グランブルーファンタジー【REDHIANT MYTHOLOGY】   作:RYOU

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第八話~再起の騎士と追憶の剣士~

ククル

「・・・・・」

 

兄のアーサーが両親に頼まれた鉱石を預かりに出て数日が立っていた。1、2日程度の

距離なのに一向に帰ってくる気配がなかった。

そんな中でようやくシェロカルテから来た連絡は乗っていた船が帝国兵に襲われたとい

う知らせとどうにか一命は取り留めたという連絡だった。

 

ククル

「クム坊にも心配をかけないように誤魔化しておいたけどそろそろ限界かな・・・」

 

その時、御上さんの張った声が外から聞こえてきた。

 

御上さん

「ククルー!アーサーが帰ってきたわよ~~!!」

 

ククル

「!本当!?」

 

勢いよく飛び出した先にはいつもの飄々とした顔のアーサーガ立っていてすでに

クムユが飛びついていて片腕で抱きかかえられていた。

 

アーサー

「おっと帰りが遅くなったな、今帰ったよ、ククル。ってクムユ、苦しいっての」

 

クムユ

「だって、だって船が攻撃されたってクムユ、し、心配するの当たり前だぁ~い~!?」

 

アーサー

「悪かった、悪かった。この通り、ちゃんと無事だし、元気だよ。1人おまけはいるがな」

 

ヴィーラ

「あなたの付属品になった覚えはありませんが。失礼極まりない男ですね」

 

裏から現れたのは紅い瞳に腰まで流れる美しい金髪に端正な顔の持ち主。赤と黒の

リボンをしている。 すらりと伸びた手足でスタイルもよい女性騎士だった。

 

アーサー

「まだ見た目はそこそこなんだから少しは慎み持てよ、まだ可愛げがでると思うがね」

 

ヴィーラ

「あなたごときに可愛げなど見せる必要性はないわ、気安いですよ」

 

憎まれ口は叩いているのだが何となくアーサーに気安い、聴慣れさを感じる。

 

アーサー

「人の金でしっかり三食食った奴の言うセリフか」

 

ため息を吐きながら抱き着いていたクムユを抱え直して歩き出すのだがククルに振り返る。

 

アーサー

「どうした、ククル。いくぞ?」

 

ククル

「あっ、う、うん!今行く!」

 

とりあえず今は兄の帰りを喜んで今までのように「指定席」に飛びついて言葉をかける。

 

ククル

「おかえり、アーサー兄」

 

アーサー

「ああ、ただいま」

 

ヴィーラ

「・・・・・これが・・・兄妹なのでしょうか」

 

慕われ妹を護る兄と想われ慕う妹達、なんとなくだが自分が憧れる関係に想えるヴィーラ。

 

御上さん

「まったく、あんたって子は心配させんじゃないよ!このバカ息子!!」

 

アーサー

「あいったッッ!?つぅぅぅ~~~ッ、なんかこの旅で一番ダメージでかい気が・・・」

 

御上さん

「何か言ったかい?」

 

アーサー

「いえ、なんでもありません。すいませんでした」

 

ヴィーラ

「あれだけ偉そうだった男が簡単に屈するとは情けない男ですね」

 

だがいつものペースを崩されるのはヴィーラの方もだったらしい。裏にいたヴィーラを

頭から足先までじぃ~と見つめてくる。

 

御上さん

「そういうのに興味なさそうに思えたけどなかなか見る眼はあるじゃないか、アーサー」

 

アーサー

「いや、御上さんの見る眼が無さ過ぎるよ。俺が拒否するわ、こんなサイコパス女」

 

ヴィーラ

「あら、こんなところにいい、木人人形がありますね。剣の鍛錬に良さそうです」

 

アーサー

「お前は一回、目を治療してもらえ、ついでに頭もな・・・・・ッ!!」

 

斬り掛かってくるヴィーラをラムレイで防ぎつつ罵り合いに発展する2人。

すぅ~と近づいてきた御上さんがククルに耳打ちをしてくる。

 

御上さん

「お前ももうちょっと頑張んないとこの別嬪さんにアーサー取られちまうよ~、ククル~?」

 

ククル

「な、何言ってんの、おかあちゃん!?」

 

御上さん

「さぁ~ね~?」

 

親方

「いくらお前と言えどそう簡単に娘は渡さねぇぞ、アーサー・・・・・」

 

アーサー

「いや、親方も何言ってんの!?つうか、俺の敵増えてるんですけど!」

 

妙な流れから敵を増やして帰って早々にハードな運動をする羽目になったアーサーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてヴィーラが来て数日が経ち・・・・。

 

アーサー

「―――――ッ、フッ!」

 

ヴィーラ

「―――――――、シュッ」

 

早朝から2人は彼がいつも修業している滝の近くで模擬戦形式で手合せをしていた。

意外にもヴィーラからの提案でアーサーの普段からやっているアップメニューや他の

修業のメニューもこなして実戦の修業に入っていた。

 

アーサー

「スー・・・ハー・・・スー・・・ハー・・・」

 

一度距離を置いた瞬間に呼吸を整えて次の瞬発と加速に神経を研ぎ澄ませる。

 

ヴィーラ

「・・・・・・、―――――(弱い光だがあれはあの時に類似していますね)」

 

肉体の瞬発と共に周りの風景が加速に離され、ゆっくりと流れその中を駆ける感覚。

 

アーサー

「―――――、ッ」

 

ヴィーラ

「(この緊張感の中での修行、久しく忘れていました・・・・。この男の雰囲気、

  あの時と限りなく近いがあの時ほど威圧感がない、使いこなしてはいないのか)」

 

さらに上を見たせいか、格段に動きのよくなったアーサーにも対応し、自分自身も

磨がれていく精神と瞬発する肉体の動きを感じている。

弾け舞い飛ぶ水滴すらも羽根が落ちるような感覚で映るほど磨がれていた。

それからしばらくして・・・・。

 

アーサー

「ほら、飲めよ」

 

ヴィーラ

「礼は言っておきましょう」

 

実戦練習を終えた2人は岩場に座って彼が持ってきた果実飲料を飲みながら休息していた。

 

アーサー

「さすがに元アルビオン№1の騎士なだけあるな、冷や冷やさせられる部分も多かった」

 

ヴィーラ

「まぁ・・・あなたの戦闘技術だけは認めておきます。久しい緊張感のある鍛錬でした」

 

彼自身も普段は1人で修業しているので緊張感や競合うような修業は出来ていなかった

のもあってか、ヴィーラが来てからは内容も濃い修業が出来ていた。

それもあってか、先ほどの戦闘でも見せた変化を少しだが使えるようになっている。

 

ヴィーラ

「あなた、わたしと戦った時に使った・・・『極限の精神(ゾーン)』でしたか?さっきの鍛錬でも

 それに近しい状態でしたが手加減して抑えているのかしら?」

 

果実飲料を飲み干しながら汗を拭い、質問に答える。

 

アーサー

「あれは『極限の精神(ゾーン)』じゃないさ。まぁ、限りなく近い状態・・・ってのかね。扉は開いて

 いるけど完全に開放は出来てないってところだよ」

 

ヴィーラ

「扉・・・・?」

 

アーサー

「あくまでイメージの話だ、精神が研ぎ澄まされていった時に目の前に巨大な扉が

 あってお前との戦いの時はその扉を完全に開けてその中に入った、んでまずは

 雲の中を進んでいく・・・こいつはティアとの戦いでも入れたんだが」

 

最早、それは感覚というか瞑想の中のような話ではあるが独特の状態なのだろう。

 

アーサー

「あの時はその先、雲の中を突き進んで恐らくは昔の記憶なんだろうがその映像と

 共に力の使い方を思い出して・・・そしたら雲を抜けてどこまでも蒼い空へ

 出たんだ、後はどんどん上へ昇った。まぁ、途中で解けて扉の前に戻ったが」

 

ヴィーラ

「昔の記憶の映像?そういえば飛空艇の中でも記憶がどうとか言っていましたね」

 

そして自分が何故この工房に世話になっているのか今までの経緯を説明した。

 

ヴィーラ

「あの大剣も妙ではありますがあの剣に刻まれた文様・・・?多くの国や銘家の

 紋様も覚えていますけど類似したのも見た事がありませんでした」

 

アーサー

「そしてあの時、俺と戦ってた二刀流の女剣士がいただろ、あいつも俺と同じ力

 を持ってて同じ記憶喪失なんだが記憶の中で自分に教えていた人物が俺と同じ

 紋様の剣を背負っていたらしい」

 

ヴィーラ

「彼女とあなたは元は同じ場所にいたという事ですか?」

 

アーサー

「いや、そこまでは分からない。後姿だけでぼやけた記憶らしいし、俺が見た記憶

 のいくつかにはティアは出てこなかった。俺も見た事が無い女の子だったからな」

 

話ながら手に持っているパッスランドの紋様をなぞり乍ら話を続ける。

 

アーサー

「俺にあったのはこのパッスランドとあの剣・・・確か無葬白刃か、そして俺の

 名前のもとになったこのアクセサリーだけだった」

 

そしてその剣の本当の名『無葬白刃』というのも記憶になくあれからその力も扱う

事が出来なくなっていて今は以前と同じ打撃武器の状態になっている。

 

??????

「キーキッキッキ、しばらく見ない間に随分と覇気が馴染んどるみたいじゃな」

 

??????

「ほう、この青年がお前の言っていた、秘蔵の弟子か」

 

その声に振り返ってみるとアーサーにとっては懐かしい人物達で武の道を歩んで

来たヴィーラからすれば驚きの人物2人がそこにいた。

 

アーサー

「師匠!こっちに来ていたんですか、えっとそっちの人は・・?」

 

ヴィーラ

「なっ、あなた方は・・・・、剣聖『ヨダルラーハ』、それに伝説と称される剣豪の

 『アレーティア』!?まさかあなたの言っていた師匠とは」

 

アーサー

「あぁ、俺の言ってた師匠、ヨダルラーハ。もう1人の人は初めて見るがそんな凄い

 人だったのか。てかお前、よく知ってるな」

 

武を志す者なら名なら聞いた事はあるはずというが彼はこの島からようやくでた程度

で外の知識もさほどないので驚くのも無理はないだろう。

 

ヴィーラ

「銃の二刀流はヨダルラーハ殿からの師事が元という事ですか」

 

ヨダルラーハ

「キーキッキッキ、まぁ、教えてたのは短い月だったがのぉ。しかししばらくしない

 間に腕も上がったが高め合う良き相手も得ているようじゃな」

 

アーサー

「まぁ・・・いろいろとかくかくしかじかあったので・・・・(汗」

 

だがここでやはり老獪な物腰そのままにさらりと看破してくる。

 

ヨダルラーハ

「アルビオンでの大騒動で確か帝国、アルビオン兵相手に大立ち回りを繰り広げ、

 事件の首謀者も薙ぎ倒し、領主行方不明の重要参考人で手配されるほどに腕を

 上げ寄ったようじゃの~?」

 

アーサー

「知ってたんすか、師匠・・・・」

 

ヨダルラーハ

「キーッキッキッキ!わしはそれなりになんでもお見通しということよ」

 

アレーティア

「そこに追った者達の話で色々と聞いておる。身の丈ほどの大剣の使い手だとか

 人間離れした力で戦地を駆けていたとか、斬撃で天を割ったなども聴いたぞい」

 

事実もあるのだが尾ヒレがついて話が進んでいる部分もあるようだ。

 

ヨダルラーハ

「さて話はあとでゆっくりやるとして我が弟子の成長を確かめに来たんじゃったの」

 

アレーティア

「ワシも新たな時代の芽の力強さを肌で感じたくてな、久方ぶりにあったのでこうして

 一緒に来たというわけじゃよ」

 

アーサー

「いいね、何だか燃えてきた。師匠に加えて伝説の剣豪と一槍交えられるとはね」

 

ヴィーラ

「私もやらせていただきます、これほどの手練れとの一戦はそうそうできませんからね」

 

そういってそれぞれに武器を構えて相対する。

 

ヨダルラーハ

「キーキッキッキッ!さぁ、ぶつかり稽古といこうか。かかってこい、弟子達!」

 

アレーティア

「常に研鑽を重ねねばな、この若き力とのぶつかりもまた更なる研鑽となりそうじゃわい」

 

アーサー

「そんじゃ、行きますかッ」

 

ヴィーラ

「わたしの邪魔はしないでくださいね、アーサーッ」

 

アーサー

「そっちがなッ!」

 

伝説の剣豪と剣聖にぶつかり稽古で向かっていくアーサーとヴィーラ。

憎まれ口を叩きあい、ぶつかって時折は互いに支援し合いながら実践稽古を続ける

2人だったのだがお互いに共に鍛錬する者がいるのは悪くないと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーサー

「・・・・んぁ?」

 

気が付くと自分は仰向けに倒れていて空も少し夕日がかっていた。

 

ヴィーラ

「気が付きましたか」

 

視線を上げてみるとヴィーラが隣で座っておりぽとりと自分の腹部にタオルが落ちた。

どうやらとりあえずは手当てをしてくれていたらしい。

 

アーサー

「そういえばあの2人の技をもろに食らって吹っ飛んだったか・・・・?」

 

ヴィーラ

「ええ、ものの見事は吹っ飛びっぷりでしたよ、面白いものがみれました」

 

アーサー

「お前は本当に人の不幸は蜜の味を体現してるよな、このヒステリック女子が・・・」

 

なんとか起き上がるとさすがに体に痛みが奔った。

 

アーサー

「いつぅ・・・・(汗」

 

ヴィーラ

「まったくお節介にもほどがあります。人の前にいきなり現れて2人の攻撃を受けきろうとは」

 

前よりは覇気の力を使いこなしているので防御に当てたのだがやはり伝説の剣豪と剣聖

の技を一度に受けては守り切れずに吹っ飛ばされたようだ。

悪態をついておきながら体が勝手に動いてカバーに入ってしまったのも自笑するしかない。

 

アーサー

「しっかし・・・世界ってのはやっぱり広いもんだな。お前にある程度、勝てて

 たしそれなりに強くはなってたんだろうけど・・・相手も悪かったか」

 

ヴィーラ

「なぜ、そこでわたしが出てくるんです」

 

アーサー

「性格はあれだが剣の腕と力は間違いないだろ。それに勝ててるんだから俺だって

 強く放ってると思ったんだけどな、まだまだ甘かったわ」

 

ヴィーラ

「わたし程度をあの剣士2人の物差しに使う自体が間違いでしょうッ。あなたと

 言う人はたまにとんでもない理論を持ち出し来ますね」

 

アーサー

「まぁ、考えてみれば俺もお前も完全に防戦一方だったもんな~・・・」

 

ヴィーラ

「・・・・・・・」

 

少しの間自分が長く愛用しているレイピアを見つめ先ほどの一戦を思い返す。

意図せずまさか伝説の剣士2人と手合せするとは思わなかったが自分もアルビオンで

修練は怠ってはいなかった。

しかしこれほどまでに世界に名を馳せる剣が高い存在とは島を出なければ感じる事も

なかったし、自らの現状の頭打ちも図ることは出来なかっただろう。

 

ヴィーラ

「しかしあなたにそう思わせてしまったのはわたしの実力不足でしょうから」

 

すっと立ち上がって横顔だけを見せながらもその顔は今までより柔らかい笑みが見えた。

 

ヴィーラ

「そう思わせない程に強くなりましょう、今度はわたしが護ってさしあげますよ」

 

今までに見た事が無いような表情ですこし面食らってしまったがすぐに悪態をつく。

 

アーサー

「女に前に立たれたら面子がないだろ、隣なら経つのを許可してもいいがね」

 

ヴィーラ

「ならあなたがわたしの隣に立てるくらいになるのですね」

 

アーサー

「可愛くない奴」

 

ヴィーラ

「それはお互いさまという事にしておきましょう、ふふっ」

 

互いに可愛げのない『悪友』にほんの少し距離感が近づいたのを感じるのであった。

 




次回、REDHIANT MYTHOLOGYは・・・





             第九話~新たな縁と空へ立つ~




                        お楽しみに。



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