この暗い部屋の中を閉じ込められて、すでにどれくらい経つだろう?
必死に目の前のドアを叩き、何度、助けを求めたことか。
異様に漂う腐臭は、きっと死臭だ。
数日前から、凄惨な姿で見つかった友達の遺体はきっと、ここで作られたのだ。
床に走る電撃に少女は何度、悲鳴と涙を浮かべたか……
床から足を離すことの出来る壁の突起はもうかなり前に自分の体重で壊れてしまった。
ここにいたら死んでしまう。
死にたくない。
殺されたくない。
許してほしかった。
自殺するとは思ってなかった。
ちょっと、からかっただけのつもだりだけだった。
なんで、私がこんな目に……
嫌だ、たすけ……
「わたしのところへ、おいで……」
「ひぃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
部屋の電気がついた。
「アハハ♪ すごい悲鳴!」
腰を抜かし、スバルは涙目で笑うミソラを睨んだ。
「ミソラちゃん!」
情けない格好のまま、ビデオを消した。
少女の身体が電撃に耐え切れなくなり、炎に燃え上がるシーンでビデオは終わった。
「スバル君、怖いの苦手なくせになんで、そんなの見てるの?」
「ぼ、僕の勝手だろう!」
慌ててテレビを隠し、スバルは目線を吊り上げた。
「どうせ、キザマロ君辺りに勧められて好奇心で見ちゃったんでしょう? スバル君、可愛いだから♪」
ケラケラ笑うミソラにスバルは唇を尖らせた。
「スバル君?」
いきなり、目をそらすスバルにミソラは慌てて、目を合わせた。
「……」
また、目をそらされ、ミソラは慌てて、目をあわせた。
「……」
また、プイッと首をそむかれ、ミソラの顔が焦った。
「ご、ごめん! ちょっと、からかっただけだよ!」
「……」
また、目をそらされ、ミソラは顔をうつむかせた。
「今日は帰るね?」
「……ミソラちゃん」
慌てて振り返った。
「カバン、忘れてるよ」
「あ……うん」
ミソラの顔がまた曇り、カバンを取りに行った。
ボンッ……
「え……?」
いきなり、取ろうとしたカバンから煙幕が溢れた。
「隙あり!」
「え……!?」
いきなり、抱きつかれ、キスをされるとミソラは真っ赤になって、スバルを突き飛ばした。
「わたぁ……!?」
倒れ、腰を打ちつけた。
「いつつ……」
「あ、ご、ごめん、大丈夫!?」
「つつ……」
打ち付けた腰をさすり、スバルは苦笑いを浮かべた。
「ひどいな~~……ミソラちゃん」
「今のって?」
「これ!」
カードを見せた。
「『へんげのじゅつ』じゃない! えらく、扱いの難しいカードを?」
「まぁ、カードに関してはプロだからね」
ぷくぅと頬を膨らませた。
「本当に焦ったんだからね!」
「悪いのはそっちじゃないか! 人の醜態を見て、笑うなんて!」
「それくらい怒るスバル君の器量が狭いんだよ!」
「うっ……」
言葉を失うスバルにミソラはふぅとため息を吐いた。
「ところで、さっきのビデオ、そんなに怖いの?」
「拷問系のホラーだった!」
ゆっくり立ち上がり、乾いた笑いを浮かべた。
「イジメをしていた女子中学生達がある日、旅行券を当てて陸の孤島にやってくるんだけど、それはイジメのせいで自殺した少女の兄が復讐のために仕掛けた罠だったんだよ」
見なきゃよかったと自嘲した。
「ついつい、魅入っちゃうんだよね、こういうのって? これが、怖いもの見たさって奴?」
「怖いもの見たさか?」
考えるようにミソラも、ちょっとシミの滲んだ、天井を見上げた。
「……これ、借りていい?」
「え、あ、うん、別にいいけど? 見たいの?」
「今、私の中で見るものなくって、暇してるんだ!」
「いいけど、見て、後悔しない?」
「私はスバル君とは違うの!」
「だったら、いいけど……」
少し不安そうにスバルはハンターVGのビデオデータを開いた。
「ほら、ミソラちゃんもハンターVGだして」
「はいはい」
ミソラもハンターVGを出し、スバルのハンターVGに近づけた。
ピロンッと音が鳴り、データのコピーが済むとミソラはニコッと笑った。
「これで、当分、退屈せずにすみそうだよ!」
「見ないほうがいいと思うけどね?」
次の日。
「スバル君~~……電波変換したままでいいから、仕事場に一緒に来てよ~~!」
「僕、学校があるんだけど……」
「私が誰かに拷問されてもいいの!?」
「されないよ……」
「わからないよ! 私、自分で言うのもなんだけど、有名だから、誰かに狙われて、拷問部屋に……怖くって、一人じゃ外に出れないよ~~!」
(だから、見なきゃいいといったのに)
「うぇ~~~ん……」
本気で泣き出してしまうミソラにスバルは深いため息を吐いた。
(貸さなきゃよかった……)
余談だが、後日、スバルの見たビデオは内容に悪評がつき、発禁を受けた。