「本来であれば、ただ襲うだけならばデニム曹長に任せれば良いのだろうがな」
シャアはそう言った。
少ない戦力で行うには難しい任務ではあった。
「任せてください。少々不安もありますが我々ならできますよ!」
ジーンとスレンダーがデニムの両隣の席で激しく首を縦に振っていた。
「だが命令は違う。ギレン閣下自らMSによる攻撃は禁止という命令を下された」
場所はムサイ艦内ブリーフィングルーム。
わかりやすく言えば艦内の見た目は映像ボードに机という教室のようなアナログな見た目だ。
ボードのそばに立っているシャアを180度で囲むようにデニムやドレン達が机に座っていた。
有線でそれぞれの机やボードの端末に繋がって居た。
端末は備え付きのがそれぞれしっかりとあるがなんとも旧時代的だ。
ミノフスキー粒子、あらゆる電磁波を減衰させ高濃度では放射線さえも防ぐ粒子、電子回路への影響もとてつもなく大きい。
そのせいで連邦もジオンも有視界戦闘などというアナログへと回帰していた。
ビーム兵器というデジタルな兵器をただの鉄砲と同じようにしか使えないとは人類は停滞している。
シャアは部下達に端的に伝える。
ギレン、キシリア、ドズル、並み居るザビ家から注目を受けたこの任務、チャンスをものにしなければならないと、数日考え抜いた作戦を。
「作戦はこうだ。私が連邦士官になりかわり潜入し連邦のモビルスーツを強奪。その後デニム曹長達が確保した人質を盾に撤収する」
時は遡り、ムサイが近くの小惑星に姿を隠しながらホワイトベースがルナツーに到着したのを確認した頃。
シャアの元に秘匿通信が届いた。
「お前が赤い彗星か」
「はっ!シャア・アズナブル少佐であります」
シャアは内心驚愕していた。
キシリア閣下が画面に表示されたからだ。
「連邦のV作戦、こちらが掴んでいる情報を送る。有効に使え」
「はっ!」
それで通信は終わってしまった。
送られてきたものは情報と言っても関係者のちょっとした名前や肩書き、家族構成であり一般人が見たら使い道のわからない情報だった。
だがその中にはテム・レイ博士の名前とサイド7に住む博士の息子の名前があった。
そしてホワイトベースがサイド7に到着して2日が経った。
ドズルがギレンに連絡をしてからは4日が経っていた。
シャアはサイド7の公衆電話ボックスの中にいた。
「ドレン、聞こえるか?」
「少佐ぁ、バッチリ聞こえております。民間コロニーのセキュリティ程度お茶の子さいさいですな。目標の住所までわかりましたから。なんなら今すぐ雨でも降らせましょうか?まぁでもムサイにこんな任務をさせようとするなんて少佐ぐらいなものですよ」
そんなドレンの声はやや雑音が混じっていたが十分会話ができるほどははっきりしていた。
辺境のサイド7のミノフスキー粒子濃度が低いおかげだ。
「買いかぶりすぎさ、それと雨など降らせたらすぐにバレてしまう。慎重にな」
「はい、もちろんですよ」
「で、こちらは民間人に紛れる事は出来たがデニム達はどうだ?」
シャア達はコロニーの点検用スペースから内部に侵入していた。
サイド7とはいってもこのコロニー1基しかない。
まだ建造途中だったサイドだけあってセキュリティはないも同然だった。
「対象を捕捉したようです、チャンスがあれば動くそうですが」
「そうか。では作戦通り30分後に」
「了解です」
シャアは港へと向かった。
「こう簡単に来れてしまうとはな。ジオンも連邦もスパイし放題ではないか。私1人だからできたと言うのは自惚れが過ぎるだろうか」
変装用のグラサンを弄りながらシャアはそう呟いた。
いつもの仮面は胸ポケットに入っている。
シャアは自分が身分を偽っているからこそそう思った。
港への侵入はコロニーの偽IDですんなり通ることができたし、ホワイトベースのセキュリティパスなんてコロニー内ネットに接続された誰かの端末のメモ帳に書いてあった。
見張りも置いていない。
コロニー内部からの侵入、なんと容易いことか。
艦内見取り図もその端末にあったお陰で作戦は楽に立てることができた。
港で連邦製のノーマルスーツを着たシャアはホワイトベース内を悠々と進んでいく。
内部で連邦の誰かを襲って制服を奪う予定だったが連邦は皆ノーマルスーツを着ていたお陰でその必要はなかった。
誰もミノフスキー粒子下でこのような作戦を行ってくるとは考えていなかったようだ。
いや、考えていてもわざわざ部下に徹底させるほどではなかったのだろう。
連邦の兵の質も落ちている。
それをシャアは利用した。
だがもう少し遅れていたらそもそも乗れるモビルスーツがなく今頃ムサイは破壊され作戦は失敗していただろう。
「あそこの兵は一体何をしてるんだね? 運搬と組み立てが完全に終わるまで出撃の許可は出すべきではないと私は言ったはずだろう! これは貴重な兵器なんだよ!」
「博士?どうかされましたか ……おい! そこのお前、何をしている!」
左舷ハンガーデッキにはガンダム、ガンキャノン、ガンタンクの並びが三組並んでいた。
左舷ハンガーデッキでこれか、とシャアは少々冷や汗を流しながらガンダムのコックピットに乗り込んだ。
「聞こえているか、何をしている!」
ここまで行けば作戦は半ばまで上手くいったと言える。
幸い操作法はザクをモデルにしていたのかわかりやすかった。
「私の名はシャア・アズナブル、この機体はもらわせて頂く!手を出せばアムロ・レイ少年の命はないと思っていただきたい」
「なにっ!全員手を出すな!」
「博士!一体何を言ってるんです! おい!止まれ!」
連邦が反応ができていない隙に、シャアは側にあったビームライフルとビームサーベルを拾った。
「ビームライフルにビームサーベルか、本当に連邦は作り出していたとはな」
悠々と近場のガンタンク、ガンキャノンを一機づつ、ビームサーベルでコックピットのみを破壊した。
ビームサーベル、小型のIフィールドを発生させ、内部に縮退させたミノフスキー粒子を展開、その高熱で敵を焼き切るビーム兵器。
その気になればIフィールドの形を変えれば槍でも斧でも好きな形にできる。
「ザクとは違うなこれは、これが連邦の力か」
そして連邦が対応する前にホワイトベースの外壁を切り裂いてコロニー内部へとシャアの乗ったガンダムは進んだ。