「やはりこれは少し窮屈ではないかね? それに騒がしい物だ。修学旅行じゃないんだが」
第603技術支援隊の母艦である技術支援艦ヨーツンヘイム。
その艦長のマルティン・プロホノウ中佐相当官は艦長席に座った際に感じた頭部の大きさと艦内の様子にそう思わず呟いた。
「この少し大きめの頭だけですよ。それ以外にノーマルスーツを着ているのとあまり変わりありません。船内の騒がしさだって客船だった頃に戻ったようじゃないですか」
副長のエーリッヒ・クリューガー大尉相当官はそう答える。
今、ヨーツンヘイムの艦橋にいる人物はノーマルスーツを着つつ全員が少し大きなヘルメットを被っていた。
ヨーツンヘイム自体にもブースターや対空砲などが備え付けられ性能向上が図られていた。
「ふむぅー。まぁ確かにそうだ。色々弄られてるがそれも助かる事だ。だが、やはり学生が来るとは聞いていなかったのだがな」
特務大尉に目を向けそういう艦長。
「月に着いてから説明しますわ、艦長。楽しみにしていてください」
当のモニク・キャデラック特務大尉はそう明るく言った。
「特務大尉がそう言うなら、今は黙ろう。それにしてもこんな廃れた技術を使うとはな、私の若い頃でさえVRなどアンティークだったというのに」
艦長はヘルメットを軽く叩く。
口では苦言ばかりだがその表情はかなり明るかった。
視界に表示される各種情報によって今までよりも状況の把握、指示が確かに簡単になっていたからだ。
「正確には拡張現実、ARというやつらしいです。まぁ、これが我が軍の秘密兵器です。古来より枯れた技術が意外な使い方をされ大戦果をあげる事はありました。MSだって始めはデカイおもちゃとしか言われてなかったですし……」
オリヴァー・マイがそうフォローする。
「偉大な発明家か後世の笑い物となるか……だが総帥の期待か、くっくっくっ! はっはっはっは! なにせ我々が新兵器を試験するのだからな! このヘルメットなど、ただの客船にはもったいないではないか!軍もようやく我々を認めてくれたのだな!」
その艦長のVRヘルメットに映された映像には船外で搬入作業中のヅダとオッゴの姿が、さらには艦内を歩き回る学生の姿があった。
第603技術試験隊は搬入作業を終え出港し、月面上空に到着する。
「さて、また新たなお客様がやってきたわけだが、早く説明してもらうぞ。特務大尉」
月面についてすぐにグラナダからヨーツンヘイムへ義手の男が乗艦してきていたが何の説明も挨拶もないためプロホノウの今までのハイテンションは鳴りを潜めていた。
「はい、お待たせしました。ではこれより本技術試験の概要を説明します」
モニカ・キャデラック特務大尉がヨーツンヘイムの主要メンバーが集まった一室でそう話し出す。
ヒデト・ワシヤ中尉、ジャン・リュック・デュバル少佐に、少し遅れて義手の男も参加していた。
学生達はここにはいない。
「本艦はこれよりEMS-10ヅダならびに駆逐モビルポッドMP-02Aオッゴ、ならびに本艦に施された性能向上措置の性能評価を行います。この2つの兵器の詳細についてはこの後、技術中尉から説明してもらいますが注意事項として3つほど。まず1つ、試験の途中、グラナダ上空で突撃機動軍第7師団第1MS大隊司令部付特務小隊との合同演習が計画されています」
「マジで?」
ワシヤ中尉が思わずそう口にだす。
「中尉……」
「いや、すみません。でもそれってあのレビル将軍を捕らえたっていう黒い三連星ですよね」
「そうです」
「私は……胃薬の用意はできてるがね」
「艦長……」
こんなやりとりがあったが室内のメンバー全員が感動していた。
「そして2つめ。本試験においては本国より極めて特殊で優秀な学生達が参加しています」
「ドズル中将閣下より拝命したこの任務の為にソロモンに部下を置いてわざわざここまで来たというのに、子供のお守りとは聞いて驚いたものだが……それが私の任務だ」
義手の男がそう思わず呟く。
「3つめとしてその"お守り"としてソロモン守備隊からヘルベルト・フォン・カスペン大佐も"わざわざ"参加されています」
「む……これは失礼をした。他意はない。艦長、乗艦したというのにこうして挨拶が遅れてしまって申し訳ない。ひよっこの面倒をみているとどうにも時間を忘れてしまうのだ。私はヘルベルト・フォン・カスペン大佐である。ギレン総帥……より正確にはドズル中将閣下よりひよっこの教導を任された。このジオン公国の行く末を左右する実験に参加できる事を非常に光栄に思う。皆もよろしく頼もうか」
流れるように自己紹介を行うカスペン大佐。
胸元にはジオン十字勲章が輝いていた。
「ふむ、こちらこそよろしく頼む。ジオン十字勲章の英雄と共に任務を行えるのは心強い。マルティン・プロホノウだ。大佐殿」
プロホノウはそのまるでサラリーマンかのようにスラスラと挨拶を述べる様に若干の不快感を持ちながらもカスペンと握手を交わした。
「で、だ。特務大尉、その特殊で優秀なひよっこ学生とはどのような学生なのだ。こちらとしては大佐殿同様お客様だし、まだ年若い者の事は知っておきたいのだが」
「はい。艦長。今乗艦している学生達は皆、ニュータイプです」
明るい笑顔でモニカ・キャデラック特務大尉は堂々と言い放った。
アムロシャア組やデラーズなどの本命の前に彼らのターン……あと気づけば2022年に、健やかに良いお年を皆様過ごせますように(祈)