「ス~~バルくん! あ~~そ~~ぼ♪」
「うぅん?」
耳元に響く大きな声にスバルはベッドの上で寝返りをうった。
「ス~~バルくん! お~~き~~て♪」
「うぅん……」
もう一度、寝返りを打ち、スバルは不機嫌そうに目を開けた。
「だれだよ……朝から、大声出すの……むぐぅ!?」
強引に唇を奪われ、スバルは完璧に目を覚ました。
「ぷはぁ!」
糸を引くように唇を離すとミソラはニコッと笑った。
「おはよう、スバル君!」
「あ、朝から、なにやってるの、ミソラちゃん?」
どう反応していいのかわからずスバルは目を泳がせた。
「昔から、寝呆すけはキスで起こすのが伝統なんだよ!」
「どこのグリム童話だよ……」
上半身だけベッドから起こし、伸びをした。
「でも、どうしたの、こんな朝早くから?」
「もう、九時過ぎてるよ」
苦笑した。
「休日だからって、寝すぎちゃダメだよ。目が腐るよ」
「よく、言われるよ」
ベッドから出て、スバルはパジャマを脱ぎ始めた。
ミソラは興味なさそうに近くの放置されたマンガを拾った。
付き合いが長いと着替えに対する羞恥も興味も遠慮もなくなるのだろう。
「実はいい物を買ったから、スバル君に自慢しに来たんだ!」
「どこの骨川くんだ……」
服を着替え終わった。
「で、なにを買ったの?」
「やっぱり、興味があるじゃんない!」
マンガをベッドに放り投げた。
「外に出てみて!」
「外?」
外に出た。
「電波自転車だ!」
電波の力で動く電動自転車を見て、スバルは大慌てで近づいた。
「すごい! これ、最新型の電波自転車じゃない!? 雑誌で何度も見たけど、デザインがいいよね~~?」
「今度出す歌のPVのスポンサーに電波自転車の会社があってね、安く売ってくれたんだ!」
「いいな~~……こんな自転車、欲しいな~~!」
「一般家庭じゃ、なかなか手が出ない値段だからね。乗ってみたい?」
「いいの!?」
「条件があるけどね!」
「条件?」
「背中に乗せて走って!」
「乗った!」(かけてみた)
急な坂をスイスイ登るとスバルは悦に入った。
「はぁ~~……こんな急な坂道も恐ろしいまでに楽に進めるなんて、夢のようだ」
「電波を使った自転車だからね! しかも、電波はどこにでもあるから、充電は充電器なしでどこでも可能だし。さらに一時間で二十時間の走行も可能! これだけの機能でなんと値段は」
「言わないで。悲しい現実は見たくない主義だから」
「そうだね」
スバルの背中に抱きついた。
(スバル君の背中って、意外と広いよね……男の子の背中だな)
背中から感じるスバルの心臓の鼓動にミソラの心臓も不思議とテンポを合わせるように鼓動した。
(カップルの二人乗りって、やってみたかったんだ)
「あ?」
「あべし!?」
いきなり自転車を止められ、スバルの背中に鼻を打ってしまった。
「どうひたのいきなり?」
「雨だ」
「え……?」
ポツリと鼻に当たった雨を認め、真っ青になった。
「じ、自転車が雨で壊れちゃうよ! 早く非難させないと!」
「ちょうどいいところに屋根のあるバス停があるね? 雨宿りさせてもらおうか?」
「早く、中に入って!」
「はいはい」
バス停の中に自転車を止め、降りた。
「ふぅ」
バス停のイスに座るとミソラは、ため息を吐いた。
「せっかくのツーリングなのに、雨なんてついてないな~~……」
ザ~~と降る雨にスバルはニコッと微笑んだ。
「雨も悪くないよ。そろそろ梅雨の時期だし、風情もあるし」
「風情じゃお腹は膨れないよ」
「目を閉じて」
「目を?」
目を閉じた。
「ほら、雨の音が気持ちいいでしょう? 陳腐な表現だけど、自然の中の音楽って感じかな?」
「そうかな?」
ミソラも雨の音を聞いた。
「いい音」
「でしょう?」
嬉しそうに笑うスバルにミソラはまだ、難しい顔をした。
「でも、雨の日は外にデートにいけないから嫌だな……」
「雨の日だからこそ、家の中でノンビリ二人の時間を楽しめるんじゃない。こういう風に」
「え……?」
チョコンとキスをした。
「ス、スバル君?」
「雨の音を聞きながらキスをするのだって、悪くないでしょう?」
「……もう」
スバルの肩に自分の肩をくっつけた。
「ちょっと寒いけど、こうやって肩をくっつけると暖かいね?」
「そうだね?」
しばらく、二人で雨の音を聞きながら、くっついていると空に光が差した。
「あ! 雨の日のサプライズが来たよ」
「サプライズ?」
空に青空が広がるとミソラは目を輝かせた。
「虹だ!」
空にかかる虹を見て、スバルはクスッと笑った。
「雨も悪くないでしょう?」
「そ、そうだね……えへへ」
テレたように笑った。
スバルも嬉しそうに笑い、イスから立ち上がった。
「さぁ、帰ろうか?」
「うん!」
自転車をバス停から出し、晴れやかな空を見た。
「雨の後のこの爽やかな気持ちがいいよね?」
「ねぇ、スバル君、今度は私がスバル君を乗せて走りたい。もともと、私のだし!」
「え、でも、女の子に乗せてもらうのは、なんか、恥ずかしいな」
「なにを今更! ほら、変わった変わった!」
スバルを無理やり自転車から降ろし、後ろの席を叩いた。
「ほら、後ろに乗って!」
「まったく、勝手なんだから」
ふと微笑み、ミソラの後ろの席に座った。
落ちないよう、腰に手を回した。
「ひゃんっ!?」
「ど、どうかした、ミソラちゃん、変な声を出して!?」
「な、なんでもないよ」
カァ~~と顔を赤くした。
(ちょっと、腰で感じちゃった……)
誤魔化すように慌てて走り出した。
「おわ!? いきなり、走らないでよ、舌噛みそうになったじゃない!」
「大丈夫だよ! 噛み切らなきゃ死なないから!」
「死なないって……まったく」
ミソラの背中に抱きつきながら、スバルは空にかかる虹を見た。
(もうそろそろ梅雨か)
雨の日に出来るデートを想像し、スバルはなぜか楽しくなってきた。