紺のドレスに白いエプロン、頭にメイドカチューシャをつけた少女は鼻歌交じりに掃除機をかけていた。
「ふぅふ~~ん♪」
部屋の角までも綺麗に掃除すると、今度ははたきを持ち、パタパタと部屋の埃を取った。
「スバル君って、男の子なのに部屋を綺麗にしてるよね?」
パタパタとたいして落ちない埃を取っていくとミソラはフフッと笑った。
本来、埃を先にとって、掃除機が後なのだが、そんな細かいことは大して気に留めた様子もなかった。
≪スッカリ、前回のメイドさんごっこが癖になったみたいね、ミソラ?≫
「えへへ~~♪ 将来はメイドさんもいいかもね?」
≪スバル君限定?≫
「売約済みだからね?」
≪はいはい、ご馳走様……≫
ため息を吐くハープを無視し、今度は本棚にはたきをぶつけた。
「はい、パタパタ~~~♪」
≪あまり、強くやると落ちるわよ……あ?≫
ポトッと一冊落ちた。
「あ♪」
落ちた拍子にペラッとめくれたページにミソラは顔を輝かせた。
「スバル君のアルバムだ!」
はたきを投げ捨て、落ちたアルバムを見るため、床に座るとページをめくった。
「小さい頃のスバル君、かわいい♪」
今よりも小さい頃のスバルの写真にミソラは楽しそうに笑った。
「スバル君、可愛いな♪」
さまざまな自分の知らないスバルの写真にミソラは心がウキウキした。
おねしょをして泣いているスバル……
父親に肩車され喜んでるスバル……
誕生日を三人でむかえて喜ぶスバル……
どれも幸せな写真ばかりであった。
≪ミソラ、人のアルバムを勝手に見るのは感心しないわよ?≫
「私は他人じゃないも~~ん! それにスバル君なら、許してくれるって?」
≪怒られても私は助けてあげないからね?≫
「ツ~~ン!」
≪勝手にしなさい……≫
今度こそ本当に呆れたのか、ハープは勝手にハンターVGの機能を休止状態にし眠りについた。
うるさいの消えて、清々したのかミソラはノンビリした気持ちでアルバムのページをめくった。
「これは入学式か?」
小学校に入りたての頃だろうか?
今よりもあどけなさの残るスバルの笑顔にミソラは自然と顔がほころんだ。
「スバル君、本当にかわいいな♪」
さらにページをめくった。
「あれ?」
仰天した。
「私が写ってる!?」
小さい頃の自分の写真にミソラは目を追いかけた。
公園の砂場でお城を作る自分とスバル。
追いかけっこする自分とスバル。
なぜか、馬乗りするシーンもあった。
「た、他人の空似かな? だって、私、スバル君をしら……」
急にミソラの目から光が失われた。
≪ミソラ、どうしたの?≫
異変にいち早く気づいたのか、ハープはハンターVGの休止状態を解除し、飛び出した。
ドサ……
≪ミソラ、どうしたの!? 起きなさい、ミソラ!≫
気を失うミソラにハープは何度も大声を上げた。
「あれ……?」
目を覚ますとミソラは見慣れたコダマタウンの公園のベンチの上で眠っていた。
「あ、やっと起きた?」
「スバル……くん?」
優しく微笑む少年の姿にミソラは違和感を覚えた。
(あれ……スバル君、あどけないな?)
「なんで、僕の名前を知ってるの?」
「あ……?」
今更、自分が彼の膝の上で眠っていたことに気づき慌てて起き上がった。
「あぎゃ!?」
ドテンとベンチから転げ落ちた。
「痛い……このベンチ、こんなに大きかったっけ? あれ?」
なんか、視界が狭くなったような気がし、慌てて、コンパクトを開いた。
「ッッッッッ!?」
全身の毛が逆立った。
(また、私、小さくなってる!?)
「ねぇねぇ、君?」
「ふぇ?」
若干、涙目になるミソラにスバルは遠慮がちにに聞いた。
「暇なら、一緒に遊ぼうよ? 今日は友達、来てなくって退屈してたんだ?」
「スバル君……?」
キョトンと顔を呆けさせ、次第にパァッと輝いた。
「うん!」
「よかった……」
嬉しそうに微笑むとスバルは自分の胸に手を当て、優しく自己紹介した。
「僕、星河スバル。君は?」
「ひ、響ミソラ! ミソラって、呼んで」
「うん、ミソラちゃん!」
天に昇るような気持ちだった。
(ああ、小さい頃のスバル君に名前を呼ばれた~~~♪
「どうしたの?」
「う、うぅん! それより、なにして遊ぼうか?」
「砂遊びしよう? 普段は人が多くって独占できないから、楽しいよ!」
「うん!」
急いで砂場に飛び込むとミソラは満面の笑顔でスバルに手を振った。
「ほら、早く早く!」
「洋服が汚れるよ……といっても遅いか?」
苦笑し、砂場に入るとスバルは早速、お城を作ろうと砂を集めだした。
ミソラも砂を集めだし、山を作った。
「もっと、大きくしようか?」
「うん! 今度は私が砂を集めるね?」
砂で出来たお山にさらに砂をかけるとスバルは身体が汚れるのも構わず、砂の城を作っていった。
「出来た!」
自分たちの膝くらいまである巨大なお城にスバルは満足げに額の汗をぬぐった。
「じゃあ、今度はトンネルを作ろう!」
「私はこっちから穴あけるね?」
スバルと対面するように砂のお城にうつ伏せになると、丁寧に穴を開けていった。
「うんしょ……うんしょ……」
ガサッと砂のお城が開通した。
「やった……あ?」
穴が開いた勢いで重なってしまった手と手にミソラは顔を真っ赤にした。
「ご、ごめん!」
「うわぁ!?」
いきなり立ち上がり、砂のお城が崩れ、スバルの身体が砂に汚れてしまった。
「ご、ごめん……大丈夫?」
「えへへ……やったな、この♪」
「おわ!?」
まるで水をかけるように砂をかけられ、怯むミソラにスバルは慌てて立ち上がり、走り出した。
「次は鬼ごっこだ! この公園の中で僕を捕まえてごらんよ! 捕まえられたら、いいものあげるよ!」
「よぉ~~し! 捕まえてやる!」
腕まくりをし、ミソラも砂浜から飛び出し、スバルを追いかけた。
「とりゃ!」
「あまい!」
ミソラのタックルを軽々とかわし、走り抜けるとミソラはちょっとムッとなった顔をした。
「スバル君がその気なら、こっちだって!」
さらに速度を上げるとミソラはトォとジャンプした。
「タァッチ!」
「おわぁ……!?」
背中にタックルをくらい、転ぶとスバルはちょっとだけ、咳き込んだ。
「乱暴だな、君は?」
「えへへ♪ スバル君、捕まえた~~~♪」
馬乗りの状態でミソラは一瞬、キスしようか思った。
「ミソラちゃん、いい加減降りて……重いよ」
「あ、ごめん……」
スバルの上から降り、チョンッと額を小突いた。
「女の子に重いは禁句! 怒られるよ、私以外なら」
「ご、ごめん……?」
「ふふっ……ところでなにくれるの?」
「あ、これ、ついこの間、拾った奴だけど、特別にプレゼントしてあげるね? すっごく可愛いんだ!」
「SDカード?」
見たことのない形のSDカードにミソラは首をかしげた。
SDカードには『ロール』と書かれ、ハート模様の絵柄からヒール系のなにかかと想像させた。
(そうえいば、私のバトルカードって、結構、ガチな攻撃カードだよね? やっぱり、ヒロインなら回復系がよかったな?)
「気に入らなかった?」
「う、うぅん……ただ、自分のあり方に疑問を持っただけ」
「あり方?」
ロールチップをポケットに入れるとミソラは笑った。
「ありがとう、宝物にするね!」
「うん! 大切にしてね?」
満面の笑みのスバルにミソラは本当にキスしてしまいたい気持ちを覚え、気づいたら彼の頬に手を当てていた。
「ミ、ミソラちゃん?」
様子の変わったミソラにスバルは真っ赤になった。
「目を瞑って?」
「う、うん……」
チュッと唇が重なるとミソラの意識がまた遠のいた。
≪ミソラ、起きなさい! ミソラ!≫
「うぅん……あれ? ここは?」
大きくなった自分の手を見て、慌てて立ち上がった。
「元に戻ってる!?」
≪なに言ってるのミソラ? 急に倒れてビックリしたわよ? 仕事で疲れてるのね? 今日はもう帰って休みなさい!≫
「え、でも、まだ、掃除が……」
≪いやなら、スバル君に倒れたことを報告するわよ?≫
「わかったよ……」
チラッとアルバムを見て、ポケットをまさぐった。
「これって……?」
ポケットから出たチップにミソラは首をかしげた。
「ロールチップ? 夢じゃなかったの?」
≪バトルチップね? 200年前……まだ、バトルカードが主流じゃなかった時代の必須アイテムよ≫
「……」
小さいときのキスを思い出し、ミソラは苦笑した。
(まさかね?)
部屋を出て、ミソラは思った。
自分とスバルの関係がもっと昔から存在する幼馴染のような関係だったら素敵だろうだなと……