回生のライネル~The blessed wild~ 作:O-SUM
退魔の剣「刀身さえ無事なら再生できるよ? そのへんのナマクラと違って、これでも伝説やってますんで 」
獣王の剣「プルプル 」
* * *
【ライネル】が説き続けていた"剣"の危険性。
それはこの場に集まっていた全ての魔物達の知るところではあったが、果たして本当の意味でその危機感を共有出来ていた個体は、どれほどいただろうか。
彼らにとって、上位の暴力が成す行動は全て正義だった。
生命が直接脅かされるほど追い込まれていない限りは、その言い分は肯定して当たり前であり否定を挟むことはない。野生の世界で強者は弱者よりも死から遠い存在であり、強い者がそうすべきだと言うのであれば、それは生きる上で正しいからだ。
しかし彼らにだって意思はある。
それはこれまでの生で培ってきた経験則だったり、戦士として今まで生を勝ち取って得た矜持に支えられたもの。昨日今日になって頭を抑え付けられた強者の言葉では、容易に覆せない常識があった。
そんな彼らには「これから向かう戦場において、最強の力を持った存在が誰か」という問いに対して、確固として共通した一つの答えを持っていた。
その者の名は【ライネル】。自分達の想像を遙かに超えた圧倒的な力を持ち、見たことの無い光沢と武力を漂わせる武具を身に纏った白髪の魔物。
その姿を見て戦わずに屈服させられた部族も多く、前代未聞の規模を誇る軍団をこの地に集めたカリスマは、歴戦の戦士達がそれぞれ思い描いていた「最強」を塗り替え、その称号を体現する者として全ての者の頭に刻み込ませるほどの存在であった。
そんな恐ろしくも強烈に惹き付けられる者と種族を同じくした、自分達からすれば変わらず強大な力を持った獅子の顔を持つ魔物が複数、この戦いに参戦するのである。
加えて"剣"を扱う種は、あのヒト族だというのだ。
生まれ持った爪や牙も持たず、鉄で身を固めていようが特殊な能力を持った個体は少ない種族である。その力は自分達だけでもそれなりに戦える程度のものであり、際立って優れた個体がいると言われたところで、自らの想像が及ぶ範囲にその脅威を想定してしまうのは自然の流れであった。
だからこそ彼らは自身も戦争に参加する以上、己に降り掛かる死を踏まえた戦士の心構えこそ持っていたが、そんな無双の魔物達がこちら側にいる陣容で、「負ける」とは頭の片隅でも思ってはいなかった。
……いざ戦いが始まり、"剣"を眼で、鼻で、あるいはその肌で体感するまでは。
"剣"が放つ気配を生身で味わった時か、今を生きる伝説だった大戦士のあっけない死か、それとも【ライネル】と互角以上に剣を交える光景からか―― 何を切っ掛けとしたのかは定かではない。
しかしこの戦いが多勢による圧倒的な蹂躙ではなく、その伝説を上塗りするような恐ろしい存在へ魔物としての種を賭けた生存戦争であったことを、まだ生き残っていた魔物達の中で思い至らない者はいなくなった。
【ライネル】がこの戦いに臨み、最初に語っていたことは決して魔物達の士気を上げるための誇張だけではなく、真実をありのままに表したものに過ぎなかったのだと、遅まきながらも気づいたのである。
数多の同族達を失ったあの凄惨な広場を離れて谷を登る途中、混乱する頭に差し込まれた【ライネル】の鼓舞を受けて熱くなったままの頭でも、思い出せる言葉があった。
やはりそれは【ライネル】の言葉であり、"剣"の脅威を訴えていた昼間の演説にて語られたモノだった。
『例え"剣"に怯え、この戦場から逃げ出したところで、やがて"剣"に率いられたヒトの手が各々の集落へと伸びる時は確実にやってくる。その時、貴様達はこの場に集った以上の戦力で迎え撃てるはずもなく、どれほどの戦力で侵略者達が襲い掛かってくるかは知れないのだ。
今日、命を尽くして家族を守るか。今日、命を惜しんで家族を殺すか。貴様達が戦士であるならば、戦いの中で突きつけられるだろうこの選択を、決して誤ってはならない――』
身内が死んだ。友が死んだ。先達も後輩も等しく死んだ。
強敵だった他の集落の戦士があっけなく二つに裂かれたかと思えば、見上げるような威圧感を放っていた獅子の魔物が、赤の子鬼と同じように討ち殺された。
これまでの生で培ってきた強さの指標がことごとく斬り壊されていく中で、ヒトの形をした理不尽と渡り合えている存在は【ライネル】だけだった。魔物が信じる強者の理論を、魔物側で叶える最後の砦として、勇者がたった1人で"剣"に立ちはだかっている。
彼が敗れた時が、この連合軍の敗北であることは間違いない。"剣"とまともに「戦闘」出来るのは、【ライネル】しかいないのだから。
……しかし"剣"と比べて勇者が持つ剣には欠けが目立ち、矢が尽きた剛弓は既に無い。"剣"を受け止め続けた盾も、もうすぐ割れて落ちそうだった。
このまま戦闘が推移すれば【ライネル】の武具は全て失われてしまうのではないか。爪と牙、そして炎のみで、果たして勇者はあの"剣"に勝てるのか。
そこまで思い至った魔物達は勇者が敗北した時、自分達に降りかかる未来を考えた末――。
自らの判断によって選択をした。
己の命に持たせたかった価値を大幅に引き下げる、その選択を。
* * *
(まさか、こんな最期になっちまうとはなぁ……)
あの広場で死んだ大剣持ちのアイツや鉄の槍を担いでいたいけ好かないあの野郎も、きっと自分こそが"剣"を倒すなんて、思いながら突っ込んだんだろう。今にして振り返ってみれば、あれは無謀で浅はかな特攻だったに違いねぇよ。
それくらい、俺達と"剣"の野郎との力の差は歴然としてやがる。
けどなぁ。あんな風に死んだ方が、よっぽど戦士らしかったよなぁ。
死に損なった今の俺達には、そんな命の捨て方は選べねぇんだもんなぁ。
あのバケモノに俺達が闇雲に挑んだところで、ただの無駄死になっちまう。だったら、少しでも勇者殿が有利になるように立ち回るしかねぇじゃねえか。
集落で暮らす一族を護るためだって考えたら、納得するしかない。
ここまできたら、『肉盾』を無駄に浪費するわけにはいかねぇんだよ。
……"剣"の注意を引くためにわざわざ喚き散らして突っ込んだ子鬼が死んで。
……突き刺された"剣"をそのまま自分の身体から抜かさず抑え込もうとした大鬼が、縦に振り抜かれて掴んだ指と胸から下を切断されて。
……勇者殿の攻撃の継ぎ目を補うために組み付こうとした双子の子鬼達なんて、当たり前のように撫で斬りにされちまった。
そうしなければならなくなった。
ちくしょう、理不尽だ。
俺だって戦士らしく、敵を倒しに掛かって死にてぇのによぅ。
こんな死に方で、どうプライドに折り合いつけろってんだ。
(これだけ俺達に尽くさせて、負けやがったら承知しねぇぞ。【ライネル】さんよぉ……)
自分が勝てない戦いに駆り出された哀れな愚者ではないと、そうであって欲しいと願いながら。
最後まで残った赤色の大鬼もまた、不気味に青く光る"剣"へ我が身を差し出した。
次の話と分けたかったので短めですがここまで。3000字は超えてますけど、もう短い印象しかないですね……。
連れてきた魔物達、これで晴れて全滅です☆
※『ウツシエの記憶』5枚目の雑感② ~気付いて、姫様~
「アナタは最近無理し過ぎ」と気に掛けて下さるほど頻繁に襲われてるなら、お出かけの際にはもう少し護衛増やしてくれませんかね……。
従者に御心を開かれているご様子を拝見させて頂けるのは、大変嬉しいんですけども。
「大した傷では無いようですが」とか、悪漢に襲われたけどかすり傷しか負ってないね良かったねアリガトウ的な感じで流してますが、マズイっすよ。
背景で複数体死んでる上位個体のライネルさん、同族の中では最下級の強さだろう赤髪の個体ですら、一体でも討ち取れたなら国(ゾーラの里)の歴史の1ページとして石碑に残され、身に着けていた装備の一部が拝殿に納められる級の偉業なんすよね。
報い方のレベルが違い過ぎて、リンクがミファーの婿になっても「あぁ……」不可避。