気づくとギレンでドズルが怒鳴ってきた。   作:7576

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番外、ドズル・ザビ、キシリア・ザビ、キャスバル・レム・ダイクン

宇宙要塞ソロモン、

金平糖に似た形をしているこの場所はドズル・ザビ麾下の宇宙攻撃軍の拠点となっている。

 

「目標は厳重な要塞化の可能性があるから作戦は延期だとぉ!? 襲撃を中止して偵察してすぐ帰ってこいだとっ! どうなっているんだ! 作戦には準備というものがあるのだぞっ! 姉貴の説得だってしたのだ、偵察のついでにルナツーなど占拠してやるぞ! ええい! 」

 

シャアに通信を送ったあと、すぐにギレンの命令が総司令部を通してドズルに届いた。

ドズルは困惑した。

 

ルナツーは初戦での艦隊戦の残兵が篭る、戦略的価値もない元資源採掘用小惑星を基地として利用した場所。

そんなものはいまある戦力で落とす事ができる。

それがこの作戦を決めた時の考えだったはずだ。

しかし、先のギレンとの通信では連邦のV作戦の思惑について聞かされた。

それは納得のできるものではあった。

わざわざ囮に使うなど、連邦も小癪な手を使うと。

 

そう考えればこの命令も俺の知らない思惑が兄にはあるのかもしれない。

しかし何故俺には教えてくれない。

生まれの卑しさから政治的な物の感覚に疎いように見せていることやそもそもの武人気質はそういった葛藤をドズルに抱かせ、彼自身を憤らせていた。

 

「姉貴……いや、キシリアの奴はなんと言ってるんだ。なにっ! やつは兄貴に呼ばれサイド3に行っただとっ! ええいっ、V作戦のあの命令といいルナツー襲撃作戦といい、この大事、一体何が起きているんだっ! 何を考えているんだっ! 斯くなる上は俺もサイド3にいき詰問する!」

 

ギレン、キシリア共に通信に出なかった為にドズルの興奮は高まってしまった。

口には出さないがドズルには危機感があった、伝え聞く地球の戦況は非常に悪い。

物資が届かないのだ。

 

そんな状況故にオーバーな反応になってしまう。

 

そこにドズルの妻ゼナ・ザビがやって来た。

 

「貴方、どうしたの? そんな大声を出して。ソロモン中に聞こえてしまいますわよ。その調子では産まれたばかりのミネバにも怖がられてしまいますわ」

 

「おお、すまんな、ゼナ。ルナツー襲撃は中止だそうだ。ミネバの誕生祝いにこの宇宙をプレゼントできそうにない」

 

「ふふ、お上手ね、ですが、そんな大きなものはこの子の手に余りますわ。そんなものより、あなたがいてくれればそれだけでプレゼントなのですよ、ですからそんなに大きな声でどこかにいくなど喚かず、側にいてくださいませ。貴方、お二人ともお忙しいのでしょう、少し待ってみましょうよ」

 

「むぅ、お前がそう言うならな。お前も上手いものだ! ガーハッハッハッ! わかった。わかった。俺はここで兄貴の連絡を待つ!」

 

こうしてソロモンの時間は流れていく。

 

 

月面基地グラナダ。

ジオンにおいて最も多くの特殊部隊を持つ突撃機動軍を配下に置くキシリア・ザビが拠点にしている場所である。

そもそも月はコロニーの自治独立を阻む為に各コロニーの生活必需品、重工業の生産を引き受けるという役割があった。

デギンの政治的手腕、スペースノイドの自治独立の夢により月企業群を味方につけ、サイド3は重工業が発展し国を興す事ができた。

そういった背景によりこの月面は連邦とジオン、さらには各企業群といった様々な力が密接に絡み合う場所となっている。

キシリアは憑依前のギレンの軍に傾倒する考えに危惧を抱き、この月面のパワーバランスを利用しながら、力を伸ばそうとしていた。

 

「キシリア様、ハワイでの防衛戦、連邦の艦隊は壊滅したそうで……おめでとうございます」

 

「世辞は良い、用件は?」

 

キシリアは苛立っていた。

先の見えない無能どもと己の力を過信してしまっている兄ギレンに。

 

どいつもこいつも戦線を拡大し、ジオンが疲弊している現状がわかっていない。

潜水艦隊をつくり連邦の海上輸送網を潰しても、ジオンの補給が良くなるわけでは無い。

ただいたずらに戦線を広げる、このままジオンが勝ったとしても戦後はどうするのか、いやそもそもジオンはこのまま勝てるのか……連邦のMSが一部戦線に出て来ている、兄上は一体なにを考えておられる……

 

「このままではいかんな……」

 

「……というわけで少しばかりキシリア様のお力を……はて、どうかなさいましたか?」

 

「気にするな、その件承った。下がれ」

 

「おお、ありがとうございます、それでは」

 

 

 

「ふぅ……」

 

ヘルメットを脱いだキシリアは熟考しようとした。

このままではジオンは不味い……

そこにセシリアからの通信が入った。

 

「セシリアか、なんだ、 なに、兄上が? それで、緊急事態だと、そうか。明日にはサイド3につくと伝えておいてくれ」

 

それからキシリアは独自の情報網を駆使しギレンの思惑を探り始めた。

罠の可能性も考えなければならない。

 

「V作戦か……ドズルが何かをつかんだ?」

 

連邦のMSは既に一部戦線に確認されている。

それについてのことか、とキシリアは当たりをつけた。

 

その後サイコフレームの資料が送られてきた。

フラナガンを呼んで詳細を聞く。

 

「私のニュータイプ部隊を黙認したのはこれが原因か、私の手柄を奪うのか、いや、メンツなどどうでもよい、兄上にニュータイプを認めていただけるのならそれでよいか……」

 

「い、いえ。キシリア様、これは遥か先の考えです、私自身ここまでになるものとは思っていませんでした。それほどのものです、サイコミュはまだ試作型を試作中です、どこから情報が漏れたのか……それともこちら以上に研究が進んでいたのか……」

 

「ふん、まだまだ私は兄上には勝てんということだ。少しばかり急いで向かわねばな、お前もだ、来いフラナガン」

 

こうしてキシリアは少し早くサイド3に向かった。

 

 

ムサイ級ファルメル艦上

 

白い仮面と赤い軍服をきた若い男がドズルと話していた。

 

「それでは強奪ではなく、データ収集であると」

 

「そうだっ! 兄上が言うにはあれは囮だそうだ、 MS操縦ソフトや使われている素材やらそういった技術情報を奪え! 内部に潜入する危険な任務だ」

 

「ではデータ収集目的で奪ってしまってもよいと」

 

「おお、言ってくれるなぁシャア、帰ったら鎮圧任務完了の祝杯が待っている、それにこの結果次第ではさらに豪勢になるだろうな、気をつけていけよっ!」

 

「はっ!ありがとうございます、 了解しました」

 

「あぁ、そうだ、お前の部隊は新兵がいるだろう、新兵の暴走はお前の責任になるからな、しっかりと教育しておけよ、兄上が心配していたぞ」

 

「ギレン閣下がですか?」

 

シャアの胸に黒い感情が浮かぶ

 

「そうだ、お前の名も有名になったと言うことだな! おっと噂をすれば総司令部から通信だ、それではな!」

 

通信が切れ、ドレンがやって来た。

 

「少佐、本当に我々だけでやるんですか?」

 

「ギレン閣下に名を覚えてもらえていたようだぞ、やるしかないだろう」

 

「ギレン閣下にですか! 部下にも伝えておきましょう。やる気が出ると言うものです」

 

「あぁそうだな。頼む。少し私は部屋で休む」

 

「はい、少佐!」

 

室内に入り、仮面を脱ぐ。

シャア、いやキャスバルの目的はザビ家への復讐。

だがこれといった明確な手段を考えているわけではない。

 

親を、家族を、ザビ家によって失った男の子は子供のまま、大人になり切れずにいた。

 

「まだまだ遠いが、このチャンスに名を上げて近づかなければな」

 

アムロとシャアの出会い、そして最愛の人ララァ・スンとの出会いは未だない。


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