳しい顔を解き、頭を撫でた。

「僕は君が憎いからこんなこと言ってるんじゃないよ。本当に心配してるから怒るんだよ。わかるね」

「う、うん……ごめんなさい」

 シュンッと謝るミソラにニコッと笑った。

「それがわかってればいいんだ……また休憩に入ったし、その間に泣き止んじゃおうか」

「う、うん……でも、その前にいきたいところがあるんだけど、いい」

「いきたいところ」

 

 

「うん……はぁ」

 プールに設置されているトイレの裏側でキスを交わすと、スバルは真っ赤になった。

(幼女とキスしてるみたいでいつも以上に興奮するな?)

 というよりも、本当に幼女とキスをしているのだが……

「えへへ……スバル君、もしかしてロリコン」

「う、うるさい! それよりも……」

 キョロキョロ辺りを伺い、コッソリ、トイレの裏側を出た。

「こんなの誰かに見られたら、それこそ、犯罪だよ」

「私はスバル君となら堕ちるところまで堕ちてもいいかな」

 ガシッと頭を押さえつけた。

「言っていいコトと悪いことを知ってる」

「えへ~~~♪」

 怖い顔をするスバルを物ともせず、ミソラは無邪気な顔で抱きついた。

「お兄ちゃん大好きだから、怖い顔しないで♪」

「お、お兄ちゃん……!?」

 スバルの顔が真っ赤になった。

 お兄ちゃん……

 お兄ちゃんお兄ちゃん……

 お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん……

 お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん……

 頭の中にたくさんのお兄ちゃんという言葉が木霊し、気付いたら……

「ス、スバル君、鼻……!?」

「あ……」

 大量に流れる鼻血にスバルは気付いたら倒れこんでしまった。

「ス、スバルくぅ~~~~~~ん!?」

 辺りを血の海に染めながら、スバルは安らかに気を失っていった。

 星河スバル、十歳。

 早くも新しい扉を開いた賢人であった。

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