回生のライネル~The blessed wild~   作:O-SUM

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○前回のあらすじ

 赤ボコブリン「くぁwせdrftgyふじこlp」
 モリブリン(死体) 「ゼルダ姫様の護衛は任せろー!!(味方の矢がブスブス)」
 魔物's「無敵の【ライネル】がなんとかしてくださいよォーーーーーーッ!! 」

 勇者「今はまだ私が動く時ではない」





【厄災】~退魔の剣~

   *   *   *

 

 

 戦場を総括している俺が作戦変更をしていないのに関わらず、その空に放たれる矢の数は、戦闘を開始した時と比べて大きく目減りしていた。

 

 半数以上の射手が討たれたということもあるだろうが、生き残っている弓持ちの中に攻撃を躊躇う者が徐々に、しかし明らかに増えてきてしまっている。"剣"を視界に収められる位置で弓を構えている者には、その傾向はより顕著だった。

 

 ……人共がどうかは分からないが魔物は本来、欲望に抗う自制心に乏しい生き物。

 言い換えるならば、より強い欲に流されやすい。

 ここに集まった彼ら『戦士』達は戦闘に属する欲が強く、その欲望を満たせるなら周囲の状況を無視して行動してしまうのが当然の個体がほとんどなのだ。この戦闘の意義、"剣"の脅威をある程度以上に頭に入れている者など、同族を除けば族長クラスに数えるほどしかいないだろう。

 

 そんな勝手気ままな連中がしかし、本来の帰属意識で纏まれる集落ごとの小集団単位ではなく、曲がりなりにもこの「軍勢」と呼ぶべき大集団で行動を統制されいるのは、俺達という「集落を単騎で滅ぼせる上位存在」によって、生存欲を強く刺激されてこそである。

 

 これは何も、彼らの胸に宿る『戦士の矜持』を(おとし)めているワケではない。

 その誇りがあったからこそ、あの子鬼の特攻に奮い立ち、魔物にとって抗い難い恐怖と嫌悪感を感じさせる"剣"に立ち向かえていたのは間違いないのだ。

 

 しかし、その得体の知れない恐怖感を与えてくる"剣"が、未だ全くの無傷のまま健在であり。その暴力に晒され、見知った同郷の者から初対面の黒肌の強者までもが、分け隔てなく無差別に斬り殺されてゆく。

 まだ同族達がそれに混じって殺されていないのが救いではあったが、その光景が生物が皆抱える最も強い欲であるところの生存本能を、俺達の存在以上に激しく刺激したとしても何ら不思議ではなかった。

 

 

 もちろん改めて言うまでも無く、これはまずい状況である。

 俺の戦闘力に対するカリスマや、あの小鬼の死に様で高められていた士気が、現実に迫る脅威によって崩され始めた証だからだ。

 少しずつ、けれど確実に。

 闘志の炎に焦げた魔物達の頭が、死への怯えや恐怖の冷たさを思い出そうとしている。

 

 

 

 そんな現状に際して、俺が頭の奥に据えていたものは―― 非力な己に向けた、激しい憤怒の感情だった。あの【二つ岩】で彼と、この戦いの方針を定めた瞬間から絶えず俺の誇りにこびりついて離れなかったソレが、屈辱感と共に俺を責め立てているのだ。

 

 そもそも俺に。

 この【ライネル】に、個の力でヤツらの一切合財を打ち負かせるだけの力があったなら、徒党を組んで戦うという真似をしなくても良かったはずだ。

 1万年前の魔王を封印した力、かつての勇者を一撃で葬った古代兵器、神話の剣、我が生涯における対戦相手の中で最も洗練された技術を振るう強者―― そんな何もかもを正面から撃ち破る力を、なぜこの【ライネル】は持ち得ていない?

 どうしてそんな恐ろしい敵に、勝てる見込みの無い味方をけし掛けるままにして、俺はその光景を黙って眺めているのだろう? その者達から求められる救いの声にすら、耳を塞いで何をしているのか? ……先頭に立たない【勇者】に、一体どれほどの価値があるのか。

 

 そんな次から次へと浮かぶ自らへの悪態は、この戦闘が始まってからは特に留まることを知らなかった。

 子鬼が矢を斉射する時、大鬼がその矢が我が身に突き立つことも恐れず突貫する時、そんな大鬼に踏み潰される危険を恐れず、地面に体色を同化させながら奇襲の一瞬を図り続ける蜥蜴達……。 そんな彼らを機械的に、ひたすら無感動に斬り捨てて行く"剣"に対して結局、俺は開戦を告げる1矢を除いて、ただの一度も「攻撃」していない。

 

 ――俺が持っている武具の銘は「獣王の弓」。彼から譲られたこの弓は、地上に存在する武具の中でも指折りの威力と射程を誇ることは間違いない。専用に(あつら)えた矢をもってすれば、岩を砕くことだって可能な代物であった。加えて同時に3本の矢を放てるこの弓もってすれば、戦士達の援護にも十分な力となるのは確実だった。

 

 ……だが、出来ない。出来ないのだ。

 

 「獣王の弓」に備えられた、強力な張力を誇る金属製の弦。

 扱う者を選ぶに相応しい威力を誇りこそすれ、どこまで強化してもそれはただの鋼線である。そこに伝説の武具に語られるような、何かしらの神秘の力が宿っているということはなく、番えた矢に圧倒的な初速を与える以上の特別は持ち合わせていなかった。

 

 恐らくヤツには、それでは届かない。

 ジャグアの矢を避けられた際に感じた"剣"の主が持つ矢避けの技量は尋常ではなかったのである。

まして身を躱すだけではなく同行者を守るため、剣の消耗を辞さずに切り払うことを躊躇っていない今のヤツには、俺が全力で3斉射を放ったとしても傷をつけることは難しいだろう。

 

 そして「開戦の合図のための形式的な1矢」という名目が伴わない、俺の「殺傷するための攻撃」が躱されたり、切り払われるような事態が起こった場合。

 

 恐らく―― かなり高い確率で、軍勢の士気が崩壊する。

 

 

 ……何故なら、俺が【ライネル】だから。

 この称号は、永い年月を掛けて注がれ続けた戦士の信仰によって成り立っている。

 1万年前の神話には既に当たり前のように認知され、今も脈々と受け継がれている【ライネル】に求められる絶対条件は、『最強』であるということ。

 

 どんな敵だろうと、自らにとっては到底及ばない存在であっても。

 その称号を持つ者ならば必ず敵を蹂躙してくれる。

 ひとたび【ライネル】が『攻撃』すれば、我らはその瞬間にも勝ち鬨を叫ぶことが出来るのだという、隔絶した暴力を保持する者であることを盲目的に信じることが出来る。

 

 

 俺が彼らにとって、伝説を今に引き継ぐ当代の【ライネル】である事実。

 

 ……それが、俺が『攻撃』出来ない理由だった。

 

 

   *   *   *

 

 

 ――また、一匹の魔物が崩れ落ちた。

 斬られた魔物は蜥蜴族であり、恐らくは生き残っていた最後の戦士だっただろう。両手に盾を持って正面からにじり寄る大鬼の右側から素早く回り込もうとして、あっさりと首筋に"剣"を突き込まれて果ててしまった。

 

 一つの部族が、たった一人の敵によって全滅する……。

 そんな誰の目から見ても戦の節目と分かる事態に、魔物達の士気は完全に下り坂となっていた。歴戦の戦士であるだろう黒の大鬼が、両手に抱えた盾の裏で背中を僅かに震わせてしまっているのを見ずとも、ここがギリギリの分水嶺であることを認めない訳にはいかなかった。

 

 ――これ以上の成果が挙がらない突撃の強制は、士気の崩壊と逃走に直結する――

 

 撤退の選択肢が有り得ない以上、もう俺が出るしかない……。

 そう判断した時。

 

 

 「……ここでお前が仕掛けては、何のために今まで我慢したのか分からんだろう? 」

 

 

 3本の矢を番えようと矢筒に回した、俺の腕が掴み降ろされる。

 

 

 「ここは俺の出番だ、【ライネル】」

 

 

 俺の射線を遮るように、前に踊り出たのは同族の背中。

 足が前に進まなくなっていた大鬼を一息で追い越しながら、背負った大剣を引き抜いてみせる。

 

 ……その特大の鉄塊を見間違えるはずもない。

 同族の中にあって、あの武器を自在に振り回せるような存在が、果たして何人いるだろう。かつて最強の腕力を称えられた、あの先人以外に。

 

 ――声の主は、ベガルトだった。

 

 頭上で大剣を回転させ、重厚な風切り音を撒き散らしながら突撃していく。

 向かう先は"剣"の主。

 いよいよ斬り疲れてきたのか、遠目からでも肩で息をし始めているのが分かる。ベッタリと顔に張り付いている頭髪を濡らしているのは、決して魔物の返り血だけではないだろう。

 

 しかし、自らに向かってくるベガルトの姿を認め、"剣"を構え直すヤツの動きに淀みは見られない。一般的な槍と比べてもなお長大であり、かざせば本人の上半身をすっぽりと隠せるほどに幅広な大剣を振りかぶるベガルト。明白な暴力を匂わせるその光景は威圧されて然るべきであろうに、その足運びには余裕がある。

 

 だが俺の同族、かつ規格外の武具をもって突進してくる存在に対し、今までとは危険度の格が違う敵であることは認めたらしい。

 ……そう俺が判断した理由。それは、ヤツが今まで見せたことのない構えを取ったことにある。

 

 今までの、俺達に対して斜に構えた基本的な姿勢であることは変わらない。"剣"を片手に持っているという点も同様だった。

 違うのは、その"剣"の位置。

 数えるのも億劫になるほどの矢を切り払い、血と脂に塗れるばかりである"剣"の刀身を、コチラから隠すように肩へ担いでいる。初めて見るその構えは、防御を意識したものでは決して無い。明らかに意識した攻撃の型。

 勢いをつけて、全力で薙ぐためのものなのか。それとも――。

 

 ヤツが"剣"を担いだのを見て、ベガルトもまた俺と同じような違和感を持ったのだろう。

いや、戦闘経験に長ける分だけ、察知自体は彼の方が早かったのかもしれない。俺が警戒を呼び掛ける前に、巨大な鉄塊を"剣"の「間合いの外」から振り下ろそうとしていた。

 防御をする気が皆無ならば、反撃を受けない位置で初撃を加えることは正しい判断だ。俺だったら弓を使った、より遠距離からの攻撃で牽制を加えていたかもしれないが、ベガルトには同様の構えから放たれ得る攻撃に心当たりがあるのだろう。それこそ対人戦闘の経験値は、俺とは比べ物にならない蓄積を持つのが彼なのだ。

 あの初撃はヤツにとって、避けることは出来ても反撃は至難な一発であることは間違いない。

 

 構えを維持するために避けるのか、それとも構えを解いて"剣"で攻撃を防ぐのか――。かつて伝説を作った大剣の一閃に周囲の魔物が沸き立つ中で、俺はヤツの一挙手一投足を注視していた。

 

 その構えがこの局面を乗り切ることに使われないのであれば、それで良い。

 ようやく持ち出した初めての構えらしい構えがこの攻撃に対応できるもので無いのであれば、「間合いの外」からの必殺の一撃が、"剣"の主にとって有効な手段であることの証明となる。そうなれば、俺がヤツと戦う際にも優位な戦法を選ぶことが出来るのだ。

 

 

 しかし。

 ヤツはここで、俺が全く想像しなかった行動に出た。

 

 

 ――『空振り』である。

 

 踏ん張った足が土を削り、捻られた足首から生まれた力が、連動するように回転する腰を伝わっている。関節で増幅されていく力の流れは美しくもあり、握り締められた肩から先の凶器を前へと振るう際には、さぞ強力な勢いと威力を持っているだろうことは、疑うまでもない。

 

 だが、しかし。その動作は一目で看破出来るほどに「早かった」のだ。

 

 巨大過ぎる大剣。それまで一切戦場に投入されなかった同族の体格。そして、尋常ではないベガルトの気迫。遠近感を狂わせられる要素に満ちた一撃であることは否定しないが、大剣に打ち合わせることすら到底不可能な迎撃ミスをやらかそうとは、全く思っていなかった。

 このままでは確実に"剣"を振り切った無防備な体勢のところに、あの鉄塊の一撃を受けることになることは間違いない。そして氷岩の大巨人を屠り得たその威力は、布を纏ったヒト程度の耐久力では決して耐えることは叶わない。

 

 意味が分からなかった。

 

 ――引き延ばされた一瞬。その刹那の時間の中でゆっくりと、"剣"が横薙ぎに振るわれていく。斬るべきモノが何もない、空間をただ切り裂くためだけに。

 何の結果も残さない斬撃が終わった後、老いた大戦士の一撃はヤツを挽肉に変えるだろう。

 

 魔物の頂点に君臨する同族とはいえ第一線を退いた者のたった一撃で、"剣"が滅ぶのか。

 そんな下らない敵のために、俺は数多くの魔物達に流血を強いたのか。

 

 

 ――"剣"が振り抜かれた。

 

 こんな愚かな敵のために、俺は『彼』を見捨てたのか……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そんな、怒りにも似た感情が頭を占めていたからか。

 俺はその光景を認識することが、一瞬遅れてしまっていた。

 

 何もない空間を、横薙ぎに切り裂くために振られた"剣"。空振りでしかないはずのソレはしかし、自らが通った軌跡を確かに誇示するかのような「残光の筋」を宙に描いていた。

 "剣"自身が時折発光していた青い燐光が残されたのか……いや、違う。

 薄い三日月型に象られた光の帯。それは消えることなく形を維持したまま、振り抜いた時の勢いを示すかのように激しく回転している。

 

 そしてあろうことか。その光は発生した高度を維持しつつ、高速で直進したのである。

 

 直線軌道に進むその光が向かう先にあるのは、突進しているベガルトの身体。

 振り下ろさんとしていた大剣を正面に構え直す間もなく、不可思議な光の回転体はその身体に到達した。

 瞬間、周囲へと燐光を散らして光は消える。

 終始質量を感じさせない、目晦ましにも似た迎撃だった。

 ……しかしその光と重なった途端、ベガルトは大きな岩と正面衝突したかのように身を震わせ、4本の脚に宿らせていた力を失わされていた。

 

 たたらを踏んで、間もなく崩れ落ちた背中に生気は既に無く。

 放り出され、主より後に地面へと沈んだ鉄塊が立てる轟音が、声の途絶えた戦場でやけに大きく響いていた。 

 

 僅かに覗けるベガルトの太い首筋は、切り裂かれて真紅に染まっている。

 ……そうして周囲に散らばる亡骸達と、同じモノに変わってしまったベガルトの身体の向こう側で。

 

 

 ――ヤツが再び、"剣"を担いだ。

 その構えが意味するモノを理解しない魔物はもう、一匹としていないはずだ。

 

 

 二度、三度。繰り返し宙空に描かれる、光の刃。

 進行方向には、弓を構える子鬼達。

 その首を、胸を、あるいは腹を。木の葉を裂くかのように切り裂いた後、満足したかのように光の刃は弾けて消えた。

 後に残ったのは、致命傷が刻まれた子鬼の身体。その断面から勢いよく血を吹き出しながら、弓を構えた死体はゆっくりと、地面に転がり落ちる。

 自らの「間合いの外」にいるはずの飛び道具を持つ魔物達に向け、"剣"はその輝きを撒き散らしていく……。

 

 

   *   *   *

 

 

 何が起こったのかが分からなかったのではない。

 目の前で起こっている理不尽が理解し切れないということも、ない。

 

 それでも俺は束の間、血しぶき舞う光景が再開された戦場の中にあって、地面に倒れ伏すベガルトの亡骸を見つめていた。

 

 

 ――そうした後、半身に構えた身体で弓を構え。

 ――"剣"へと向け、おもむろに3本の矢を一斉射する。

 

 

  ギギィィッ……ッ……! ドッシュババァッ!!

 

 

 

 「…………ハッ!」

 

 

 耳に聞こえてきたのは誰かの短く、小さな発声音。

 その発生源なんて探すまでもない。――なにせ、自分の喉を振るわせて生まれた音だ。

 

 同族が。

 時代の『最強』を【賢者】と争った戦士が"剣"に討たれる――。

 

 

 大戦士ベカルト。

 彼が敗れたことによって、俺は完全に解き放たれた。

 

 




 ぼくのかんがえた100ねんまえのリンクその2。
 飛び道具がない=弱い??
  大丈夫、斬撃を飛ばせます。

 原作はもちろん過去作にも度々登場する、マスターソードの遠距離攻撃手段―― 通称『剣ビーム』。これは原作ではリンクの体力が満タンでしか使用できない攻撃です。
 原作設定に出来るだけ沿うことを目指している拙作である以上、リザルフォスの群れを全滅させた上、ボコ&モリブリンの特攻や矢の雨に晒されながらもリンクさんは無傷だった証明となってしまいました。勇者つよい(当然)

 それを踏まえた上での以下設定。

 ※100年前のリンクが剣ビームを撃ってる描写自体はありません。
 ですが原作退魔の剣は、デクの樹様によれば最低でも100年前に退魔の剣を持っていた時と同じ力を取り戻していなければ、そもそも入手できないという設定が存在します。
 そしてその下限体力値の状態で剣を取得しても、体力さえ満タンであれば剣ビームが放てるため(体力の上限を増やせば増やすほど射程が伸びます)、ひるがえって100年前の時点で「剣ビーム」はリンクにとって習得済みの力であると私は思っています。
 剣一本であらゆる敵の死体を量産したかつてのリンクさんは、きっと遠距離攻撃手段も確保してたはず。近距離オンリーじゃ要人護衛とか無理じゃないかと。

 ※ちなみに【ライネル】の称号の歴史を物凄く盛ってます。「初代ゼルダの伝説」から登場する由緒あるライネルなら、そんな歴史も許されるかと思ってつい。


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