「ホワイトデーのお返しはなにがいい、ミソラちゃん?」
「ほへ?」
食べていたせんべいを噛み砕き、ミソラは不思議そうに首をかしげた。
「どうしたの、いきなり?」
「そんな格好でおせんべい食べない!」
寝そべったままのミソラを起こし、座布団に座らせるとスバルはテレ臭そうに頬をかいた。
「ほら、明日、ホワイトデーでしょう? 先月は迷惑かけたから、そのお返しがしたいんだ!」
「お返しか……?」
唇の上に指を乗せ、可愛く天井を見上げるとミソラはニコッと笑った。
「じゃあ、私、行きたいところがあるんだけど!」
「行きたいところ?」
翌日。
「へぇ~~……ここがワンダーランド遊園地か?」
夢色に染まったファンタジックな遊園地の建物の数々にスバルは感嘆の声を上げた。
「そう! ここがつい先日、童話の世界をモチーフにして作られた新感覚遊園地! 一度、デートに行ってみたかったんだ~~♪」
「それはいいんだけど……?」
自分の姿を見て、スバルはタハハと笑った。
「なに、この格好?」
まるで「美女と野獣」の野獣が着ていたような紳士服にスバルは恥ずかしそうに頬を染めた。
「これがこの遊園地のウリの一つ! ワンダーランドの住人の気分を味わうため、童話の登場人物の服を着ることが出来るんだよ!」
「江戸のなんとかみたいだね? ていうか、なんで、ミソラちゃんはボロを着てるの?」
「えへへ……可愛いでしょう?」
ツギハギだらけのメイド服を見せて、ミソラはテヘッと笑った。
「これ、灰かぶり姫の変身前の服! シンデレラは王子様と出会ってはじめて本当のお姫様になったんだよ! 私が正義のヒロインになれたのもスバル君という王子様に出会えたから……だから、その気持ちを忘れないために今回はボロを着てみたんだ! こういうのも可愛くっていいでしょう!」
「は、はは……そ、それよりも、まずはなにで遊ぼうか? ジェットコースターみたいなのがあるの?」
「そんなありきたりなものはここにはないよ!」
「え……じゃあ、なにがあるの?」
「これだよ!」
「これ?」
ミソラが指差す建物を見て、スバルは首をかしげた。
「おお、浮いた!」
ふわぁと宙に浮いた足元を見て、スバルは慌てて体勢を整えなおした。
「これって、アマケンの宇宙空間と同じ感覚だ……」
「スバル君、あれあれ♪」
「あれ?」
妖精の森をイメージされた部屋の奥に飾られたプレートを見て、スバルは納得した。
『技術提供天地研究所』
「なるほどね……」
「スバル君、こういうの好きでしょう?」
「じ、実はたまにアマケンで宇宙体験してるんだよね……」
スバルも満更でない顔でミソラの手を繋ぎ、宙を飛び上がりだした。
「まるで、ピーターパンになった気分だ! 無重力空間にこんな遊び方があるなんて知らなかったよ!」
「そうでしょう、そうでしょう! スバル君は宇宙にこだわりすぎなんだよ!」
「まったくです……」
てへへと笑い、スバルは手を繋いだまま、妖精の森を縦横無尽と飛び回った。
妖精の森のアトラクションを抜けると今度は二人は巨大にそびえ立つ机やイスを見て、首を上げた。
「まるで、虫になった気分だ……」
「巨人の家だからね、ここは!」
目の前に立つビルほどもある巨大なイスや本棚を模したリアルウェーブにスバルは圧倒された。
「巨人の家を大冒険か……?」
「ジャックと豆の木を舞台にした巨人の家型の迷路……なんだか、本当に小さくなった気分でワクワクするね?」
「この妙な威圧感はリアルウェーブとわかっていても、圧巻だな?」
「小人の家は簡単に作れても、巨人の家は世界を探してもここくらいしか体験できないだろうね?」
なんともシュールな表情をした人形の壁にさわり、スバルは冷や汗を流した。
(これで巨人でも現れれば、完璧にボク達は小人だよ……」
「チェッ……また、行き止まりだ!」
目の前をさえぎる巨大な本の壁にミソラは唇を立てて、蹴りを浴びせた。
「これでまた、Uターンか!」
「少し、ここで休憩しようか? ほら、あそこに疲れた人のための休憩イスがあるよ!」
「あ~~あ……アトラクション最短時間クリアする予定だったのに!」
「ハハッ♪ 地道にのんびり行こうよ! 迷路は迷子になるから楽しいんだよ!」
「大人な考えかた……」
イスに座るとミソラは先の見えないほど高い天井を見上げた。
「ジャックはこんなところから逃げてきたのか……?」
巨人から逃げるジャックの気持ちを想像し、ミソラはため息を吐いた。
巨人の迷路を抜けると二人は自販機で買ったちょっと高めのジュースを飲んでいた。
「ぷはぁ……迷路の後のジュースはおいしいね!」
「うん!」
ミソラも缶ジュースから口を離し、ふぅとため息を吐いた。
「次はどれで遊ぼうか?」
「そうだね……?」
パンフレットを開き、ページをめくってみた。
「ねぇ、ミソラちゃん、お腹空かない?」
「お腹……?」
お腹を摩って、ミソラは遊園地に備えられた時計を見た。
「そういえば、もうそろそろ、お昼だね?」
「ついてきて!」
「え……?」
手を握られ、ミソラは慌てて走り出した。
「ちょ、どこに行くの!」
「ホワイトデーにピッタリのいいところだよ!」
「ホワイトでーにピッタリないいところ?」
頭の中で一瞬、R-18の妄想が流れ、慌ててかき消した。
「とうちゃ~~~く!」
「え……ここって!?」
目の前の建物を見て、ミソラはビックリした。
「お菓子の家……!」
メルヘンチックにデコレーションされたお菓子の建物にミソラは目を何度もパチパチさせた。
「そう! お菓子の家のレストラン! ちょっと割高だけど、食べ放題だよ! ミソラちゃん、甘いもの好きでしょう!」
「え、でも……ここ、割かし高いよ? 普通にレストランに行ったほうが?」
「今日はホワイトデーだよ!」
「ホワイトデー……?」
「そう!」
ニコッと笑った。
「ホワイトデーは女の子が好きな男の子お返しを受ける日だよ! 今日ほど女の子が甘いものを食べないで、いつ食べるの?」
「ホワイトデーか……」
スバルの顔をマジマジと見て、ミソラは嬉しそうに笑った。
「ありがとう、スバル君!」
「じゃあ、早速、食べよう!」
「うん!」
手を握りながら、お菓子の家に入るとミソラは早速、チョコで出来た扉を壊し、食べてみた。
「うぅ~~~ん♪ このチョコ、とっても甘くっておいしい!」
「ノブはクッキーで出来てるね!」
サクッと歯ごたえのいいノブ型のクッキーをミソラの入れてあげた。
「ほら、サクサクして、おいしいでしょう?」
「うん! これだけでも、いくらでもお菓子が入りそう!」
笑顔のまま、今度は飴で出来たガラス窓を割った。
「うぅ~~ん♪ この飴もとってもあま~~~い♪」
「本当、女の子って、甘いものが好きだよね?」
「女の子の甘いもので出来てるんだよ! ほら、これがその証拠♪」
「え……?」
チュッ……♪
「ミ、ミソラちゃん……!?」
慌ててミソラから離れ、スバルはキスされた唇を押さえた。
「どう♪ 私のキスの味? チョコクッキーの味? それとも、ソーダ飴の味?」
「……唇の味」
「もう!」
スバルの口にムリヤリケーキで出来た人形を押し込み、ムクれた顔をした。
「スバル君のエッチ!」
「ご、ごめん……」
「そんなスバル君にお仕置きだ!」
手を引っ張り、寝室に入るとミソラはトォとジャンプした。
「ほら見てよ! この部屋! ベッドが綿飴で出来てるよ!」
「こ、こらこら! いくらベッドでも、お菓子の上で寝転がらない!」
「スバル君だって、横になってるじゃん!」
「そ、それはミソラちゃんが……」
「もう、素直じゃないんだから!」
綿飴の毛布にくるまりながらミソラはスバルにキスをした。
「このお菓子が一番甘くておいしいね、スバル君!」
「ミ、ミソラちゃん!」
「ふぃ~~……今日はサイコーに楽しかった♪」
帰りの電車に揺らされながらミソラは幸せそうにスバルの肩に身体を預けていた。
「ねぇ、また、一緒にあそこに遊びにいきたいな? ねぇ、スバル君」
「……」
「スバル君?」
返事の返らないスバルの反応にミソラは肩から離れ、顔を確かめた。
「寝ちゃってる……」
「すぅ~~……」
静かな寝息を立てるスバルにミソラはふふっと笑った。
「今日は本当にありがとう、スバル君。楽しかったよ……」
まだ、寝息を立てるスバルの唇にミソラはキスをした。
翌日。
「え……!? ワンダーランド遊園地でライブ!?」
「そう! 今、売り出し中のワンダーランド遊園地! 知ってるでしょう! あのファンタジーの世界を味わえる遊園地! まぁ、仕事だから、遊ぶ時間はないけど、雰囲気だけ味わえるわよ!」
ニコニコ顔で熱弁する美人マネージャーにミソラは微妙な顔をした。
(この前、行ったばかりなんだけどな~~……)