父上の待つ部屋に向かう最中、キシリアに話しかける。
「お前は戦争継続に賛成かと思っていたが」
レビルを逃したのにはキシリアの関与があるのではないかとも言われていたような。
本当かどうかはわからないが。
あれのせいでジオンは戦争を続けざるをえなくなった。
「兄上も気づかれたのでしょうが、ジオンに戦争を継続する力はもうほとんどないと、私も気付いたのです。潜水艦部隊をして地球の広さを感じさせられましたよ」
それは良かった。
「ふむ、連邦との和平、賛同すると」
「父上まで動こうとなされている……内容次第でしょう」
うーんコツコツと響く足音が心地いいな。
ついつい力強く歩き出してしまう。
「少なくとも落とし所は見つけねばならないというところには、同意しますよ、兄上」
おお? よかった。
その後のデギンとの話し合いは順調に行われた。
ジオンの敗北という危機感を持ち、話し合いを行うことが出来た。
「なるほど、最大の譲歩として、地球領土の全返還と宇宙領域の自治、望むサイドには連邦に降らせてもよいと、そして私とお前の首も、それを条件に連邦に和平、ないし休戦を迫る。お前が良いと言うのなら、この案はとても魅力的だな。我々は疲弊している。連邦も疲弊している。だがこのままでは和平はできん」
ニヤリと笑いながら返事を返す。
「ええそうでしょう。父上。連邦は未だ勝利を諦めておりません。和平をなすには大きな戦果が必要。しかしオデッサ攻略作戦に、V作戦、このまま戦争が進めば……それが叶うことは、いわばいまのジオンの権勢は砂上の楼閣、このままでは容易く連邦の反抗を許すでしょう。だからこそ今なのです。当然連邦の反抗を許すつもりはありません、が、戦争の落とし所を得るためには戦果を得てからでは遅い」
まぁ言い換えるとジオンが負けっぱなしになってから戦果を得て和平してくれと言っても連邦が聞くわけないよねと。
キシリアが反論を述べる
「それは理解しました。それに戦果を得るという確信が兄上にはあるのでしょう。しかし、もし和平になったとしても戦後はどうするのです。和平ならずとも休戦……それでは危機の先延ばしでしかないではありませんか。それにせっかく手に入れた領土を連邦に返すなど反発も大きいのではありませんか」
いや、連邦は滅びる。休戦であってもそれはジオンの独立を、いやスペースノイドを認めるのと同義なのだ。
ラプラスの箱など使わなくとも、連邦は形骸化する。
時間はかかろうがな。
まぁキシリアが言いたいのは単純な憎しみだろうが。
「戦後、連邦の脅威が心配なら各サイド、コロニー同士の争いを起こせばいい。連邦は容易くは踏み込んではこれない。それに連邦内部にもスペースノイドの自治もしくは待遇改善を目指す者たちもいる。いくらでもやりようはあるだろう、それに反発も……お前ならな。それにそこまでの譲歩がいらなくなる可能性の方が高いのだ」
あくまでこの和平案は頑なな連邦に和平をのませるためだ。
ここまで譲歩しなければならないかもしれないという話であるが、もしそうなってもやりようはある。
例えば簡単なものは戦後復興するであろう各サイド、コロニー間で争いを起こす。連邦は各サイド、コロニーの調停など行わず、放置か弾圧だろう。
そうすれば人々は連邦の非道を思い出す。
いくらでもどうとでもなるのだ。
印象操作、プロパガンダは戦争の常、メディアの掌握は恐ろしく効果的だ。必ず一定数は操作されるし、弱い誘導ならば多くの人間が引っかかる。
歴史は勝者が語るもの、だが引き分けの時はどうなるのだろうか。
ザビ家か憎い、ジオンが憎いというものだって、ジオンにはスペースノイドの独立、圧政者に対する反抗という大義名分がある。
連邦とジオン、互いへの憎しみは戦争を通して高まり続けている。
だが父上と最悪私がスケープゴートになれば、ある程度の憎しみを逸らす事は可能だ。
キシリアならばいまから動けば連邦の目を盗みいろいろな工作ができよう。
「ギレン、キシリア。確かに戦果も当然だろうが。ワシは、ギレン……お前を連邦にくれてやるつもりはない。連邦には最悪でも私の首で満足させる」
「感謝いたします、父上。ですが、万が一の時は私の首、使ってもよいと言わせていただきます」
さらさら死ぬ気は無いがキシリアに殺されるよりはマシな死に方であり、スペースノイド独立に貢献できるいい死に方だ。
さらさら死ぬ気は無いが。
連邦との和平については秘密裏に進められる事になった。
MS総会についても父上、キシリア共に協力を仰ぐことができた。
ヅダのような会社同士の争いなどという事は2人からの圧力もあればなんとか抑えこめるだろう。
キシリアの本音はわからない、だが流石に父上と俺が文字通り命をかけて進めている事に正面から反対することは出来ない。
その後キシリアとはニュータイプ部隊についても話し合い、計画を立てることもできた。
順調だ、とても順調だ。
セシリアが淹れてくれた前世では飲むこともなかった高級であろう紅茶を飲みながら思う。
「閣下、キシリア様が心配なされておいででした。『兄上に一体何があったのか』と私に尋ねられるほどです。『閣下はお気づきになられただけです』とお答えしておきましたが」
「よい。キシリアはなんと」
「何も、おっしゃりはしませんでした」
お兄ちゃんはお前に殺されるより、スペースノイドの独立に命をかけるという成長を見せたと思うんだが、なんか言ってくれよ!
なんてな、よく言う史実の修正力があるのかもわからないからあまりキシリアについて深刻に考えても仕方ないか。
「そうか」
そして演説を行った。
いつものような好戦的なものではない。
今後を考え連邦との和平を匂わせたりコロニー落としについて考えさせたりするような内容で、あとはニュータイプについて、兵器的なものではなく思想としてノーマルタイプより優れているわけではないが人類の希望だと唱えた。
その実在としてメガ粒子砲を避ける能力者についても語った。
そして最後に要塞化が進んでいるルナツーを数ヶ月のうちに陥落させるとも宣言した。
ん、最後は好戦的な内容になったかもしれない。
ジークジオン!
まぁないとはわかっているが、これで連邦がルナツーの防衛に力を入れて、オデッサ攻略を先延ばし、あるいは諦めてくれたらどれだけいいことか。それにプロパガンダだと、ニュータイプにより懐疑的になってくれるといいが。それもないか。
他にもジオン公国総帥業をこなして1日が過ぎていった。
次回、ガンダム大地に立つか立たないか。アムロはどうなるのか。そして博士は酸素欠乏症になるのかならないのか。逃げろ……
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