流星のメモリアル   作:スーサン

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温泉旅行でドキドキ伝説

 ガラガラ……ポト!

「おめでとうございます! 一泊二日温泉旅行ペア権、当たりました~~~~~~♪」

 けたたましくなる鈴の音にスバルは数回、瞬きをした。

「え……?」

 

 

 一週間後。

「よし! このカードに決めた!」

 引いたトランプのカードを見て、ミソラは両手を挙げた。

「私の上がり!」

 手持ちのトランプを全て捨てると、ミソラは感嘆にふけた顔で喜びをあらわにした。

「今日のミソラちゃん、機嫌がいいね?」

「それはそうだよ! スバル君から旅行に誘ってくれたの初めてだもん!」

「そうだっけ?」

「そうだよ! 大抵、私から誘って、スバル君が首を縦に振るだけだもん……」

 拗ねた顔でそっぽを向いた。

「たまには男の子らしくリードしてくれてもいいのに……お酒が入ると立派なくせに」

「お酒……?」

「べ、別になんでもないよ!」

 トランプに飽きたのか、向かい合ったイスにもたれかかるとミソラはこれから向かう温泉宿のガイドブックを開いた。

「ここ、かなり歴史が古いみたい……なんでも、近代技術から確立した空間を維持し、電波も通らない場所に拠点を置いてるみたい」

「どれどれ?」

 ハンターVGを取り出した。

「確かに電波は県外になってるね? ここじゃ、ロックマンにはなれそうに無いな?」

「そういう俗な話しやめない? せっかくの小旅行なのに……」

「ごめんごめん」

 クスクス笑い、走り抜けるバスの窓を見た。

「のどかな森だね?」

「うん……」

 外の風景を見て、ミソラは優しい目になった。

「都会と違って静かで自然も多い……いい旅行にしようね?」

「うん!」

「それに……」

 パラパラとガイドブックを開いた。

「これから行く、温泉宿、ちょっとした伝説があるみたいだよ」

「伝説?」

「うん!」

 開いたページをスバルに見せた。

「月の見える雨の夜の日にキスをした男女は永遠に幸せになれる! 憧れるよね~~~?」

「永遠の幸せね?」

 なぜか、スバルの顔が仏頂面へと変わった。

「ミソラちゃんは僕と一緒はまだ、幸せじゃないの?」

「わかってないな~~?」

 チッチッと指を振り、ミソラは流れる動きでスバルの首に腕を回し、艶っぽく笑った。

「今よりもっともっと、幸せになりたいんじゃない?」

「ぜ、贅沢だよ、その考えは」

「女の子は贅沢したい生き物なの」

 チュッとキスをした。

 

 

 旅館につくと、スバルは空を眺めた。

(雲一つない空だな……)

 伝説の実行は無理そうだなと失笑し、旅館のドアを開けた。

「すみません! 予約を入れた星河ですけど?」

「あ、はいはい!」

 愛想のいい女将が割烹着のエプロンで水に濡れた手を拭うと、笑顔で二人を迎え入れてくれた。

「いらっしゃいませ! 部屋の用意は出来てますよ!」

 マジマジとミソラを見つめた。

「響ミソラちゃん?」

「あ、はい……そうですけど?」

「やっぱり!」

 子供のように手を叩いた。

「予約のリストを見て、まさかと思ってたんですけど、まさか、本物に会えるなんて! あの、サインいいですか?」

「あ、その……内緒ですよ?」

「やった~~~♪」

 年甲斐もなく喜ぶ女将にスバルも嬉しそうに耳打ちした。

(ここでも、ミソラちゃん人気は健在だね?)

(えへへ……テレるな)

 テレた顔で女将が用意した色紙を受け取るとマジックペンでサインを書き始めた。

「女将さんの名前を書いたほうがいいですか?」

「お店の名前でお願いします。ちなみにここの名前は「永遠亭」です!」

「えいえんていよりと……」

 ひらがなで芸術的なサインを書く、ミソラにスバルは感心した。

(そういえば、僕、ミソラちゃんのサイン、見たこと無かったな……)

 ニコッと笑い、色紙を返した。

「もし、機会があったら、ライブにも来てくださいね?」

「ええ、必ず!」

 ギュッと手を握ると、女将は今更になって、仕事を忘れていたことに気付き、二人を旅館に案内した。

「それではこちらで……あの」

 今度はスバルに耳打ちした。

(どういったご関係で?)

(想像に任せます)

 女将の顔が生娘のようにキャ~~と緩んだ。

(失言したかな?)

 スバルもちょっとだけ、気恥ずかしそうに頬を人差し指でかいた。

「ここがお二人の部屋です」

 ふすまを開け、二人を部屋に案内すると女将は柔和な笑顔を崩さず旅館の説明を始めた。

「ウチの旅館は基本、時間に関係なく温泉に入ることが出来ます。お食事は何時ごろがよろしいでしょうか?」

「あ、こっちに合わせてくれるんだ?」

「はい! ウチの山で取れた新鮮な山菜を調理しますのでご期待ください!」

「新鮮な山菜か~~~?」

 ゴクリと喉を鳴らすミソラにスバルも苦笑した。

「じゃあ、七時頃にお願いします」

「はい! それでは、しばらく、旅の疲れをお取りください……」

 ペコリと頭を下げ、ふすまを閉じると廊下を歩く音が聞こえた。

「ふぅ……」

 畳の上に座るとスバルはサワサワと畳を撫でた。

「僕、畳の部屋、初めてかも?」

「私も! 畳は日本の心だから、落ち着くよね?」

 部屋の隅においてあった座布団を取り出すと対面するように二枚、敷き、パンパンッと叩いた。

「あ、これは失礼……」

 座布団に座りなおすとスバルとミソラは途端に静かになった。

「……」

「……」

 季節柄、蝉の鳴き声も聞こえない山の中でスバルはホッとした顔をした。

「なんだか、久しぶりだね? こういうノンビリしたデートは?」

「そうだね? 本当、静か……」

 静かな空間で二人っきりのミソラは顔を真っ赤にし、立ち上がった。

「お、お茶淹れようか?」

「お願いしていいかな?」

「任せて!」

 給水ポッドを調べるとお湯は出来ていたので、テーブルの上の急須にお茶ッ葉を入れるとお湯を注いだ。

「ふんふぅ~~ん……♪」

 急須を持ち上げ、円を描くように二、三回、振ると頭より高く持ち上げ、傾けた。

 じょろじょろ……

 宙で弧を描いて湯飲みに注がれるお茶を見て、スバルは手を叩いた。

「出来るもんだね?」

「えへへ……ちょっと、練習してみたんだ? ほら、おいしいお茶を飲んで欲しいし……もっとも」

 注いだ湯飲みを持ち、スバルに渡した。

「本当は湯飲みを暖めてから、お茶を淹れたほうがいいんだけど、お湯を捨てる場所、ここに無いし……ね?」

「それに、せっかく注いだお湯も捨てるのは勿体無いしね?」

 ズズッとお茶を飲み、スバルの顔が輝いた。

「おいしいよ! ミソラちゃん!」

「え……本当?」

 ミソラの顔も輝き、途端にテレた顔をした。

「で、でも、茶葉がいい可能性もあるし?」

 ミソラも自分の分のお茶を飲んだ。

(び、微妙……)

 喜んでお茶を飲んでいるスバルにミソラは前の山岳デートのことを思い出した。

(もしかして、スバル君、味オンチ?)

 ありがたそうにお茶を飲むスバルにミソラの心に疑心感が生まれた。

「あの……私の分のお茶も飲む?」

「え……で、でも、それって」

 真っ赤になるスバルにミソラはグイッと渡した。

「テ、テレる間柄じゃないでしょう……えへへ?」

 本当は、これ以上、まずいお茶を飲めないのが本音なのだが……

「あ、ありがとう……」

 お茶を受け取り、大切そうに飲んだ。

「やっぱり、おいしいね? いいお嫁さんになれるよ、ミソラちゃんは!?」

「……」

 味オンチ確定……

「さて……一服済ませたし? そろそろ、行こうか?」

「あ、そうだね?」

 部屋の隅に、たたまれた浴衣を取り、立ち上がった。

「私たちのサイズに合うかな?」

「ちゃんと、それように用意されてるよ……それじゃあ、行こうか?」

「うん!」

 

 

 湯気の立ち込める露天風呂でスバルは肩までお湯につかり、深いため息を吐いた。

「あ~~……いいお湯」

 ガラッ……

「新客?」

「うわぁ~~……! 前、来た温泉宿とは違った趣があるな?」

「え……?」

 スバルの顔が真っ赤になった。

「あ……!?」

 ミソラの顔も真っ赤になった。

「……」

「……キャ、キャァァァァァァ!?」

 慌てて背中を向け、身体を丸めた。

「な、なんで、スバル君、女風呂にいるの!?」

「ち、違うよ!? ここは……ここは?」

 目線を泳がせて二人の視線が一枚の張り紙に注がれた。

『ここは混浴です(ハート)』

 ご丁寧に最後の部分だけ、「ハート」をつけて、混浴をアピールする旅館スタッフに二人はどう突っ込めばいいか、悩んだ。

「あ、その……いいかな、お風呂入って?」

 せめて、少しでも肌が隠れるよう、タオルで見えちゃいけない部分を隠すミソラにスバルも真っ赤になりながら頷いた。

「ど、どうぞ……」

「う、うん!」

 普段は大胆な行動を取るミソラだが、こうイレギュラーな状況に立たされると、どうも調子がつかめなくなる。

 音を立てず、お湯の中に入るとミソラはスバルの背中に寄りかかった。

「ミ、ミソラちゃん?」

「ちょっとだけ……」

「うん……」

 空を眺めた。

「まだ、昼だし、雨も降りそうに無いな?」

 ガッカリするスバルにミソラもちょっとだけ、ガッカリした。

(なんだか、すごくドキドキしてるのに調子がつかめないな?)

 しばらくして、温泉で身体を温めると二人はそれぞれ、女子と男子に別れた脱衣所で浴衣に着替え、入り口で鉢合わせた。

 お互い、裸を見てしまい、妙に気まずい雰囲気が流れた。

 部屋までの廊下を黙々と歩いていると、大広間を通った。

「卓球の台だ?」

「本当だ!」

 最悪の雰囲気を払拭するようにミソラはスバルの手を握って走り出した。

「勝負しよう! 負けたほうは勝ったほうにジュースを一本、奢ること!」

「うん! 負けないからね?」

「返り討ちにはあわないよ!?」

 ペラペラに表の皮がはがれた、安っぽい卓球のラケットを手に取ると、軽く素振りをした。

「いくよ!」

 ミソラもピンポンを手に取り、軽くポンポンと卓球台の上でバウンドさせた。

「タァ!」

 パンッとピンポン球が打たれるとスバルも素早くピンポン球を返し、ラリーが返った。

「てりゃ!」

「トリャ!」

 目に留まらない卓球の弾にミソラとスバルは温泉で流した汗も忘れてラリーを続けた。

 バシュンッ!

「あ……?」

 ラリーを受け止めきれず、壁にぶつかるピンポン球にスバルは指を鳴らした。

「負けた……!」

「えへへ! じゃあ、約束どおり、なにか買ってもらおうかな……うん?」

 自販機を眺め、ご当地ジュースなのか、見たこともない缶ジュースを見つけた。

(ウサギさんのセニョールジュースか? 試しに買ってみよう?)

 スバルからお金を貰い、ジュースを購入するとグビッと飲んでみた。

「あ、リンゴジュースだ♪」

 ジュースを半分くらい飲むと、ミソラは笑顔を作り、缶ジュースをスバルに渡した。

「はい! 半分こしよう?」

「え、でも、それじゃあ、勝負の意味ないよ?」

「一人で飲むジュースよりも二人で飲むジュースのほうがおいしいに決まってるよ?」

「それもそうだね?」

 ミソラから缶ジュースを受け取り、ゴクゴクと飲みだした。

「おいしい?」

「うん! とっても……」

「よかった!」

 ジュースをおいしいと言われ、ミソラは心のそこから嬉しそうに笑った。

 

 

 部屋に戻るとすでに食事の準備が出来ており、二人ともすぐに席に座った。

「山菜の天ぷらだ!」

「お刺身もあるよ! このお吸い物も匂いだけで食欲がそそるね?」

「じゃあ、手を合わせて……」

「頂きます!」

 パクッと山菜の天ぷらを食べるとミソラは歓喜に震えた。

「この山菜の天ぷら、おいしすぎるよ~~~~♪ 天ぷらの揚げ具合が絶妙で野菜の旨味がしっかり出てる!」

「こっちのお刺身も新鮮でおいしいよ? ほら……」

 お刺身を箸で掴み、ア~~ンした。

「ス、スバル君?」

 顔を真っ赤にするミソラにスバルは構わず、お刺身を口に持っていった。

「ほら、早く食べないと、食べさせてあげないぞ?」

「あ、う、うん……あぁ~~ん♪」

 パクッと食べた。

「うぅ~~ん♪ このお刺身、甘くっておいしい♪」

「旨味十分だね?」

「もう、これ以外、口に入らなかったらどうしよう?」

「それじゃあ、大人になったら、毎年、ここに旅行しに行こうか?」

「うん! あれ……?」

 さりげなく、とんでもないこと言われた気がして、ミソラは首をかしげた。

「どうしたの、ミソラちゃん?」

「う、うぅん……別に!」

 お吸い物を飲み、顔が幸せそうに緩んだ。

「本当にしあわせ~~~♪」

 

 

 食事を終え、旅館の店員さんが片付けにやってくると二人は布団を頼み、また、一っ風呂浴びることにした。

「卓球したせいで、また、汗かいちゃったし、今日は満月だから、きっと夜の温泉も気持ちいいよ?」

「うん! 今度はレンタルで水着が借りれるし、堂々と一緒にお風呂が楽しめるね?」

「そうだね?」

 優しく微笑むスバルにミソラも嬉しくなり、肩を寄せた。

 

 

 チャプンッ……

「ふぅ……」

 身体を洗い、温泉に入ると二人は肌をくっつけあい、空を眺めていた。

「月が綺麗だね?」

「うん! これで雨でも降れば……」

 ポツン……

「あれ?」

 額にかかった雨にスバルは空を眺めた。

「雨だ……」

 月を避けるように振り出す雨と雲にミソラはハッとなった。

「スバル君!」

「え……ッ!?」

 唇を塞がれ、抱きついてくるミソラにスバルは真っ赤になった。

 温泉の中に倒れる可能性も無視し、ミソラはスバルの身体に抱きついた。

「ぷはぁ……」

 唇を離し、糸が温泉のお湯の上に落ちると、二人はテレたように笑った。

「まさか、伝説を本当にするなんて……」

「奇跡って、本当に起きるんだね?」

「そうだね……」

 今度はスバルがミソラの頬に手を沿え、キスをした。

 

 

 次の日、二人はバスの中で肩を寄せ合って眠っていた。

「……すぅ」

「……むにゃ」

 寝返りを打つようにミソラはスバルの胸に倒れこみ、彼の心臓の鼓動を聞いた。

「スバル君……大好き」

 夢の中でもスバルとキスをしたのか、ミソラは彼の首筋にキスをし、また幸せそうに眠りにつくのであった。

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