回生のライネル~The blessed wild~   作:O-SUM

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○前回のあらすじ

 リンク「姫は守る。魔物は殺す 」
 退魔の剣「(祝福された聖光に輝きながら)大将首だ!! 大将首だろう!? なあ、大将首だろおまえ? 首置いてけ!! なあ!! 」




【厄災】~ハイラルの勇者~

   *   *   *

 

 

 ――子供の癇癪(かんしゃく)にも似た、ひび割れた音程で響く音が鳴っている。

 

 何かから一心不乱に逃げ出している者が、恐怖に(すく)んで上げる絶叫のようだった。もちろん、それは戦いに誇りある戦士に相応しい声であるはずがない。

 ……いつの間にか掲げていた棍棒を、ヤツに向かって振り下ろせるようになる場所まで駆け寄った時になって、そんな金切り声を上げている臆病者がようやく「俺」だと気付いた。

 

 尊敬している父の怒り顔が、何故か頭をよぎる。

 それは初めて連れられ、大きな猪の狩りに挑んだあの日の記憶。その時まで仕留められた後の死体の姿でしか見たことの無かった俺は、生きている猪の尖った牙が、とてつもなく恐ろしかった。

 

 

 ――そうだ。あの時の俺も、今みたいに思わず動いてしまったんだっけ。

 持たされた唯一の武器を振りかざして、怖いモノを追い払おうとしたんだ。

 

 あの時は猪をただ怒らせて、踏み殺されそうになったりしただけで散々な結果に終わってしまった。……助けてくれた父にもメチャクチャ怒られてしまったなぁ。

 「戦士を目指すなら、恐くても取り乱すんじゃない。それが出来ないようでは戦士失格だ」って言われたの、教訓としてしっかり覚えていたはずなんだけど。

 

 

 

 ……でもさぁ、父ちゃん。

 この「青いの」、あの時の猪なんか比べものにならないくらい、こわ――

 ぃ、

 ……ょ……

 

 

 

   *   *   *

 

 

 叩き付けられた"気配"に恐慌をきたしたように見えた1匹の赤い子鬼が、俺の号令を待たずに飛び掛かり。

 選りすぐらせたはずの戦士の心へすら恐怖をもたらした"原因"が、その本来の機能であるところの凄まじい切れ味を発揮し、子鬼の身体を上下に斬り裂いた。

 

 真っ先に崩れ落ちた下半身によってまだ勢いよく広がり続ける血の海に、軽く滞空していた上半身が、己が生物であった証を最後に残すかのように身体を叩き付ける――。

 そんな粘度の高い水気に溢れた音が大きく響き渡ったことで、敵対する存在から感じてしまった『(おそ)れ』に固まっていた場の空気が動き出す。

 

 そう。

 その一連の流れが完結するまでの間、他の魔物は1体として動いてはいなかった。

 

 子鬼が発していた恐怖を吐き散らかすかのような絶叫は、もしかするとここに集まった全ての魔物達が、あの"剣の気配"を感じ取った時に抱いた感情を、正確に代弁するものだったのかもしれない。

 初見でないはずの俺でさえ、その濃密な"気配"を浴びせられたあの一瞬、確かに身を強張らせてしまったことを自覚している。改めて振り返っても、あれが『恐怖心』から生まれた硬直だったことを否定することは難しかった。

 

 だからこそ、あの光景は強烈であった。

 そんな状況下でありながらも、錯乱した結果であれ何であれ、「あの」子鬼は武器を放り捨てて後ろに逃げ出すのではなく、前へ、恐ろしい敵に向かって攻撃することを選んだのだ。

 もちろん、この集団の中では最も弱い存在でしかない子鬼の特攻は、当たり前の無惨な結果に終わった。恐らく示威行動のつもりなのだろう、命を終わらせるには明らかに必要以上の暴力が加えられたことは、上下に別れた死体を見るに明らかだった。

 見せつけるように打ち上げられた上半身は全ての魔物が目撃したはずだ。晒された亡骸は恐怖の拡散を生み、戦意を失墜させる切っ掛けとなるには十分であったかもしれない。

 

 それが、()()()()ならば。

 

 期せずして生まれたこの状況に、俺は小さく口元を歪ませる。

 この惨状が()()達にもたらす効果が、同じ存在である俺には手に取るように分かるのだ。

目の前の剣士が狙った心の動きに繋がることは、まず有り得ない。

 けれど、それがヒトの身でしかない"剣"の主には分からないのだろう。

 

 

 ――殺された

 ――愚かな

 ――恐ろしい

 ――……しかし、非力な子鬼が一番槍を挙げた

 ――独断専行では?

 ――ならお前は動けたのか

 ――俺はどうする

 ――尻尾を巻いて逃げるのか

 ――あの子鬼は立ち向かったというのに?

 ――ワシは戦士だ

 ――あんな子鬼より、俺はもっと上手くやれる

 ――いや、俺様の方が強い

 ――なんだと?

 ――……やるか

 ――やるぞ!

 ――おう ――おう ――おぉ!

 ――オォオオオゥ!!!

 

 

 小さく、互いの顔色を窺うように交わされていた(ささや)き。

 けれど段々と声は大きくなり、その伝播は瞬く間に怒号のような鬨の声となる。

 

 恐らく、集団のあちらこちらから上がる雄叫びは「仲間がやられたから 」「仇討ちのために 」……といったような感情から生まれたものではない。

 そもそもが俺達同族を頂点に置いた、言ってしまえば力という恐怖で抑えつけて統制を執っている急造の集団である。同族を除き、『大厄災』の再来への危機感を持ってこの場に集まっている魔物はほとんどいないのだ。

 より強く本能を刺激する恐怖の存在が目の前に出てくれば、あっさりと戦場から逃げ出してしまう可能性は常に付きまとっていた。

 そしてあの"剣の気配"が、普通に生きていては経験することがまず無い類のおぞましい恐怖感をもたらすモノである以上、野生にとってある意味身近な俺達の"暴力"と比べれば、その本能に訴えかける危険度は強かったに違いない。

 

 だが、あの1匹の子鬼が行った特攻によって、そんな真っ当な流れは無視される。

 何故ならあれは子鬼、しかも赤肌の子鬼なのだ。

 この場に集った魔物の中でまず間違いなく最弱の存在が、真っ先にあの「恐ろしい存在」に挑み掛かったのである。にも関わらず、そいつより強いと自負する自分達が、後ろを見せて無様に逃げるなんてことが出来るだろうか?

 同じ赤色の子鬼にしても同じだ。近しい存在が蛮勇を見せたというのに、自らは「最弱」を理由に後ろに引っ込んでていいのか。何のためにこの場に集まったのではないのか。

 

 恐怖、保身、生存欲―― そういった感情と思考を刺激する"剣の気配"がもたらす空気は、まだ戦場を色濃く漂っている。血を剣に吸わせた今となっては尚更だ。

 

 しかし、この場にいる『戦士』達はそれぞれの得物を握り締め、目の前の敵へ対する闘争心を奮い立たせるべく、大声を張り上げることを選んだ。

 俺は強い。俺が強い。

 そう己に言い聞かせ、これまでも勝算を考えずに敵と戦い、そして生き残ってきたからこそ、彼らは野性で、魔物で、戦士なのだ。

 

 そんな本来なら当たり前の衝動をすら、思わず忘れさせるほどの敵へと無茶苦茶に襲い掛かったあの子鬼は、やはり未熟者であり、それ故の錯乱した行いだったと言わざるを得ないだろう。

 だが魔物達が持つ矜持を思い出させる切っ掛けとなり、この士気をその死によって生み出した者に対し、戦士失格だの足手まといだのとは、とても言い捨てる気にはならなかった。

 

 ……見渡す限り俺が尻を叩くまでもなく、気力の(たぎ)りは十分。

 ならば、一番槍を挙げた「子鬼の戦士」の成果を損なわせてはならない。

 

 そう判断を下し、手に持つ「獣王の弓」に1本の矢を(つが)える。

 構えた矢は「電気の矢」。一族が好んで用い、俺もまた戦闘時には愛用する属性矢。

 射出した時に発生する雷光にも似た輝きは強烈な目晦ましともなるが、今は(はた)から見た時の視認性の高さこそが重要な点である。

 今回はその特性を利用して、俺が「電気の矢を1本放つ」ことに『戦闘開始』の号令である意味を持たせており、軍勢への周知もまた既に完了済みであった。

 

 ヤツが矢を受け、電撃の痺れによって"剣"を取り落とすならそれで良し。例え落とさず最悪避けられたとしても、事前に決めてあった最初の攻撃班がそのまま攻撃を仕掛ける。

 

 

 ――矢を、放つ。

 

 

 対応される可能性が高いと思われる"剣"を避け、後ろに庇っているらしい同行者を曲射の技で狙うことも出来た一矢。

 しかし開戦を告げる初撃は、直線軌道をとって"剣"の主に突き進んだ。

 

 ……仮にどうして、と問われるなら

 『最初に狙うべき敵を明確に周囲に知らせ、その攻撃を集中させたかった』

 と答えるだろう。

 

 その理由に嘘は無い。

 繰り返すが、俺が今同族を率いてまとめている軍勢は、常ならば少数、もしくは単独で野を駆けることしか知らない魔物が寄り集まっで出来た即席集団なのだ。平時の統制は維持出来ても、いざ戦いが始まれば、各々が戦意のままに飛び出してしまう事態も考えて然るべきだった。

 そんな時、戦場に立ったトップが改めてどちらの獲物を優先しているかをハッキリ示しておくことは、戦士達のとっさの迷いを減らすという意味でも大事だった。

 

 その戦術目的の裏に、密かに潜ませていたのは個人的な動機であり、さして意味も無い単純にして取るに足らないもの。

 しかしその想いがあったからこそ、俺は初撃の選択を躊躇うことなく矢を放ってもいた。

 

 何故なら俺は―― このたった1本の矢を"剣"の顔面に叩き込んでやりたかったのだ。

 

 ……本来、三本同時に番えて放つことも容易な「獣王の弓」だが、今放った数はたった1本のみ。それは『戦闘開始』を告げるための本数を『1』としたから、という理由ではない。

 逆に、金属を編み込んで作られた弦に相応しい特製の「俺が元々持っている電気の矢」ではなく、同族の中ではごくありふれた製法で作られた「電気の矢」が1本しか無いからこそ、告知の本数が『1』となったに過ぎない。

 もちろん、これが素材相応の速度や攻撃力しかない「電気の矢」である以上は、子鬼を切り捨てる瞬間もこちらへの注意を怠らないでいられる"剣"にとって、捌くことが難しい一撃とはならないかもしれない。

 

 だが俺はどうしても、この矢を使って"剣"との戦いの火蓋を切りたかった。

 これは極東の山でアイツの矢筒から無事に回収できた、たった一つの矢なのだから。

 

 矢の軌跡を辿る、電気の力が確かに付与されていることを示す雷の残光。

 それはジャグアが片手剣にのみ執着せず、弓矢にも同じく手間を掛けていたことを感じさせる確かな証だった。

 

 魔物全ての視界を確かに閃光で満たした弟子の作った矢は、しかし目標に刺さることなく背後の岩をえぐり、周囲に電撃を撒き散らした後。

 

 あの夜の骸のように地面へと落ち、転がった。

 

 

   *   *   *

 

 

 ……戦闘が始まってから、どれほどの時間が過ぎただろうか。

 

 少なくとも、長い時間が経過したということはない。昼と夕方の境目ほどの頃にこの地へと着いて、まだ太陽は西の空で輝いているのだから。

 

 「ギャヒィァッ……!! 」

 

 だというのに引き連れた魔物の軍勢の数は、もう半分を下回っていた。

 

 赤色の魔物は言うに及ばず、青の子鬼も黒の大鬼も"剣"の一振りによって、そのことごとくが殺されたのである。

 どれだけ左右から挟撃を仕掛け、またはそれ以上の数で包囲しようが、ヤツはまるで違う時間を生きているかのように躱し切っていた。

 横への直線的なステップを踏み続けていたかと思えば、武器を振り下ろした体勢から予備動作を一切挟まず、3次元的な背面宙返りをやってくる。百は優に超えるだろう魔物を切り殺しているにも関わらず、その動きのキレは全く衰えを見せない。

 果たしてヒトとは、これほどスタミナの続く種族であっただろうか。

 

 そして攻撃を防がれるだけなら、まだいいのだ。

 鎧や盾を持たぬ人間の素の防御力なら経験上、小鬼の棍棒すら深刻な凶器となるはずであり、そしてヤツが装備している武具は見たところ"剣"のみ。

 であるならば、こちらの攻撃を受け止めるためにはその唯一の武器を用いる必要がある以上、防御させることが出来ればそれだけ"剣"に消耗を強いることに繋がるだろう。

 形あるモノに不滅なモノなどはない。それは、例え"剣"であっても例外ではないはずだった。

 

 蜥蜴の魔物による奇襲部隊を全滅させられても、ヤツは最初からたったの2人であったのに対し、こちらはまだ百を優に超える魔物がいる。そしてその全ての存在が自らに対して致命傷を負わせうる存在なのだ。

 感じるプレッシャーは並大抵のものでなかったはずである。

 ただの人間、いや、同族を単独で討伐しうるような強者であると分かっていた上でも、万が一の1発を恐れて身の保険を優先した立ち回りをするだろうと考えていた。"剣"に掛かる負荷を最小限に抑えることを意識しての、綱渡りをするような立ち回りは選べないだろうと。

 それは同行者が戦力にならず、ヤツにとっては足手まといとしかならない様子であることを見抜いた時点で抱いた、俺の確信でもあった。

 

 

 ……しかしいざ蓋を開けて戦いが始まってみれば、この有様である。

 

 

 驚くべきことに今へ至るまで、その身に傷一つ負っていない―― どころか、ヤツは俺が最初に放ったジャグアの矢を躱してみせてから以降。『攻撃』と、同行者に向けて放たれた矢を『切り払う』以外の行動に、一切"剣"を振るっていないのだ。

 

 小鬼の棍棒、大鬼の槍、蜥蜴の放物線を描いて口から吐き出される水弾。基本的に複数、そして時間差もつけて放たれる凶器を余裕を持って躱し尽くし。

 大鬼の巨躯や群れる小鬼によって視界が大きく狭まっているはずなのに、まるで俯瞰的な目を持っているかのような正確さで、矢を身体に掠らせもしない。

 蜥蜴の魔物を思わせるフットワークの軽さ。しかしそれは、野生の獣にありがちな本能や勘に身を委ねた立ち回り―― というワケでもない。

 

 どんな乱戦になろうとも、ヤツは決して背後に庇っているらしい同行者の存在を忘れない。

 そいつに対して届く『かもしれない』攻撃は全て遮断できる位置に、常に自らの身体を置いていた。

 

 ……しかしその光景は、こちらが付け入る隙でもある。

 「重要な庇護対象が存在するのであれば、継続的にそちらへと攻撃を行うことで行動を制限出来るのでは? 」と、最初に対峙した時に覚えた直感を補強させたのだ。

 その考えに沿って矢を一斉に射掛けさせてみれば、実際"剣"は自分には当たらないような軌道を描いていた矢であっても、同行者へと向かう矢は全て目前で『切り払った』。

 残念ながらその斉射はダメージを与えることこそ出来なかったが、"剣"に負担を少なからず加え、ヤツ自身の行動範囲を削り取れる証明となった。

 

 ――そして、明るい情報はこれだけ。

 次の斉射も、その次の斉射でも。次も次も。

 

 見えないはずの位置、死角であるはずの角度から狙っても、通常のモノとは違った特性を持つ電気や炎の属性を宿した矢を使わせても、結果は変わらなかった。

 どれだけ射掛けても放たれた矢は、たった2人の人間の身に届かず、"剣"の足元に矢の残骸を積み上げるだけ。

 射撃の間、味方からの誤射を恐れず挑んだ大鬼が何体もいたが、近づいてくる巨躯を見てこれ幸いと即座に斬殺した後、同行者の盾としていた岩の隙間を埋めるように立てかけられてしまう始末。

 そして少しでも矢の間隔が開こうものなら、その同行者に射掛けていた魔物を優先して切り裂いてみせた。それも視界を防ぐだろう大鬼の体格にも隠されないように、高く高く首を跳ね飛ばして。……それが周囲を取り囲む魔物の射手達に、「誰を狙えばこうなるか」を意図して目撃させるために行われた行動であることは明白であった。

 

 血しぶきを上げながら、落下する子鬼の生首。

 驚愕の表情のまま固まったその目と、不幸にもたまたま見上げた視線が合ってしまったらしい魔物の何体かが思わず後ずさる。

 彼らの闘争心がそれで(くじ)けてしまったかどうかは分からないが、少なくとも最初の赤い子鬼の特攻の時に生まれたような、頼もしい闘志が沸いている様子ではないことは明らかだった。

 

 

 今、魔物達の心に広がろうとしている感情をこれ以上肥大化させないための、最も効果的な手段が何かと言えば、それは間違いなくヤツへと一撃を加えることだ。

 ほんの少しの打撲、毛筋ほどの出血。たったそれだけのものであっても傷は傷。それが刻まれたなら戦士達は、"剣"の主をどんな攻撃も届かない正体不明の化け物ではなく、打倒可能な強敵であると認めることが出来るだろう。

 そして全くの無傷のまま剣1本でこちら側を圧倒しているヤツに対し、与えられた命令に背かない程度に腰を引かせ、無闇矢鱈な攻撃を徐々に慎むようになり始めた魔物達。その意図するところは、こちら側の切り札を使って欲しいという集団としての意思表示か。

 言葉にすることこそしないようだったが、経験を重ねた戦士にとって呼吸や動作一つで考えを匂わせることはそう難しいことではない。

 子鬼が、大鬼が、蜥蜴が。それぞれの種族を代表する戦士達が懇願している。俺と、ヤツを結ぶ一直線の空間にひしめく戦士達の密度を、ごくわずかに減らしながら。

 

 『アナタがた、出来れば【ライネル】の力をもって現状打破を 』

 

 やや開けてしまった視界に、金の髪を揺らしながらまた一体の子鬼を切り捨てたヤツの全身が映り込んだ。……しかしその瞬間、相手は魔物に流れる空気と合わせて俺の射線が通っていることを敏感に察したのか、瞬時にステップを数回刻み、何体もの大鬼の身体を俺との視線の間に挟む。その鋭敏な反応に、疲弊した者が見せるような陰りは未だ見えない。

 俺を睨み据えるヤツの視線が障害物の向こうに消える際、手に持つ"剣"がまた不吉に瞬いたようであったが……その輝きは対峙した時に比べてやや弱い。

 

 

 だから、俺は作戦を変更しない。

 

 

 数の優位はまだ、こちらが圧倒的である。

 だがその数の差に慢心したり、同族を出し渋れる余裕などは欠片もなかった。俺や、同族がこの時点で攻撃を仕掛ける訳にはいかないのだ。

 ……俺達が直接動いた場合、恐らくは生まれてしまうだろう状況。

 それは魔物達の中にくすぶる感情に名前を与え、敵前逃亡をさせる動機と化す気がしてならなかった。

 

 弓矢は撃たせ続ける――"剣"に切り払わせ、少しでもその切れ味を鈍らせるために。

 突撃特攻は辞めさせない――"剣"にこびりついた大量の脂と血が、振るった程度では落ちなくなり、その輝きを完全に維持できなくさせてきたから。

 

 ……同族を除いた戦力で可能な限りヤツの体力を削り取り、動きを鈍らせる。

 ……ただひたすらに、あの"剣"の性能を少しでも低下させる。

 

 早期の1対1などとんでもない。最終的にわずかでも"剣"を討ち取れる可能性が上がるなら、どんな手段でも用いるべきだ。例えそれが、いくつかの部族の戦士を絶えさせることに繋がろうとも。

 

 これは普段なら、いや、生まれてこれまでの間、絶対にすることはなかったと断言できる卑怯者の思考だ。【ライネル】にあるまじき、情けない戦術だとも自覚している。

 

 しかし友を見捨て、『魔物の守護者』であることを決めた【ライネル】ならばこそ。

 

 ここで"剣"を取り逃がすことだけは、決して許されるはずがないのだ。

 

 

 




 ぼくのかんがえた100ねんまえのリンクその1。
 無表情で襲い掛かる魔物絶対殺すマン。
 原作「ウツシエの記憶」で登場するリンクの描写、剣1本で弓も盾もないにも関わらず無双過ぎてスゴイ。

 ……ちなみに同じ厄災封印関連の力持ちで、どちらかと言えばより重要な位置にいるはずのゼルダ姫に対してライネルさんや魔物達の意識が薄いのは、彼女が戦闘力を持たず"気配"も無い人間だからです。出来損ないの姫バンザイ。

 リアルで仕事や、何かとイベントが起こった都合で更新が今まで以上に遅れてしまい申し訳ありません。字数に比べてストーリーもさっぱり進んでませんが、UAを頂いている内は完結を意識して頑張りたいと思います。

 余談ですが、同ハード機で発売された『スーパーマリオ オデッセイ』、ゼルダの伝説BotWで培った技術や経験がフル投入されて、上位互換とも言えるゲーム性を誇るそうな。
 私はゲーム得意な人ではありませんが、そんな人間も飽きさせない試みに溢れた作品を提供してくれる任天堂様の開発力はすごいですね(媚)。

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