杉並病院のとある病室で一人の少女が眠っていた。
その横に竜華と怜の両親が座っている。
結果から言えば怜は助かった。一時は生死の境をさまよったが何とか生還した。医者の話ではもう少し遅かったらどうなっていたかわからなかったそうだ。
救急車を待たずに急いだ陣の判断は正しかったらしい。怜の両親にその事で何度もお礼を言われた。
体の内側にも負担がかなりかかっていたらしいので体力は少し低下するらしい。だがそれも2、3年で元に戻るそうだ。
怜は数日中には目を覚ますらしい。陣はそのことを仲間に電話で伝えるため病室を出ていた。
「…そうだ、数日中には目を覚ますそうだ。女子麻雀部の人たちにも伝えとてくれ…ああ…わかった。それじゃあな」
電話を切る。
「ふぅ~」
電話を終えると陣は椅子に座り込んだ。精神力で無理矢理冷静さを保っていたので安心して気が抜けたようだ。
「陣君…大丈夫?」
竜華がやって来て聞いてくる。
「流石に気が抜けた。動ける気がしないな」
苦笑いをする。
「お疲れさま…あと、冷静でいてくれてありがとう。ほんまに心強かったわ」
「どういたしまして」
陣は自ら竜華の膝に頭を置いた。
「本当にお疲れさま」
竜華のその言葉を最後に陣は意識を手放した。
3日後、怜は意識を取り戻した。その話を聞いた。メンバーは一目散に病室に駆け込み。怜の無事を喜んだ。あまりの喜びように看護師に騒がしいと怒られる程であった。
そして現在、怜は竜華に本気の説教を受けていた。
「怜!聞いとるんか!?」
「きっ聞いとるで竜華」
保健室にいたはずの怜が何故、部室で倒れていたのか話を聞いて判明した。どうやら怜は保健の先生が担任に容態を伝えに行ったときに抜け出したらしい。おまけに無理して動いたのでたたでさえ悪い容体がさらに悪化し、竜華逹を前してすぐに倒れたらしい。
その事で竜華は怒っているのだ。
温厚な人程、怒ると恐いと言うが正にその通りである。竜華は顔こそ怖くないが放ってるプレッシャーはかなりのものでセーラなど始まって五分で逃げだしている。
「(陣、助けてえな)」
怜は唯一、竜華を静められそうな陣にアイコンタクトで助けを求めるが、
「(自業自得だ、そのくらい黙って受けろ)」
あっさり却下される。
「(う~そやけど)「どこ見とるんや、ちゃん聞きい!」…はい」
この後、説教は一時間程続いた。まだ続きそうであったが陣が入院患者であることを理由に止めた。
「(助かったで陣)」
「(いちお病人だからな。だだし、退院したら覚悟しとけよ。次は止めないからな)」
「(…了解や)」
説教が終わると廊下で様子を伺っていたセーラは戻ってきた。
「それで怜はいつ退院できるや?」
「お医者さんの話では様子見も兼ねて今月中は入院やそうや」
「その期間の練習は?」
「見舞いに行ける人に行ってもらって対局だな。それ以外はこれだ」陣
陣はノートパソコンを取り出す。
「ノートパソコンってことネット麻雀やね?」竜華
「たまにはネット麻雀も悪くないだろ?それにこれなら俺達が近くにいなくても打てるからな」
ネット麻雀の利点は二つ、顔もしらない多数の人と打てること、もう一つはユーザー名がわかれば近くいなくても知り合いと打つことができる点である。
「何から何までありがとうな。みんな」
それから面会時間ギリギリまで話をして帰った。
怜が目を覚ましてから2週間が経過した。怜の容体は問題なく回復に向かっており、メンバーや興味のある部員が見舞い次いでに対局していくのが通例になっている。
そんなある日、教室に入ると一樹が良介に愚痴っていた。
「不機嫌そうだな」
「おう陣、聞いてくれよ」
「内容によるが一応言ってみな」
一樹の話によると昨日、女子麻雀の部員を連れて怜の見舞いに行き、その時に対局した三局打って全て負けたらしい。
「一樹が連続で負けたか…コツでも掴んだか?」
怜は確かに強くなっているが一樹の本気のガードを連続で破壊できるほどではない。
「陣も対局して見ろよ」
「そうだな、だが今日は用事があるから無理だ。明日にでも確かめてくるさ」
「おう、そうしてくれ」
次の日には二度目の驚きがまっていた。
「その話、マジか?」
陣は思わず良介に聞き直してしまう。
「…本当…昨日…怜に…負けた」
「私もだ」
一樹に続いて良介と薫も負けたのだ。
「おいおい、どこまで成長してんだ怜の奴」
レギュラーの内三人が倒されるなど予想外もいいところだ
「考えてもわかんないか、行って対局すれば解るか…」
当初の予定通り、竜華と亮を連れ、怜の見舞いにきた。
「怜、来たで~」
「お見舞いに来ました」
「見舞いの品も持参してきたぞ」
「いらっしゃい。竜華、亮、それに遂に大将のご登場やな」
怜は三人が来たのを見て嬉しいそうな顔をする。
「まあな、レギュラー三人を倒されたら黙っているわけには行かないからな。」
笑顔で陣は語る
「私もどこまで通じるか知りたかったところや」
「なら、早速相手をしてもらう。良いよな二人とも」
「当然や」
「僕も三人を倒した力に興味があります」
対局開始
「(見極めさせてもらうぞ怜)吹き荒れること暴風の如し」
流石に全員がレギュラーなので激しい攻防が一局目から繰り広げられる。
「ポン」怜が鳴きを入れる。
「(何だ、今の鳴きは?)」
手稗が進んだ様に見えない不可解な鳴きに違和感を覚える。
怜は次の自順で竜華に直撃を入れ、次の局では一発を上がる。
謎が解けないまま対局は進んでいく。
「(不可解な鳴きにリーチした後に出る高い確率のリーチ一発。手稗を読まれいる?いや…それにしては妙なところがあるし」
陣は対局しながら様々な考えを巡らせている。
「ポンだ」
ここで陣は怜のリーチの後にポンをし、次順に山から稗を引く、その稗は直感で危険稗であると陣は判断した。その瞬間全身に電気が走るような感覚に教われる。
「(待てよ。これと同じことがさっきもなかったか?)」
先の一局では、ずれなければ怜が引いていた稗を亮が捨てると怜はそれで上がっている。
「(そう考えれば辻褄があう。確信がないなら、この稗で確かめる!)」
陣は本来、怜が引くはずだった稗を捨てる。そうすると、
「それ、ロンや」
「(やっぱりだ、怜の力は……だ。正体は解った。後は攻めるだけだ)神風神風」
怜の力の正体に気づいてからの陣は一気に攻めに回り、怜をあっさり追い抜き1位で対局を終了させた。
対局終了
「やっぱり負けてしもうたか…解っておってもやっぱ悔しいわ~」
かなり悔しいようで病室のベットに潜る怜。
「陣君、解ったんか怜の力が?」
「ああ、怜の力…スキルは一巡先を見る力だ」
「一巡先を見る力ですか?」
「そうだろ怜?」
呼びかけられた怜はベットから顔を出す。
「その通りや」
「……ほんとや、そうすれば不可解な点の辻褄が全部あう!」
陣に言われて考えていた竜華も対局を振り返り解ったようだ。
「でも…何でわかったんや?」怜
「切っ掛けはリーチをかけた怜がずれなければ〈次順で引くはずだった稗〉を俺が引いたときだ。その稗に違和感を感じた。だからわざとその稗を捨ててみたんだ。そうすると案の定、その稗は怜の上がり稗になった、だがそんな偶然が複数回起こるわけがない。怜が次順で自分にくる稗を解ったていない限りはな」
「確かにそうですね」
「一発リーチのときもそうだ。次順でくる稗が解っているからずれない限りは一発で上がれだろ」
「説明されるとよう解るわ。でも何で一巡先だけなん?二順先とかはないんか?」
一巡先と断定したことに竜華は疑問を上げる。
「それこそ捨て稗を見れば解る。一順目では裏めっていないのに二順目以降で裏めったことが何回かあったからな」
「「成る程」」
納得したところで説明が終わる。
「怜さんのスキルもすごいですけど、それの対抗策をすぐに捻り出した。陣くんの分析力と発想力は恐ろしいですね」
亮は陣の力に苦笑いする。
「そうやね。所見で見破るのもすごいけど、対抗策をすぐに思いつくのはもっと難しいもんや」
「本当、その頭のなかどうなっとるん?」
竜華と怜も頷く。だが陣は
「正確には俺は対策案なんて出してけどな」
それを否定する。
「どういうことや?」
「現に陣くんは怜に勝っとるやん」
「俺がやったのはスキルを力業で叩き潰しただけだ。対抗策と呼べるような高尚なものじゃない」
「それも十分すごいと思いますけど…」
「あはは、スキルに力業で勝てるもんなんやね」
常識外れな陣に笑うしかない竜華。
「他にやれる人もいるから。やり方次第だな。まだ質問あるか?」
ないので黙る三人
「さて、もう質問ないようだから、今度は俺から怜に質問だ。そのスキルは何時、開眼したんだ?」
「そうや!何時なん?」
「前に来たときはまだ使ってなかったですよね?」
陣の質問に竜華と亮も乗る。
怜は少し考えた後、
「何となく自覚したのは起きてから最初にしたときや。でもコントロールは全くできんかったんや」
「それが普通だ。先天的なスキルならともかく、後天的スキルはそう簡単にコントロール出来るものじゃないからな」
「それから少しづつ練習してたんや。ある程度コントロール出来るようになったのは数日前や」
「それで一樹逹に対して使ってみたわけか?」
「そうや。まさか良介にまで勝てるとは思うてなかったんやけどな」
その短期間でスキルを使いこなし、三人に勝利したのだ。かなりすごい事だ。本来後天的スキルはなかなかコントロールが効かないのだ。今まで無かったものを使えるようにするのだから。
「すごいやん怜!」
今まで黙っていた竜華は 興奮したように言う。
「そうなんかな?」
怜は照れた様に頬をかく。
「そうですよ自信を持ってください怜さん」
亮も笑顔で褒める。
「そう思うやろ!陣…君?」
同意を求めようと陣の方を向くと陣は真剣な顔で何かを考えていた。
「陣君?」
もう一度、竜華が呼びかけると
「っと、悪い聞いてなかった」
「珍しいですね。考え事ですか?」
珍しく深く考えていた陣に亮は聞く。
「怜の新しい練習メニューを考えていたんだ」
「今の駄目なんか?」怜
「怜の弱点が克復された以上、今のメニューは必要ないからな」
「弱点って怜だけの武器がないことやったよね?」
竜華は確認するように聞いてくる。
「そうだ。一巡先を見るスキルは怜だけの強力な武器としては十分なものだ。後はそれに適したスタイルを作り出せばいい。上手くいけば俺に匹敵するようになるかもしれない」
「陣君に匹敵!?」竜華
「それは…末恐ろしいですね」
驚く竜華に冷や汗を流す亮。
「ほんま…なん」
怜は呆然と問いかける。
「ああ、本当だ」
その言葉を聞いた怜は
「怜、泣いとるん?」 怜は涙を流していた。
「どこか痛いんですか!?」
慌てる亮。
「大丈夫や、ただ嬉しいだけやから」
「嬉しい…ですか?」
「私な…みんなの中で一番弱いことは自覚してたんや」
確かに自分だけの武器の無かった怜は総合的に仲間の中で一番劣っていた。
亮が否定ようと口を開きかけたが陣が視線で黙らせた。
「………」
竜華は無言で先を促す。
「それでも、やっぱり悔しかっんや。みんなが成長して行く中で私だけ遅れているような気までしてきてたんや…でもこれでみんなに追いつけると思うたら、嬉しくなってしもうて…」
恥ずかしそうに笑う怜を竜華は抱きしめた。
「怜、ごめんな。うち気づいてあげられなかった」
「気にせんでええよ竜華、私が勝手に思ってただけや」
「でも「なら、これからは一緒だ」陣君…そうやこれからは一緒やで怜!」「そうですよ。一緒です」
「うん」
三人の言葉に笑みを見せる怜。
「これからは覚悟しとけよ。練習メニューは一気に厳しくなるからな」
陣も試すように笑う。
「覚悟は出来とるで。絶対に強くなって来年こそ全国優勝したる!」
怜も力強く宣言する。