「閣下、入ってよろしいですかな」
思っていたより遅かったが、ちょうどいいぐらいだな。
書きすぎた気がするが。
これはもしかすると徹夜か……
「よい、2人とも入って来るのだ」
セシリアとデラーズが部屋に入って来る。
「これは……どうかされたのですか!」
おお、デラーズだな。
こうして目にするとカリスマがにじみ出ている。
頭に視線が行く余裕がないな。
デラーズの驚きようもよくわかる。
俺の部屋は書類で散らかっていた。
覚えている範囲でのガンダムの歴史を手書きで書こうとしたら止まらなくなってしまったのだ。
ちょうど逆襲のシャアあたりまで書き終えたところだ。
さすがに人名はごまかしてあるが。
最後に、この後約30年後地球連邦政府はコロニー間戦争により形骸化、さらに数百年後戦乱により地球文明は崩壊。と書き加えておこう。
「気にするな、これをみろ」
散らかった書類を整理し、渡す。
シャアがキャスバルだということやラプラスの箱はまだ隠して書いている。
セシリアはいいがデラーズが何するかわかったもんじゃない。
まぁ連邦側の人名は隠す必要がないから書いておいといたが。
「なんですかな、これは………ムムゥ!?」
「…………これは、一体?」
両者ともに視線は資料に釘付けだ。
「これが未来だそうだ。どう思う、デラーズ」
「オデッサへの大反攻作戦……連邦の脅威的な性能のMS……そしてドズル中将のソロモンでの戦死……学徒動員、ソーラレイ……キシリアによる閣下の殺害!ジオンは傀儡ですと! そして星の屑……私の作戦が地球主義者の台頭を生む……! このようなこと……ありえませぬぞ!」
書類を手に取り声を荒げるデラーズ。
デラーズだな……やっぱり頭に視線がいくのは許してほしい。
セシリアは書類を横目で覗き込んでいる。
その表情は怪訝そうだ。
「ならばなぜ、声を荒げているのだ。どうだありえる未来と感じただろう」
デラーズにとっては認めづらいだろうが、ジオン上層部の優秀な者にはこうなる可能性が直感的であれわかるはずだ。
さすがにホワイトベース隊の活躍は信じられないかもしれないが。
戦争の推移についてはな、星の屑を実行できたデラーズにはジオンの限界を考えられる筈だ。
ありえるかもしれないと。
そう思ってくれればこれから俺の言うことを聞くはずだ。
「いいえ、恐れながら閣下、これはありえません」
「セシリアか……なぜそう思う」
意外だな……セシリアがそう言うとは。
「デラーズ様失礼します」
セシリアはデラーズから書類をもぎ取り、目を通す。
「いえ、これは……! 少々お待ちを、もう少し読ませていただいてもよろしいですか」
「うむ」
これはセシリアは大丈夫そうだな。
一瞬2人とも信じてもらえないかと思ったが……
「ありえませんぞ!」
「しかし、デラーズ様……」
そこからはセシリアとデラーズの言い争うような展開になってしまった。
原作でこの2人の仲は悪かったのか?
そもそもギレンの前で口論するキャラだっただろうか?
しばし、2人の口論を聞く。
「このホワイトベース隊とやらの活躍はおかしいではないかっ! 民間人によって我が軍のエースがやられるわけがないっ!」
「いえ、このMSの性能があれば可能性はあります」
冷静にデラーズの考えを聞きながら一つ一つ冷静に答えていくセシリア。
そこから何度もデラーズと問答をするが、冷静に答えていく。
うむ、なるほどな。
我がジオンの問題点を伝えたかったのだが必要はなかったかもしれんな。
その様はセシリア自身も書かれた内容について吟味しながらも答えているように見える。がこれは私の反応を見ているのだな。
「ええい、ジオンはそんな軟弱なものではない! では、閣下がキシリアに暗殺されるなどはどうだと言うのだ、ありえん!」
「そもそもソーラレイによる暗殺などしたらこの話は絵空事にはならないでしょう! キシリア様はただでさえ……いえ、この内容が現実になる可能性を、デラーズ様も理解しておられると……っ!」
だんだん熱くなってきてしまったな。
アニメの中のキャラクターがこうして口論を交わすとは、いや、この気持ち、いまは置いておこう。
「2人とも、そこまでにしておけ。可能性はあると理解してもらえたようだな。 これに対する対策を話し合うために呼んだのだ。さすがにこれを他の人間に見せるわけにはいかん、お前たち2人にのみ見せたのだ」
そう言いながらセシリアから書類を受け取り、燃やす。
「閣下……その内容を信じておられるのですか」
デラーズが問うてくる。
「これが未来などと信じてはいない、ただ今のジオンに足らぬものがあるとわかった以上対策を取らねばならぬのだ。デラーズならわかるな」
ただでさえジオンは人材不足でいろいろガバガバだからな。
よくここまで勝ててたものだ。
「は、ははっ! 閣下にはお見苦しいところをお見せしました」
「私からも謝罪いたします。取り乱してしまいました」
「2人とも、よいのだ。ジオンを思えば取り乱すのも当然のことだろう。それに……私の前であえて口論を交わした思惑を理解はしている。私の頭がおかしくなったと思うのも無理はない」
「出すぎた真似でした。申し訳ありません」
セシリアがそう言う。
「良い、わかっている」
2人はあえて俺の前で口論を交わしたのは伝わってきていた。
熱くなってしまったのは予想外だったとは思うが。
ギレンがオカルトじみた事を言い出したと思ったセシリアがデラーズと一芝居打ったのだろうな。
あのデラーズがギレンの前でここまで感情を出すわけがないしな。
初めはセシリアの言い分を疑いつつも書類を見て、といったところか。
諌めるのも秘書の役目か……有能だな、本当に。
だがその必要はないのだ。
「我がジオンの不安要素がある程度わかればよいのだ……」
こうして2人と茨の園やスパイ関係、部隊の訓練、ニュータイプについて等々様々な対策や話し合いを行って、認識を確かめつつ、時間は過ぎて行った。