回生のライネル~The blessed wild~ 作:O-SUM
勇者「皆あきらめ顔になってるので全力出すぞ 」
魔物's「やっと参戦の許しが出たか! 」「封印がとけられた! 」「きた! 【ライネル】きた! 」「俺達の勇者きた! 」「これで勝つる! 」
リンク「姫様狙うとか汚いなさすが魔物きたない 」
* * *
「ふざけるなよ! 何なんだコイツはっ!? 」
大声で喚いても現状が変わらないことは分かっている。
けれどその置かれた状況が非現実的過ぎて、ただただ否定の声を上げずにはいられなかった。
己の種族は生まれながらの絶対強者だ。だったはずだ。
一人前の戦士と認められて以来、自分が放った矢は1本の例外もなく獲物を貫いてきたし、得意な槍を使えば同じ年代の同族達には勝ち越すことも多い。槍の扱いだけに関しては、年上の戦士達にだって食い下がれるだろう自負があった。
今朝生まれて初めて会った物語の中の大戦士、あのベガルト様にだって「筋が良さそうだ」と褒めて貰え、今日の戦いの討伐対象である"剣"について聞かされた時も、俺が倒して名を上げるには丁度良い相手だ、とすら考えていたのである。
(いずれは、俺こそが【ライネル】の高みに―― )
……だというのに、今目の前で起こっている光景は何だ。
矢筒から溢れんばかりに詰め込んできた矢は、とうとう一発も当たることなく撃ち尽くしてしまった。今日のために、と気合を入れて磨き込んで来た自慢の槍も、穂先を一撃で切り飛ばされたがためにもはや短い棍と成り果てている。
愛用の武器を切り裂いた一閃をまともに視認することが出来なかった以上、俺が今も生きているのは槍と"剣"、その単純な間合いの違いによる結果でしかない。
たった一合。それだけで理解させられた。
無理矢理に格付けを飲み込まされてしまった。
俺は、コイツには勝てない。
本来のヒトという種と比べ、自らが生まれついた種族が戦闘においてどれほど優越した種族であるか――
走る速さは馬より遅く、木の一本を斬り倒すのに、何度も鉄を振るわなければならない程度の膂力。火も吐けなければ爪も牙も持たず、他の生き物から奪った皮や薬が無ければ、自然環境にも満足に適応できない。群れなければ、ただ生きることすら難しいのがヒトという生き物だ。
まれに人共の手によって同族が討たれたという話を聞くことがあっても、それは圧倒的な数の差に押し負けたり、年老いて
……目の前のコイツは悪魔ではなく、そのヒトという種族なのは間違いないらしい。
子鬼、大鬼、蜥蜴の魔物…… そして、同族。それぞれの種族から集められた一人前の戦士達を剣1本で殺し尽くした挙句、その身体にたった一筋のかすり傷だって負わずに動き続けている剣士が、果たして本当に『ヒト』なんて脆弱な種に混じっていていいものだろうか?
「……貴様ぁ、ヒトだろうが!? 何でそんなに強いんだよ! おかしいだろうっ!? 」
無理矢理昂らせた感情のままに槍だったモノの破片を投げつけ、爪を立て、拳を振るった。
師に教わった格闘術は、爪と牙を交えて攻め立てる前傾姿勢を基本としたものが本来の形だ。……しかし、情けなくもこの相手に対して顔を近付けては、ただ首を差し出す愚行となってしまいそうでためらわれる。首元を裂かれたベガルト様の後ろ姿が脳裏をチラつくのだ。
そんな
そんな思いを抱えながら爪を振るう俺に対し、目の前の敵はチラチラと俺の背後へと視線を飛ばしている。一撃で獲物を奪えた俺を脅威と捉えていないことが透けるようでもあり、視線を切られるたび、爪に込める力が漲っていく。
「こっちを見ろぉ!!」
横薙ぎに振るった爪を、わずかなステップで躱される。間合いを完全に読まれていた。
威力を求めて振り回す腕はただ空気を掻き、臆した心を映した脚は、俺に思い切った前進を許さなかった。
(まだ、だ。あの人が体勢を整えるまで。お前の相手は、まだ俺だ! )
「そんな反則を使って良い気になりやがって! その"剣"さえ無ければ貴様は俺に勝てないに決まっているんだ!! 」
自分の信じるモノを穢されていく怒りを乗せ、全力で腕を突き込もうとして。
その爪が届く前に、空気を裂いて飛んで来た光輪によって爪が弾かれる。
直後。
砕け散った光の破片を目晦ましにして再度振り降ろされた"剣"によって、俺の胸板は
かつて戦い、葬ってきたヒトの剣士ども。記憶に残るその者達の中に、自らの筋肉の鎧を貫けた者はほとんどいなかった。わずかな記憶に残る数人の強者達ですら、皮を裂いて肉の表面をいくらか裂くのがせいぜいだったはずだ。
だが目の前の"剣"は、コイツは、鍛え続けた皮も筋肉も骨すらも、その
そうして刻まれた鮮やか過ぎる傷跡は、俺の技量では決して成し得ない技術の証だった。その実感は激しい痛みを上回る焼け付くような熱さとなって、全身に駆け巡っている。
悔しさに茹で上がった脳が溶けそうだった。
(畜生、ちくしょう、チクショウ。……認められない、認めてたまるか…… )
霞む視界にそれでもと睨みつけようとした視界の中、ヤツは傷口から吹き出し続ける血煙に
振り切っていた"剣"を返す刀で切り上げようとしている様は、不思議と今度は緩慢で、ゆっくりとした動作である。コイツとあの人の戦闘に割り込んで以来、初めて捉えることが出来たヤツの運剣は、ノロマな獣ですら斬り裂けない代物と化していた。体力の限界でスタミナが切れたか。……それとも、俺に与えた一撃が致命傷だと考え、とどめを刺すにはその程度の攻撃で事足りるとでも考えたのか。
その侮りを後悔させてやる。
そう思ったはずなのに全身のどこを意識しても、動かせた箇所は皆無だった。どんなに願っても腕は上がらず、大量の失血の影響か、意志に反して崩れ落ちるままだったはずの脚まで、巌のように固定されて動かない。
それが一瞬を引き延ばした時間感覚の中で起こっていた出来事だったと気付けたのは、傷口に寸分違わず、そしてより深く"剣"が差し込まれたことで再び勢い良く噴き出した鮮血が、その一滴一滴の雫までもがゆっくりとした動きに見えた後だった。
身体を繋げる面積の大半を断たれ、重い上半身を支えることが出来なくなったのか。それとも斬撃はその骨をも傷付けていたのか。背中側、胴体を縦に走る最も太い骨が千切れる音と共に、右腕だけをくっつけた胸から上の身体が、勝手に地面へとずり落ちようとしている。
……負けた、ヒトに。
しかも完膚なく。
こんなにもあっさりと、自分が敗れる日が来るなんて考えたこともなかった。
まだ意識があることに意味はない。これ以上この戦場に介入出来ないならば、もう自分は命云々よりも戦士として終わってしまっているのだから。
本当に認めたくはないが"剣"をひっくるめたあの剣士の力は、自分を含めた魔物の戦士を歯牙にも掛けないほどに強大なものである事実を、ここに至っては呑み込まない訳にはいかないのだろう。
地上において最強を誇る我らの種族、その中でも精強な戦士達でさえ既に打ち倒されている存在はベガルト様を除いても俺だけではない。もう意図して身体を動かせはしないが後ろを振り返れたならば、そこにまだ4本の脚で立っている同族は数えるほどしか残っていないのだ。
――身体から離れ、そのまま地面へと落ちるだけだった上半身が右腕の重さに引っ張られて傾き、その指先を自らの下半身だったモノの装身具に引っ掛かる。それを起点としてくるくると乱回転した上半身のおかげで、周囲の光景が冥土の土産とばかりに、動かなくなった俺の視界へと映り込んできた。
正面。
もはや俺になど見向きもせず、ただの障害物と化した下半身だったモノの向こう側へと視線を固定した怨敵がいる。
夕刻が迫る空を仰げば雲一つない澄み切った晴天が広がっている。しかしその清々しい夕映えに彩られた景観は未練と怯え、消えない
刹那を引き延ばした時間の流れは未だ続いていたものの、ゆっくりと回転する視界に繰り返し差し込んでくる美しい景観達が俺の心を慰めることはなかった。
しかしそれでも。
止まらず回り続ける光景の全てが、俺を悲観させるモノばかりじゃない。
……逆さまに映る視界にまず飛び込んでくるのは、倒れ伏している何体もの同族達。未だ生き残ってる他の魔物には、もう黒や青の体色を持った成熟した戦士の個体は思っていた以上に少ないように見えた。腕に覚えがあり、勇猛果敢な者から"剣"の餌食になったことを思えば当然ではあるものの、果たして残った赤の小僧ども程度の存在が、あの恐るべき敵を前にしてどれだけの意味があるだろう。まず間違いなく、戦力として大勢に影響を与える役割を果たすことは出来ないはずだ。
けれど不思議と、足手まといと侮る気持ちは湧いてこない。彼らの目にはまだ戦う意志が確かに込められ、目前の死にその身を晒す覚悟を宿していたからだ。ただひたすら、勝利のために。
頼もしい―― そんな想いを格下の魔物に感じたのは、これが初めてだった。
そんな戦士達を率いる、一際大きな存在感を放っている同族の頂点。
彼が丁度、弓に番えた矢を放つ様を見ることが出来たのは
3本の矢は雷の力を宿して激しく瞬いており、遅々として進まない時間の中にあってもなお豪速を誇って進んでいく。
……やがてそれが突き立った標的は"剣"の身体ではなく、置物となった俺の下半身だった。
今代の勇者の手によって防具をひしゃげさせ、皮を突き破り、肉も抉られる様は何とも言えない気持ちにさせられたが、それでも怒りは湧いてこない。激しい電撃が防具に使われた金属を通して、全身に伝わっていく。無用の置物となってしまっていた、かつての俺の肉体が電気を帯電させた巨大な砲弾と化し、勢いのままに"剣"へとブチ込まれたのだ。
俺の一部だったものが勇者の武器として振るわれ、触ることすら出来なかった怨敵に一矢報いたその光景は、いっそ爽快ですらあった。
この地に集められて初めて出会った時以来、伝え聞く遙か高みの実力を誇るこの同族の目を見て話せたことはない。それは自分より強い存在への疎ましさからではなく、圧倒的強者に対する憧れに似た感情が、何らかの決意を持って戦への集中力を高めていた存在に声を掛けることを躊躇わせていたからだった。……そして今、そんな射手からの視線を感じている。
その目には、俺の身体を利用した攻撃を行ったことに対する謝意が込められているのだろうか。少なくとも、途中で戦いから離脱する未熟者を
中核を成す戦力として数えられたにも関わらず、わざわざ説明された"剣"に対する危機感を共有せず、体感した直後早々に討たれるような愚か者が俺なのだ。そんな俺に対し、最強の勇者が
しかし俺の命や肉体が確かに勇者の戦いを支え、わずかにでも役に立てたことだけは、今この瞬間に向けられた視線から間違いなく感じ取れたのだ。
……目を閉じる。
使命に燃えてこれからも死んでいく命を勇者が汲み、それに意味を持たせてくれる光景を目に出来たのだ。途中脱落の無様に負けた戦士として、冥土に抱えていくには十分過ぎる。
網膜に焼き付けて逝く最後の光景は、是非とも彼らを納めた視界にしておきたかった。
そして満足と共に死を受け入れてしまったせいなのか。
停滞していた時間が、本来あるべき速度へと加速していくのを感じる。あとわずかな猶予の後に、この身体は地面に叩きつけられるだろう。
最後に、何を思うべきか?
"剣"への怨恨だろうか。戦士として道半ばで終わる無念だろうか。それとも、雪原が広がる故郷の白さに想いを馳せるべきだろうか? そんなことをぼんやり考えていると、自然と胸の内から沸いてきた言葉がある。
それを唱えることは誇り高い戦士の在り方から考えても、中々サマになる最期である気がした。
そうだ、これがいい。
(……どうか勝って下さい。我らの【ライネル】よ……! )
未練極まる
直後。
感じた鈍い衝撃とともに、俺の意識は永遠に飛散していた。
* * *
弓に矢を番える時間を稼ぐため、"剣"の正面へと飛び込んだ1体の若い同族の上半身が、地面に転がり落ちた。片割れとして本来その近くに同じく転がるべきだった彼の下半身は、俺の矢を撃ち込まれて大穴を開けつつ"剣"にぶつけられ、やや離れた場所まで吹き飛んでしまっている。断面から内臓をいくつも零す上半身と、血と泥に塗れて無惨な肉片へと変わり果てた下半身。俺を守るため、懸命に"剣"へと向かっていった若者に対し、これほど悪辣にして外道な仕打ちも無いだろう。
未来ある若者の生命を奪ったのは確かに"剣"であろうが、その死体を最低の形で利用して辱めた者は、間違いなく俺なのだ。
……この坂の途上で再び始まった戦いは、今や泥沼の総力戦へと突入している。
それも明確な指揮系統に則って行われているものではない。混沌と狂気が混ざって濁り、腐肉にたかる蠅のような不規則が飛び交っている有様だった。
第三者が眺めたなら、俺達の様からまず『戦士』を思い浮かべることはないだろう。もちろん多数による圧倒的な狩り、蹂躙の光景と捉えることも有り得ない。襲われているはずの1が以前と立ち続け、襲い掛かる多数側の命の炎が次々と吹き消されている状況を見て、そんな感想を持つのは戦と無縁な者であっても無理だ。
愚かな獣の突撃。
そう見て解釈されればまだ上等などという、この戦いを引き起こし、つき従ってくれた魔物に特攻を強いてきた張本人にあるまじき弱音こそが、この光景には最も相応しいとさえ思えるほどに戦場は乱れ、混沌としていた。
まずこの戦い、俺は最初から魔物達の指揮を執ってはいない。
そもそも、そんな余裕は微塵も得られなかったのだ。
ベガルトの死を利用して他の魔物達を無理矢理奮い立たせて以降、落ち着かせる時間を彼らに与えることは出来なかったのだ。少しでもその足を止め、頭を冷えさせてしまえば、彼らを襲うのは圧倒的な死の恐怖である。
戦士としての矜持、自分達が死ねば集落の身内がその"剣"によって滅ぼされる、そんな想いを表面に押し立たせて彼らを奮わせても、もっと根源的な本能を刺激する恐怖が、あの"剣"からは感じ取れてしまうのだ。
そしてそれは、かつて勇者を抑えて最強を名乗れるほどの魔物が一刀のもとに倒されたという事態によって、強く現実のモノとして認識できてしまった。
彼が率先して討たれたことで【ライネル】が敵と拮抗する状況を見せつけてしても恐慌をきたすという事態は避けられたが、一度時間を空けて冷静さを取り戻させてしまえば、生物として生存を求める本能が"剣"の前へ身を晒すことがどれだけ愚かしいかを、己の肉体に全力で説得に掛かるはずだ。
野生の生物にとって、それが戦士であっても自身が生き残ることこそが至上の目的。獲物を狙って時には無茶をすることはあったとしても、我々ほどの身体能力も装備も持たない以上、勝算が全く見えない玉砕前提の特攻を強いても逃げ出すか、カカシのように役立たずとなっていただろう。
だからこそ彼らに考える時間を与えることはしなかったのだが……それ以上に、"剣"が予想を超えて『強過ぎた』のが、また大きな問題でもあった。
【ライネル】の攻撃を防ぐことが出来る、などといった次元の話ではない。相対し、"剣"と剣を最初に打ち合わせたその瞬間から、気を抜けばその瞬間にも自分が殺されるイメージがありありと想像出来てしまう。そのせいで、これまでの一瞬であっても戦闘以外に気を割く余裕は、一欠けらも得られなかったのだ。
死の危険を感じさせる脅威の筆頭、それはやはり"剣"だった。
ベガルトをはじめ戦闘が始まってからこれまで、同族の肉体にすら例外なく致命傷を与え続けてきた凶器なのだ。多くの犠牲によってこびり付かせた血脂と、骨を含んだ固い物質を切らせ続けて鈍らせた切れ味によって、その威力は開戦時よりも相当衰えているはずだと信じたいが、その陰りも見られず上限すら確認出来ていない以上、いくら他より抜き出た身体能力を誇る俺とて生身で受けては命を繋いでいられる自信を持つことは出来なかった。
加えて恐るべき点はその威力と硬度だけではなかった。あの"剣"を薄く包んだ燐光に伴って起きている現象であるが、それが最も大きな誤算となっていた。
俺と剣を交える前までは、その発光現象は光刃を作り出す時以外は時折瞬く程度であったにも関わらず、俺と剣を1対1で相対してから以降は常時光り続けている。
最初こそ近接戦闘で狭まる視界の中でも"剣"の所在が丸分かりとなって有難い等と考えていたが、剣を打ち合わせるたび、その光がとんでもない効果を"剣"に及ぼしていることが明らかとなってからは、それまで進めていた戦略の前提が大きく崩れてしまったのである。
戦いが始まって以来ずっと温存していた俺の「獣王の剣」と、魔物の武器や肉体を斬り裂き続けてきたヤツの"剣"。それまでの戦闘経過から見て、あれほどの魔物を切り続けていながら未だ同族を一撃で切断可能な切れ味を保っている"剣"は、残念ながら俺の得物よりも硬度が優れたものであることは確実であったが、それでも決して刃こぼれが皆無というわけではない。
そして、剣に扱いに関しては自他共に当代一を認められる技量を以って最強と認められた【ライネル】である俺にとっては、超高速で行われる剣戟の中にあっても全く同一の箇所を意図して狙うことは不可能ではなかった。
そこを突き、刃こぼれが最も深い箇所へ攻撃を集中させ、あわよくば武器破壊に繋げようと考えていたのだが――
ガガキィン! ギィンッ! ――キィン!
何度も繰り返し、既にどれだけ重ねたかは分からない応酬の中。
……俺の目の前では、今も信じ難い理不尽が起こり続けている。
もう少し深く切り込めれば、刃こぼれに留まらず亀裂へと至っていただろうと判断していた"剣"の破損部位。最初の斬り合いで確かに把握し、多くの魔物達の命と引き換えに勝ち得たはずのその成果が、今は僅かに鈍い音を返すに留まるだけの、ほんの小さな刃こぼれへと姿を変えているのだ。
引きつるような濁音を響かせているのは、既に無事な刃の部分を探すのが難しいほどに欠けてしまった「獣王の剣」の方である。
始めは気のせいかと思った。
けれど徐々に"剣"の溝に剣を食い込ませることが難しくなり、逆にコチラこそが折られぬよう打ち当てる刃の位置を調整しなければならなくなっていくうち、その事実を認めなくてはならなくなった。
燐光を纏いだして以降、"剣"は明らかにその損傷を修復しているということを。
その復元速度は、俺と切り結んで蓄積されるはずの損傷を上回り、それどころか血脂すらも払わんと言わんばかりに刀身の状態を回復させつつあった。燐光を受けて輝く"剣"に、最初の立ち合いで掴んだ陰りの印象は既に無い。
この地に集め、戦うことを強制させた戦士達の犠牲。
その献身の全てが無意味なモノに貶められたのである。
――若者の命を囮にして得られた僅かな時間。矢筒に残していた最後の矢は、その亡骸を隠れ蓑にしてついに"剣"へとぶつけることが叶った。
直撃をさせることこそとうとう出来なかったものの、防具に帯電させた電撃は"剣"を通して確かに届いたことが、ヤツが利き手から逆の左手に得物を持ち替え、その右腕を力なくダラリと下げたことから分かる。
矢を打ち尽くして無用の長物と化した弓をその場に投げ捨てる。
再度背中から抜き放った「獣王の剣」が耳元で起こした風切り音は、欠けた刃の影響かいつもと違った音色を感じさせる。雑音混じりの濁った音は悲鳴のようでもあり、果たしてあとどれだけ満足に"剣"と打ち合わせることが出来るだろうか――
だがもう、勝機を見出すならここしかない。
見れば剣士は、じりじりと山頂へ向かって後退を始めている。腕の痺れが取れるまでの時間を、出来るだけ交戦せずに済ませようというのか。それを許すわけにはいかない。
引きつった顔に血走らせた眼をした残り少ない魔物を引きつれ、俺はヤツに追いすがるように駆け出した。
そして再び衝突する"剣"と剣。
……非力なはずの『ヒト』の腕力。しかも利き手で持っているわけではない"剣"に受け止められた剣が軋んだ音を立てる様を見て、俺はこの戦いに際してどれだけ自らの見通しが甘かったのかと、今更ながらに
下がる剣士。追う俺。
しかし、これは決して互いの趨勢を示す光景ではないのだ。
――峡谷の頂上まで、あと少し。
あけましておめでとうございます。
今年もハーメルン様が益々栄えることを願って正月賑やかし投稿させて頂きます。
以降もリンクさんへのヨイショは続きます。基本一人で魔物を殺し尽くしてきた勇者の系譜に連なる【厄災】が、この程度の攻勢に手こずると思われては困る。
※『ウツシエの記憶』5枚目の雑感① ~姫様の考古学は遺跡関連専攻?~
この拙作ネタ元である5枚目の『ウツシエの記憶:オルディン峡谷』のシーンを見る度思うのですが、あれって魔物の陣容見てると画面に映ってる存在だけでもぶっちゃけ、世界的な危機では?
複数体いる「白髪のライネル」さんは、ハイラル全土に生息するのは分かっているのに関わらず、出会ったら最後なレベルで目撃情報が少ないって紹介されるような存在なのに。
なんで姫様、イーガ団の下っ端と追いかけっこしてる記憶より落ち着いてらっしゃるの?
大量発生した魔物の計画的な討伐だとしたら(足手まといな)姫様と二人きりじゃなく、英傑の誰かでも引っ張ってくるべき状況だと思いますので、きっと祠&泉巡り途中の遭遇戦だったんでしょうが。100年前のハイリアってホント修羅の国。
言い伝えの言い回し上、古代系列兵器は完全に対魔物戦を想定しているため、その力の復活研究を唱えている立場の姫様は、その対象であるところの魔物についてもある程度は知識は修めていないとイカンのではないでしょうか?
迷走して食用のカエル研究に手を出すよりライネルを調べるべきそうすべき。