流星のメモリアル   作:スーサン

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永遠に近い眠り

「『響ミソラニューシングル Nice to meet you』、今月、発売か?」

 ハンターVGから送信された、「響ミソラ情報サイト」の記事にスバルは頭の後ろを掻いた。

「実はもう、ミソラちゃんから貰ってるんだよね……これ?」

《お前、気に入ってたよな?》

 ハンターVGから漏れるウォーロックの声にスバルはニコッと笑った。

「シューティング・スターに負けない名曲だからね? 僕とミソラちゃんの出会いが綴られた詩……聴いてて懐かしくなるよ?」

 昔を懐かしむように空を眺めた。

 本当に奇跡的な出会いである。

 お互い自分の殻に篭り、人を遠ざけていたのに気づいたら自分達が人を近づける存在になっていた。

「ロック……君のおかげだよ」

《え……?》

 ウォーロックの顔が真っ赤になった。

「さて……今度のデートの準備しないといけないかな? 今度の日曜は一緒に服を見る約束だし、その後、どこに行こうかな?」

 青信号に変わった横断歩道を渡った。

 スバルの顔は幸せいっぱいで今度のデートのことですでに足取りが軽かった。

 ウォーロックも呆れながらスバルに微笑んだ。

 だが、すぐにその目が吊り上がった。

《スバル、避けろ!?》

「え……?」

 スバルの身体が鈍い衝撃と同時に空中へと殴り飛ばされた。

 コンクリートの大地に身体を打ち付けるとスバルの口や鼻、目から大量の血が噴出し痙攣が走った。

「ちょ……これ、ヤバイくない!?」

 スバルを撥ねた車から中学生くらいの女子が現れた。

「お、落ち着け!? とりあえず、逃げるぞ!?」

 同じように中学生くらいのチャラい男が車から現れ、女子にさっさと乗れと命令した。

《テ、テメーら、待ちやが……》

「ヒィィィ!?」

 慌てて車に乗り込み逃げ出す男女にウォーロックは舌打ちした。

《今はあいつらの相手をしてる暇はない!》

 痙攣して動かないスバルにウォーロックは慌ててハンターVGの中へと入り、緊急回線を開いた。

 

 

「ロック君!」

 病院にたどり着くとミソラはウォーロックの肩を掴み怒鳴った。

「スバル君が轢き逃げにあったって、どういうこと!?」

《……》

「答えて!?」

「ミソラちゃん……落ち着いて」

 動揺を隠せないミソラの肩をスバルの母、あかねが抑えた。

「……お義母さん」

 ウォーロックから肩を放し、あかねに聞いた。

「なにがあったの……?」

「ロック君が言うには信号無視で走ってきた車に撥ねられたみたい」

「犯人は!?」

「まだ、捕まってないみたい……でも」

 目から大粒の涙が溢れた。

「予断を許さないみたい……もしかしたら覚悟を決めておいたほうがいいと」

「……」

 真っ青になるミソラにウォーロックは、なにも言わずランプのついた手術室を見つめた。

(お前、ヒーローだろう? ヒーローが情けない死に方するなよ?)

 ピンッと手術室のランプが消え、三人の目がドアに注がれた。

 手術室のドアが開くと出頭の先生が現れミソラは掴みかからんまでに叫んだ。

「スバル君は大丈夫なんですか!?」

「……」

 一瞬、心を落ち着けるように深い息を吐くとニコッと笑った。

「無事、手術は成功しました」

「……成功?」

「はい! もう大丈夫です……すぐ、目を覚まします!」

「あ……ああ」

 へなへなと腰を抜かし、ミソラは子供のように目頭を押さえた。

「よかった……生きてたんだ」

「でも、当分は検査入院をしてもらいますが安心してください!」

「はい!」

 ミソラの元気のいい返事に先生もやり遂げた顔でホッとした。

 だけど、その日、スバルが目を覚ますことはなかった。

 

 

「……」

 病室に入るとミソラは眠っているスバルの顔を見た。

「……今日で一週間か?」

 まるで昼寝してるように安らかに眠っているスバルにミソラは悲しそうに唇を結んだ。

 あの手術の日から、スバルは一度も目を覚ましてない。

 先生が言うには、脳に異常はなかったらしい。

 寝たきりの状態も原因がわからず、手の施しようがない。

 医者の先生の言葉はそうであった。

「……」

 スバルの顔を見つめ、ミソラはなにも言えず、黙り込んだ。

《まるで今にも起きだしそうな顔よね?》

 ハンターVGから飛び出したハープにミソラは少し疲れた顔で近くのイスに座った。

「一命を取り戻したはずなのにスバル君は目覚めない……犯人も一向に見つからない」

 ギュッと拳を握り締めた。

「スバル君がなにをしたっていうの!? 世界のために命をかけたのにこんな仕打ち、あんまりだよ!」

《落ち着きなさい、ミソラ……アナタが怒っても、事態は解決しないわよ》

「でも!」

《ミソラ……今は信じて待ちましょう? それが私たちに出来ることよ》

「……ハープ」

 必死に自分を落ち着けようとするハープにミソラもちょっとだけ平静を取り戻せたのかゆっくり首を縦に振った。

「ありがとう……ハープ」

《……》

 ガラッとドアが開き半泣き状態のあかねが入ってきた。

「お義母さん……」

 慌てて立ち上がろうとし、ミソラの身体がふらっとした。

「ミソラちゃん!?」

 慌ててミソラの腕を掴み、ビックリした。

「腕が細くなってるじゃない……」

「……大丈夫」

 腕を放し、ニコッと笑った。

「スバル君のお見舞いですか?」

「……」

 あかねは溢れる涙をハンカチで拭った。

「さっき、先生に言われたの……」

「え……?」

 嫌な予感がした。

「このまま、スバルが起きないようなら尊厳死も考えてくれって……」

「尊厳……死!?」

 顔が今までにないくらい真っ青になった。

 尊厳死。

 脳死などの目覚めることのない人間の延命措置をやめ、生命の尊厳を守らせたまま死なせるという医療措置の考えのひとつ。

「う、嘘だ!」

 大声で怒鳴るミソラにあかねも涙を堪えようとせず首を振った。

「本当よ……今のスバルは医学的に、どうして目覚めないのかわからない状態なの。延命措置を続けるとお金も大きく絡むとも言われたわ」

「お義母さんはスバル君とお金、どっちが大切なんですか!?」

「そんなのスバルに決まってるじゃない!」

「ッ……!?」

 怒鳴り返され、ミソラは尻餅をついた。

 あかねも自分が怒鳴ったことに気づき、今度こそワァッと泣き出した。

「なんで……スバルがこんな目に!?」

「……お義母さん」

 ゆっくり立ち上がり、ミソラは子供のように泣き崩れるあかねを見て、拳を握り締めた。

 

 

 その日の夜……

 病院の消灯時間を過ぎると病室のドアがガチャッと開いた。

 真っ暗な部屋の中、コッソリ侵入してきたミソラは音を立てず、近くのいすに座った。

「……」

 しばらく、スバルの顔を見つめた。

「私……スバル君の尊厳死なんてさせないよ!」

 答えを返さないスバルにミソラは構わず続けた。

「例え、何年、何十年続いても……何十、何百、何千万とお金がかかっても必ずスバル君は目覚めさせる……例え、この身体が汚れても、絶対にスバル君だけは」

 ポロッと涙が頬を伝った。

「きっと、スバル君が目覚めるときには私はもう、スバル君にふさわしくない女の子になってるかもしれない。でも、それでも……えッ!?」

 ミソラの腕が掴まれた。

「ミ……ミソラちゃ……ん……」

「スバル君!?」

 寝言をささやくスバルにミソラは慌てて腕を放し、肩を掴んだ。

「スバル君、私がわかるの!?」

《ミソラ、私はここに残ってる先生を呼んでくるわ!? その間、叫び続けなさい! スバル君が二度と寝ないように!》

「う、うん!」

 病室を出て行くハープに頷き、ミソラはスバルの肩を放し、確かめるように叫んだ。

「スバル君、覚えてる? 私たちの出会い? 私、最初、スバル君を一人で展望台にいる変わった子だなと思ったんだよ? でも、不思議とスバル君に惹かれる自分を感じて……だから、ヘルプシグナルを出した時、君が現れて、すごく嬉しかった!」

 僅かにスバルのまぶたが振るえた。

 ミソラはスバルの手を掴み、ギュッと握り締めた。

「二人の初めてのデート、覚えてる? あの時はルナちゃんがオヒュカスに身体を乗っ取られて大変だったよね?」

「ミ、ソ……ら……ちゃ」

 苦しそうに唸るスバルにミソラは必死に昔のことを思い出そうとした。

「アイドル活動を再開した後、久しぶりに会ってデートした時は電波くんが私たちのせいで熱暴走してみんなに迷惑かけたよね?」

「熱……暴走」

「海に行ったときもヒールウィザードに荷物を取られて、スバル君、私の荷物を必死に守ってくれたよね? その後、ルナちゃんに散々、怒られたけど」

「あ……ああ」

 握った手をギュッと握り返され、ミソラは叫ぶように続けた。

「ルナちゃんの生徒会長就任パーティーのときも楽しかったよね? ジャック君も加えて、楽しく騒いで私の歌、聴いてくれて……あれは最高の思い出だったね、みんなが主役みたいで!」

 スバルの頬に涙が落ちた。

「全部……私にとっていい思い出なんだよ。だから……」

 スバルの身体を抱きしめた。

「起きてよ、スバル君! お願いだから、私を一人にしないでよ!?」

「痛いよ……ミソラちゃん」

「え……?」

 零れるような声にミソラは流れる涙も気にせず、スバルから身体を離した。

「なんで、泣いてるの?」

 不思議そうに笑うスバルにミソラは今度こそ、本当に決壊したように大声で泣き出した。

 それは一週間ぶりのスバルとの再会であった。

 

 

 三日後。

「う……」

 事故と一週間分の運動不足がたたって、スバルは今、病院のリハビリ室で必死に歩く練習をしていた。

「スバル君、頑張って!」

「はぁはぁ……」

 普通に歩くだけでも相当、疲れるのか、スバルは荒い息を吐いて、リハビリ用の取っ手に寄りかかった。

「ホラ、サボらない! 早く、こっちに来て?」

「う、うん……わかってるよ」

 ニコッと笑い、ミソラのもとまで歩こうとし、震える足を前へと進めた。

「お、お待たせ……」

 ようやく、ミソラの前にたどり着くと身体のバランスが崩れ、倒れだそうとした。

「わっと……!?」

 慌ててスバルを支え、クスッと笑った。

「これじゃあ、当分、デートはお預けだね?」

「ごめんね……でも、僕は今、楽しいよ」

「え……?」

 ミソラの顔が真っ赤になった。

「ミソラちゃんに応援されるとリハビリで折れそうなる心もまっすぐに立てそうだよ」

「スバル君……うん!」

「ミソラちゃん……」

「なに?」

「僕の近くにいてくれてありがとう!」

「私もスバル君が生きてくれて……本当にありがとう」

 嬉しそうに微笑みあう二人にリハビリ室の外で様子を眺めていたあかねは幸せそうに笑っていた。

 二人がまた、普通に歩いてデートが出来る日もそう、遠くなさそうである。

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