読み込めば読み込むほどミローネ商会の規格外っぷりが恐ろしくなります。
「旦那、うまい儲け話があるんでさ」
雨に振られ駆け込んだ教会宿で、ゼーレンと名乗る商人に持ちかけられた商談。
ロレンスが交渉し、探りを入れる中、オレは隣で
本来ならば賢狼と商人が手掛かりを得て、裏を暴くために危険と隣り合わせの商戦を行った。
だが、オレは事の全てを把握している。
だからこそ分かるのだ。
原作通りに進んだ場合、オレとロレンスは死ぬということが。
-----------------------------------------------------------------------------
「さて、あの銀貨の話し。お前はどう思うホロ」
教会宿から港町パッツィオへ向かう道中、
荷馬車に揺られながら尻尾の毛を素手で乱暴に梳いているオレに隣りに座るロレンスが質問してきた。
「いっつ……。ありゃ嘘だろ、オレの耳で無くたって主にならお見通しだろ?」
素手だと毛が絡んで抜けるのがかなり痛い、泣きそうになる。
賢狼が櫛を欲しがったり、舌で整えてたのも分かるな、恥ずかしいし絶対やらないけど。
「確かにな、しかしそうなるとなぜ嘘をついたか分からない。それこそが問題なんだが」
「でも主は乗るんだろう?嘘ならその裏をつくために」
やれやれお見通しか、とロレンスは肩をすくめる。
「そんなことより、オレはあの男が言ったことが気に食わない」
怒りからか、尻尾と耳がわなわなと震える。
「ゼーレンが?」
「そう、あいつオレの事を奥さんとか言いやがって!そりゃ男装出来る服が今無いんだけどさ!」
原作通りに外套を深くかぶり、先のことを考えるために大人しく振る舞っていたのが悪かった。
原作通りに振る舞えば、その通りになる。1つ勉強になったがオレは気持ち的には男なんだよ!
毛が逆立つほどの激しい怒りに、ロレンスはど「どうどう」とたしなめてきた。
「そんなに怒るなよ、不都合なら街についたら服くらい買ってやるから」
「ほう、よし言ったな。確かにこの耳でしかと聞き届けた」
オレが「しめた」とばかりに狼の耳を引っ張り強調すると、ロレンスは降参と首を振る。
港町パッツィオへの門は、眼に見えるところまで迫っていた。
-----------------------------------------------------------------------------
原作一巻における、トレニー銀貨を巡る攻防を頭の中で整理しよう。
銀貨の価値は変動する、物程じゃないにせよ確かに変わるのだ。
だから銀貨が安い時に仕入れ、高い時にばら撒ければ差額が利益となる。
そこで黒幕、『メディオ商会』は若者を使い「銀の純度が上がると聞いたので、価値が上がりますよ」と提案してくる。
そして商人は銀貨を大量に集め、利益を得ようとする。
問題となるのは実際は価値が下がること。
純度が下がり、安くなるそれを大量に買うと利益ではなく大損となる。
困った商人に「銀貨はこちらで引き取りましょう」と少し損する程度で収まる金額取り引きするのだ。
騙された商人は快く応じ、恥となる失敗談は語らず黙秘する。
そうしてメディオ商会は秘密裏に大量の銀貨を多数の商人から回収出来る。
その大量の銀貨を使って大儲けする計画なのだが、そこは話が大きすぎて行商人のロレンスには手が出せないので忘れることにした。
重要なのは「銀貨を秘密裏に、大量に確保した組織が大儲け出来る」この一点であり。
ロレンスは別の商会へとこの策略を教え、その利益から配分を得ようとする。
そしてその商会こそ―――
「……んで、あれがミローネ商会か。思ったよりも大きいんだな」
「この街で三番目に大きい商会だからな、お前は食いかけの林檎をさっさと捨ててくれ。上限なしに買い込んでせいで嫌になるくらい荷台にあるんだからな」
赤い林檎を貪るオレに、厭味ったらしくロレンスが牽制してくる。
原作通りに銀貨一枚で、荷台の毛皮が埋まるほど買い込んだからだ。
「美味いなこれ、まぁ見てろってオレが考えなしに買い込んだわけじゃないって教えてやるよ」
芳醇な林檎の香りがしっかりと毛皮についていくのを鼻で嗅ぎながら、先を読む為に思考を加速させる。
ミローネ商会、異国から支店を出してきたこの組織を選んだのはロレンスだ。
その選択の正しさは、メディオ商会が詰んだ事から明らかである。
だからこそ問題になるのが、
メディオ商会には、パスロエ村のクロエがいるため、
最後の手段として人外であるオレを捉え、全てを破滅させる切り札とするから。
そして
狼の姿にならねば殺されてしまうまで追い詰められた。
そう、この事件は
だからこそ、オレが考えるべきなのは『原作より上手く立ち回り、力を使わずに済むようにする』こと、なの、だが……。
-----------------------------------------------------------------------------
「あーっはっはっは!主よ飲めや歌え!オレの奢りだ!」
原作通りに振る舞い、大儲けしたオレは酔っ払っていた。
この世界の食事はまずいとばかり思っていたが、金を積めば美味な飯と酒が手に入るのは素晴らしい!
「おい馬鹿!テーブルの上に乗っかるな、踊るんじゃない!」
必死な声が聞こえてくるがなんのその、オレは酔っぱらいの声援を受けながら。
軽い身体で踊り続けるのだ!
この身体は素晴らしい!軽いし飛べるしで風になったようだ!
「ふはははーーー……。あっ」
などと調子に乗ったせいか、足を宙に踏み外し
「危ないっ!」
床に落ちるところを、思いの外たくましい腕に支えられ、抱きとめられた。
「うぁ……?」
酒で混乱し、状況が把握できないため、そう酒の!せいで!
意識が落ちていく中、不覚にもこう思ってしまった。
「全く、お前は田舎娘か。いや、実際そうなのか?大体お前は。おい、聞いているのかホロ」
「むにゃ……。」
「……嘘だろ、アレだけ騒ぐだけ騒いで寝たのか!?おいホロ!」
主、意外と格好いいな、と。
感想ありがとうございます、ポンコツは可愛い(確信)