「……」
家の窓を開けるとミソラはウンザリした顔で、ため息をついた。
「また、マスコミが家に押しかけてる……」
ギャーギャーとまるで、餓鬼のように群がるマスコミと言う名のゴキブリにミソラは、窓を閉め、カーテンを閉じた。
「他にやること無いのかな」
《大変ね、アイドルも……》
「まったく……」
広げた女性誌を見て、ミソラはどうしたものかと頭をかいた。
「誰がこんな根も葉もない噂を」
『超人気アイドル、響ミソラ、衝撃の恋人事実発覚! 相手はあの人気タレントの……』
最後まで読む気になれず、ミソラは女性誌をゴミ箱に投げ捨て、勉強机のイスに座った。
「事務所のほうでなんとか、フォローしてくれるそうだけど、これじゃあ、当分、外に出れないよ」
《でも、食料ももうそろそろ、底をつきそうよ。まさか、食べないでほとぼりが冷めるのを待つの?》
「確かに……」
腕を組んで、これから、どうするか、考えた。
《ミソラ、静かにして!》
「え……どうしたの、ハープ」
《ミソラ、クローゼットの裏を調べてみて》
「クローゼットの裏……」
怪訝そうに顔をしかめ、ミソラは、クローゼットの裏側を確かめた。
そして、顔が真っ青になった。
「なに、これ!?」
「盗聴器ね」
テープで張られた小型の盗聴器を手に取り、ミソラは間髪入れず、警察に電話した。
「で……家にいれなくなったから、僕の家にやってきたわけ」
「そういうことなの」
シュンと落ち込むミソラにスバルは頭の後ろをかいた。
「その女性誌なら、委員長に読ませてもらったよ。根も葉もない噂にみんな、怒ってたよ。でも、こんな情報に踊らされるなんって、マスコミも相当、暇なんだね」
「まったくよ……渦中の中にいる人間にはいい迷惑よ」
ふんっと鼻を鳴らすミソラにスバルはどうしたものかと考えた。
「でも、当分は家に帰れないんでしょう。警察がまだ、盗聴器やカメラが隠されてるかもしれないって、調べるために……」
「そうなの……だから、スバル君、当分、家に泊めてくれない。もちろん、家の仕事もするからさ」
「イッ!?」
スバルの顔が真っ赤になった。
「ちょっとまずいよ。仮にも女の子が男の家に上がりこむのは……体裁も良くないし」
「あら、私はいいわよ!」
間に入るように、スバルの母が微笑んできた。
「ミソラちゃんみたいな可愛い娘なら、いつまでも大歓迎よ。スバル、あなたもいいでしょう」
「ま、まぁ……母さんがそれでいいなら」
言い返す言葉が出ず、断る理由も見つからず、スバルは仕方なく、首を縦に振った。
「やった! じゃあ、私の荷物、ここに置くね!」
「いつの間に、荷物を持ってきたの」
「……えへ♪」
最初から、泊まる気全快で家に来ていたのか……
「じゃあ、ミソラちゃん、来て早々悪いけど、お夕飯の支度手伝ってくれないかしら!」
「はぁ~~い!」
「……」
部屋に残されたスバルは、どうしたものかと、ため息をついた。
「女の子はよく、「転んでもただじゃ起きない」っていうけど、その通りだね」
《なんだ、案外、一番嬉しがってるのはお前じゃないのか?》
ハンターVGをベッドに叩きつけた。
台所でスバルの母に料理を教えてもらいながら、ミソラはスバルの母の顔を見た。
相変わらず、綺麗なお母さんだな……
母子家庭でスバルを養いながら生活をしてると聞くが、不思議とそんな苦労は感じさせない若さがあった。
自分の母親も生きていれば、この人のような人なのかなとミソラはそう思ってしまった。
「うん、どうしたの……私の顔になにかついてる」
「い、いえ……まったく!」
切っていた包丁を水で洗い、まな板の上に置くと伸びをした。
「そうそう、お母さん、スバル君は家ではいつもどんな感じなんですか」
「あら、お母さんだなんって、えらく親しみのある言葉ね。もしかして、もうそんな仲」
「い、いえ、そんな事じゃ……」
「ふふっ……冗談よ♪」
「あぅ~~……」
手のひらで弄ばれた気分がし、ミソラは恥ずかしさに沸騰しそうであった。
「今は大変でしょうけど、マスコミなんって、飽きやすい連中の集まりよ。すぐに違うターゲットを見つけて、そこに群がるハエみたいだと思えばいいわ」
「……」
どこか悟った顔をするスバルの母にミソラはポケ~~とした顔をし、頷いた。
「さぁ、夕飯の準備は出来たし、スバルを呼んでもらえないかしら。部屋でノンビリしてると思うから」
「あ、はい……」
慌ててエプロンを脱ぎ、スバルの部屋に戻るとミソラはあれと、首をかしげた。
「誰もいない……スバル君、どこにいったんだろう」
「あ、ミソラちゃん、どうしたの」
「あ……」
光と共に現れたロックマンに電波変換したスバルにミソラはなにをしてたのか、問うた。
「うん。ちょっと、ゴキブリ共にお灸を据えに行ってたの」
「ゴキブリ」
「明日になれば、わかるよ!」
ニッコリ微笑むスバルにミソラは訳がわからず、首をかしげた。
「へぇ~~……ミソラちゃん、料理の腕、上げたね! すごく、おいしいよ!」
「ほ、本当」
顔を真っ赤にして、自分が作った分の料理を食べると苦い顔をした。
相変わらず、微妙な味……
「ふふっ……スバルも口がうまくなったじゃない。でも、確かにミソラちゃんのご飯は、おいしいわよ。もっと、練習すれば、きっと、もっとおいしくなれるわよ!」
「あ、はい!」
少し恥ずかしそうに、頬を染めるとスバルの母は微笑ましいものを見るように微笑んだ。
「スバル君、お風呂上がったよ!」
タオルで髪を拭くミソラにスバルは真っ赤な顔で叫んだ。
「ミソラちゃん、パジャマ姿でウロウロしないで! 僕も男なんだから!」
「私は気にしないよ」
「僕がするの!」
「ぶぅ~~……」
面白く無さそうに頬を膨らませるミソラにスバルは慌ててお風呂に入ろうと部屋を出て行った。
風呂場に入るとスバルはさらにもう一つ、とんでもない事実を思い出した。
「さっきまで、ミソラちゃんが入っていたお風呂だ……」
まだ、浴槽にはたっぷり残ったお湯に、スバルは、どうしようか悩んだ。
別にミソラの入った風呂が嫌なわけじゃなかった。
ただ、ここに可愛い女の子が裸で入り、その裸の入ったお風呂に入る。
別に道徳を犯してるわけじゃないが、なんとなく、反道徳的に思えて恥ずかしかった。
「……シャワーだけ、浴びて帰ろう」
シャワーの蛇口を開け、お湯が出るとスバルは悲鳴を上げた。
「あつぅぅぅぅぅぅぅ!?」
「ふぅ……酷い目にあった」
ガチャッと部屋のドアを開けるとスバルはあれと、首をかしげた。
「ミソラちゃん……寝てる」
自分のベッドの上でグッスリ眠っているミソラにスバルは仕方ないなと微笑み、はだけたタオルシーツをかけなおした。
「まったく……マイペースなんだから」
クスクスと笑い、スバルは隣に予備の布団を敷き、眠るため、部屋の電気を消した。
「おやすみ、ミソラちゃん……」
「……」
電気が消え、スバルの寝息が部屋に広がると、ミソラは音を立てず、ベッドから起き上がった。
「スバル君、もう寝た」
「すぅすぅ……」
スッカリ寝入っているスバルにミソラはゆっくり、ベッドから出て、近づいた。
「意外にあっさり、眠れるんだね」
ぷにっと頬を押すとスバルはくすぐったそうに身体をひねり、背中を見せた。
「ふふっ……スバル君、可愛い」
「……ミソラちゃん」
「え……」
いきなり、声をかけられ、ミソラはドキッとしてしまった。
「ミソラちゃん……負けないでね……僕がついてるから……」
「ス、スバル君」
夢の中でも、自分に元気を上げようとするスバルにミソラは少しだけ感動し、そっと、顔を近づけた。
「ありがとう、スバル君」
チュッ……
「……」
頬にキスしてしまったことに気付き、ミソラは慌てて、ベッドに戻り、眠ることにした。
「羊が一匹、羊が二匹……」
高鳴る鼓動にミソラは爆発してしまいそうな気持ちを抑え、必死に眠るための羊を数えた。
もっとも、それで眠れるほど、人間は単純ではないが……
次の日……
『ニュースの時間です。○○出版を中心とした多数の出版社に大量の電波ウィルスが混雑し、向こう十年分の保持データが紛失してしまった模様です。大量の電波ウィルスがどこから、潜入したのか所在は不明ですが、現在、各出版社はデータの復旧に時間を割かなければならなく、新刊を出す予定のめどが立てないようです……』
朝食のパンをかじりながら、ミソラは横で邪悪にほくそ笑むスバルを見て、真っ青な顔をした。
「昨日、なにか知た」
「さぁ……ね」
パチンッとウィンクするスバルにミソラは少しだけ、恐ろしいものを感じ、背筋を凍らせた。
世の中、怒らせちゃならないものや、怒ると怖いものがいるというが、スバルがそれであるとミソラは改めて思い知らされた。